第46話三十六計逃げるに如かず
ルミネに急かされ、清宏とオーリックは、渋々と今しがた決闘用に用意された部屋に移動する。
2人はルミネに見えない位置で、心底嫌そうな表情を浮かべてため息をついた。
(どうにかならんのか?正直、あんたと戦って勝てる自信無いんだが・・・)
(それはこちらのセリフです・・・何が悲しくて魔王級の貴方と戦わなければならないんですか!?)
2人はルミネに聞こえないように、小さな声で話し合っている。
すると、2人は背後から凄まじい殺気を感じ、振り返って青ざめた。
そこには、笑顔のルミネが無言で立っていた。
「あのさ・・・話し合いで解決しない?」
「清宏さん、それで解決しなかったからこそ決闘をするんですよ?」
「全くもってその通りですね・・・」
清宏はルミネの威圧感に負け、涙目で謝った・・・オーリックも泣きそうになっている。
「さて、まずはルールを決めましょうか・・・清宏さんは武器を使われますか?」
「使わないよ・・・いや、使えないって言った方が良いかな?
生まれてから今まで争い事とは無縁だったから、剣も槍も使った事が無い・・・。
最近になって知り合いに習い始めたけど、付け焼き刃で武器を扱っても怪我をするだけだしね・・・」
清宏の返答を聞き、ルミネが唸りオーリックを見る。
すると、オーリックは慌てて首を振った。
「流石に私も魔王級の清宏殿と素手で戦うのは嫌だぞ!?」
「それでは公平な決闘にならないではないですか・・・」
ルミネが呆れた表情でオーリックを見ていると、アルトリウスがルミネに声を掛けた。
「清宏様はリリス様に召喚されております
から、リリス様が死なぬ限り清宏様が死ぬ事はありませんぞ?」
「まぁ!ならば、清宏さんは素手でも問題無さそうですわね!?」
「大問題だよ!馬鹿かあんた!?アルトリウスも余計なこと言うんじゃないよ!!」
清宏はアルトリウスの胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「清宏様、これは良い経験ですぞ?
私やローエン殿達では遠慮があり、なかなか実戦を想定した稽古は出来ません・・・彼等のような手練れとの手合わせは、我々と稽古をするよりも有意義であると思います」
「正論を言われたら断れないだろ!?
お前も知っての通り、俺は切った張ったは不得意なんだよ!!」
アルトリウスに諭され、清宏が涙目になっていると、ルミネが清宏の肩を掴んだ。
逃がさないと言わんばかりに、清宏の肩にルミネの指が食い込む・・・。
「清宏さん・・・往生際が悪いですよ?
オーリックに勝てば、貴方の提案に乗ると言っているんです・・・断る理由は無いのではないですか?」
「でも、流石に素手で武器を持つ相手と戦うのは・・・」
「そこは心配ありません。
清宏さんは、好きなようにスキルや魔道具を駆使していただいて構いません。
私は一切口出ししませんので、オーリックが全てを見切るのは不可能かと思います」
「待て!それでは私の方が部が悪いではないか!?トラップマスター相手にハンデをつけ過ぎだ!!
やはり、ここは話し合いで解決すべきだ!!」
「お黙りなさい!元はと言えば、貴方が私の意見を跳ね除けたのが原因ではないですか!?
今更話し合いを持ちかけても遅いでしょう!!」
ルミネは、駄々をこねているオーリックに、有無を言わせず黙らせた。
「私は、さっきまでの自分を斬り殺してやりたい・・・」
「諦めようオーリック・・・あの女には言葉が通じていない。
恨みっこなしで頑張ろう・・・」
「わかりました・・・私に何が負けた場合、骨は故郷に送ってください」
清宏とオーリックは固く握手を交わして距離を取る。
「オーリック・・・先に言っておくが、俺は落とし穴と吊り天井は使わない。
使うのは隠蔽用の壁と、鉄柱なんかの細々とした罠だけにする。
俺の罠以外の攻撃が当たるとは思えないが、もし当たった時には勘弁してくれ・・・」
「何かあるのですか・・・?」
清宏の言葉を聞き、オーリックが恐る恐る聞き返す。
すると、清宏がアルトリウスを見て苦笑した。
「俺の拳一発で、アルトリウスが気絶した・・・」
「ちょっ!?」
オーリックは青ざめてルミネを見るが、ルミネは笑顔を崩さない。
「オーリック・・・長い付き合いだったが、ここまでみたいだな。
今まで色々あったけど、私は楽しかったよ・・・」
「またお前と酒を飲みたかったが、これでお別れか、人生何があるかわからんもんだな・・・」
リンクスとカリスは、オーリックに合掌をしながら別れの言葉を送った。
「では2人共準備は良いですね・・・はじめ!!」
ルミネの合図を皮切りに、2人は素早く動く・・・だが、2人はそれぞれ逆方向に走り出していた。
「やってられっかバーカ!死なないって言っても、痛いのに変わりないんだよ!!」
「一撃でも喰らうと死ぬ攻撃なんて受けてられるか!!」
奇しくも、2人共逃走と言う道を選んだ・・・だが、そんな事をルミネが許すはずがない。
ルミネは素早く錫杖を構えると、前方にいる2人に対し、無詠唱で広範囲の雷魔法を放った。
「うぎゃぴいーーーっ!?」
「あばばばばばば!!」
清宏とオーリックは雷の直撃を受け、その場で昏倒する。
ルミネは動かなくなった2人にヒールの魔法をかけ、頭を錫杖で思い切り殴った。
頭を殴られた衝撃で2人が目を覚ますと、ルミネは腕を組んで見下した。
「貴方達、私の前で無様な真似をするとは良い度胸ですね・・・」
ルミネに気圧され、清宏とオーリックは抱き合って震えている。
「次に同じような事をした場合、私が本気で相手になりましょう・・・楽に勝てると思わないでくださいね・・・」
ルミネが虫を見る目で見下し、2人は高速で頷いた。
「ルミネさん、俺はスキルの性質上、距離が必要なんだ・・・その為に逃げるのは許可して下さい!!」
「清宏殿、それは狡いですぞ!?」
オーリックが清宏に掴み掛かる。
「オーリックはお黙りなさい!!
清宏さんは許可しましょう・・・ですが、疑わしい行動をした場合には制裁いたします・・・よろしいですね?
では、2人共準備が整い次第再戦を・・・」
2人は涙を流しながら頷き、ルミネの制裁に怯えながら位置についた・・・。
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