第45話無茶振り

 清宏が頭を抱えて唸っていると、オーリックの背後から物音が聞こえ、皆が一斉にそちらを見た。

 そこには、ベッドの上に座り直したルミネが、朗らかな笑顔を清宏に向けていた。


 「オーリック、別に良いのではなくて?

 私は、清宏さんの申し出を受け入れても良いと思うのですけど・・・」


 ルミネは小さくあくびをし、腕を上げて背筋を伸ばしながらオーリックに提案した。


 「いや、それでは信義にもとるだろう・・・」


 ルミネは譲らないオーリックを見て頬を膨らませてベッドから立ち上がると、何故か清宏の隣の椅子に座った。

 清宏側に付くと言う彼女なりの意思表示なのだろうか?

 頬を膨らませて拗ねている姿は、見た目の年齢に反して可愛らしい。


 「もう・・・本当に貴方は真面目だけど融通が利かないのが悪いところよね!

 決めるのは、もっとしっかり確認してからでも良いと思わない?」


 「確認するも何も、我々は国王陛下直々の依頼を受けてここに来ているんだ・・・いくら君の頼みでも、聞くわけにはいかない」


 「だから、貴方のそう言ったところが・・・!」


 オーリックとルミネは徐々にヒートアップしていく・・・もはや、清宏とアルトリウス、リンクス達の事など目に入ってはいない。


 「なぁ、お前等茶でも飲むか?」


 清宏はオーリックとルミネの仲裁を諦め、アイテムボックスから茶器と茶菓子を取り出してリンクスとカリスに尋ねた。

 

 「毒が入っていないなら・・・」


 「そんなもん入れんわ・・・そんな回りくどい事するくらいなら、直接罠に掛けてるわ」


 清宏はお茶の用意をしながらしきりにリンクスとカリスに話しかけている。

 少しでもわだかまりを解消しようとしているようだ。

 2人も、清宏を極力刺激しないようにしている・・・オーリックが、清宏は魔王級の可能性があると言っていたのが原因だろう。


 「ほいどうぞ、あとこれは茶菓子な」


 「あ、あぁ・・・ありがとう」


 「珍しい色と香りをしてるな・・・」


 リンクスとカリスは清宏からお茶を受け取ると、それをまじまじと観察をし始めた。

 こちらの世界では緑茶は珍しいのだろう。

 アルトリウスはそんな2人を尻目に、実に美味しそうに緑茶を飲んでいる。


 「うむ、やはりこの香りと独特の渋み、そしてその中に感じるほのかな甘みが癖になりますな!

 甘い茶菓子との組み合わせは、これ以上ないと思えるほどに素晴らしい!」


 リンクスとカリスは、幸せそうなアルトリウスの姿を見て生唾を飲み込むと、意を決して緑茶を口に含んだ。


 「これは結構渋いな・・・」


 「あぁ、だが香りは良い」


 「茶菓子も食えよ?緑茶に合う物をわざわざ作ったんだからな」


 清宏に勧められ、2人は花を模った丸い茶菓子を口に放り込んだ。


 「こっちはこっちで凄まじく甘い。

 それに、口の中の水分を持って行かれてしまうな・・・」


 2人は口の中の違和感に戸惑いながらもう一度緑茶を口に含むと、ある事に気付いて清宏を見た・・・清宏は勝ち誇った表情をしている。


 「どうだ、緑茶と餡子の組み合わせは?

 こっちの紅茶や菓子の組み合わせとは違って後を引かないだろ?

 緑茶は紅茶より渋いし、茶菓子だけだと甘すぎる・・・でも、両方同時に飲食する事で、互いを引き立て合って美味く感じるんだ」


 「同じ物をもう一杯貰えるだろうか?」


 「俺にも頼む・・・」


 「緑茶同盟にようこそ」


 清宏が2人にもう一度緑茶と茶菓子を用意してやると、アルトリウスがニヤリと笑って呟いた。

 オーリックとルミネは相変わらず押し問答を繰り返している・・・清宏はそれを見てため息をつくと、自分の分のお茶を用意し、アルトリウスとリンクス達に混ざって、緑茶と茶菓子について熱く語り始めた。

 すると、ルミネがお茶を口に含んだ清宏の肩を掴んで揺さぶった。


 「ですよね、清宏さん!?」


 ルミネにいきなり同意を求められた清宏は、急な事に驚き、口に含んだ熱い緑茶を一気に飲み込んでしまい悶えている。


 「の、喉が・・・焼ける・・・」


 「何を暢気にお茶を飲んでいるのですか!

 私達は今、貴方達の今後について真面目な話をしているのですよ!?」


 「ち、ちょっと待って・・・ポーション飲ませて・・・」


 清宏はポーションを取り出して飲もうとしているが、ルミネに揺さぶられ、瓶の中身を盛大にぶち撒けている。


 「ルミネやめないか!清宏殿に迷惑だろう!!」


 オーリックが慌ててルミネを止め、清宏はなんとか解放されたが、揺さぶられた影響で吐きそうになっている。


 「あー、死ぬかと思った・・・気管火傷したわ・・・。

 で、何かありました?話はまとまりましたか?」


 「その件で清宏さんの意見もお聞きしたいのです!!

 その前に・・・私にもお茶をいただけますでしょうか?」

 

 「マイペースだなあんた・・・」


 清宏は呆れつつも、オーリックとルミネにも緑茶と茶菓子を準備し、2人に振る舞った。


 「良い香りですね・・・紅茶の膨よかな香りとは違い、青い茶葉特有のさっぱりとした清涼感のある香りです・・・」


 「こっちじゃ紅茶ばかりだから新鮮に感じるだろ? 

 完全発酵の紅茶と違って、緑茶は不発酵茶だから茶葉特有の青臭さと渋みはあるけど、それが甘い茶菓子を引き立ててくれる・・・そして、茶菓子の甘さを中和してくれるから、さらにお茶を飲みたくなる。

 ハマっちまうと、気付いた時には体重になって還元されてるけどな・・・」


 清宏の言葉を聞き、茶菓子に伸びていたルミネとリンクスの手が止まる。

 やはり女性である2人にとって、体重は気になるのだろう。


 「ちゃんと身体動かせば大丈夫だよ・・・まだあるから食べな。

 で、ルミネさんに聞きたいんだが、話の流れからすると、あんたは俺達の味方と考えて良いのか?」


 清宏に尋ねられ、茶菓子を口に運ぼうとしていたルミネが手を止め、微笑んだ。


 「味方とは少々違いますね・・・ただ、協力をしても良いとは思っています」


 「あんたは神に仕える身なんだろ?しかも、結構高い地位にいるようだ・・・それなのに、魔族に協力しても良いのか?」


 「良いのではないでしょうか?

 別に、教典で明確に魔族との交流を禁じられている訳ではないですし、それは個人の自由だと思っていますから」


 「案外適当なんだな・・・」


 清宏が呆れてため息をつくと、ルミネは心外そうに頬を膨らませた。


 「確かに新しく作り直された教典などでは、魔族との交流を禁じている物もあります・・・ですが、私は新しい教典になど興味はありません!

 それは既に、私が信じている神の教えではありませんから・・・神の教えとは、人が自由に改変して良い物ではありません。

 時代にそぐわない物であるならば仕方のない事であるとは思います・・・ですが、他者を貶める内容に改変するなど以ての外です!

 私が信じる物は、神自身の教えがありのままに記された原典以外にありえません!」


 ルミネは自身のこだわりについて熱く語り、若干冷めかけたお茶を飲み干し、おかわりの催促をする。

 清宏は茶碗を受け取ると、笑いながら新しいお茶を注ぎ、ルミネに渡した。


 「清宏さんに私から提案があります」


 ルミネは新しいお茶をを一口飲み、清宏を見る。


 「無理難題は勘弁してくれよ・・・」


 「清宏さん、オーリックと決闘してくださいませんか?」


 清宏とオーリックは、ルミネの提案を聞いてお茶を吹き出し、咽せてしまった。

 しばらくの間2人は咳き込み、落ち着くとルミネを睨んで怒鳴った。


 「何言ってんだあんた!?」


 「そうだぞルミネ!?」


 ルミネは涼しい表情でお茶を啜っている。


 「清宏さんは私達に見逃して欲しいんですよね?オーリックは報告の義務がなんだのと言って話を聞きもしません・・・ならば、どちらか勝った方の意見を尊重してはどうでしょうか?」


 ルミネは朗らかな笑顔で清宏とオーリックを見ている・・・だが、笑っている割に、身体から発している空気の重さが、彼女の本気具合を感じさせる。


 「なぁ、あの人ヤバくね?何言ってんのか全く理解出来ないんだけど・・・実は脳みそ筋肉で出来てるとか無いよね?」


 「私にもさっぱり解りません・・・ですが、ルミネは一度言ったら聞かぬ性格です。

 あれは、怒らせるとかなり厄介なのですよ・・・」


 「やるの?やらないの?」


 真顔になったルミネに見据えられ、清宏とオーリックは諦め、嫌々ながらに席を立った。


 


 

 


 


 


 

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