第32話初めての4人①

 「清宏様!アンネロッテ!私はもう助かりません・・・どうか私を見捨てて先へ!!」


 「そんな事出来るわけ無いだろ!早く手を伸ばせ!!」


 「そうですアルトリウス様!早く清宏様の手を掴んでください!!」


 罠にかかり、今まさに落とし穴に落ちようとしているアルトリウスに、清宏が手を伸ばす。

 アルトリウスは憔悴仕切った表情で首を振った。


 「清宏様・・・ここで私が貴方の手を取れば、貴方まで巻き込んでしまいます。

 どうか・・・どうか私のことは見捨てて先へお行きください!

 願わくば、これから先アンネロッテの事をよろしくお願いいたします・・・。

 リリ殿も、アンネロッテの事を支えてやってください・・・。

 アンネロッテ、リリス様と清宏様の言うことをよく聞き、私の分まで変わらぬ忠誠を貫いてくれ・・・」


 アルトリウスはそう言って自ら穴の底に落ちていく。


 「アルトリウス・・・くそっ、あの馬鹿野郎!!

 なんで俺の手を掴んでくれなかったんだよ・・・!!」


 清宏は壁を殴って俯く。


 「アルトリウス様・・・今までのご恩、決して忘れはいたしません・・・」


 アンネは床に座り込んで涙を流している。

 リリは顔を背けているため表情は窺い知れないが、肩が震えている。

 何故4人がこの様な状況に陥っているかと言うと、話は2時間程前まで遡る・・・。

 




「清宏様、少しお時間よろしいでしょうか?」


 清宏が、アンネやシス、ウィルと共に通信用魔道具のテストのために広間を訪れると、ローエンとグレンに戦闘訓練を行っていたアルトリウスがそれに気づき、清宏に話しかけた。

 ローエンとグレンは息も絶え絶えといった感じで床に転がっている。

 対照的に、アルトリウスには衣服の乱れすら見当たらない。


 「どうした、アルトリウス?」


 「彼等との訓練も一通り終わりましたのでそのご報告と、申し訳ないのですが少々お願いがございまして・・・」


 「どうした改まって・・・お前には街への送り迎えの借りもあるから、俺に出来る範囲でなら構わないぞ?」


 清宏が快諾すると、アルトリウスの表情が明るくなる。


 「ありがとうございます!」


 「礼はいらないよ。で、お前の願いってのは何だ?」


 「私は召喚されてからと言うもの、まだ一度もこの城の罠に挑戦した事がございません・・・明日になってしまえば、次はいつ機会があるかわかりませんので、是非今日のうちに挑戦させていただけないかと思いまして」


 アルトリウスの願いを聞き、清宏は首を傾げる。


 「そう言えば、俺も無いな・・・魔道具のテストついでに俺も挑戦してみようかな。

 実際に罠に掛かってみて初めて解る事もあるし、レイスやアンネ、レティの罠を見る良い機会だ。

 他にやった事がない奴はいるかな?」


 「私もありません・・・あと、リリ様も無かったかと」


 清宏の問いに、アンネが挙手をして答えた。


 「んじゃあ4人でやってみるか・・・リリは今何してたっけ?」


 「あの・・・他のサキュバスの方達と昨日使われたお部屋の掃除をされてます」


 アンネは恥ずかしそうに答える。


 「よし、リリを呼んできてくれ・・・嫌だと言っても俺の命令って言えば良い。

 あとはレイスとレティに罠を仕掛けて貰わないとな」


 清宏はアンネにリリを呼びに行かせ、自分はレイスとレティを呼び出した。


 「2人に頼みがある・・・今から俺とアルトリウス、アンネ、リリの4人でお前達の罠に挑戦するから、罠を仕掛けてきて欲しい。

 お前達の実力を見る事になるから、手加減無用で頼む」


 「ふおぉぉぉ!?わ、私がご主人様を罠に!?やりますやります!!」


 (全力でやらせていただきます)


 レイスとレティはやる気満々だ。

 清宏は2人の反応を見て苦笑している。


 「手加減無用とは言っても、普段通りにな!無理な仕掛けはダメだ、それじゃあ明日からの練習にならないからな!」


 「了解です!行きますよレイスさん!!」


 レティは清宏に釘を刺され、元気よく返事をしてレイスと共に広間を出て行った。

 2人と入れ替わりにアンネがリリを連れて戻りると、不貞腐れているリリを説得し、レイス達の罠の設置を待って清宏達の挑戦が始まった・・・そして、話は冒頭につながる。





 アルトリウスが落とし穴に掛かり脱落した後、清宏とアンネ、リリの3人はその場に蹲っている。

 仲間を失ったショックからきているのか、皆肩を震わせている。


 「ぷっ・・・あはははは!何さっきのあの茶番!?」


 リリが吹き出し、清宏とアンネを見る。

 肩を震わせていたのは、悲しみではなく笑いを堪えていたらしい。

 

 「笑うなよ・・・アルトリウスがノリノリだったから仕方なく付き合ったんだ」


 「アルトリウス様、とても楽しそうでしたからね・・・」


 清宏とアンネも今にも吹き出しそうなのを懸命に堪えている。


 「あー可笑しかった・・・アルトリウスって結構面白いのね」


 「だな、まさかあんな真顔で今生の別れみたいな台詞を言われるとは思ってなかったよ・・・あいつ、俺達はリリスが死なない限り死ぬ事はないって忘れてるんじゃないか?

 それ以前に、吸血鬼のあいつが落とし穴なんかで死ぬ訳ないんだけどな」


 「アルトリウス様は、昔からたまに突拍子も無い事を言われたりしてましたから・・・お側に仕えてから今まで、退屈した事は無いですね」


 3人がアルトリウスの話で盛り上がっていると、足音が近づいてきた。

 清宏が部屋の扉を開けると、ずぶ濡れになったアルトリウスが笑顔で立っていた。


 「いやぁ、してやられましたな!

 清宏様特製の滑り台、堪能してまいりました・・・あれは、レティ殿が楽しんでいたのもわかりますな!」


 「マジで?なら次は俺が掛かってみようかな・・・いやいや、それじゃ単なる遊びになるな」


 清宏が真面目に悩んでいると、受信機から声が聞こえてくる。


 『何を楽しんでるんですか・・・』


 受信機から聞こえてきたのはシスの声だ。

 シスは水晶盤で楽しそうな清宏達を見て呆れているようだ。


 「いやぁ、何か楽しくなってきた!

 レイスとレティに後でご褒美あげるって言っといて!」


 清宏は天井を見上げて笑っている。

 清宏達が装備している受信機では通話は出来ないが、水晶盤を見ているシス達には清宏の声が届いているため、会話に支障は無い。


 『早く先に進んでくださいよ・・・始まってからもう1時間以上も経ってるのに、まだ2階じゃないですか!』


 「そんなに怒んないでよ・・・罠にかけられる側ってのも乙なものよ?

 まぁ、あまり遊んでても明日に響くし、これからは真面目に行くよ」


 清宏は手を振り、アルトリウス達を見る。


 「シスに怒られたし、これからは真面目に行きますか?」


 「それもそうね、早く終わらせてお風呂に入りましょう?」


 清宏の提案にリリが同意し、4人は部屋を出た。


 「3人とも良く聞いてくれ・・・レイスとレティの罠の傾向だが、まずレイスは俺が一から教えた事もあり、基本的に陰湿だ・・・だがレイスは応用が苦手だから、いくつもの罠を連動させるような仕掛けは無いだろう。

 問題はレティだ・・・あいつは自分好みの罠を仕掛けてくるだろうから、絶対に気を抜くな。

 何気なくその場にある物に触れた瞬間罠にかけられる可能性もある・・・。

 俺が良いと言うまで、絶対に何も触るなよ?」


 清宏の忠告を聞き、3人は頷く。

 

 「じゃあ行こうか・・・まず、この通路には罠は無いな。

 罠が見当たらないからと言って油断するなよ・・・特に曲がり角には注意してくれ。

 俺が通った跡を外れた場合、何があっても知らないからな」


 「見ただけで解るもんなの?」


 最後尾を歩いているリリが清宏に尋ねる。


 「解るのもあれば、解らんのもあるよ・・・俺は、レイスにそう言った仕掛け方を教えてるからな。

 正直、実際に見て見ないと何とも言えないな・・・」


 清宏はリリに説明しながら歩き、曲がり角で止まった。


 「ここに2個あるよ」


 「は?何処によ・・・」


 リリは清宏に言われて見渡すが、見つけられずに首を傾げた。


 「曲がり角の内側と外側ですね」


 見かねたアンネがリリに罠の場所を指差して教えた。


 「確かに・・・若干色が違うような気が」


 「そこじゃないよ・・・その30cmくらい手前だよ」


 「え・・・全然解んないんだけど」


 清宏はリリを見て笑い、罠のある位置を棒で軽く突いた。

 すると、その周囲の床が抜け落ちた。


 「嘘・・・まったく解らなかったんだけど」


 「色が違ったのはカモフラージュだよ・・・そこに注意を引きつけておいて手前で踏ませるんだ。

 若干だが、床の凹凸にズレがあったから解りやすかったよ。

 曲がり角に罠を仕掛けるのには利点がある・・・まず、こう言った城やダンジョンでは、曲がり角の先に何があるか解らない。

 だから、内側の壁から奥を確認する・・・そうすれば内側の罠に掛かる。

 パーティの誰かが内側の壁に張り付いていた場合、他の者が曲がるためには避けなければならない・・・そうすれば外側の罠に掛かる。

 他にも、曲がり角ではどうしても減速するし、人によってそのタイミングは違うから、前の奴を避けたりして隊列を乱せばどちらかの罠に掛かるんだよ」

 

 「いやらしいわね・・・」


 顔をしかめているリリを見て、アルトリウスとアンネは苦笑する。


 「そうか?俺なら、内側の壁にも罠を仕掛けるけどな・・・仲間がそれを助けようとして罠を踏む可能性が高いしな」


 「本当に、あんたが敵じゃなくて良かったわ・・・」


 「そりゃあどうも・・・罠も消えたし先に行くぞ」

 

 清宏はリリに軽く礼を言い、先に進む。

 その後、3階、4階と清宏とアンネの活躍によりほぼ全ての罠を回避し、残すところあと2階と言うところまでやって来た。

 だが、清宏はある事に気付き不安になっていた。


 「少し休憩しよう・・・」


 「どうしたのよ、何か気になる事でもあったの?」


 「確かに、先程から口数も減りましたし何かありましたか?」


 リリとアルトリウスが心配し、清宏を見ている。


 「これまで、レティ様の罠を一度もみていないんです・・・」


 アンネも、清宏と同じく不安そうだ。


 「皆んな疲れているだろうが、ここからは更に気を引き締めてくれ・・・たぶん、この階からレティの罠が来る。

 とりあえず、この部屋を確認した後少し休もう・・・」


 清宏はそう言って扉を開けて動きを止めた。


 「やっちまった・・・」


 「どうかした?」


 「罠キタコレ!」


 清宏はリリの尋ねられ、汗を流しながら笑っている。


 「えっ、どこ!?」


 「今、この扉を開けた瞬間に嫌な手ごたえを感じた。

 恐らく、扉を開けるという行為が罠の始動キーだ・・・」


 「また閉じたらだめなのですか?」


 アルトリウスに問われ、清宏は首を振った。


 「いや、ダメだろう・・・このまま閉じたら何かしら起きる可能性が高い。

 アルトリウス、扉を開けたままにしておいてくれ・・・俺は中を調べてくる」

 

 清宏はアルトリウスに扉を任せ、部屋の確認のため1人室内に入った。

 

 

 

 


 

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