第54話お風呂②
ルミネとラフタリアの2人によるダメージから回復したローエンやオーリック達6人は、身体に付着した血や汚れを落とすため、風呂に入るようリリスに勧められた。
ズタボロになった服はそのままでは着られないため、レイスとアンネが繕うまでは清宏やローエン達の部屋着を貸す事になった。
「くそっ!あの野郎、自分ばっかり逃げやがって・・・見つけたら殴らねぇと気がすまん!!」
「毎回毎回逃げ足速すぎんだよな・・・」
ローエンとグレンは、逃げた清宏に対して怒り心頭のようだ。
脱いだ服を籠に叩きつけるように入れながら愚痴を漏らしている。
「君達も苦労しているな・・・辞めようとは思わないのか?」
ローエン達とは対照的に、脱いだ服をたたみながら籠に入れていたオーリックは、苦笑しながらローエン達に尋ねた。
「不思議と、何故か辞めようとは思わないんですよね・・・条件が良いってのもありますけど、楽しいんですよこの城は」
「だな!頻繁に街に行って金を使う訳でもないから貯まる一方だし娯楽も少ないが、辞める気にはならないんだよな・・・魔族とは言え、美女に囲まれた暮らしってのも悪くないしな!」
「契約金や給料分の働きはしなきゃならんが、雇い主様の理不尽ささえどうにかなれば文句は無いな・・・まぁ、俺も今のところ辞める気は無いがな」
オーリックの質問にウィルが答えると、グレンとローエンも苦笑しながら同意した。
「そんなに条件が良いのか・・・ちなみに、契約金はいくら貰ったんだ?」
金の話を聞きつけ、ジルが尋ねた。
「契約金だけで、1人当たり大金貨10枚だ・・・飯代なんかはタダだし家賃も無いが、給料は現物支給だ。
だが、報酬として貰った魔道具や武具を換金した金は、全部俺達の取り分になるらしい。
まぁ、まだ休みを貰ってないから換金は出来てないが、相当な額になりそうだ」
「け、契約金が大金貨10枚・・・俺、マジでここに就職しなおそうかな」
ローエンの言葉を聞き、ジルは呆れ笑いをしながら呟いた。
「それはまた破格の契約金だな・・・かなり儲かっているようだね。
彼の造る魔道具や武具はそれ程凄いのかい?」
「あぁ、魔道具は基本的に生活に役立つ物を優先して造ってるみたいだが、武具に関しては業物ばかりだ。
俺があんた達と戦った時に使ってた武具は、あいつが現状造れる最高の出来だと言っていた」
「それは凄いな・・・君達も私と清宏殿の決闘を見ていたと思うが、私の剣に斬れない物など殆ど無いはずなんだ。
だが、君達の使っていた武具は対等に渡り合える程だった・・・正直、私も一振り欲しいくらいだ。
それを造ったのが、まさか清宏殿だったと言う事に驚きを感じるよ」
「さてと、さっさと風呂に入って酒でも飲もうぜ!今日は疲れたし、絶対に酒が美味い!!」
「お、なら俺も付き合おう!ひとり酒も美味いが、誰かと語らいながら飲む酒も格別だからな!」
グレンの提案を聞き、無口なカリスが嬉しそうに笑った。
「そうだ・・・風呂に入る時の作法だが、湯船に浸かる前に必ず身体を洗えよ?
風呂に関しては滅茶苦茶うるさいのが2人いるからな・・・」
グレンの忠告を聞き、オーリック達は頷いて浴場の扉を開けた。
「ほう、これは凄い!」
「こりゃまた贅沢な風呂場だな・・・建築費がきになるな」
「今まで見た中で一番大きいのではないか?」
オーリック達が総大理石製の風呂場に感心していると、湯けむりの奥で何者かが手を上げた。
「遅かったな皆の衆!!」
「なっ・・・清宏殿!!?」
オーリックが目を凝らして声の主を確認すると、そこには湯船に浸かって笑っている清宏がいた。
「テメエいつの間に!!」
「俺達は散々な目に会ったんだからな!?」
ローエンとグレンは清宏に詰め寄る。
だが、空気の壁で阻まれてしまった。
「甘い!学習しろよお前等・・・まずは身体を洗ってきな!!」
「そうですな」
清宏の隣にいるアルトリウスもしきりに頷いた。
清宏の膝の上には、ちゃっかりとアリーが座り、頭の上ではオスカーが伸びていた。
「くそったれめ!マジで後で覚えとけよ!?」
ローエン達は渋々と身体を洗い始めた。
その姿を見ながら、清宏は湯船から話しかける。
「まぁ、俺は後からルミネお姉たまに怒られるだろうから勘弁してくれよ・・・あの状況で逃げなかったら、俺は再起不能にされてたからな。
お詫びに、後で俺の秘蔵の酒を飲ませてやるからさ・・・」
「ぐっ・・・ダンナの酒か・・・あれ、マジで美味いんだよな」
酒につられたグレンが躊躇している。
だが、ローエンはまだ怒っているようだ。
「冷えたエールと燻製肉も付けるぞ?
しかも、どちらも飲み放題&食い放題だ!!」
「くそっ!風呂上がりの冷えたエールと燻製肉には敵わねぇ!!」
清宏の提案に、ローエンも敢え無く陥落してしまった。
オーリック達は、そのやり取りを見て笑っている。
「まぁ、あんたのおかげで良いもんも見れたし、俺達も同罪ってのは確かだからな・・・酒と肴で勘弁してやるよ!
だが、あんたも最後まで付き合ってくれよ?」
「任せろ、俺は浴びるように飲むぞ?
もちろんアルトリウスも付き合うよな?」
「ご所望とあらば・・・」
「なら決まりだ!朝まで飲むぞお前等!!」
清宏はアルトリウスも誘い、オーリック達と飲み明かす事に決めた。
ローエン達も身体を洗い終え、湯船に浸かる。
「はぁ・・・これは良いですな。
1日の疲れが吹き飛ぶ心地良さです」
肩までゆっくりと浸かりながら、オーリックが嬉しそうに呟く。
「身体を洗ってから入るから気持ち良いんだよ。
洗わずにそのまま入ると、汚れが浮いて来て気持ち悪いだろ?
だから、気持ち良く入るためにまず身体を清める・・・それに、身体を綺麗にするのは健康にも良いからな」
「風呂は健康に良いのか?」
清宏の言葉を聞き、ジルが不思議そうに尋ねた。
「もちろん風呂は健康に良いが、それよりも身体を清潔に保つ事が健康に繋がるんだよ。
不潔なままだと病気になる可能性が高くなるから、出来れば毎日でも身体を洗う事を勧めるよ」
「へぇ・・・だが、そりゃあ無理ってもんだな。
身体を洗うための石鹸なんかは、高価でなかなか手に入らないからな」
「そう言えば、そんな事を聞いた気がするな・・・本当なら、石鹸なんて知識がありゃあ簡単に作れるんだけどな。
まぁ、食塩水を電気分解して、石鹸の原料になる水酸化ナトリウムを作り出すのが面倒なくらいかな?
むしろ、さっきお前達が使った物の方が作るの面倒だし、材料費は高いぞ?
それでも、容器10本分の材料費が大銅貨20枚掛からないくらいだけどな」
「ははは、嘘だろ・・・そんな金額で出来るのかよ」
ジルは驚愕し、乾いた笑いを漏らした。
「清宏殿は、その製法を公に公表されるつもりは無いのですか?」
「する気はあるが、現状では難しいと思っている・・・」
清宏はオーリックの目を見て答えた。
「何か問題があるのですか?」
「まず、俺達だけでは大量生産が出来ないという問題がある。
人を雇うにしても、魔王の下で働いてくれる人間がいるかどうかが重要だ・・・。
それと、材料を大量に仕入れられる資金力と、業者とのコネクション、設備も必要になる。
この2つについては心当たりがなくは無いが、その人にはまだ俺の素性を明かしてないから、もし頼むなら俺の事を話さなきゃならない。
あとは工場を建設出来る程の広い土地が必要だ」
清宏の説明を聞き、オーリックは俯いて思案する。
「清宏殿、心当たりのある方とはどなたですかな?他言無用にしますゆえ、差し支えなければお聞かせ願いたいのですが・・・」
清宏はオーリックに尋ねられ困惑したが、他言無用であることを考え、伝える決心をした。
「彼に迷惑を掛けたくはないから、これは本当に他言無用に頼む・・・俺の言った心当たりとは、オズウェルト商会の代表、クリス・オズウェルトさんだよ」
「何とまぁ・・・凄い人物の名が出て来ましたな」
オーリックは呆れて笑う。
「凄いとは聞いてたけど、どの位凄い人なんだ?」
清宏に尋ねられ、オーリックは居住まいを正して説明を始める。
「クリス・オズウェルトと言えば、下手をすれば王侯貴族よりも有名な人物です・・・多くの国で商売をしているため全ての国の法を遵守し、地域の発展に努め、公明正大を是としているため不正も働きません。
以前、その多大な貢献に対し爵位をとの話もありましたが、1国に縛られる事を避け辞退したとも言われております・・・ただ、異常な程の魔道具マニアとも噂されておりますな」
清宏は、クリスと初めて会った時の事を思い出し、苦笑した。
「清宏殿がどの様にして知り合われたのかは解りませんが、オズウェルト殿でしたらこの国でもかなりの発言力を持っておりますし、資金も人材もあります・・・もし彼の後ろ盾を得られたなら、いくら王族と言えど無碍には出来ないでしょう。
彼が味方になったならば、工場建設や土地に関しても国の理解を得ることが可能になるかと思います・・・私の提案はこんなところでしょうか」
「どうしてこっちが有利になるような提案を?」
清宏が尋ねると、オーリックは笑顔を見せた。
「もし清宏殿が石鹸の製造方法を公表しないと言っていたなら、このような提案はしなかったでしょう・・・。
貴方は先程、身体を洗う事は健康に繋がると言いましたな?
私は製造方法を公表すると言う事は、人々の為になる事だと思います・・・仮に目的が金儲けだろうと、それで人々の生活がより安全なものになるならば些細な事です。
例え貴方が魔王の配下だとしても、人々を想い貢献すると言うならば、私は協力を惜しみません」
「そうか・・・ありがとう」
清宏は小さく呟いて手を差し出す。
オーリックは頷いてその手を握り返した。
「人々の生活の為になることをしっかりと説明をすれば、オズウェルト殿や国王陛下の説得も可能でしょう。
まず、少しでも国の協力を得やすくするため、オズウェルト殿を説得するのが先決かと思います」
「わかった・・・グレン、お前とシス、あとレティには明日から4日間の休みを取って貰う。
街に戻って、オズウェルト商会でクリスさんがいつこっちに来るか聞いて来てくれ。
あと、食料の買い出しも頼みたい」
「了解、久しぶりに羽を伸ばしてくるよ!」
グレンは嬉しそうに敬礼をしている。
「ローエンとウィルには次の週に休みを取って貰うが構わないか?
俺としては、隔週で4日間の休みをって考えてたんだが・・・」
「俺は別に構わないぞ?」
「僕も問題ありません」
ローエンとウィルも快く受け入れた。
清宏がそれを見て安心し、湯船から出ようとすると、浴場の外から足音が聞こえてきた。
「うわーーーん!清宏ーーーー!!」
浴場の扉が勢いよく開き、泣き噦るリリスが飛び込んできた。
「魔王様!?」
全裸のリリスを見たオーリックが驚いている。
「何なんだ騒がしい!?」
「シスが・・・シスがまた妾を!!」
清宏はリリスの言葉を聞いて状況を理解してため息をついた。
「またかあの馬鹿・・・」
「我が妹ながら申し訳ない・・・」
グレンは恥ずかしそうに項垂れた。
「ちょっと行ってくるわ・・・」
清宏は腰にタオルを巻いて浴場を出る。
リリスは清宏に抱きついたまま離れず、何故かオスカーとアリーまで頭と背中にくっついている。
「頼もーーーー!!」
清宏は女湯の扉を開け放ち、中に入る。
「えっ、清宏さん!!?」
「何で女湯に入って来てんのよ!てか、あんたいつ戻って来たの!?」
湯船に浸かっていたルミネとラフタリアは、清宏を見て前を隠す。
2人はタオルを巻いたままだが、それでも恥ずかしいようだ。
「シス・・・俺が来た理由は解っているな?」
清宏はルミネ達を無視してシスの前に立った。
シスは怯えて目を逸らしている。
「これで何回目だ・・・3日に1回は必ずリリスが駆け込んでくるんだが?」
「それは・・・その・・・」
シスは滝の様に汗をかいている。
清宏は抱きついているリリスを下ろし、近くにいたアンネに預けた。
アンネは清宏が来ることを解っていたのか、しっかりとタオルを巻いている。
「前回、俺と約束した言葉を覚えているか?」
「イエスロリータ・ちょいタッチです!!」
シスは大きな声で答えたが、清宏の拳骨をくらい悶えた。
「ノータッチだ馬鹿!!お前が馬鹿みたいに触りまくるからリリスが泣くんだろうが!?」
「ノータッチじゃお世話出来ないじゃないですかー!!」
「だ、大丈夫ですかシス?」
涙目になりながらシスは清宏を見る。
たんこぶの出来たシスの頭を、隣にいたアンネが濡れタオルで冷やしている。
「そのくらいの気持ちでやれって言ってんだよ!
風呂の時間を邪魔される俺の気持ちになれってんだロリコン!!
次やったら解雇して憲兵に差し出すからな!!」
清宏は舌打ちをして踵を返して立ち去ろうとしたが、すぐに立ち止まり湯船を見る。
その表情は明らかに激怒している・・・。
「おい、ルミネとラフタリアは立て・・・」.
ルミネ達は清宏の剣幕に気圧され、黙って従う。
「タオルを巻いて湯船に浸かるんじゃねえ!!」
清宏は、立ち上がった2人のタオルを掴み、一気に引き剥がした。
『えっ・・・?』
2人はすぐには状況が理解出来ず、清宏の持っているタオルを見て徐々に真っ赤になり、声にならない悲鳴をあげて湯船に浸かった。
「リリ、お前がついていながら何故教えなかったんだ・・・」
「ごめん、忘れてた・・・」
「次は気を付けろよ?」
リリが謝ると、清宏はため息をついて頷く。
すると、清宏が握っていたタオルをアンネが慌てて奪い取ってルミネ達に渡した。
「清宏様、やり過ぎです!!」
清宏に対し、アンネが珍しく怒りを露わにしている。
それに驚いたアリーが、清宏の背中から滑り落ちた。
「あうー!」
アリーは咄嗟に手を伸ばし、清宏とアンネのタオルを掴む。
「ちょっ!?」
「アリー!?」
清宏とアンネは慌ててタオルに手を伸ばしたが、間に合わなかった。
2人は至近距離で互いの裸を目にしてしまい、動きが止まる。
「わぉ・・・清宏様、なかなか立派じゃない?」
「ねぇ・・・清宏様って、ローエンちゃんやウィルちゃんより大きくない?」
ビッチーズ達は、清宏の股間を見てニヤケながら話し合っている。
あまりの恥ずかしさに、アンネの瞳に涙が浮かぶ。
「何てもの見せんのよ!!」
「不潔です!!」
その時、清宏の股間に衝撃が走った。
目の前で清宏の股間を見る羽目になったルミネとラフタリアが、容赦の無い拳を喰らわせたのだ。
「はうっ・・・!?」
清宏は短い悲鳴をあげ、白目を剥いて崩れ落ちた・・・。
「もう・・・お嫁に行けません・・・!」
アンネもその場に座り込み、弱々しく泣き出してしまう。
元凶となったアリーは、そんな2人には目もくれず、リリスとオスカーと一緒に洗いっこをしていた。
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