第25話反動

 清宏とアルトリウスは、街と城とで起きた出来事などを互いに報告しながら帰路につき、夕方前には城に帰り着いた。


 「なんか、色々ありすぎて久しぶりな感じがするな・・・たった1日だったけど、かなり濃密な時間だったよ」


 「お疲れ様でございました。

 食材などの片付けは我々に任し、清宏様はゆっくり休まれると良いでしょう」


 清宏はアルトリウスと話をしながら城内に入り、広間の扉を開く。


 「ただいまー、皆んな変わりはないか?」


 清宏が広間に入ると、それに気付いた者達が皆近づいてきた。


 「おかえりなさいませ、清宏様!」


 「おかえりー、何かお土産は?」


 真っ先に駆けつけたのは、アンネとリリだった。

 2人の出迎えを受けて、清宏は嬉しそうだ。


 「一応買っては来たけど、喜ぶかどうかはわからん。

 リリスはどうしてる?」


 「今レイスが呼びに行ってるわよ。

 で、何を買って来てくれたの?」


 「お前は待つって事を知らんのか・・・」


 清宏は呆れ笑いをしながらも、アイテムボックスから食料を始めとした大量の荷物を取り出した。


 「まず、リリとビッチーズにはドレスだ。

 お前達の格好は刺激が強すぎる・・・特にビッチーズは、そのままよりドレスを着ていた方が良い。

 脱がせる楽しみ、脱ぐのを見る楽しみってのもあるからな。

 1人につき2着ずつあるから、一応フリーサイズの物を選んだが、その日の気分や男の好みに合わせて貸し借りしても良い」


 清宏はドレスを1人ずつ渡して行く。

 ビッチーズもやはり女性らしく、煌びやかなドレスを嬉しそうに受け取っている。


 「次にアルトリウスとアンネだな」


 「私共にまで・・・お心遣い感謝いたします」


 アルトリウスとアンネは清宏に頭を下げた。


 「俺は皆平等にするって言っただろ?

 まずはアルトリウスには新しい姿見だ。

 今あるのはだいぶ古いだろ?額に関しては、気に入らなければ俺が造ってやる。

 次はアンネ、君は常にドレスを着ているから、アクセサリーをいくつか買って来た。

 派手なのは嫌いみたいだし、シックなのを選んだ・・・まぁ、好みに合うかはわからんけどね」


 アルトリウスとアンネは感無量といった感じだ。

 2人共気に入ってくれたのだろう。

 清宏がお土産を配っていると、リリスとレイスがやってきた。


 「よく戻ったな清宏、楽しめたか?」


 (おかえりなさいませ清宏様)


 リリスとレイスは清宏の姿を見て嬉しそうにしている。


 「あぁ、何だかんだ忙しかったけど、結構楽しめたよ。

 ほら、お前とレイスにもお土産だ」


 清宏はまずリリスに服を渡した。


 「お前はいつも同じ服だろ?だから、特別に10着買ってきた。

 まぁ、子供用だったからあまり高くはないが、お前に似合いそうなのを選んだ。

 次にレイスには書物だな・・・ここの本はあらかた読み終えただろうし、古いのから新しいのまで100冊だ。

 これで得た知識は、必ずお前の役に立つと思っている。

 しっかり学び、今後も俺達を支えてくれたら助かる」


 リリスは呆れて笑う。


 「休暇じゃというのに、妾達の事を気遣うんじゃから真面目な奴よの・・・じゃが、お主の気持ちは嬉しいぞ」


 (私にまで過分なご配慮痛み入ります・・・必ずやお役に立って見せます)


 レイスは深くお辞儀をし、本の山をアイテムボックスに収納した。


 「これで皆んなに配り終わったな・・・では、街での収穫について話したい」


 「帰って来たら来たで忙しい奴じゃなお主は・・・良かろう、報告が終わったら今日はゆっくり休めよ?」


 リリスはそう言って玉座に座る。


 「あぁ、正直自分で酒臭いのがわかるから、終わったら風呂に入るよ。

 ではまず最初に、魔道具の売買をしているオズウェルト商会の代表とコネが出来た。

 偶然ではあったが、直接会って商談をする事が出来た。

 俺が持って行った冷蔵庫、扇風機、ドライヤーの設計図と生産・販売の権利を大金貨2000枚で売る事が出来、お土産や買出しの分を差し引いても1500枚以上残っている。

 大金貨1枚で平均的な4人家族が3カ月は遊んで暮らせる額らしいから、当面の資金には事欠かないだろう」


 「ふむ、それは良い事じゃな・・・今回は運が味方したということか。

 今後も何かと世話になるじゃろうし、お主なら心配無用じゃろうが、付き合いは慎重に頼む・・・他には何かあるか?」


 リリスは清宏の報告に満足そうに頷いている。


 「次に、これは俺個人の判断でやった事だが・・・人間の冒険者を5人雇った。

 早ければ、明日には到着するだろう」


 それを聞いたリリスは眉根を寄せた。


 「お主の選んだ者達なら問題ないとは思うが、信用出来るのか?」


 「あぁ、少なくとも俺は信用している。

 アルトリウスにも会って貰ったから、信用出来るか確認するか?」


 清宏はアルトリウスを見る。

 アルトリウスは一歩歩み出て膝をついた。


 「私が抱いた印象では、少なくとも裏切るような者達ではないでしょう・・・。

 私の名前を聞き恐れていたようですが、清宏様とは親しいようでしたので、問題はないかと」


 「他人を従わせる時、最も簡単で効果的な方法は恐怖だ。

 だが、確かにあいつらはアルトリウスを恐れていたが、義理堅い性格なのは俺が保証しよう・・・まぁ、来なかった時は俺が責任を取るよ」


 清宏が肩を落とすと、リリスはそれを見て笑った。

 

 「気にせんでよい・・・お主達がそう言うなら大丈夫じゃろう。

 元々人間の協力者は必要じゃと思っておったし、この際仕方がなかろう・・・して、其奴らはどんな奴等なんじゃ?」


 「あぁ、お前も知ってる奴等だよ」

 

 それを聞いたリリスは、滝のような汗をかき始めた。


 「清宏、まさかあの変態シーフ達ではなかろうな・・・?」


 「残念、その通りだよ・・・俺も成り行きであいつ等と一緒に晩飯を食ったけど、話してみたら面白い奴等だったよ。

 馬には乗ってみよ人には添いてみよって言葉が身に沁みたよ・・・心配するな、あいつ等はお前が思っている程悪い奴等じゃない」


 「ぐぬぬ・・・解った、とりあえずあやつ等が着いたら会ってみよう。

 嫌じゃなぁ・・・怖いのう・・・」


 リリスは泣きそうになっているが、良いと言った手前、仕方なく会う事にした。


 「それじゃあ、俺は風呂に入ってくるよ」


 「ご夕飯はどうなさいますか?」


 立ち去ろうとした清宏に、アンネが尋ねた。


 「皆んなと一緒で良いよ。

 ついでに買って来た食料を片付けといてくれたら助かる・・・」


 「承知いたしました。

 では、ごゆっくりお休みください」


 清宏は笑顔で頷き、風呂に向かった。

 その日は流石に疲れていたのか、清宏は軽く夕食を食べ、そのまま自室で深い眠りに就いた。





 翌朝、いつもの時間に清宏は布団の中で目覚めた。

 だが、清宏はある異常に気付いてしまった・・・。


 「やっべーな・・・身体が痛くて起きれないぞこれ・・・」


 清宏は寝返りをうつが、節々が痛んで立つ事が出来ない。


 「清宏様、おはようございます。

 朝食の準備が出来ましたが、どうなさいますか?」


 清宏が布団で悶えていると、アンネが部屋の外から声を掛けてきた。


 「アンネ、良いところに来てくれた・・・身体が痛くて起き上がれないんだけど、起きるの手伝ってくれない?」


 「だ、大丈夫でございますか!?」


 清宏の言葉を聞き、アンネが慌てて部屋に入って来た。


 「一度起き上がれば大丈夫だと思うんだけど、なんか酷い筋肉痛みたいな感じで、起き上がれないんだよ・・・」


 「寝ていらっしゃった方がよろしいのでは・・・」


 アンネは心配そうに呟いたが、清宏は首を振った。


 「早ければ、今日にでも新しい仲間達が到着するんだ・・・誘った俺が出迎えないなんてあいつ等に失礼だからな。

 痛かろうが我慢しなきゃ、あいつ等に示しがつかないよ・・・」

 

 清宏は腕立て伏せの要領で身体を起こす。

 アンネは慌ててそれを支えた。


 「すまないねぇ、アンネさんや・・・」


 清宏は笑いながら、弱々しく礼を言う。


 「ぷっ・・・!何なんですかその話し方は・・・清宏様にはお世話になっているのですから、お気になさらないでください」


 アンネは笑いながら清宏を起こすと、肩を貸して部屋を出た。


 「清宏、どうしたんじゃ!?」


 アンネに支えられている清宏を見て、リリスが慌てて駆け寄る。


 「なんか身体中が痛くてさ・・・1人じゃ起きれなかったんだよ」


 「休まれた方がよろしいのでは?」


 心配してやって来たアルトリウスがアンネと代わり、清宏を支える。

 

 「いや、起き上がったらさっきよりは楽になったよ・・・今日はあいつ等を迎えてやらないといけないかもしれないだろ?

 多少痛いくらいは我慢するさ・・・」


 清宏はそう言うと、自分の席についた。

 すると、それを見たリリが呆れて笑っている。

 リリは清宏から貰ったドレスを着ている。


 「本当にあんたは真面目よね・・・何か頼みたい事があったらいつでも言いなさいよ?」


 「お前に心配されるなんて思わなかったよ・・・。

 ドレス似合ってるじゃないか、お前も見た目は良いんだから、もっとお洒落に気を使えば良いのに」


 「余計なお世話よ・・・まぁ、あんたがどうしてもって言うなら、そうしてあげても良いわよ?もちろんあんたのお金でね!」


 リリは悪戯っぽく笑い、舌をだす。

 清宏はそれを見て笑った。


 「また街に行ったら何か買って来てやるよ。

 じゃあ、皆んな揃ったし食べようか」


 広間にビッチーズを含めた全員が集まり、朝食を摂る。

 皆が一様に清宏を気遣っているところを見ると、清宏は信頼されているらしい。


 「清宏・・・お主の身体に起きた異変じゃが、妾はスキルによる反動じゃと思う。

 街にいる間に出なかったのは不幸中の幸いじゃ・・・」


 リリスはため息をついている。


 「ポーションでどうにかならないか?」


 清宏が尋ねると、リリスは首を振った。


 「どの様な反動があるかは、個人差がある・・・じゃが、一つだけ共通しとるのは、その反動と言うのは身体ではなく、魂に直接起きるんじゃよ。

 ポーションは身体の傷や痛みには効果があるが、魂には効果が無い。

 エリクサーであればまだ可能性はあるが、そんな物そうそう手に入らん。

 まぁ、身体の痛みで済んで良かったと思う事じゃ・・・最悪、魂が砕けて廃人になる事もあるからの」


 リリスは頬杖をつきながら清宏を見ている。


 「まぁ、気付かなかった妾も妾じゃが、そんなになるまでスキルを使いまくったお主もお主じゃわい・・・そうなったなら、後は痛みが引くのを待つだけじゃ。

 反動が来てしまえばスキルを使うのは問題ないが、今日と明日は無理は控えよ」


 「了解・・・まぁ、あいつ等が来たら部屋だけは造ってやらないとな」


 清宏はそう言うと、笑って頷いた。

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