第49話レティとジル

 腰を抜かしたルミネが回復するまでの間、

清宏は皆に指示を出し、来客を持て成す準備をしていた。

 想定していた以上に時間が過ぎていたため、外は陽が傾き閉門の時間になっている。

 清宏は、城内に残っていた侵入者達を容赦なく罠に掛けて外に放り出し、城門を閉めた。


 「あんた鬼だな・・・ルミネがいて良かったぜ」


 横から清宏の仕事を見ていたジルが、呆れながら呟いた。

 リンクスとカリスはオーリックの介抱をし、ラフタリアはルミネを診ている。


 「うちは朝が早いぶん夜も早く閉めるようにしているからな・・・残業なんて真っ平御免なんだよ。

 皆俺の指示に従って頑張ってくれてるから、少しでも自分の為の時間を作ってやりたいんだ」


 「なんか、魔王の副官とは思えない台詞だな・・・」


 「皆が働きやすい環境を整えるのは、上司の仕事だろ?

 皆平等に接し、仕事を正当に評価し、生活を支えるのは上に立つ者の定めだからな」


 ジルは清宏の言葉を聞き、感心して頷く。


 「いやぁ、あんたがうちの組織のトップなら絶対について行くぜ・・・仕事さえこなしゃあ評価してくれるなんて、うちの頭とは比べ物にならねえからな!」


 「なんだ、現状に満足してないならうちに来るか?

 うちは人間だろうが魔族だろうが、仲間になったなら生活の保障はするぞ?」


 「そうみたいだな・・・見覚えのある奴等も居るみたいだし」


 ジルは、距離を置いてオーリック達の様子を伺っているローエン達を見て笑った。


 「あぁ・・・あいつ等は、俺が最初に相手をした侵入者だったんだけどな、街に行った時に偶然出くわして仲間に引き込んだんだ。

 人間の協力者は必要だからな・・・。

 あんたが知ってるって事は、ローエン達は結構有名なのか?」


 「そこそこな・・・危なっかしいが腕は確かだって聞いてるよ。

 まぁ、オーリックやリンクス相手に持ち堪えられるのはなかなか居ないはずなんだが、それをローエンとグレンは凌いでたから噂通りの腕を持ってるだろう。

 あとは、向こうにいるお嬢ちゃん・・・確かシスだったか?あの子はヒーラーとしてはかなり有名だな。

 魔術師のウィルも、経験を積めばかなり良いとこまで行くんじゃないか?」


 ジルがローエン達を評価している間、清宏はずっとある事が気になっていた。

 ジルの視線が、ある人物を意図的に避けていたのだ。


 「なぁ、何であんたはレティと目を合わさないんだ?」


 清宏に指摘され、ジルの身体が一瞬強張る。


 「いやぁ・・・あいつとは関わり合いになりたくないと言うか何と言うか」


 ジルは滝の様な汗を流しながら目を逸らした。


 「なんだ、知り合いだったのか?」


 「正直、あいつと知り合いとは言われたくないんだがな・・・。

 あの女は、同業者の間では悪い意味で有名なんだよ・・・仕事は出来るが、何より性癖がヤバくてな・・・。

 俺らシーフってのは、冒険者ギルドとは違う同業者だけの独自の組織に所属してるんだが、そこで密偵だったり暗殺だったり適正によって仕事を割り振られるんだ・・・ただ、女の場合は全員男を喜ばせる術も叩き込まれるんだが、あいつはそれがな・・・見た目は良いのに、特殊過ぎる性癖のせいで落第だったんだ。

 自分の性欲に忠実過ぎて使い物にならなかったんだよ・・・。

 思い出したくもないが、その時にあいつに実技指導をしたのは俺なんだよ・・・」


 ジルはその時の事を思い出したのか、青い顔をして震えている。


 「解るぞその気持ち・・・俺は今、あいつに狙われているからな」


 「そうか、あんたも大変だな・・・」


 清宏とジルの間に、奇妙な仲間意識が芽生えた。

 すると、話題の人物が2人に近寄ってくる。


 「さっきからどうしたんです?私の事を見てるみたいですが・・・」


 レティに話しかけられたジルは、蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなっている。

 それを見たレティは、首を傾げた。

 彼女はジルの事を覚えていないようだ。


 「レティ、ジルの事知ってるか?」


 「いえ、全く知らない人ですね!」


 念のため清宏が確認すると、レティは首を振って即答した。


 「良かったな・・・」


 「これはこれで釈然としないな・・・」


 レティの言葉を聞いたジルは、溜息をついて苦笑した。


 「清宏様、オーリック様の目が覚めたようですよ」


 「わかった、ありがとうアンネ」


 アンネに呼ばれ、清宏はオーリックの元に向かう。

 ジルやレティも一緒について行く。


 「気持ち良さそうに寝てたな・・・調子はどうだ?」


 「まだ痛みますが、問題ありません。

 清宏殿、此度は私の完敗です・・・ルミネの言った通り、今回は協力させていただきます」


 オーリックが頭を下げると、清宏は彼の腕をとって立ち上がらせた。


 「すまないな・・・あんたにも立場があるってのに付き合わせちまって」


 「いえ・・・私は戦って負けたのですから、貴方が力を貸して欲しいと言うなら従うまでです」


 清宏はオーリックの言葉を聞いて笑うと、レイスとアンネに料理を運ばせた。


 「さて、それじゃあ晩飯でも食いながら策でも練ろうか?

 その時、この城の設備なんかの紹介もしよう」


 「ははは・・・まさか魔王様や魔族の方々と夕飯を共にする事になるとは、人生何があるかわからないものですな!

 ご厚意ありがたく頂戴いたします」


 オーリックは清宏に礼を言い、仲間達を見る。

 ルミネも回復しているようだが、ラフタリアとリンクスに支えられている。


 「あら、良い匂い・・・これは味も期待出来そうですわね!」


 「あ、私肉料理はパスね!」


 「あんたは肉を食わないから貧相なんだよ・・・」


 「あんたみたいな男女に言われたくないわよ!!」


 「あらあら、2人共夕飯は楽しく頂くものですわよ?」


 取っ組み合いをしだしたラフタリアとリンクスを諭し、ルミネはオーリックの隣に座る。

 他の面々も席に着き、清宏の掛け声と共に賑やかな夕食が始まった。

 


 

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