第53話お風呂①
ルミネとラフタリアは、清宏以外の男達に制裁を加えたところでリリスとアンに止められ、今は落ち着きを取り戻している。
だが、30分に渡る情け容赦無い魔法の前に、男達は皆ボロ雑巾と化していた。
「よくもまぁここまで暴れたもんじゃな・・・清宏が創り上げた広間が、以前よりも酷い有様じゃ」
リリスは肩で息をしているルミネとラフタリアを見ながら、呆れてため息をついた。
「リリス様・・・清宏さんが戻られたら、話があるとお伝え下さいませ」
「あいつだけはタダじゃおかないわ!」
「わ、わかったから妾を巻き込むでない!!」
リリスは血走った目をしている2人に狼狽え、何度も勢いよく頷くと、2人の有様を見て手を叩いた。
「まぁ、お主達も疲れたじゃろうし、風呂に入ってゆっくりしようではないか!!
清宏は性格はアレじゃが、なかなか良い物を造りおる・・・この城の風呂は、彼奴の力作じゃぞ?お主達も気にいること間違い無しじゃ!!
リリよ、すまんが3人を案内してやってくれぬか?妾は床に転がっておる奴等にポーションを飲ませてから行く」
「かしこまりました」
リリスに提案され、2人は自分達の姿を確認する。
2人は髪や衣服が乱れ、汗だくになっている。
「ご配慮に感謝いたします・・・。
あの不届き者がどの様な物を造るのか確認する良い機会でございます・・・ラフタリア、リンクスお言葉に甘えさせていただきましょう?」
「お風呂かぁ・・・ちゃんとしたのに入るのって何日ぶりだっけ?」
「王都を発つ前だったから、およそ半月ほど前だな・・・まぁ、出来はどうあれ、風呂に入れるのはありがたい」
3人はリリスに頭を下げ、リリに案内されて脱衣所に入る。
今日は女性が和式の浴場を利用する日だ。
脱衣所の内装を見た3人は、戸惑いつつも衣服を脱ぐ。
すでに先客がいるらしく、浴場からは楽しげな声が聞こえてくる。
3人はその声を聞きながら、緊張した面持ちで浴場の扉を開いた。
「わぁっ!?何この広さ!!」
「床も浴槽も全てが木で出来ているのですね・・・なんと贅沢な造りなんでしょう!!」
「まさか、あそこにあるのは鏡か?いったい何枚あるんだ・・・」
3人は浴場に入るなり、感嘆の声を上げて周囲を見渡す。
先客はビッチーズだったらしく、3人を物珍しそうに遠巻きから見ている。
「早く行きなさいよ、風邪引くわよ?
まぁ、驚くのも無理はないけどね・・・まさか、あんな奴がこれを造ったなんて、リリス様に言われても今だに信じられないもの」
リリは苦笑しながら3人を洗い場に連れて行く。
すると、ルミネが途中で立ち止まり、深呼吸をして首を傾げた。
「あの、リリアーヌさん・・・なんか、息苦しくはないでしょうか?」
リリはルミネに尋ねられ、何かを思い出したように、困った表情を浮かべた。
「リリで良いわよ・・・申し訳ないけど、しばらくすれば慣れると思うから我慢してね」
「何かあるのですか?」
「あー・・・何と言うか、その息苦しさは私達サキュバスの所為なのよね。
私達サキュバスは、男達を魅了するでしょう?それは、無意識のうちに私達の身体から魅了する為の魔力が出てしまってるのが原因なのよ・・・本来、魅了は女性に対しては無害なんだけど、今この浴場には私を含め、この城に住んでるサキュバスが全員いるから、女性でも解るくらいに濃くなってるの。
まぁ、しばらくすれば慣れるから、それまではあまり深く呼吸はしないでね?」
リリの説明を聞き、ラフタリアが首を傾げた。
「ここが息苦しい理由はわかったけどさ、貴女の仲間の男達や、うちの馬鹿共はなんで平気なの?
さっき夕食の時も貴女達が一緒にいたのに、誰も魅了されてなかったじゃない?」
「それは、清宏の魔道具のおかげよ・・・まぁ、正確には清宏が設計して、アンネが造ったんだけどね。
今は脱衣所に置いて来てるけど、私達サキュバスは皆んな指輪型の魔道具を身に付けるようにしてるの・・・それは、私達の身体から出てしまう魅了の魔力を中和する効果があるの。
だから、一緒に居ても問題なく生活出来るのよ」
「何故サキュバスに造ったんだ?
男の方が少ないんだから、魅了にかからない魔道具を付けさせた方が素材の節約になるだろう?」
リンクスが尋ねると、リリは優しく微笑んだ。
「ここは、女が多いでしょう?普段から彼等には色々と我慢させちゃってるのよ・・・流石に三大欲求の性欲まで無くしちゃうのは可愛そうでしょ?
それに魅了が結構厄介な物ってのもあるけど、魅了にかからないようにする魔道具の場合、今回みたいに男の居るパーティを客人として招くたびに装備させなきゃならないし、いざ数が足りなかったら困るのよね・・・。
だから彼等に装備させるより、遮断されてもなんら困らない私達に装備させた方が確実なのよ。
まぁ、彼女達が客を取れなかった時にガス抜き相手にもなって貰わないといけないから、彼等に装備させても意味が無いってのも造らない理由だけどね・・・」
リンクスは納得して頷いたが、ルミネとラフタリアは苦笑している。
「清宏さんも彼女達の相手をしているのですか?
まぁ、彼なら嬉々として相手をしていそうですが・・・」
ルミネが恨めしそうに尋ねると、リリは真面目な表情で首を振った。
「貴女の気持ちも解るけど、清宏は彼女達の相手はしてないわ・・・まだあいつは童貞よ。
あいつは私達の上の立場だから、皆んなに平等に接するために、性欲を抑える魔道具を自ら身体に埋め込んだのよ・・・誰かに夢中になってしまったら、平等ではいられなくなるからって。
少なくとも、ここにいる間は誰とも関係を持たないと断言していたわ・・・」
ルミネは自分の質問を恥じて俯いた。
「すみません、軽々しく言って良い言葉ではなかったですね・・・彼の事を知りもせず軽蔑してしまうなんて、聖職者として恥ずべき行為でした」
「別に良いんじゃない?あいつが滅茶苦茶なのは確かだし、悪ノリして馬鹿みたいな事をするのなんて日常茶飯事よ?
まぁ、性欲が無いって割にエロい事をするのは、あいつなりの強がりみたいなものなんだろうし、あまり責めないでくれたらありがたいわ・・・。
さぁ、いつまでも裸のままじゃ風邪引くし、早く身体を洗って湯船に浸かりましょ?
身体を綺麗にしてから入らないと、清宏にバレたらどやされるわよ・・・あいつ、お風呂には強いこだわりがあるから」
「御指導御鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!」
リリに気遣われ、ルミネは照れ臭そうに笑うと、3人は揃って頭を下げた。
「ほら、あんた達どきなさい!お客様から先よ!!」
「ちょっと待ってよー・・・まだ洗い流してないんだよー!」
リリに急かされ、あどけない少女の姿をしたサキュバスが、口を尖らせながら渋々と席を空ける。
「さぁ、3人共椅子に座ってちょうだい、今日は特別に私達が洗ってあげるわ!」
リリは近くに居たビッチーズを2人捕まえると、リリがルミネを担当し、ラフタリアとリンクスを他の2人に任せて頭を洗い始めた。
「何だかすみません・・・」
「何これ、超気持ちいいんだけど・・・」
「あぁ、悪くないな」
3人は頭を洗われながら、気持ち良さそうに寛いでいる。
「この洗髪剤やも清宏が作った物よ。
他にも、生活用品は全部清宏が作ってくれてるの」
「身体を洗うための薬剤なんて、今までに何度か使った事があるだけです・・・こんな高級品を惜しげも無く使わせて貰えるなんて、夢にも思っていませんでした・・・」
「泡の量が凄いわよね!こんなに泡立つなんて、素材は何を使ってるんだろ?」
ルミネとラフタリアは風呂に入る前までと違い、上機嫌だ。
そんな中、リンクスは自分の身体を見て頷いていた。
「それにしても、この薬剤もそうだが、あのスライムはやはり凄いな・・・あれだけあった傷が、跡形も無く消えている。
見た目はあれだが、効果はそれを差し引いても素晴らしいものだな」
リンクスの呟きを聞いたルミネとラフタリアは、自身の身体を確認する。
「私も、最近気になっていた二の腕と太腿が心なしか細くなった気がしますね・・・」
「あのさ、私の胸ちょっと大きくなってるんだけど・・・どうしよう、また頼もうかな?」
「貴女達も毒されて来たわね・・・」
3人が嬉しそうにしているのを見て、リリは呆れてため息をついた。
「ルミネちゃんってさ、スタイル良いよね?タオルで隠すの勿体ないよー!」
「へっ!?や、やめてください!!」
先程リリに追いやられたサキュバスの少女が、ルミネの背後に忍び寄り胸を揉みしだく。
ルミネは身をよじって抵抗したが、いくら見た目が少女とは言え、魔族であるサキュバスは全く動じていない。
ルミネは衣服を脱いでから今までタオルで胸を隠していたのだが、どうやらそれが気になったらしい。
「あれぇ?ルミネちゃん、大事な部分が隠れちゃってるよ?
ルミネちゃんと一緒で恥ずかしがり屋さんなのかなぁ?」
サキュバスの少女はルミネの胸を揉みながら、ニコニコと笑っている。
「うぅっ・・・だから隠してましたのに・・・」
ルミネは顔を真っ赤にして泣き出してしまった。
「このお馬鹿!何失礼な事してんのよあんたわ!!?」
「痛いじゃんリリ!おっきいオッパイが羨ましかっただけじゃん・・・」
リリから強烈な拳骨を喰らい、少女は涙目でうずくまった。
「ごめんねルミネ・・・この馬鹿には、後でキツく言い聞かせとくから泣かないで?」
リリがルミネを気遣っていると浴場の扉が勢いよく開き、リリスが入って来た。
「待たせたな!!・・・って、ルミネはどうしたんじゃ?腹でも痛いのか?」
ポーズを決めながら入って来たリリスは、泣いているルミネを見るなり、滑らないように駆け寄った。
リリから事情を聞いたリリスは、遠い目をして鼻をすする。
「ふっ・・・ルミネよ、乳首が隠れておるからと言って、お主の魅力が損なわれる事は無いぞ?
それもまた個性・・・お主の魅力の一つじゃ。
妾を見てみよ・・・1000年近く生きておりながら、谷間すら出来んのじゃぞ?
清宏には諦めろと鼻で笑われ、シスにはセクハラを受ける日々・・・下を見た時に、邪魔する物も無くつま先が見えてしまう悲しみに比べたら、乳首が隠れておる事など些細な事じゃよ・・・」
リリスは自分で言っておきながら、滝のような涙を流している。
「自虐で泣いているリリス様尊い・・・」
その後には、泣いているリリスを見て、鼻を抑えたシスが立っている。
「シスー、早く入らせてよー・・・広間の片付けで流石にくたくたなんだからさー。
ありゃ、ルミネさん泣いてんじゃん・・・大丈夫?」
「そうですね、久しぶりに大仕事をしたって感じがします・・・あら、何かありましたか?」
興奮しているシスを押しのけ、レティとアンネも浴場にやって来たが、ルミネを見て心配そうに覗き込んだ。
「えぇ、もう大丈夫です・・・不思議なものですね、まさか魔族の方々に心配されるなんて。
ここは魔王城でありながら、とても暖かい場所のようです・・・」
ルミネは涙を拭うと、鼻をすすりながら微笑んだ。
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