第34話開店
一夜明け、城を再開する日がやって来た。
すでに全員が広間に集まり、朝食を摂っている。
だが、前日の昼に清宏達が罠に挑戦していたため、夜遅くまで罠の再設置やビッチーズの待機室などの作成をしていたせいで、疲れているのか皆どことなく覇気が無い。
それを見兼ねた清宏が手を叩き皆の注目を集める。
「昨日は皆んなご苦労だった。
俺も正直、あんな馬鹿みたいな事しなけりゃ良かったと今更ながらに後悔している。
だが、得るものもあったし、これからに活かせると思っている。
特に、今日からはビッチーズの皆んなには頑張って貰わないといけない・・・レイスとアンネに受けた指導を守り、この城の為に頑張ってくれたら助かる。
リリはビッチーズ達のサポートを頼む。
それと、ローエンとグレンには腕輪を装備して囮をやって貰う・・・避難用の隠し部屋も造ってあるから、活用してくれ。
次にレイス、アンネ、レティには朝と昼の2回罠と宝の設置を頼む。
俺は基本的に全体を見ながらサポートをするが、シスとウィルと共に魔道具作成もしなければならないから、必要ならば言ってくれ。
アルトリウスはリリスの護衛を頼む・・・心配ないとは思うが、万が一もあり得るからな。
朝食が済んだら各自持ち場についてくれ・・・確認出来次第城門を開く」
清宏の言葉を聞き、皆が頷く。
だが、清宏は不満そうな表情をしている。
「元気が無ぇなぁ・・・こう言う時は声出せ声!!解ったな!?」
『はっ!』
『はい!』
『了解です!』
『うす!』
「お前等ちっとは揃えろよ!?」
思い思いに返事をする仲間達を見て、清宏は呆れて笑った。
すると、それを笑顔で見ていたリリスが立ち上がる。
「そう言うな清宏、これはこれで賑やかで良いではないか・・・。
皆、少しだけ妾の話を聞いて欲しい。
ここ1カ月程の間に、新たな仲間が増え、ここはとても賑やかになった・・・少し前までは妾1人しかおらんかったこの城に、今ではこれだけの者が集まってくれた。
ここはもう妾だけの城ではない・・・皆の城、皆の家じゃ。
ここを守るには、魔石の入手が必要不可欠じゃ・・・その為には多くの人間を呼び込み、殺さずに排除せねばならん。
皆を妾の我儘に付き合わせてしまう事を心苦しく思うが、どうか協力して欲しい・・・。
これまでに培った皆の知識、経験を活かしてこの城・・・皆の家を共に守り抜こう」
リリスは皆の顔を見渡しながら笑った。
すると、皆席を立ってリリスに頭を下げる。
『仰せのままに』
「俺の時は揃わなかったくせに・・・出来るなら最初からやれよお前等!?」
清宏が怒鳴ると、皆笑って席に着いた。
「まぁ、堅苦しいのはこのくらいにしとこうかの?
せっかくの朝食が冷めては美味さ半減じゃからな!」
笑顔のリリスを見て、皆先ほどとは打って変わって楽しそうに朝食を摂る。
清宏はそれを見て呆れていたが、皆との会話を楽しみながら朝食を済ませた。
朝食が済み、清宏は全員が持ち場につくのを待って城門を開けた。
清宏がマップを開くと、既に城に向かってくる侵入者が多数いるようだ。
看板による挑発の効果があったのか、1週間前よりも多いようだ。
「さて、今日は忙しくなるぞ・・・ローエンとグレンは侵入者をうまく引きつけてくれ。
ただし、怪我をしないように引き際を見誤るなよ?」
『わかってるよ!ま、安心して見てな!』
『そうそう、俺達だってAランクの端くれだ・・・格上でも来ない限り問題ねーって!』
清宏が発信機で指示を出すと、ローエンとグレンは軽口を叩きつつ手を挙げて応えた。
「自信を持つのは良いが、油断はするなよ?お前達に何かあったら、シス達に顔向け出来ないからな」
『それにしても、ダンナに心配されるってのは違和感あるな・・・まぁ、報酬に見合った仕事はキッチリこなしてやるよ!』
「あぁ、期待してるよ。
さぁ、最初のお客さんの来店だ手筈通りたのむぞ」
清宏は、ローエンとグレンが動き出すのを見て通信を切ると、水晶盤で侵入者達を確認する。
「ふむ、今のところ男だけのパーティが3組、男女混合が1組か・・・男女混合の方はなんとかして女を引き離したいな・・・まぁ、それはグレンがやってくれるだろ。
うーん・・・男はビッチーズに任せるとして、女にも何か用意したいところだがな」
清宏はアイテムボックスから一冊の分厚い本を取り出す。
本の表紙には『馬鹿でも解る魔物のあんなこと』と書かれている。
題名の割に、内容は図解付きでしっかりとしている辞書のようだ。
「清宏様、何を読まれてらっしゃるんですか?」
清宏が辞書を引いていると、後ろからアンネが覗き込んできた。
「おわっ!?なんだアンネか・・・急に後ろから覗き込んだら驚くだろ?
俺がGと呼ばれるスナイパーだったら危なかったぞ?」
「申し訳ございません・・・えっと、Gとはどなたなのですか?」
アンネに尋ねられた清宏は咳払いをしている。
「いや、何でもない・・・こっちの話だから気にしないでくれ。
これはちょっとした調べ物だよ・・・男の侵入者達にはビッチーズが居るだろ?
でも、女用はまだ何も用意出来てないから、何か良いのはいないかなとおもってさ・・・」
「召喚は呼び出せる者はランダムと聞きますし、上位の者は除外して考えた方が良いかもしれませんね・・・来て欲しい種属が出るまで召喚をしていては、魔石がいくらあっても足りませんから・・・」
清宏とアンネは辞書を見ながら唸る。
水晶盤に映る城内の映像では、槍を持ったスケルトンが、男女混合の侵入者達に追われているところだった。
それに気づいた清宏は、遅れている女2人を男達から引き離すため、スキルで壁を造り出して分断した。
「グレン、女達は分断したから、男達はビッチーズの部屋に誘導してくれ」
送信機で指示を出すと、グレンは逃げながらサムズアップをした。
それを見た清宏は、アンネに向き直る。
「アンネは何か良い案無いの?」
「わ、私ですか!?あの・・・私はあのような事には疎くて、何と言ってよいか」
清宏に尋ねられ、アンネは顔を真っ赤にして俯いた。
それを見た清宏は、アンネがどんな想像をしたのか察して慌てた。
「ご、ごめん!別に性的な喜びについて聞いた訳じゃないんだ!喜ぶものって言ったら人それぞれだけど、性的な事以外で女性としてアンネが喜ぶのは何か無いかなと参考までに聞いただけなんだ!!」
2人の間に微妙な空気が流れている。
しばらく2人は押し黙っていたが、耐えられなくなったアンネが苦笑して清宏を見た。
「えっと、勘違いしてしまってすみませんでした・・・先程聞かれた女性の喜びそうなものですが、私はやはり美容だと思います。
私は吸血鬼ですから肌の悩みなどはありませんが、それでも清潔さを保つ努力はしていますし、清宏様の作られたシャンプーなどのおかげで髪質が良くなったのは嬉しいですから・・・」
アンネの答えを聞いて清宏は辞書を開く。
「アンネは美容に役立つような魔物って知らないかな?」
清宏は辞書に目を通しながらアンネに尋ねるが、アンネは苦笑して首を振った。
「魔物から取れる素材が美容品になる事があるとは聞きますが、生きた魔物自体が美容に役立つとは聞いた事がないですね・・・」
「いや、アンネが謝る必要はないよ。
でも、素材か・・・素材の召喚もランダムだしなぁ、殺すのはご法度だしどうするか・・・ん?」
辞書を読んでいた清宏の手が止まる。
アンネは清宏が開いていたページを覗き込んだ。
「なぁ、ここに書かれているのは本当か?」
「はい、この種属は雑食ですので、何でも消化して吸収します・・・同じ物を食べ続ける事で、食べた物の特性を我が物とする事が可能です。
清宏様、まさかとは思いますが・・・」
アンネに問われ、清宏はいやらしく笑った。
「ダメです清宏様!先程申し上げた通り、この種属は何であろうと自身の栄養にしてしまいます!
魔物はもとより、人間であろうとそれは変わらないのですよ!?」
アンネの忠告を受けても、清宏の笑みは治らないようだ。
「アンネ、それは野生の場合だろう?だが、俺が狙っているのは召喚した奴だ・・・召喚した個体なら意思の疎通が可能かもしれないだろ?
仮に出来なかったとしても、残飯処理をさせれば良い・・・どっちに転んでも損はしないさ!」
「もう・・・清宏様は本当に仕事となると容赦が無いんですから!
リリス様にお叱りを受けても知りませんよ?」
「大丈夫だって、アンネには迷惑かけないからさ!
よし、やる気出てきたぞ・・・とりあえず、さっき取り残された女達にはお帰りいただこう!」
清宏は水晶盤を見て笑うと、取り残された女達の頭の上に金だらいを落として気絶させ、湖ではなく庭に放り出した。
そんな清宏をアンネはただため息をついて見ていた。
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