第51話ツクダと3人の生贄

 「くそっ・・・俺の動きを先読みするなんて卑怯だぞ!?」


 逃げ回っていた清宏は、呆気なくルミネに捕らえられ、床に正座させられている。

 それを見下ろしなが、ルミネは可笑しそうに笑った。

 他の者達は、とばっちりを受けないように遠巻きに2人を眺め、正座させられている清宏を見て笑っている。


 「この私から逃げきれると思っているとは・・・清宏さん、貴方もまだまだのようですわね?」


 「ちっ!罠にさえ掛かればこっちのもんなのに・・・」


 清宏は心底悔しそうに舌打ちをし、ルミネを見上げる。


 「私の予知に掛かれば、貴方の罠を見切ることなど造作もありませんわ!」


 勝ち誇るルミネを見て、清宏が不敵に笑いだす。

 ルミネは笑っている清宏を見ても、表情を変えない。

 今の状況に絶対的な自信があるようだ。


 「ふふふ・・・降参だ!

 正直、殺しちゃだめだと勝てんわ・・・レパートリーが増やせないからどうしようもないんだよなぁ・・・」


 清宏が両手を上げて降参の意思を示すと、ルミネは頷いて笑い、清宏に手を差し伸べる。

 だがその瞬間、ルミネは何かを感じ取り、後方に飛び退いた。


 「まったく、油断も隙もありませんね・・・」


 今までルミネの居た場所に、拘束用の足枷が設置されている。

 

 「油断も隙も無いのはそっちだろ・・・でも、これで俺の勝ちだな」


 清宏は立ち上がってルミネの足元を指差す。


 「なっ!これは・・・いつの間に!?」


 ルミネは自分の立っている場所を見て驚愕する。

 その場所は見た目こそ普通の床だが、材質が粘着質に変化し、ルミネの履いているブーツは完全に接着されていた。

 足を引き剥がそうとしたルミネが、バランスを崩して尻餅をつく。

 清宏は床を元に戻して手を差し伸べ、ルミネを立たせると、説明を始めた。


 「俺はあんたが倒れるまで、ずっと観察してたんだよ・・・そして、俺はあんたの予知には制限がある事に気付いた。

 まず、連続使用するには1秒〜2秒間ほどクールタイムを設けなきゃならないし、連続使用での予知で見る事が出来るのは、せいぜい5秒弱と言ったところだろう・・・もし更に先を見るなら、クールタイムもその時間に比例して延びるようだ。

 あんたは扉を開ける前と部屋に入る前には必ず予知を使っていたが、その後しばらくはその場を動かなかったからな・・・。

 それと、連続した罠には対処が若干だが遅れていた・・・それは、直近の未来に反応してしまうから、どうしても次への反応が遅れてしまうんだろう。

 俺の罠にはクールタイムは必要無いが、それでも連続使用には向かない・・・設置する場所や罠の種類なんかを指定するために、どうしても時間がかかってしまう。

 まぁ、それでも2秒程なんだが、あんたの予知が使用可能になるのには充分な時間だ。

 だから、俺はあんたの周りの床を前もって材質だけ粘着質の物に変化させてもらった。

 床の罠がバレるかどうかは賭けだったが、あんたが逃げても逃げなくても必ず罠に掛かるように、ワザと捕まったふりをして時間を稼いでいたんだよ」

 

 「まさか、私を仕返しをするためだけにそこまでするとは・・・見上げた執念ですわね」


 ルミネは呆れて清宏見ながら、口を尖らせる。


 「じゃあ、俺の勝ちってことで良いかな?」


 「そうなりますね・・・私の負けでございます」


 ルミネが大人しく負けを認めたのを見て、清宏が悪い笑みを浮かべてルミネの腕を掴むと、大声で叫んだ。


 「罰ゲーーーーーーーム!!!」


 「へっ?な、何ですかそれは!?」


 ルミネは、清宏に突然腕を掴まれ狼狽えながら聞き返すが、清宏は下卑た笑いを浮かべたまま、ルミネの腕を引いて歩き出す。


 「まぁ、罰ゲームと言うのは冗談なんだが、あんたとラフタリア、リンクスの3人に是非試して欲しい事があるんだ・・・協力してくれないか?」


 清宏はリンクスとラフタリアを呼び、ルミネの手を引きながら部屋を移動する。

 途中ですれ違ったリリが哀れんだ目で3人を見ていたが、清宏は気付かないフリをした。


 「ツクダ、お疲れさん!迎えが遅れてすまなかったな・・・お詫びと言ったらなんだが、お客さんを連れて来たぞ!」


 薄暗い室内で清宏が話しかけると、部屋の隅の暗がりからツクダがゆっくりと姿を現した。

 それを見た3人の表情が引きつる。

 ラフタリアにいたっては部屋から逃げようとしたが、清宏はそれを見越して扉を消していた。


 「ちょっと、部屋から出しなさいよ!!」


 ラフタリアが涙目で叫んだが、清宏はそれを無視してツクダを撫で回す。


 「ツクダ、寂しかったか?別にお前を忘れてた訳じゃないならな?

 前もって会わせてたら、あの3人が実験に協力してくれないと思って、仕方なく迎えが遅れてしまったんだよ!!」


 ツクダは身体を震わせながら清宏に擦り寄っている。

 ルミネ達はそれを見て顔をしかめた。


 「あの、清宏さんは私達に何をさせようと言うんでしょうか・・・?」


 ルミネに問われ、清宏はツクダから離れて手を見せた。


 「あんた達から見て、俺の肌はどう見える?」


 清宏が手の平を差し出すと、3人は確認のために恐る恐る近付いて来た。


 「・・・何か、綺麗じゃない?」


 「えぇ、魔道具や罠の作製をしていると言う割りに、まったく荒れていませんね・・・」


 「下手すると、そこらの女よりも肌が綺麗なんじゃないか?」


 3人は清宏の肌に興味を示した。

 清宏の手はツクダの粘液で濡れているにもかかわらず、触って確かめている。

 

 「凄いだろ?この肌は、ツクダ・・・このスライムに触れたから綺麗になってるんだよ」


 『え・・・?』


 驚いた3人は声が見事にハモり、ツクダを見る。

 ツクダは恥ずかしそうに身体を縮めた。


 「ここでは、男はサキュバスに相手をさせるだろ?でも、女用に何か無いかと思って色々と調べたら、スライムは消化した物の特性を得る事を知ってさ・・・だから、リリスにスライムを召喚してもらって、ポーションとか肌に良い物を食わせまくったんだよ。

 女はやはり美容に興味があるだろうと思って、試しにこいつを育てたら大当たりだったよ。

 今じゃ、こいつに触るだけで肌が綺麗になるぞ・・・どうだ、試しにこいつを触ってみないか?

 もし気に入ったら、こいつに身体全体を這わせると良い。

 あまり言いたくはないが、女性は30代になると肌の劣化が早いと聞くから、こいつで少しでも改善されるなら儲けもんだろ?」


 清宏の説明を聞き、3人が唾を飲み込む。

 気になってはいるようだが、踏ん切りがつかないようだ。

 

 「あんた達の中に、結婚してたり男性と交際中なのはいるか?」


 後押しをするために清宏が尋ねると、意外な人物が恥ずかしそうに手を上げた・・・それはリンクスだった。

 流石に清宏も驚いたのか、目を見開いた。


 「その反応は解らなくもないが、流石に失礼だぞ・・・私は7年前に結婚して、今は2児の母なんだよ。

 まぁ、冒険者なんて仕事してるから、留守がちで母親らしい事は殆ど出来ていないけどな・・・」


 リンクスは自嘲気味に笑ったが、心なしか寂しそうだ・・・離れている家族の事を思っているのだろう。

 寂しそうなリンクスを見て、清宏は頭を下げて謝罪した。


 「それはすまない・・・てっきり、ルミネさんあたりは結婚してそうな感じはしてたが、まさかあんただったとは・・・。

 なら、あんたが最初に試してみるか?子供ってのは、綺麗なお母さんは嬉しいもんだと思うぞ?

 あんたは武術をやっていて引き締まった体型をしているが、傷がだいぶ目立つようだ・・・職業柄仕方ないとは言え、肌が綺麗になれば旦那さんもさらに惚れるかも知れないぞ?」


 提案を聞き、リンクスは迷いながら清宏を見た。


 「本当に効果があるのか?」


 「あぁ、それは保証するよ・・・もしイマイチだと感じたら、俺を殴ってくれても良いぞ?」


 清宏が肩を竦めて答えると、リンクスは笑って頷いた。


 「いや、あんたを信じよう・・・どの道、報告するには誰かが試さないといけないんだからな。

 なら、身体を張るのは私の役目だ・・・この際ちまちまとけち臭い事は言わない、やるなら全身をやってくれ!」


 「良いのですか?万が一何かあったら・・・」


 「そうよ・・・あんたに何かあったら、私はあんたの子供達に顔向け出来ないわ!」


 ルミネとラフタリアは止めようとしたが、リンクスは笑って首を振った。


 「この男がもし何かする気なら、とっくの昔に私達は死んでいるだろう・・・今更何かするとも思えないし、疑ってばかりじゃ何も進展しないだろ?

 まぁ、その気持ちだけは有難く受け取っておくよ!さぁ、やってくれ・・・」


 リンクスはツクダの前に立つと、緊張した面持ちで呟いた。


 「ツクダ、あまり調子に乗って悪ふざけはするなよ・・・この城の命運は、お前にかかってるんだからな?」


 清宏に忠告され、ツクダは震えて返事をすると、ゆっくりとリンクスの足元から身体を包み込む。


 「流石に、服の中で動き回られる感触は気持ち悪いな・・・だが、ただ這っているだけじゃなく、身体を揉み解しているような感覚だ」


 リンクスは顔を歪めながらも、冷静にツクダの動き解説する。

 それを聞いているルミネとラフタリアは、リンクス以上に緊張した面持ちだ。


 「粘液は思ったほど粘つく感じはしないな・・・サラサラとして水に近い感触だ。

 揉み解しているからか、身体の芯から火照ってくる・・・これは確かに美容には良いかもしれない」


 頬を染めているリンクスの表情は、男勝りな性格とは思えないほどに艶っぽく、大人の女性の色気がある。

 清宏はリンクスの夫に申し訳なくなり、目を逸らしている。


 「・・・終わったようだな」


 ツクダが離れ、リンクスは身体を確認する。

 清宏は目を逸らすのをやめ、リンクスに向き直った。


 「どうだった?」


 「これは凄いな・・・正直、想像以上で驚いているよ。

 古傷まで綺麗になくなっているのは嬉しい限りだ・・・。

 だが、これは確かに凄んだが、スライムを生理的に受け付けない者もいるだろうから、目隠しをするなどした方が良いかもしれないな・・・見えるより、見えない方が良い時もあるからな。

 それど、終わった後に身体が濡れたままなのも気持ち悪いから、そこは改善した方が良いだろう」


 リンクスは、腕や脚の傷がなくなっているのを見て嬉しそうに笑い、改善すべき点などを清宏に伝えた。


 「貴重な意見をありがとう・・・こういったのは、色んな人に体験してもらって感想を聞かなきゃ改善出来ないからな。

 指摘してもらった点は、次までには改善しておくよ。

 で、10点満点で言ったら何点くらいだった?」


 「改善すべきところがあるとは言え、効果は素晴らしい物だった・・・差し引いても8点と言ったところだな」


 清宏は、高評価を受けてガッツポーズをする。


 「良し!これなら改善点さえなんとかすれば、話題になってくれるぞ!!

 魔石がっぽりで笑いが止まりませんぞ!!」


 「あまりやり過ぎると、国が動く事を忘れるなよ?」

 

 「そ、そうだったな・・・」


 狼狽える清宏を見てリンクスは苦笑し、ルミネとラフタリアの腕を掴んだ。

 不穏な空気を感じとり、2人は暴れ出す。


 「な、何をするのです!?手を離しなさい!!」


 「私はやらないわよ!だって、私はまだお肌に自信あるし!!」


 「露払いは私がやってやったんだ、お前達だけ逃す訳がないだろう?

 あの男も、色んな意見を聞きたいと言っていたんだ・・・協力すると言ったなら、多少の事は我慢しろ!なぁ清宏殿?」


 リンクスは笑いながら清宏を見る。

 清宏は下卑た笑いを浮かべながら、リンクスと一緒に2人をツカダに向かって放り投げた。


 「あぁ、神よ・・・」


 「あんた達、覚えてなさいよ!?」


 ルミネは諦めて神に祈り、ラフタリアは清宏とリンクスに対して暴言を吐きながらツクダに絡みとられた・・・。


 




 

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