第44話大誤算

 清宏に連れられ、S級パーティ達は城内の一室に案内される。

 清宏とアルトリウスに対して彼等はまだ疑いの目を向けてはいるが、仲間を安全な場所に運び、治療を施して貰った事に関しては丁重に礼を言った。

 それに対し、清宏は苦笑して席を勧めた。


 「彼等はしばらく安静にしておいた方が良いだろう・・・。

 俺の自家製だが、良く効くポーションを飲ませたから心配は無いと思うが、まだ経過を観察しないと何とも言えない。

 あんた達も、その間はゆっくり休むと良い」


 「清宏様のポーションは本当に良く効きますからな!」


 経験者は語る。


 「清宏殿で宜しいか?貴方にいくつか伺いたい・・・」


 パーティのリーダーであろう長剣を持った男が清宏に尋ねる。

 清宏はそれに頷き、男を見た。


 「俺に答えられる範囲で良ければ」


 清宏の返答に男は頭を下げ、清宏の目を見た。


 「改めまして、仲間達へ治療をして下さり感謝いたします・・・。

 皆先程より顔色も良く、しばらく休めば問題無いと思っております。

 私の名はオーリック、私の右に座っているのは武闘家のリンクス、左は重戦士のカリス、向こうで寝ている神官はルミネ、弓使いはラフタリア・・・私を含め、皆ギルド内でのランクはS級です。

 シーフのジルは今回雇った者ですが、彼はA級になります。

 では、こちらの自己紹介は済みましたので、これからいくつか質問をさせていただきたい。

 まず一つ目ですが、この城は以前凶悪な魔王の根城だった・・・そんな場所に、何故人間の貴方が、ギルドのS級討伐対象になっている吸血鬼アルトリウスを従えて住んでいるのですか?」


 オーリックは疑いの目を向けているが、清宏に対して丁重な言葉遣いで質問をした。


 「俺がこの城に住んでいるのは単なる偶然だ・・・アルトリウスとは、こいつがこの城に来た時に戦い、俺が勝ったからこいつが従っているだけだ」


 「そんな馬鹿な話が信じられるか!探求者アルトリウスと言えば、国を滅ぼす程の力を持っている吸血鬼だぞ!?

 そんなものに、貴様の様な凡夫が勝てるはずが無い!!」


 清宏が質問に答えると、リンクスが怒りを露わにして怒鳴った。

 カリスもリンクスに賛同し、清宏を睨んでいる。

 すると、アルトリウスが椅子から立ち上がった。


 「リンクス!カリス!やめないか!?」


 「アルトリウス!」


 アルトリウスが立ち上がるのを見て、清宏が名を呼んで止めた。

 オーリックも慌てて仲間達を止めた。

 アルトリウスとリンクス達は椅子に座りなおしたが、互いに射殺さんばかりの殺気を放っている。


 「あの武闘家のねーちゃんが言ってるのはあながち間違いじゃないだろ?

 あんなんノーカンだノーカン!俺はあれ以降一度もお前に勝ててないんだから、あれはまぐれだよ・・・だからお前が気にする必要はないだろ?

 それと、あんたらも言葉には気を付けろよ?俺は自分の事は何と言われようが気にはしないが、もしアルトリウスや他の仲間を貶めるような事を言ったなら、その時は問答無用で叩き出す・・・少なくとも、この城の中でなら俺はあんた等全員を相手にしても負けない自信がある」


 清宏はアルトリウスを落ち着かせ、リンクス達に釘を刺す。

 清宏の真剣な目を見て、オーリックはため息をついた。


 「清宏殿・・・仲間達の無礼、平にご容赦を。

 2人共血の気が多いのが欠点で・・・」


 「いや、構わないよ・・・こっちもアルトリウスが失礼した。

 こいつも何だかんだ血の気が多いのが困りものなんだよ」


 清宏はオーリックの謝罪を受け入れ、笑いながらアルトリウスの肩を叩いた。

 アルトリウスは申し訳なさそうに清宏に頭を下げている。


 「アルトリウス殿は、話に聞いていたのとはだいぶ違うようだ・・・」


 オーリックが尋ねると、アルトリウスは小さく笑って頷いた。


 「善し悪しはあれど、きっかけさえあれば誰であろうと変わるものだ・・・それは人族でも魔族でも同じ事。

 私は、清宏様に敗れた事で気付き、変わった・・・負ける事でも得る物が有ると気付かせて下さった清宏様には、感謝してもしきれん」


 オーリックはアルトリウスの答えを聞き、清宏を見る。

 その目は先程までとは違い、疑いの色は薄れているようだ。


 「恥ずかしい事言うなよ・・・」


 「ご謙遜を・・・貴方は窮地にいた我々に治療を施し、こうやって質問にも答えてくださっている。

 それに、我々の態度を咎める事もない。

 今しばらく私の質問に付き合っていただけたら助かります」


 オーリックが笑ったのを見て、清宏は頷く。

 

 「では次の質問ですが、我々に起こった異変・・・あれは貴方の策でしょうか?」


 「そうだ・・・俺があの階を完全に閉鎖し、酸素の供給を断った。

 あんた等に起きた症状は、酸素が足りなくなった事が原因だ。

 俺としては、あんた等が早々に切り上げてくれたら嬉しかったんだが、そんな雰囲気じゃなかったんでね・・・。

 ルミネさんだったか?あの人が、俺の罠を悉く回避しちまうもんだから、苦肉の策を取らせて貰った・・・まさか、あそこまで症状が早く出るとは思ってなかったから焦ったけどな。

 だから治療に関しては、俺に礼を言うのは筋違いだ・・・原因を作ったのは俺だからな」


 清宏の返答に、リンクスとカリスが殴りかかろうとしたが、その寸前でオーリックに服を掴まれ2人共床に倒れた。

 オーリックの膂力は見た目以上に強いようだ。


 「何度も言わせるな・・・俺は今、清宏殿と話をしているんだ」


 オーリックがリンクス達に怒気を孕んだ口調で注意をすると、2人は舌打ちをして大人しく椅子に座りなおした。


 「本当に申し訳ない・・・。

 今の貴方の言葉に、いくつか気になった事がある・・・貴方は今、我々のいる階を完全に閉鎖したと言われたが、貴方はダンジョンマスターのスキルを持っているのか?」


 オーリックの質問を聞き、清宏は一瞬だけ眉をひそめた・・・。

 オーリックはそれを見逃さず、さらに畳み掛ける。

 それを見ていたアルトリウスは、清宏に対して苦笑した。


 「貴方の仕掛けた罠も、何もない場所に突然現れた・・・ルミネの予知のおかげで我々は何とかそれを回避出来たが、本来ならトラップメーカーではその様な事は出来ない。

 清宏殿、貴方に率直にお尋ねする・・・貴方の本当の名は清宏ではなく、ダンケルクと言うのではないか?」


 オーリックの言葉を聞き、リンクスが慌てて彼を見る。

 

 「嘘だろ・・・ダンケルクはここには居ないはずだ!

 あいつは自分の城から出る事はないって話だろ!?」


 「それはどうだろうな、ここ1000年以上奴の姿を見た者は居ない・・・。

 奴の罠を恐れ、誰も奴の城に挑む者はいないからな・・・それを良い事に、外に出ていても不思議じゃないだろう?

 それに、もし彼がダンケルクならば、ダンジョンマスターを持ち、アルトリウスを倒した事も納得出来る・・・」


 オーリックの推測を聞き、リンクスが口籠った。

 カリスは無言のまま清宏を見ている。


 「はぁ・・・ボロが出ちまうなんて俺もまだまだだな」


 「やはり、貴方がダンケルクなのですか?」


 オーリックは、清宏の呟きを聞いて慎重に尋ねた。

 目の前にいる者が数々の恐ろしい逸話を持つダンケルクであるならば、彼等にとっては死の危険があるからだ。


 「いや、俺はダンケルクじゃないよ・・・そいつには、会った事も無い。

 ダンケルクも俺の存在は知らないだろう」


 「ならば、貴方はこの城の新たな魔王なのですか?」


 清宏の返答を聞き3人は安堵の表情を浮かべ、再度オーリックが尋ねる。


 「いや、俺は魔王じゃない・・・俺は、この城の管理を任されているだけだ」


 清宏は隠すのを諦め、正直に答えた。


 「この城には、ダンケルクと同等であろう貴方を配下に出来る程の魔王が居ると言うことですか?」


 「確かにこの城には魔王がいる・・・だが、そいつはまだ幼く力も弱い上に、争いを好まない変わり者だ。

 俺はそいつからダンジョンマスターを貰い、ダンケルクと同じスキルであるトラップマスターで侵入者を排除するのが仕事だ。

 ただし、絶対に侵入者を殺すなって言われてるがね・・・だから、あんた等も俺の治療を受けてまだ生きてるだろ?」


 正直に答えた清宏を見て、オーリックは唸った。


 「俺は洗いざらい吐いたんだ、あんたも俺の質問に答えてくれ・・・。

 あんた等は途中から身体の異常に気付いていたはずだが、それでも城の探索を切り上げようとはしなかった・・・何が目的だ?」


 唸っているオーリックに対し、今度は清宏が質問をした。

 オーリックは迷ったが、一度だけ首を振って清宏を見た。


 「良いでしょう・・・こちらばかり聞いていたのではフェアじゃないですから。

 我々は、国の依頼でこの城の探索に訪れました・・・1カ月ほど前から、廃れていたはずのこの城で、再び宝が手に入るようになったとの噂が流れ始めたのです・・・。

 貴方は先程、侵入者を殺さずに排除していると言っていましたね?それも相まって、この城に挑もうとする冒険者が増え、後を絶たない状況です。

 この城で手に入る宝は質の良い物が多いようですし、死なないとわかっているなら誰だって挑戦したくなります・・・それを見兼ねた国王が魔王の復活を疑い、我々を雇い調査を依頼したのですよ。

 今はまだ犠牲者が出ていなくとも、これから出てくる可能性もあります・・・手遅れになる前に、対処しなければならないですから」


 清宏は、オーリックの言葉を聞いて頭を抱えた。


 「ここ、そんなに目立ってた?」


 「正直、我々も依頼でなければ来てみたいと仲間内で話題になる程には魅力的な場所です・・・稼ぐにはもってこいですから。

 恐らくこの城に訪れる者は、これからまだまだ増えるでしょう・・・そうなれば、いずれは軍が動く可能性も十分にあり得ます」


 清宏は天井を見上げてぶつぶつと独り言を呟いている・・・。

 清宏にとっては大誤算だったようだ。


 「やばいな・・・予定よりかなり早いぞ?

 もうちょい時間があると思ってたんだけどな・・・アルトリウス、どうしよう?」


 「私に聞かれましても・・・どう致しましょうか?」


 アルトリウスは、清宏に尋ねられて困っている。

 それを見ていたオーリックは、清宏にもう一度質問をした。


 「貴方の・・・いえ、この城の魔王の目的とは、一体どういったものなのでしょうか?

 何故清宏殿に不殺を命じてらっしゃるのですか?」

 

 「別に大した目的はないさ・・・ただ、殺し合いをせず、生きていたいだけだよ。

 だが、この城を守り、生きていく為には魔石が要る・・・その為にはより多くの者を呼び込まなきゃならない。

 正直、俺が目先の欲に目が眩んで調子に乗り過ぎた・・・。

 なぁ、これは提案なんだが、俺達は他人の害になるつもりはない・・・だから、今回は見逃してくれないか?」


 清宏の苦し紛れの提案を聞き、オーリックは首を振った。


 「それは出来ません・・・依頼を受けたからには、我々には報告をする義務があります。

 それに国王陛下直々の依頼とあっては、万が一にも期待を裏切る訳にまいりませんので・・・」


 「ですよねー・・・」


 清宏は落胆し、机に突っ伏した。

 室内に微妙な空気が流れ、リンクスとカリスは所在無げにあくびをした。

 

 


 

 

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