第47話振動剣VSプロレス

 ルミネの監視のもと、清宏とオーリックが向かい合っている。

 開始の合図から既に5分が経過しているが、2人は睨み合ったまま、互いの動きを伺っている。


 「つまらん展開だな・・・さっさとやりゃあ良いのに」


 「オーリック!さっさと動け!!」


 「外野が騒ぐな!お前達が俺の立場ならどうする!?」


 リンクスとカリスの野次にオーリックが怒鳴った瞬間、その隙を突いて清宏が仕掛けた。

 清宏の作り出した鉄柱がオーリックの顎を目掛けて素早く伸びたが、オーリックはなんとか寸前で回避した。


 「ちょっ・・・今の状況を狙うとか卑怯ではないですか!?」


 「油断したお前が悪いんだろ!ルミネお姉たまの折檻なんてごめんなんだよ!!」


 オーリックの回避した場所にトラバサミが現れ、右足に食い込む。

 脛当に食い込むほど強力な物であるにもかかわらず、オーリックは剣で素早く破壊した。

 足を振って確認しているが、さほどダメージは無いようだ。


 「ほぼノーダメージとかふざけんな!足の骨を砕く威力があるんだぞ!?」


 「物理耐性を上げるのは常套手段です!

 ちなみに、私はスキルと鎧のおかげで物理ダメージを90%カット出来ます・・・だと言うのに、この鎧がひしゃげるとか足が千切れますよ!?

 貴方は手加減ってものを知らないんですか!?」


 「90%カットとかふざけんな!在庫処分のバーゲンセールじゃ無いんだぞ!?

 俺が着てるのなんて、作業着兼部屋着の作務衣だぞ!防御力皆無なんだぞ!?」


 2人は互いを罵りながら次々に攻撃を繰り出す。

 清宏が罠を仕掛ければ、オーリックがそれを回避して剣を繰り出し、清宏がそれを壁を作り出して防いでいる。

 一進一退で、激しく戦っているにもかかわらず、なかなか有効打が出ない。


 「鎧だけじゃなく、その剣も卑怯じゃねーか!

 鉄柱斬って刃こぼれしないとかどんだけ頑丈なんだ!?」


 清宏は、自分の繰り出す鉄柱をことごとく斬り捨てられ、徐々に距離を詰められながら叫んだ。


 「魔剣の一種ですよ!風の魔石と術式を施すことで、刃を超高速で振動させてるんです!

 鉄だろうが竜の鱗だろうが、バターのように斬り裂けますよ!!」


 「ネタバレどうも!聞かなきゃ良かったわ!!

 ヴィブロブレードとか凶悪な剣使いやがって、殺す気満々じゃねーか!?」


 清宏は、刃先をギリギリ回避して距離を開ける。

 清宏の身体には、いくつもの傷が刻まれているが、傷口から血は流れていない。

 振動剣は、SFなどの空想の世界だけの物ではない・・・現実でも、医療分野でハーモニックスカルペルと言う超音波振動メスが用いられていたり、それ以外にも電気電子業界、繊維業界、包装業界、食品業界などでも使用されている。

 秒間数万回という速度で刃を振動させることで摩擦熱が発生し、それを利用して焼き斬る事が可能だ。

 他にも、切断抵抗を少なく出来、刃が長持ちし、油分が付着しにくいと言う利点がある。

 刃を振動させる事で発生した摩擦熱が傷口を焼いているため、清宏の身体からは血が出ていないのだ。


 「くそっ!これじゃあジリ貧だぞ!!」


 清宏はポーションとヒロ◯ンで体力を回復しながら逃げ回っている。

 オーリックは罠に掛かりはするが、その全てを回避もしくは破壊しながら迫ってくる。

 そこで、清宏はある作戦を思いつき、アイテムボックスから拳大の丸い物体を取り出した。

 それを見たアルトリウスが、オーリックに聞こえないように近くに居るルミネ達に忠告をする。


 「清宏様が何か不審な動きを見せた場合、目を瞑り耳を塞ぐ事を勧める・・・」


 アルトリウスの忠告を受け、3人は訳が解っていないような表情で頷いた。


 「さぁ清宏殿、もう後がありませんぞ・・・降参するなら今しかないのではないですか?」


 オーリックに迫られ、清宏は部屋の隅に追い詰められた。

 だが、清宏の表情はまだ諦めていなかった・・・オーリックの言葉を聞き、清宏が不敵に笑う。


 「まだ終わってねーよ・・・ここから俺のターンだ!」


 清宏が勝ち誇った表情でそう言うと、2人の間に壁が現れる。


 「往生際が悪いですぞ!!」


 オーリックは壁を斬り裂いた・・・だが、そこには清宏の姿はない。

 ただ、オーリックの目線の位置に、先程清宏が持っていた丸い物体が吊るされていた。


 「今です!」


 アルトリウスが叫んだ瞬間、室内に目を焼く程の強烈な光と、爆音が響いた。


 「なっ・・・何だこれは!目が・・・耳も聞こえない!?」


 光と音が収まり、オーリックはその場で自身の置かれた状況に取り乱している。


 「捕まえた・・・」


 「なっ!まさか清宏殿!?」


 取り乱しているオーリックの背後に清宏が現れ、後ろからオーリックの腰に手を回した。


 「死にたくなかったら首を固定しろ!!」


 清宏はオーリックに叫び、ブリッジの要領で全力で床に叩きつけた・・・ジャーマンスープレックスだ。


 「がはっ・・・!?」


 オーリックは聞こえてはいなかったが、反射的に手を後頭部に回して何とかガードした。

 だが、あまりの衝撃に耐えきれず気を失いかける。


 「もう一丁!これがローリングジャーマンだ!!・・・げっ!?」


 清宏は身体を素早く反転して、もう一度ジャーマンスープレックスを放つ・・・だが、途中で腰に回していた腕の位置がズレ、それに気づいて驚愕した。

 室内に、衝撃音が2つ響き渡る。


 「いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」


 オーリックは完全に気絶し、清宏は床を転げ回って悶えている。

 腕の位置がズレた事により、自分自身も頭を強打したのだ。

 オーリックが気絶したのを見て、ルミネが2人に近寄って確認する。


 「これは、清宏さんの勝ちですね・・・」

 

 「そんな事より、オーリックに治療をしろよ!?」


 清宏はルミネに怒鳴りながら、大量のポーションをオーリックの頭にかける。

 

 「凄い効き目ですわね・・・これは普通のポーションではなく、ハイポーションと同等かそれ以上の効果があるようです」


 「そりゃどうも・・・俺は今、いくら優秀でもあんたとだけはパーティは組みたくないと心底思ったよ」


 「それは残念ですわね・・・それより清宏さん、貴方も治療が必要ではなくて?」

 

 ルミネは、頭から血を流している清宏を見て苦笑した・・・。

 自分の血を見た清宏は、身体のダメージも相まって、そのまま倒れて気絶した。


 

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