第26話マゾと仲間は使いよう

 清宏は自身の雑務をレイスとアンネに任せ、工房で紙に何やら書いている。

 それは、図形や文字がびっしりと書き込まれ、何かの設計図のようにも見える。

 清宏は時折苦痛に顔を歪めているが、起きた時の様に身体を動かせない程ではないようだ。


 「清宏様、こちらは終わりました。次は何をいたしましょう?」


 雑務を済ませたアンネが、清宏の工房を訪れる。


 「あぁ、良い所に来てくれた・・・良かったら、今からこれを造ってくれないか?」


 清宏はアンネを招き入れると、今しがた何かを書いていた紙を渡した。


 「これは、新たな魔道具でしょうか・・・腕輪の様にも見えるのですが」


 「あぁ、人間を仲間に出来た時のために、ちょっと前から考えてたんだ。

 他のは、雇った冒険者達が今日来たら手伝って貰うから、これだけでも先に仕上げてくれないか?」


 清宏が差し出した紙には、闇属性の魔石をはめ込んだ腕輪型の魔道具が描かれている。

 そこに書かれている魔道具の仕様には、魔道具の使用者以外の視覚情報を誤認させる物と書かれている。


 「これは、その方達の為の魔道具ですか?」


 「あぁ・・・彼等は冒険者だから、もし知り合いとばったり会ってしまったらマズイだろ?だから、バレないようにしなきゃならないんだ。

 小さな魔道具だから、施す術式もかなり細かい物になるが、これが出来たらそいつらも城内での行動が可能になる。

 シーフの女はトラップメーカーを持っているから、君やレイスの補助も出来るようにしたいんだ」


 「かしこまりました。では、早速作業にかかりますね!」

 

 清宏の説明を聞き、アンネは自分用に用意されている作業台に着く。

 彼女は頭に作業用の拡大鏡を装着すると、設計図に書かれている材料を準備し、作業に取り掛かった。


 「清宏様の考える魔道具は、既存の物とは違うので造っていて楽しいです。

 今までにもこの腕輪のような魔道具はありましたが、その殆どが全身を覆う物だったりで、身動きが取れなくなるような物もありました」


 「彼等には動き回って貰わないといけないからね、少しでも負担を軽くしてやらないといけないんだ」


 清宏とアンネは、会話をしながら作業を続けている。

 清宏は今、別の魔道具の設計図を書いているようだ。

 その設計図には、眼鏡の様な魔道具が描かれている。


 「次はどんな魔道具を考えてらっしゃるんですか?」


 「その腕輪を装着すると俺達まで視覚を惑わされるから、その効果を打ち消す道具だよ。

 腕輪はそのくらい強力な物にしておかないと、魔法なんかで対処されたら困るからね・・・だから、視覚誤認や効果増幅とか色々書き込まないといけないんだ。

 今考えている効果を打ち消す魔道具も基本の術式は出来てるから、後は型をどうするかだね・・・まぁ、こっちは顔に装着する様にするよ」


 「それでしたら術式も減らせますわね。

 私としても、視覚を惑わすなら目に装着するタイプの魔道具が良いと思います。

 他の型ですと、視覚に関する術式を書き込む手間がかかりますから・・・」


 アンネは慣れた手つきで作業を続けている。

 笑顔であるところを見ると、清宏との会話を楽しんでいるようだ。


 「一つ目が出来ました!」


 アンネは笑顔でバンザイをしている。

 作業を始めてから、まだ20分程しか経っていない。


 「流石に早いな・・・経験者との格の違いを感じるよ」


 「いえ、清宏様が詳細な設計図を書いてくださるからこそです!

 あといくつ造りましょうか?」


 「あと5つお願い出来るかな?使わせるのは3人なんだけど、予備も欲しいからさ」


 「お安い御用です!」


 アンネは明るく返事をすると、コツを掴んだのか造るたびに時間を短縮し、1時間程で全ての腕輪を造りあげた。


 「さて、少し休憩しようか?」


 清宏は魔道具の製作を終えたアンネに提案し、広間に戻る。

 広間では雑務を終えたレイスがビッチーズ達に指導をしていた。


 「性が出るな、どうだ?こいつらはもう大丈夫そうか?」


 (はい、皆さん既に合格と言ってよいかと思います。

 ただ、やはり実践に勝る訓練はございませんから、出来れば本格的に計画を始める前に実地訓練をさせたいとは思います)


 清宏がレイスに尋ねると、レイスはやや不安げに答えた。


 「実地訓練ね・・・確かに必要だとは思うが、どうするかな?」


 (清宏様以外となると、1人も候補がいない状況でございます・・・)


 清宏とレイスは頭を抱えている。

 清宏達が悩んでいると、ダンジョンマスターのマップに侵入者を報せるマークが点滅した。


 「ん?誰か来たのか?

 あいつ等が来るにはまだ早いもんな・・・」


 清宏は痛む身体に鞭を打ち、水晶盤を覗き込んだ。

 そこにはローエン達の姿が映し出されている。


 「あいつ等だ・・・やけに早かったな。

 アンネ、リリスとアルトリウスを呼んで来てくれ・・・新たな仲間達のご到着だ」


 清宏はアンネに指示を出し、ダンジョンマスターの力で城門を開き、ローエン達がくぐるのを確認して門を閉める。


 「さて、出迎えてあげますかね・・・」


 清宏は広間の扉を開け、外に出る。

 清宏が出た場所は1階の広間だ。

 

 「よう、昨日ぶりだな!それにしても、やけに早かったな?」


 ローエン達が城内に入って来たのを見て、清宏は笑顔で手を振る。


 「あんまし待たせちゃ悪いからな、殆ど休みなしで馬を走らせて来た」


 「そりゃあご苦労だったな、他の仲間達に紹介するから、とりあえずこの部屋に入ってくれ」


 清宏に招かれ、ローエン達は部屋に入る。


 「で、この扉を開けたらあの広間なんだろ?」


 グレンが笑いながら清宏を見ている。


 「ご名答、本当に便利なスキルだよ。

 まぁ、運動不足になりそうだけどな!」


 清宏は笑顔でグレンに答え、扉を開いた。

 扉を開けると、その先にはリリス達が待っていた。


 「妾の城にようこそ・・・と言うのはちとおかしいかの?お主等は既に何度も来とるしの・・・今更じゃが、妾の名はリリスじゃ。

 まぁ、今まで色々とあったが、今この時よりお主等は妾の仲間であり家族じゃ。

 出会いこそアレじゃったが、これからはよろしく頼む」


 リリスはローエン達に手を挙げて挨拶をしたが、目が泳いでいて締まらない。


 「こいつに雇われたからには、給料分の働きはするつもりだ・・・前金もたんまりいただいたし、あんた達に害を加えるつもりも無ぇ。

 いつまでになるかは分からないが、よろしく頼む」


 ローエンが頭を下げると、後ろにいたグレン達もそれに習って頭を下げた。

 清宏はそれを見て笑っている。


 「堅苦しい挨拶は俺達にはいらんだろ?気楽にやりゃあ良いんだよ。

 俺はこいつ等同様、今後はお前達の事も仲間として皆平等に接する。

 良い仕事をすれば報酬は弾むし、馬鹿な事したら罰も加える・・・それが俺の仕事だからな。

 だが、そこさえ守ってくれりゃあ好きにしてくれて良い。

 どうだ、理想的な職場だろ?」


 清宏が悪戯っぽく笑うと、ローエンとグレンもそれに習ってニヤリと笑った。


 「期待してるぜダンナ?」


 「任せろ・・・今から営業再開が待ち遠しいよ俺は」


 「清宏もアレじゃが、お主等も良い性格しとるわい・・・」


 清宏とローエンが軽く拳を突き合わせて笑うと、リリスが呆れたように呟いた。


 「んじゃあ、こっちから紹介しようかな。

 リリスは済んだし、アルトリウスも昨日会ったから良いよな?

 まず、リリスの左にいるのがレイス、ここでは俺の次に来た奴だ。

 スケルトンだが、黒板での意思の疎通が可能だ。

 その隣にいるのはサキュバスのリリアーヌ、彼女の後ろにいるサキュバス達のリーダーだ。

 アルトリウスの隣にいるのはアンネロッテ、昨日話しに出てきた亡国の姫君だ。

 リリスと俺を含めた26人が昨日までのこの城の住人だな」


 清宏はローエンを振り向き、紹介を促す。

 ローエンは頷くと、仲間が見えるように横に移動した。


 「じゃあ、次は俺達だな・・・俺はローエン、剣士だ。

 隣から槍使いのグレン、ヒーラーのシス、魔術師のウィル、シーフのレティだ。

 以上5人、今日からあんた等の世話になる」


 ローエンは清宏に握手を求め、清宏もそれに応える。


 「さてと、ますばお前達の部屋を用意してやるよ。

 リリスや俺、他の仲間の部屋も玉座の裏にあるから、そっちで良いよな?」


 (清宏様、少しよろしいでしょうか?)

 

 清宏が玉座の方に歩き出すと、レイスが話しかけた。


 「ん?どうかしたのか?」


 清宏がレイスに近づくと、レイスは皆に見えないように黒板に文字を書いていく。


 「ふむふむ・・・なんと!?んふ・・・んふふふふふ!!

 レイス、お主も悪よのう・・・」


 清宏は悪代官のような台詞を言いつつ、悪い顔をしている。

 それを見た周りの者達は、皆困惑している。


 「なぁローエン、お前達疲れてるか?」


 清宏は笑顔で尋ねる。


 「な、何だよ・・・疲れちゃいるが、どうかしたのか?」


 「そうかそうか、ならお前達にこれをやろう・・・怪しい薬じゃないから、ぐいっといってくれ」


 清宏はアイテムボックスから小瓶を取り出してローエン、グレン、ウィルの3人に渡した。

 3人はそれが何か理解出来てはいなかったが、清宏の圧力に負け、中の液体を飲み干した。


 「あれ?意外と美味しいですね・・・」


 「あぁ、甘ったるいとは思うが悪くねぇな」


 「俺は、男にはもうちょっと甘さ控え目の方が良いかと思うが、確かに悪くないな」


 ウィルの感想に、ローエンとグレンも同意している。


 「だろう?それは、俺が調合した栄養ドリンクみたいな物なんだ・・・疲労がポンと取れる薬、その名もヒロ◯ンだ!!」


 清宏は、元の世界ではダメ絶対!と言われている薬物の名を高らかに叫んだ。


 「確かに疲れが取れたな・・・凄いなこれ、売ったら金になるんじゃないか?」


 「あぁ、もちろんそれも視野に入れている。

 さて、お前達はちょっと着いてきてくれ・・・」


 清宏はローエン達を引き連れ、ビッチーズ達の元に向かう。


 「ビッチーズ諸君、俺の前に7・7・6人で並んでくれ・・・ローエン達はその後ろに、ウィルは6人の列に並んでくれ」


 ローエン達とビッチーズは、清宏の指示通りに並ぶ。

 それを見た清宏は、頷き咳払いをした。


 「えー、ビッチーズ諸君・・・君達はこの数日間、レイスとアンネの指導を受け、2人から合格点を与えられたと聞いた・・・この事は、本計画の発案者としてとても嬉しく思っている。

 だが、俺は今のまま本番に移るのは正直かなり不安だ・・・君達がレイス達に指導された事を忠実に守れるか、そこが一番の不安要素だと思っている。

 そこで、今日仲間に加わったローエン、グレン、ウィルの3人は人間の冒険者だ・・・これまでの労いも兼ねて、彼等で実地訓練をしたらどうだろう?」


 清宏の提案を聞いた途端、ビッチーズから歓声が沸き起こる。

 ビッチーズ達は矢継ぎ早に清宏に対して質問を始める。


 「清宏様、本番はありですか!?」


 「はっはっは、もちろんだ!そうじゃないと、君達が満足出来ないだろう?」


 「どんなプレイまで大丈夫ですか!?」


 「それは彼等と相談してくれ・・・ただし、部屋を汚さない程度で頼むよ?」


 「きゃーっ!清宏様愛してるー!!」


 「へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねーか・・・だけどな、君達が愛するのは俺じゃない・・・これから君達に会いに来る男達なんだぜ!」


 清宏は人差し指で鼻をすすり、サムズアップしながらウインクをした。


 「待て待て待て!何なんだその茶番は!? 

 俺達の意見は聞かねーのか!?」


 ローエンが慌てて清宏を止める。


 「安心しろ、彼女達には人間に尽くすように言い聞かせてある。

 うちのサキュバスは美女、美少女揃いだ。

 そんな子達とあんなことやこんなことをタダで出来るんだ・・・行為が終わった後、お前の瞳には俺への感謝の涙が浮かんでいるだろうよ・・・。

 と言うわけで、ビッチーズの皆さん楽しんで来てね!!」


 『はーい!!』


 ビッチーズ達は揃って返事をすると、ローエン達を担ぎ、清宏の用意した扉の中に入って行った。

 ローエン達は何やら叫んでいたが、清宏は耳を塞いで聞こえないようにしていた。


 「鬼じゃ・・・鬼がおるぞ」


 リリスは畏怖の目で清宏を見ている。


 「俺じゃ出来ないんだから仕方ないだろ?

 リリ、念の為監視を頼む・・・あと、ローエン達にこれを持って行ってあげてくれ」


 清宏はヒロ◯ンとポーションをリリに渡した。


 「あんた、本当に良い性格してるわね・・・」

 

 リリは清宏に呆れた表情で呟き、ローエン達とビッチーズがいる部屋に向かった。


 「さて、次はシスだな・・・」


 清宏に呼ばれ、シスは身体を震わせた。


 「そう怖がらなくて良いよ・・・君にあんな事はさせないと約束する。

 ただ、君に対する報酬の件で話がある。

 リリス、こっちに来てくれるか?」


 「ん?なんじゃなんじゃ?」


 清宏はシスの近くでリリスを呼ぶ。

 シスに対して警戒心皆無なリリスは、何も考えずに清宏の元に歩いていく。

 リリスが近付くにつれ、シスの息が荒くなっていく。


 「シス、君がアイテム製作を頑張ると約束してくれるなら、リリスの世話をさせようと思うがどうする?」

 

 「誠心誠意、清宏様の為アイテム製作をさせていただきます!」


 シスは跪き、嬉し涙を流している。


 「よし、なら今からリリスの世話は君に任せる!」


 「へ?なんじゃ?」


 リリスが状況を理解出来ずに首を傾げていると、シスがリリスに抱きついた。


 「あぁ、リリス様!何て可愛らしいのでしょう!私、絶対に貴女の側を離れません!!」


 「ぎゃーっ!?清宏、お主は妾を餌にしおったな!!」


 「立ってる者は魔王も使う、それが俺のやり方だ・・・なに、死ぬ事は無いんだから、大人しくオモチャにされててくれ」


 シスはリリスに頬擦りをし、清宏はそれを笑って見ている。


 「ぐぬぬ・・・おい、そこの!確かレティと言ったか!?

 もしお主が妾に忠誠を誓うなら、清宏を好きにしてよいぞ!!」


 「へ?私ですか?誓います誓います!!」


 リリスはシスの頭を押し退けながらレティに提案している。

 だが、清宏はそれを鼻で笑った。


 「甘いな・・・レティ、お前に選択肢をやろう。

 お前がリリスの提案を受けるなら、俺は今後一切お前を罠にかけないし、お前を責めない・・・。

 だが、俺の指示に従い結果を出すと誓うなら、今後製作する新しい罠やギミックの試験はお前を使ってやる・・・さぁ、どっちを選ぶ?」


 「ご主人様、私を見くびらないでください・・・そんなの、罠一択です!!」


 レティの迷いの無い答えを聞き、リリスが愕然としている。


 「そんな・・・お主は清宏が好きなのではないのか!?」


 リリスは涙目でレティを見ている。

 すると、清宏がリリスの肩に手を置いた。


 「勘違いするなリリス・・・あいつが好きなのは、何もしない俺じゃなくて、自分の特殊な欲求を満たしてくれる俺なんだよ。

 それが変態ってもんなんだ・・・当てが外れて残念だったな」


 清宏は今にも吹き出しそうな顔をしている。


 「おのれ清宏、覚えておれよー!!」


 茜色に染まった空に、リリスの絶叫がこだました・・・。

 

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