第37話召喚ガチャ

 夕飯を食べ終え、皆は自由な時間を満喫している。

 夜はダンジョンマスターで広間を更に広げているため、皆が何かしらやっていてもかなり余裕がある。

 広間の奥ではローエンとグレンがアルトリウスから訓練を受け、玉座に近い場所ではアンネ、シス、ウィルが今後製作する魔道具についてお茶を飲みながら話をしている。

 リリとレイスは、まだ気絶しているレティを介抱しているが、リリはただ面白がっているだけのようだ。

 ビッチーズ達はローエン達の反対側で、今日相手をした男達とのプレイについて自慢話をしている。

 清宏はと言うと、リリスと共に魔石の保管室で魔召石の準備をしている。


 「なぁ清宏よ・・・本当にスライム狙いなのか?」


 「確認するの何回めだよ・・・必要だから言ってんだ」


 「じゃがなぁ・・・妾はどうもあのヌメヌメ感が好きになれんのじゃ」


 「個人の好き嫌いを気にしてる場合かよ・・・俺は、必要ならば親の仇だって利用するぞ。

 お前も自分の信念を貫きたいのなら、自分の些細な感情は捨てろ・・・そうじゃなきゃ、付いてきてくれる皆んなに示しがつかないだろ?

 お前がやりやすいように、憎まれ役は俺が買ってやる・・・その代わり、お前は俺に協力してくれりゃあ良い」


 真面目な表情をしている清宏を見て、リリスは諦めて深くため息をついた。


 「憎まれ役ね・・・その割に、皆からの信頼は厚いではないか?

 まぁ、侵入者達からすれば確かにお主は憎い存在かもしれんがの」


 リリスは魔召石を造りながら清宏を見る。


 「幸い、今のところ皆んなには好かれているらしい・・・俺もあいつらの事は信頼しているし、好感も持っている。

 だが、仕事に関してだけは俺は絶対に妥協はしない・・・あいつらが使えないと判断したら、2度と仕事は任せない。

 お前同様、俺にもやりたい事はある・・・それの邪魔になるならば、俺は私情を挟む気は無い」


 清宏は厳しい表情をしているが、リリスはそれを見て笑っている。

 清宏は、リリスの反応に首を傾げた。


 「お主は厳しいの・・・自他共にの。

 じゃが、使えないと判断しても追い出すと言わんところがお主の優しさじゃ・・・。

 妾はお主のその優しさが好きじゃよ」


 「馬鹿言うな・・・俺は鬼だ悪魔だと言われようと、人の心まで捨てる気は無い。

 お前に協力してるのも、人を殺さなくて良いからだ・・・殺しちまったら、人の心も捨てる事になるからな」


 「くくく・・・まぁ、そう言う事にしておこうかの?

 どれ、これだけあれば足りるじゃろ・・・広間に戻るぞ清宏」


 からかうように笑うリリスを見て清宏は舌打ちをしたが、召喚のために広間に戻った。


 「アンネや、ちと眩しくなるから気をつけてくれ」

 

 リリスは玉座の近くでお茶をしていたアンネに注意をし、床に魔召石を置いた。


 「あ・・・結局スライムを狙うんですね」


 アンネはリリスの邪魔にならないように場所を開け、困ったように呟いた。


 「まぁ、狙ったのが出るとは限らないだろ?出なきゃ俺も諦めるよ・・・」


 「清宏はこう言っておるが、諦める気は更々ないぞ・・・」


 「私もそう思います・・・」


 「ですよねー」


 「うわー、俺信用無ぇー・・・」


 清宏はリリス達に散々に言われ、項垂れている。


 「まぁ良えわい・・・とりあえず召喚するぞ?」


 「初めて見るので楽しみですね」


 ウィルは清宏の隣で目を輝かせている。

 シスはアンネに話しかけているようだが、期待した表情をしている。

 広間が光に包まれ、魔召石のあった場所に小さな影が現れる。

 光に気付いたアルトリウスやビッチーズ達も、何事かと見に来る。

 光が消え、そこに現れた魔物を見て皆息を飲んだ。


 「にゃーん」


 召喚された魔物は聞き慣れた鳴き声を上げ、後ろ足で首を掻いている。

 清宏が恐る恐る近づき手を伸ばすと、その魔物はお腹を見せて寝転がった。


 「猫だこれ!!」


 清宏がその魔物を見て叫ぶと、魔物は清宏の足に擦り寄った。

 その魔物は、白い毛並みと青い目を持つ綺麗な猫だった。


 「なんだこいつ・・・めちゃくちゃ人懐っこいな?

 ん?なんだこれ・・・」


 清宏は猫を抱き上げると、ある事に気付いた。

 その猫には、尻尾が2本生えていたのだ。


 「そやつ、猫又じゃな・・・これは驚いた、妾も初めて見たぞ」


 リリスが驚いていると、猫又は清宏の腕から飛び降りてリリスに駆け寄る。


 「おぉ、何じゃお主・・・可愛い奴じゃな!?これ、やめぬか!くすぐったいではないか!」


 リリスが抱き上げると、猫又はリリスの顔を舐め始めた。

 リリスは嬉しそうに笑っている。


 「幼女と猫のコラボ・・・尊い」


 シスはその光景を見て、鼻血を流して気絶してしまった。

 隣にいたアンネが慌てて介抱している。


 「なぁグレン・・・お前の義妹ってさ」


 「頼む、それ以上は言わないでくれ・・・」


 グレンは清宏の言葉を遮り、目を逸らした。


 「猫又ってこっちにもいるんだな?」


 「あぁ、かなり珍しいがの・・・本来、猫又は東端にある小国固有の種族なんじゃが、個体数が恐ろしく少ないんじゃ・・・」


 「長生きした猫がなっちまうんだろ?」


 「なんじゃ、知っておるのか?」


 「見た事はないけど、向こうの世界でも伝承はあったからな・・・。

 それにしても、こいつはよく長生き出来たな」


 清宏が猫又をまじまじと見ながら呟く。

 すると、リリスが首を傾げた。


 「何でじゃ?」


 「それはな・・・」


 清宏が説明しようとすると、ローエンが近づいて来て猫又の頭を撫でた。

 猫又は気持ち良さそうに喉を鳴らしている。


 「猫ってのは、目の色素が薄い個体はあまり長生きしないんだよ・・・。

 そいつは目が青いだろ?通常は成長するにつれて免疫力が高まって色が変わるんだが、目が青いままの猫は免疫力が低くて病気になりやすいからな・・・本当、こいつはよく長生き出来たもんだ」


 清宏はローエンに説明役を奪われ、驚きのあまり言葉が出てこない。

 グレンがそれを見て清宏の肩に手を置いた。


 「わかるぜ、ダンナの気持ち・・・ローエンはな、ああ見えて無類の猫好きなんだよ。

 あいつ、街中で猫を見かけると一刻はその場から動かなくなるからな・・・」


 猫又はリリスの腕から降りると、レイス、アルトリウス、リリと順番に擦り寄った。

 どうやら、召喚された者の事は理解出来るようだ。

 そのあとはローエン達やアンネにも愛想を振りまき、ひとしきり撫でられて満足したのか、リリスの足元で寝てしまった。


 「自由な奴だな・・・」


 「猫ってのはそう言う生き物だ」


 ローエンは清宏の呟きに笑って答えた。

 ローエンの顔は非常に緩んでいる・・・。


 「まぁ、次に行こう・・・」


 「そうじゃな」


 リリスは魔召石を床に置き、再度召喚を行う。

 光が収まりそこに現れたのは、葉っぱで出来た服に身を包んだリリスよりも幼い少女だった。

 少女は自分が囲まれているのに気付いて怯えているようだ。


 「シスが気絶してて良かったな・・・まぁ、こいつを見たらまた気絶するかもしれないが・・・で、こいつは何なんだ?」

 

 「そやつはアルラウネじゃな・・・珍しい個体ではないが、幼い個体は気性が温厚で薬の素材にされる事もあるが、こやつらは植物の扱いに長けておるから意外と優秀な種族じゃ。

 まぁ、能力自体はドライアドに比べればだいぶ劣るがの・・・」


 リリスは怯えているアルラウネの頭を撫でる。

 すると、アルラウネは安心したのかリリスに抱きついた。

 

 「アルラウネは喋れないのか?」


 「幼い個体は基本的に喋らん・・・じゃが、身の危険を察すると悲鳴をあげる。

 その悲鳴を聞いた者は絶命する事もあるから、あまり怖がらすでないぞ?」


 アルラウネはリリスの後ろに隠れ、怯えた目で清宏を見ている。

 清宏はため息をつき、しゃがんでアルラウネと目線を合わせた。


 「そんなに怖がるな・・・ここにいる奴らはお前の味方だ。

 誰もお前を傷付けたりはしないから安心しろ・・・若干ウザいのはいるかもしれないがな。

 何はともあれ、これからはよろしく頼む」


 清宏が手を差し出すと、アルラウネはリリスの後ろから出てきて握手をする。

 清宏が優しく笑って頭を撫でてやると、アルラウネは清宏にも抱きついた。


 「この天然たらしめ・・・」


 「失敬な・・・俺に幼女趣味は無えよ。

 さぁ、次だ次!さっさとスライム召喚しろよ!」


 清宏は、抱きついて離れないアルラウネをそのまま抱き上げると、リリスをつま先で小突いた。


 「足でやるな足で!まったく、妾はお主のために召喚しとるんじゃぞ・・・」


 愚痴を言いつつも、リリスは3回目の召喚を行う。


 「おぉ・・・それっぽいのキター!」


 清宏は召喚された溶けたゼリーのような魔物を見て歓喜した。

 清宏に抱きついているアルラウネは、眩しかったのかパチパチと瞬きをしている。


 「3回目で来てくれたか・・・ほれ、ご所望のスライムじゃぞ?

 意思の疎通が出来るかお主が確認せい」


 リリスはスライムを見てため息をつくと、清宏に場所を譲った。

 清宏はアルラウネを下ろし、リリスに預ける。


 「俺の言葉は解るか?」


 清宏が話しかけたが、スライムはただプルプルと震えているだけだ。

 ただ震えているだけだが、リリスとアンネは嫌悪感丸出しの顔をしている。


 「まぁ、喋れないのは仕方ないか・・・。

 俺達はお前の敵じゃない・・・今からお前を触るが、俺を食い物じゃないと理解してくれているなら、大人しくしていて欲しい」


 清宏はスライムに話しかけると、躊躇なく触れた。

 リリスとアンネが目を背け、アルトリウスやリリ、ローエン達は顔をしかめた。

 だが、スライムは清宏に襲い掛かる気配は無く、大人しく撫でられている。


 「なんか、この触り心地は癖になるな・・・しっとり柔らかで肌に吸い付く」


 「清宏よ・・・どうもないのか?」


 リリスが恐る恐る近づき、清宏の肩越しにスライムを見る。


 「大丈夫みたいだな・・・とりあえず何か指示を出してみよう。

 じゃあ、俺が指差した方向に飛んでみてくれ」


 清宏が右を指差すと、スライムは右に飛んだ。

 念の為あらゆる方法を指差したが、スライムは問題なく指示に従っている。

 それを見ていた清宏は、ニヤリと笑う。


 「リリス、こいつの面倒はしばらく俺が見る・・・。

 スライムよ・・・いや、今からお前の名前はツクダだ!!

 今日からお前は俺の用意した餌を食い、俺の指示に従って貰う・・・忠実に守ってくれるなら、腹一杯餌を食わせてやるからな!」


 清宏の言葉を聞いたスライムは、先程よりも激しく震えた。



 

 

 

 

 


 



 


 

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