第33話初めての4人②

 清宏が室内の確認に入ってから10分程が過ぎた。

 その間アルトリウス達3人は、部屋の外から清宏を見ている。


 「今のところ室内に異常は見られない・・・入って良いぞ」


 「やっと終わったの・・・慎重過ぎじゃない?」


 清宏の許可を得て部屋に入ったリリは、呆れながら伸びをした。


 「お前みたいなのが真っ先に罠に掛かるんだよ・・・慢心が油断を呼び、後悔する暇もなく死んじまう。

 ここには死ぬような罠は無いが、怪我をする事は十分あり得る。

 慎重になるに越した事はない・・・まぁ、慎重になり過ぎて逆に見落とす場合もあるから、心の余裕は大事だけどな」


 清宏が苦笑していると、最後に部屋に入ったアルトリウスが扉を閉めた瞬間、通路から作動音が聞こえた。


 「あのまま閉めてたら、皆んな湖に直行だったな・・・」


 「嫌な仕掛けね・・・でも、扉を開けた時点で気付かなかったら無駄じゃない?」


 リリが尋ねると、清宏は首を振った。


 「いや、無駄になるかどうかは侵入者次第だよ・・・慎重に行動している奴なら、扉を開けた時点で異変に気付くだろう。

 そこで怖気付いて扉を閉めたらこっちのもんだ。

 トラップっていうのは、動物に対しては野生の勘との駆け引き、知能を持っている人間には心理的な駆け引きが重要なんだ・・・人間相手なら、いかにこっちのペースに引き込むかが大事なんだよ」


 「正直、回りくどいやり方は性に合わないのよね・・・よいしょっと」


 清宏の説明を聞いてため息をついたリリは待ちくたびれたのか、部屋にあった椅子に腰掛けた。


 「リリ様ダメです!」


 「この馬鹿!勝手に触るなって注意してただろうが!!」


 アンネと清宏がリリの元に駆け寄ったが、時すでに遅く、リリの足には足枷が掛けられていた。

 だが、それ以外は何も起きない。


 「ご、ごめん・・・」


 「謝るのは後だ・・・すぐに外してやる。

 それにしても、こいつが時差式で良かったな」


 清宏はリリの足元に座り、足枷の解除を試みる。

 すると、リリが震えているのに気付いた。


 「どうした?別に罠に掛かったくらいで怒りはしねえよ」


 「あのね、黙ってたんだけど・・・私泳げないのよね・・・」


 リリのカミングアウトを聞いて清宏が焦り出した。


 「何でそんな大事な事を言わなかった!アンネ、もう片方を頼む!!」


 「は、はい!!」


 アンネは急いでリリの足元にしゃがみ、足枷の解除に掛かった。

 罠に詳しくないアルトリウスはただ見守っている。


 「ごめん・・・カッコ悪いと思って」


 「くそっ・・・あの馬鹿、俺の罠を勝手に改良してやがる!?

 あのなリリ、誰にだって苦手なもんはあるんだよ!カッコ良いも悪いもあるか!!

 解除が間に合わなかったら湖に沈む事になるんだぞ!?・・・よし、こっちは終わったぞ、そっちはまだか!?」


 「あと少しです!」


 「代われ、俺がやる!」


 清宏は素早くアンネと変わり、足枷を外した。

 だが、それと同時に床が抜け、リリが落ちていく。


 「嘘っ・・・!?」


 「掴まれ!」


 清宏が手を伸ばしてリリの手を掴もうとしたが間に合わず、リリは穴の中に消えていった。


 「ちょっと行ってくる!」


 「ご武運を・・・」


 「リリ様をお願いいたします!」


 清宏はアルトリウスとアンネに見送られ、自身も落とし穴の中に飛び込み、リリを追った。


 「くそっ、こんな状況じゃなきゃ楽しめるのに!」


 清宏は滑りながらリリを探すが、先に落ちたリリはかなり先にいるらしく、まだ姿が見えない。

 体重は清宏の方が重いためスピードは出ているが、一向に追いつく気配はない。


 「明かりが見えてきやがった・・・!!」


 清宏の身体が空中に放り出され、湖に落下していく。

 その間、清宏は水面に波紋が無いか確認し、リリの落ちた場所を探した。


 「あそこか!!」


 清宏は着水と同時にリリの落ちた場所に向かい、水中に潜る。


 (視界が悪いな・・・どこだ!?)


 視界が悪い中必死に泳ぎ回る。


 (早く捜し出して引き上げないやばいな・・・。

 くそっ、どこだ・・・何処にいる!?・・・いた!!)


 リリを捜すためさらに奥に潜ると、なんとかリリを見つけだした。

 だが、リリは意識が無いらしく動いていない。

 清宏は素早くリリの身体を抱きかかえ、浮上する。


 「ぶはっ・・・!リリ、しっかりしろ!!

 目を開けてくれ!!」


 清宏はリリを脇に抱えて岸まで泳ぎ、地面にリリを寝かせる。


 「息してないじゃねーか!水が気管に詰まったのか!?

 確かリリスが、死ななくても壊れるって言ってたよな・・・このままじゃ最悪脳死か!?」


 『清宏さん、リリさんは見つかりましたか!?』


 受信機からシスの焦った声が聞こえてくる。


 「シスか!?見つけはしたが、息をしていない!!

 今から心臓マッサージと人口呼吸を試してみるから、また連絡する!!」


 清宏は通信を切り、リリを見る。


 「まさかこっちで心臓マッサージと人口呼吸をする羽目になるなんてな・・・こんなん自動車学校の講習で練習した以来だぞ!?」


 清宏はリリの横に膝をつき、胸の真ん中に片方の手をあて、もう片方の手を重ねる。

 腕を垂直に伸ばすと、そのまま体重を乗せ、気をつけながら圧迫していく。

 30回ほどそれを繰り返し、次に人口呼吸に移る。

 気道を確保し、リリの口を覆う様に自身の口を開けて密着させ、空気を送り込む。

 

 「リリ、目を覚ましてくれ!!」


 清宏は焦りながらも、リリの意識が戻るのを信じて心臓マッサージと人口呼吸を繰り返す。

 すると、3度目にしてやっとリリが水を吐き出した。

 それを見た清宏に笑顔が戻る。


 「リリ、聞こえるか!?」


 「ん・・・清宏?あんた、どうしてここに・・・?」


 リリは意識を取り戻し、清宏を見る。


 「お前を追って来たんだ馬鹿!息してなかったから焦ったぞ!?」


 「じゃあ、あんたが助けてくれたのね・・・でも、どうやって?」


 「心臓マッサージと人口呼吸だよ・・・実践では初めてだったけどな」


 清宏の言葉を聞いたリリは、真っ赤になっている。


 「あんた、どさくさに紛れて私にキスしたって事!?」


 「あんなんノーカンだノーカン!!それに俺がやらなかったら、お前は一生意識が戻らなかったんだからな!!」


 清宏に怒鳴られ、リリはうな垂れた。


 「仕方なかったとは言え、私のファーストキスが・・・」


 「ノーカンだって言ってんだろ・・・それより、アルトリウス達の所に戻るぞ。

 あいつらも心配してたからな・・・」


 リリは頷いたが、立ち上がろうとしない。


 「どうした?」


 「ごめん、腰が抜けて立ち上がれないわ・・・」


 「お前って奴は・・・仕方ない、おぶってやるよ」


 「どさくさに紛れて変な事しないわよね?」


 「もう一度湖に沈めてやろうか?」


 「冗談よ・・・ありがと」


 リリは笑って礼を言い、清宏の背中におぶさった。

 清宏はアルトリウス達の元に戻る最中、シスにリリの状況と、リリの大事をとって今回はここまでにする旨を伝えた。


 「おぉ、リリ殿!ご無事でなによりです!!」


 「リリ様・・・良かった!」


 部屋に戻ると、アルトリウスとアンネが駆け寄って来た。

 だが、アンネが足を踏み出した瞬間、不穏な音が聞こえた。


 「え・・・?きゃぁぁぁぁっ!!」


 自分の足元を見てアンネが固まると、凄まじい勢いでアンネは逆さ吊りになってしまった。


 「ふむ・・・白か」


 清宏は、露わになったアンネの下着を見て頷いている。


 「冷静に見てんじゃないわよ!!」


 「後頭部殴んな馬鹿!!」


 清宏は怒鳴りながらリリをアルトリウスに任せ、アンネに駆け寄る。


 「2重に仕掛けるとかレティらしいと言うか何と言うか・・・アンネ、ちょっと待っててくれよ?」


 「は、早く助けてください・・・」


 アンネは涙目になりながら清宏に懇願している。

 清宏が苦笑しながら解除をしていると、天井に穴が開き、徐々にアンネが引っ張られていく。


 「へ・・・?い、嫌です!助けてください清宏様!!」


 「ちょっ!アンネ落ち着いて!抱き着かれたら解除できないから!!」


 アンネに抱き着かれた清宏は、踠いてはいるが逃げ出せず、結局そのままアンネと共に天井に吸い込まれてしまった。


 「清宏・・・不憫な奴」


 「まぁ、このまま待ちましょう・・・」


 リリとアルトリウスは深くため息をつき、清宏とアンネの帰りを待った。


 「ぐすっ・・・うぅ・・・」


 「何がどうなったらそんな事になるのよ・・・」


 20分後、帰ってきたアンネを見て、リリが清宏を睨む。

 アンネはドレスが無くなり、下着姿になっていた。


 「俺のせいじゃねーよ!アンネが水を吸ったドレスのせいで溺れそうになったから脱がせただけだ!!断じて俺は悪く無ぇ!!」


 「もう、お嫁に行けません・・・」


 「俺は悪く無ぇー!!」


 アンネはその場で泣き崩れ、清宏も水では無い液体で頬を濡らして叫んだ。

 

 

 


 


 

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