第48話ラッキースケベ

 清宏は、鼻孔をくすぐる甘い香りと、後頭部に感じる柔らかな感触に意識を取り戻すと、目の前に白い山が2つ並んでいるのに気が付いた。

 それが何であるか確かるため清宏は手を伸ばす。


 「何だこりゃ・・・凄く柔らかいけど、程良い弾力で癖になるな」


 清宏が手の平に伝わる柔らかな感触に夢中になっていると、山の向こうから声が聞こえてくる。


 「あらあら、清宏さんは甘えん坊さんですのね・・・ですが、少々おいたがすぎるようですわね?」


 声を聞いて一瞬身体を強張らせた清宏は、確認のために頭を横にずらして凍りついた。


 「何か言うことがあるのではなくて?」


 白い山の向こうから、ルミネの笑顔が覗いている。


 「ふふふ・・・この清宏、例えどんな状況に立たされようと、退かぬ!媚びぬ!省みぬ!!・・・って、あ痛っ!!?」


 不敵に笑った清宏を見て、ルミネは無言で立ち上がり、清宏は床で後頭部を強打した。


 「目が覚めたのなら、早く起き上がってください!!・・・まぁ、今回は満足のいく戦いを見せていただきましたので不問にいたしますが、次は許しませんよ?」


 ルミネは頬を染めながら清宏を見ている。

 歳上とは思えない仕草に、清宏はニヤニヤと笑った。


 「ルミネお姉たまのお胸は最高でございました・・・」


 「恥ずかしい事を言わないでください!」


 ルミネが錫杖で殴りかかって来たが、清宏は難なく回避して周囲を見渡す。


 「俺の勝ちって事で良いんだよな?」


 「えぇ・・・見ての通り、オーリックはまだ気絶していますもの。

 清宏さんの勝利は疑いようがありませんわ」


 清宏は自分の勝利を確信し、ガッツポーズをした。


 「あんた凄いわね・・・オーリックに勝っただけじゃなく、ルミネの胸を揉みしだくなんてさ」


 「こいつは大物だわ!ルミネのファンが知ったら発狂するだろうな!!」


 後ろから聞き慣れない声が聞こえ、清宏は振り返る。

 そこには、いつの間にか目覚めた弓使いとシーフが立っていた。


 「確かラフタリアとジルだったか?

 あんた達も目が覚めたんだな、俺のせいで悪かった・・・具合はどうだ?」


 「話は貴方が気絶してる間にルミネから聞かせて貰ったわ・・・まぁ異常の原因は貴方みたいだけど、助けてくれたのも貴方だから別に気にしてないわ。

 私はラフタリア、見ての通りエルフの弓使いよ!」


 ラフタリアは豊かとは言いがたい胸を張って自己紹介をした。

 彼女の髪の隙間からは、尖った耳が見えている。


 「へぇ、エルフも居るんだな・・・」


 「何よ、あまりジロジロ見ないでくれる?恥ずかしいんだけど・・・」


 清宏がラフタリアの耳をまじまじと見ていると、ラフタリアは恥ずかしそうに耳を手で隠した。


 「あんた女なら誰でも良いのかよ・・・。

 まぁ、ルミネもラフタリアも美人だから仕方ないか?

 俺はジルだ・・・こいつらとは古い付き合いで時々仕事を手伝ってる。

 あんたの罠面白かったぜ?殺す気ゼロなのに、やたら解除に手間がかかったよ!!」


 ジルはヘラヘラと笑いながら清宏に手を差し出した。


 「そう思ってくれたなら、作った甲斐があるってもんだ。

 まぁ、あんたが解除してたのは俺じゃなくて仲間が仕掛けたやつだけどな・・・」


 「マジかよ・・・と言う事は、あんたの罠はあれ以上なのか?」


 ジルは青ざめて聞き返したが、清宏は笑ってはぐらかした。


 「さてと、協力して貰うのは良いけど、実際どうするんだ?」


 「そうですわね・・・オーリックが言っていたように、報告はしないといけませんから、貴方達が不利にならないように報告をすると言うのはどうでしょう?

 そのためには、魔王様にもご協力いただきたいのですが・・・」


 尋ねられたルミネは、困った様に清宏を見て提案した。

 清宏は少しだけ考え込み、ため息をついて頷いた。


 「わかった・・・この城や俺達に敵意が無い事を証明しなきゃならないからな。

 出来るだけ協力しよう・・・だが、誤解されるような真似はしないでくれよ?

 その時は、俺やアルトリウスだけじゃなく、魔王まで敵に回す事になる・・・まぁ、あんた達が五体満足で帰れる自信があるなら話は別だけどな」


 清宏に釘を刺され、ルミネは苦笑する。


 「神に誓ってそのような事はいたしません・・・それは、他の者にも徹底させますわ。

 それにしても・・・清宏さんが私の胸を揉みしだいた事を許して差し上げたのに、疑われるなんてショックですわ」


 ルミネは瞳を潤ませながら清宏を見て、その場に座り込む。


 「おい、泣き真似やめろ・・・俺なんて、これから皆んなの居る所に戻らにゃならないんだぞ?

 向こうはこっちの状況を把握してるから、一体何を言われるか・・・」


 清宏は心底嫌そうな表情で項垂れた。

 アルトリウスがそれを見て笑い、清宏に睨まれる。


 「まぁ、今更何言っても遅いんだけどな・・・さてと、んじゃまぁアルトリウスはオーリックを担いでやってくれ。

 この部屋を向こうに繋げるから、あんた達は俺について来てくれ」


 清宏は頬を叩いて気を取り直し、アルトリウスがオーリックを担ぐのを確認し、扉を開けた。


 「ういーっす、ただいまー・・・」


 「ただいまー・・・じゃないわこの馬鹿ちんが!!」


 清宏が広間に戻ると、すぐさまリリスが清宏に拳骨を食らわせた。


 「いってーな!?いきなり何しやがんだクソガキ!!」


 「何もくそもあるか!まったく、無茶ばかりしおって・・・毎度毎度心配するこっちの身にもならぬか!!」


 リリスは、拳骨を食らって床に座り込んだ清宏に対して、腕を組みながら怒鳴っている。

 清宏の後ろにいたルミネ達は、状況が飲み込めずに立ち尽くしているようだ。


 「お主達もすまなかったの・・・仲間の容態は大丈夫そうかの?」


 「え、えぇ・・・清宏さんのポーションも使わせていただきましたし、大丈夫だと思います」


 リリスに詰め寄られルミネは少し驚いていたが、笑顔で答えた。

 それを聞き、リリスが安堵の溜息を漏らす。


 「それは良かった・・・本当に申し訳なかったの。

 あの馬鹿が迷惑をかけたじゃろ?」


 「いえ、こちらこそご迷惑をおかけしました・・・」


 「魔道具で見ておったから状況は把握しておる。

 協力をして貰えるらしいの・・・感謝するぞ!」


 リリスはルミネの手を取り、握手をする・・・リリスの勢いに飲まれ、まだ状況を理解していないルミネが、困った表情で清宏を見る。


 「清宏さん、こちらのお嬢さんは魔王様の御息女か何かですか?」


 「いや、そいつが魔王だよ・・・さっき言っただろ?まだ幼いってさ」


 殴られた頭をさすりながら清宏が答えると、自分の手を取っているのが魔王本人であると知ったルミネが、その場で腰を抜かしてしまった。




 


 


 

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