第61話ジルとラフタリアの提案
清宏がレイスの魔道具の調整を終え、再び設計図を書いていると、リリと一緒にビッチーズの監視をしていたジルがやって来た。
それに気付いた清宏は、ジルに手を上げて笑う。
「おっす!そっちの方はどうだ?」
「あぁ、今んところは大丈夫だな」
「だろう?あいつらはうちの稼ぎ頭だからな!
そこらの娼館よりも満足出来るように教育した甲斐があるってもんだ!!」
清宏は腕を組んで満足気に頷いたが、ジルは何か言いたげな表情をした。
「どうした?」
「いやな、今んところは順調なんだが、正直俺はまだ半信半疑なんだよな・・・だから、あんたに提案があるんだ」
「ほう、話を聞こうか・・・」
聞き返した清宏が椅子の上で胡座をかくと、ジルはニヤリと笑った。
「あれがもしヤラセだったら意味が無いだろ?だから、俺が身体を張って確認しようと思う!!」
「なん・・・だと?」
清宏がジルの提案を聞いて愕然としていると、近くにいたルミネがジルに詰め寄った。
ルミネは顔を真っ赤にして怒っている。
「たんに貴方がヤリたいだけではないですか!!」
「違うって!もしヤラセだったらどうするんだ!?国との交渉が成立してからじゃ遅いんだぞ!?」
襟を掴まれて揺さぶられているジルは必死に説明をするが、ルミネはまだ疑いの目で見ている。
「ルミネお姉たま、そんなに怒ると小皺が増えますわよ?
あら、今日は大胆な下着ですこと・・・」
「ちょっと!何故私の下着を確認するんですの!?」
清宏は、ルミネが周りが見えていないのを良い事に、貫頭衣の裾を持ち上げて下着チェックを行った・・・ルミネは、今日は赤いシルク生地の下着を着用しているようだ。
借り物であると言っていたが、誰がそんなけしからん下着を貸したのだろうか?
「油断は禁物だぞ?俺はいつ如何なる時も狙ってるからな!俺の事はパンツァーと呼んでくれ・・・それはそうと、俺としてはジルの提案はありがたいと思っている。
ジルの言った通りヤラセの可能性がゼロじゃないなら、誰かに試して貰うのが一番だ・・・でも、流石にあんた達には頼み難くて遠慮してたんだよ」
「くっ・・・真面目な話に切り替えましたわね!?」
ルミネは服を押さえながら睨むが、清宏はそれを無視して話を続ける。
「正直、ただ見てもらうだけじゃ理解して貰えないとは思ってたからな・・・だから、あんたが立候補してくれて助かるよ。
彼女達には無理はしないように言っているが、精力や体力には個人差があるから、これを持って行ってくれ」
清宏がポーションとヒロ○ンを渡すと、ジルは笑って受けとる。
ジルは踵を返して手を上げると、扉に向かって走り出した。
「ジル、行きまーす!!」
「楽しんでこいよー」
清宏はひらひらと手を振ってジルを見送り、作業に戻る。
だが、ルミネが清宏の前に立って作業を阻止した。
「清宏さん、私の話はまだ終わっていません!!
何故いちいち私の下着を確認するんですの!?」
「そこに下着があるからさ・・・と言うより、俺とジルの会話に割って入った罰だ!!」
「あんた達、本当に仲良いわね・・・」
清宏がルミネから逃げ回っていると、アンネと一緒にアリーとオスカーの相手をしていたラフタリアが、ため息混じりに呟いた。
「良くありません!」
「お前、目は大丈夫か?目薬の代わりにポーション入れてやろうか?」
「馬鹿じゃないのあんた?」
わざわざ立ち止まって心配をしてきた清宏に対し、ラフタリアは呆れて首を振った。
「そんな事はどうでも良いのよ・・・私からもあんたに提案があるんだけど良いかしら?」
立ち止まったところをルミネに捕まり平手打ちを喰らった清宏は、蹲りながらラフタリアを見る。
清宏の左頬には、見事な手形が出来ている。
「何でしょ・・・」
「オーリックは明日発つって言ったけど、私はしばらくここに残らせて貰えないかしら?
オズウェルト商会の代表と会う時、私がいればその後の印象も違うんじゃないかしら?
S級の冒険者は、世界に100人と居ないわ・・・中でも私達は顔も名前も世間に知られているから、私が貴方達に協力していると知ってもらうだけでも違うと思うわ。
それに説得が上手くいった場合、すぐに連絡がつけられた方が良いでしょう?私ならそれも可能だけどどうかしら?」
清宏はラフタリアの提案を聞き、立ち上がってオーリックを見る。
オーリックは少し考え込んだが、真面目な表情で頷いた。
清宏はオーリックの許可が出た事に安堵し、ラフタリアに頭を下げる。
「ありがとう、助かるよ・・・で、本音は?」
「ここのお風呂と料理が気に入った!
それに、アリーが可愛くてさー!こんなに人懐っこい子、故郷の森にも居なかったわよ?」
ラフタリアは本音を隠しもせず、アリーを抱きしめて頬ずりをする。
アリーが嬉しそうに笑っていたため、ラフタリアを注意しようとしていたルミネは、諦めてアリーの頭を撫でてやる。
「流石のルミネお姉たまも子供には勝てんか・・・」
「当然でしょう?人ではないとは言え、無邪気に笑う姿は可愛らしいものです・・・それにしても、この子は本当に幸せ者ですわね。
命を狙われる心配もなく、周りには優しい方々がたくさんいらっしゃるんですから」
ルミネが頭を撫でながら笑いかけると、アリーはラフタリアから離れてルミネに抱き着く。
ラフタリアは、それを寂しそうに指を咥えて見ている。
「まぁ、せっかく仲間になったんだ・・・しっかり育ててやらなきゃ可哀想だろ?
リリスに召喚して貰った手前、俺にはその責任があるからな・・・」
「貴方のようにならない事を願うばかりです」
「何だとこら?」
「何でもありませんわ」
「清宏様、街に行かれる時はどうされるんですか!?」
清宏とルミネが構えるのを見て、それまでオスカーと猫じゃらしで遊んでいたアンネが、慌てて声を掛けて話題を変えた。
2人は舌打ちをしてアンネに向き直る。
「今回はアンネに頼みたいんだが良いか?アルトリウスにはここを任せたいからな・・・ラフタリアと2人だが、問題無いかな?」
「はい、お任せください!」
清宏に頼まれたアンネが笑顔で頷くと、ラフタリアが手を上げた。
「頼むって言ったけど、どうやって2人も運ぶの?」
「ん?狼になってだよな?」
「はい、見た目はアルトリウス様程ではございませんが、速さなら自信があります!」
「あぁ、確か吸血鬼はコウモリや狼に化けることが出来たんだったわね・・・実際に見た事は無いんだけどね」
ラフタリアは腕を組んで頷いている。
「アンネ、試しに狼になってみてくんない?アルトリウスは金狼だったけど、アンネがどうなるか気になるんだよね」
「はい、では早速・・・」
清宏に頼まれたアンネは、オスカーを清宏に預けると少し距離を置いてその場にしゃがんだ。
すると、みるみるうちに体毛が伸び、骨格がイヌ科の動物の物に変化していく。
「凄い・・・てか、大きくない?」
「そうですね、私が今まで見たものはここまで大きくはなかったです・・・」
「まぁ、確かにデカイが人を乗せるにはこのくらいなきゃ無理だろ?
それにしてもある程度予想はしてたけど、アルトリウスが金狼だったのに対してアンネは銀狼か・・・」
呆気に取られたラフタリアとルミネは、恐る恐るアンネに近づいて体毛を撫でた。
銀狼になったアンネは、広間の明かりでキラキラと輝いている。
ルミネから離れたアリーは、オスカーと一緒にアンネの尻尾にぶら下がって遊びだした。
「私はこれより大きくはなれませんが、速度だけならアルトリウス様以上であると自負しています。
朝食後に城を発った場合でも、昼前には街に着けると思いますよ?」
「マジか・・・アルトリウスの時は俺1人でも昼過ぎだったから、2人乗せてそれならかなり早くつけるな。
そして、何よりこのモフリティーもかなりヤバイな・・・」
清宏はアンネの首回りを撫で、顔を埋めた。
ルミネとラフタリアも、清宏に倣って顔を埋めている。
「これは癖になりますわね・・・」
「このまま眠れそうね・・・」
「あの・・・流石に恥ずかしいのでやめてください!!」
アンネは恥ずかしそうに震える声で叫ぶと、3人を振り払って広間の中を逃げ回る。
アリーとオスカーだけは尻尾にしがみついたまま、楽しそうに笑っていた。
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