第24話探求者アルトリウス

 清宏達は店を片付けてマスターに店の鍵を返し、買い出しを行う。

 清宏は迎えが来るまで時間があったため、ローエン達と買出しをする事にした。


 「清宏さん、あそこには家具とかはあるんですか?」


 「あぁ、それに関しては心配いらないよ・・・城の周りの木を切ってスキルで造れば良いからな。

 そうすれば資金の節約になるし、何よりスキルの育成も出来るからな。

 俺がお前達の部屋を用意する間に、俺の補佐をしてくれているレイスとアンネに造らせよう」


 シスに尋ねられ、清宏は店を物色しながら答える。

 今、清宏達は二手に分かれて買い出しを行なっている。

 清宏はシスとウィルと一緒だ。

 2人とは昨日あまり話せなかったため、少しでも互いを知っておきたかったからだ。


 「そういえば気になっていたのですが、清宏さんはどんなスキルを持ってらっしゃるんですか?

 罠を得意としているようですが、レティのトラップメーカーと比べ、貴方のスキルはあまりにも異質だ・・・それに、あのオズウェルト商会が破格の値段で買い取る程の魔道具を製作出来るとは、一体どれだけの生産系スキルを持ってらっしゃるんですか?」


 ウィルは目を輝かせている。


 「そうだな、これから一緒にやっていくなら知って貰ってた方が良いか・・・だが、これは他言無用で頼む。

 まず罠についてだが、俺のはトラップメーカーの進化系であるトラップマスターだ。

 俺はリリスからダンジョンマスターを貰ったんだが、その際クラスアップした。

 リリス曰く、現在トラップマスターを持っているのは、俺と鉄壁のダンケルクって言う魔王の2人だけらしい。

 次に生産系だが、基本のアイテムメーカーの他に鍛冶師、彫金師、装飾技能士、陶芸師、服飾・被服師、薬師、毒師なんかだな。

 一番練度が高いのはアイテムメーカー、鍛冶、彫金、装飾、薬師だ。

 そのおかげで魔道具に、より詳細な術式回路を施せるようになった。

 あと、生産系スキルの副産物として解体者も持っているな・・・クラスアップも含めれば、1カ月で10個くらい習得した事になる。

 そのせいで無理矢理休みを取らされた訳だがな・・・。

 あとは、生活に役立つスキルがいくつかあるくらいだよ」


 清宏が答えると、2人は呆れていた。


 「義兄から話は聞いてますが、本当に召喚されて1カ月くらいなんですか?

 それで10個もスキルを習得するなんて無謀ですよ・・・」


 シスはため息をついている。


 「トラップマスター・・・鉄壁のダンケルクの数々の逸話は、そのスキルがあったからなんですね・・・」


 「トラップマスターは希少スキルとは言ってたけど、知られていないのか?」


 清宏が納得しているウィルに尋ねると、彼は頷いた。


 「少なくとも僕は初めて聞きました・・・魔王の持つスキルは特殊な物が多いと聞いていますから、知られていない物も多いんです・・・。

 ですが、貴方の罠の仕組みがやっと理解出来ましたよ・・・言われてみれば、ダンケルクの逸話と同じ様な事が起こってましたからね・・・。

 何も無い場所に突然罠が現れたり、発動させるタイミングも貴方の自在なんですから、警戒のしようがないですよ・・・」


 ウィルはそう言って肩を落とした。


 「まぁ、その件については水に流して貰えると助かる・・・今後は仲間としてよろしく頼むよ」


 「えぇ、こちらこそ色々と学ばせていただきます」


 ウィルは清宏の言葉に笑顔で頷いた。


 「清宏さん、ウィルー!あっちに面白そうな物が売ってますよ!」


 シスはいつの間にか清宏とウィルを置いて別の店の前にいる。

 既にいくつも私物を購入しているシスだが、新たな物を見つけてははしゃぎ、買い込んでいるようだ。

 彼女の買った物の中に、本当に必要な物があるのかが不安だが・・・。


 




 「おーい、そっちは済んだか!?」


 清宏達が買い出しを終えて待ち合わせ場所に向かうと、先にローエン達が待っていた。


 「お待たせ、そっちも終わったか?」


 「あぁ、とりあえず使えそうな物とか買っといたぜ・・・なんだ、お前ら荷物少なくねーか?」


 ローエンは清宏達を見て首を傾げている。


 「あぁ、全部俺のアイテムボックスに入れたからな。

 色々と造ってボックスに入れてたら、いつの間にか容量が馬鹿みたいに増えてたみたいでさ・・・お前達の買ってきた食料とか俺が持って帰ろうか?

 そうすれば、持って行くのはお前達の荷物だけで済むだろ?」


 「おぉ、そりゃあ助かる・・・おいグレン、レティ!お前らも遊んでねーでこっち来い!」


 ローエンは遠くで追いかけっこをしているグレンとレティを呼んだ。


 「何してんのあいつら・・・」


 「グレンが食おうと思って買った串焼きを、レティがつまみ食いしたんだよ・・・」


 「ガキかあいつら・・・」


 清宏が呆れて呟くと、ローエン達もため息をついた。


 「くそっ、レティの野郎覚えてろよ・・・で、どうかしたのか?」


 グレンは汗だくになっている。


 「お前の持ってる物資なんかをこいつに渡せ。

 こいつのアイテムボックスにはまだ余裕があるらしいから、先に持って行ってくれるってよ」


 「おーマジか!そりゃあ助かるわ!!

 正直、今回は自分達の分だけでボックスが一杯になっちまうから、運ぶの面倒だったんだよ!」


 グレンはそう言うと、手際よくボックス内の物を清宏に渡して行く。


 「もう、何でもかんでも清宏さんに頼り切ったらダメでしょう!」


 シスは腰に手を当ててグレンを注意する。

 彼女の服は貫頭衣なので分かりにくいが、実は均整のとれた体型をしている。

 腰に手を当てた事により、彼女のくびれた腰が浮き上がる。


 「その割に、お前だって何も持ってないじゃないか・・・」


 「う・・・私はほら、女の子だし?清宏さんが持ってくれるって言ってくれたから・・・」


 義兄であるグレンにジト目で睨まれたシスは、言い訳をするが尻すぼみになっていった。


 「あまりいじってやるなよ・・・可愛い義妹だろ?おに〜いちゃん!」


 清宏がからかうと、グレンは心底嫌そうな顔をした。


 「やめてくれ・・・あんたに言われると悲しくなる」


 「なんだとこの野郎!義兄なのは確かだろうが!!」


 「いやいや、そっちの意味じゃなくてな・・・可愛い義妹があんたに嫁ぐのを想像しちまうんだよ!

 俺が手塩にかけて面倒を見てきた義妹を、あんたに嫁がせるなんて想像しちまうと、シスの未来が心配で・・・!!」


 グレンは泣き崩れる。


 「ちょっと義兄さん!な、何恥ずかしい事言ってるのよ!!」


 シスは顔を真っ赤にしてグレンを立たせようとしている。


 「なぁ、俺ってそんなにアレかな・・・」


 清宏も泣きそうだ。


 「何なんだこいつらは・・・おい、そろそろ出ないと迎えが来るんじゃなかったのか?」


 ローエンは涙目の清宏に話しかける。

 清宏は空を見上げて太陽の位置を確認した。


 「あ、本当だ・・・迎えを待たせたら申し訳ないし、そろそろ行くか。

 お前達はいつ街を出るんだ?」


 「俺達も準備は終わってるから、お前が行ったらすぐに向かう」


 ローエンは清宏に答え、ウィルにレティを連れてくるように頼んだ。


 「さてと、んじゃまぁ帰りますかね」


 清宏はレティが戻って来たのを確認し、街の入り口に向かう。


 「見送るよ・・・これから世話になるあんたの仲間ってのも見ときたいからな!」


 グレンが笑いながら清宏の肩を叩く。


 「明日には会えるだろうに・・・まぁ、好きにしなよ」


 清宏は困ったように笑うと、ローエン達を連れて門をくぐり、待ち合わせの場所に向かった。


 「で、そのお迎えはどこにいるんだ?」


 清宏達はしばらく歩き、待ち合わせ場所に着いたが、まだアルトリウスの姿は見えない。


 「そろそろ来ると思うんだけど・・・あ、来たみたいだぞ」


 清宏がそう言って指差すと、城のある方角から蝙蝠が飛んでくるのが見えた。

 その蝙蝠は清宏達の前に着地すると、人型に変化し、アルトリウスになった。


 「清宏様、ただ今お迎えにあがりました・・・」


 アルトリウスは恭しく頭を下げ、清宏に礼をしている。


 「流石だなアルトリウス、丁度いいタイミングだよ」


 「街ではゆっくりと楽しまれましたか?」


 「ゆっくりは出来なかったけど、結構楽しめたよ」


 清宏はアルトリウスと何気ない会話をしている。


 「して清宏様、後ろの者達はお知り合いでしょうか?」


 アルトリウスは清宏の後ろにいるローエン達を見て尋ねた。


 「あぁ、こいつらは・・・」


 清宏はアルトリウスにローエン達を紹介しようとして後ろを振り返ったが、ローエン達の様子を見て止まった。

 ローエン達は顔面蒼白で震えていたのだ。


 「あぁ、怖がらなくて良いよ・・・こいつは吸血鬼アルトリウス、俺の仲間だ。

 リリスと俺の命令で、絶対に人を殺さないように言ってあるから心配するな」

 

 清宏の説明を受けても、ローエン達の緊張は解かれない。


 「なぁ、お前今・・・そいつの名前をアルトリウスって言ったか?」


 ローエンが辛うじて清宏に尋ねる。


 「あぁ、そう言ったけど?」


 清宏の答えを聞いて、ローエン達は息を飲む。


 「吸血鬼アルトリウスって言えば、探求者の二つ名で呼ばれてる、ギルドのSランク討伐対象じゃねーか!!」

 

 グレンはアルトリウスを指差して震えている。


 「探求者?何それ?」


 「人族が私を呼ぶときに使う二つ名ですな・・・」


 清宏がアルトリウスに尋ねると、彼は事もなげに答えた。

 

 「Sランクって国家の危機だよな・・・何したのお前?」


 「さぁ・・・いつ何をしてそうなったのかは皆目見当がつきませんな」


 アルトリウスは首を傾げている。

 本当に思い当たる節はないらしい。


 「探求者アルトリウスはな、今から300年前、とある国のたった1人の姫を手に入れるため、その国を滅ぼしたって言われている吸血鬼なんだよ・・・」


 グレンはアルトリウスから目を離さずに清宏に説明した。


 「あぁ、あの件でしたか・・・若気の至りというものですな」


 「若気の至りで済ますなよ・・・もしかして、その時拐ったのってさ」


 「アンネロッテですが?」


 アルトリウスは当然だと言わんばかりに頷いている。


 「マジかー・・・そんな感じはしてたけど、アンネってガチのお姫様だったのか」


 「えぇ・・・あの美貌、歳を取り失わせるのは惜しいですからな」


 「アルトリウス、今後はするなよ?」


 「心得ております・・・ところで、あの者達は何者でしょうか?」


 アルトリウスは清宏に尋ねローエン達を見たが、特に警戒している様子はない。

 

 「あぁ、あいつらは今日から仲間として、俺が雇ったんだ。

 よく城に来ていた冒険者達なんだが、お前は直接会うのは初めてだから紹介しとく。

 まず、剣士のローエン、槍使いのグレン、グレンの義妹でヒーラーのシス、魔術師のウィル、シーフのレティだ。

 あのやたら楽しそうに罠に掛かっていたのがシーフのレティだよ。

 あいつらには、今後お前の代わりに街での情報収集や食材なんかの買出しや、生産系スキルを持っているから俺やアンネ、レイスの補佐も頼もうと思っている。

 そうすれば、お前はリリスの身辺警護に専念出来るし、俺やアンネ達も非常に助かるからな。

 あいつらとは、今までの事は互いに水に流し、協力して貰える事になった・・・。

 これから一緒に暮らしていくから、仲良くして貰えると助かる」


 清宏の説明を聞いたアルトリウスの顔が明るくなる。


 「左様でございましたか、それは重畳にございますな!

 ご存知のご様子でしたが、私の名はアルトリウスと申します。

 私もリリス様に召喚され日が浅い身、これからはリリス様、清宏様の為、共に精励いたしましょう!」


 アルトリウスはローエン達に頭を下げている。

 ローエン達はまさかの展開にまだ理解が追いついていない。

 まさか、ギルドのSランク討伐対象であるアルトリウスが人族に頭を下げるとは、普通ではあり得ないような出来事だ・・・混乱してしまうのも無理のない事だろう。


 「ははは、呆気にとられてるみたいだな!

 まぁ今はそうでも、いずれ慣れるよ。

 俺はアルトリウスと一緒に先に帰っとくから、お前達も道中気をつけてくれ。

 お前達が城に着いたら、他の仲間の紹介やお前達の部屋を用意するよ」


 「お、おう・・・すまねぇ・・・」


 ローエンは辛うじてそう呟き、清宏は狼に変化したアルトリウスの背に跨った。


 「んじゃ、明日からよろしくな!」


 「では皆様、また明日お会い出来る事を楽しみにしております」


 清宏はローエン達に手を振り、アルトリウスも挨拶を済ませて走り出す。

 ローエン達は、あっという間に見えなくなった清宏とアルトリウスの向かった方角を、しばらく呆然と眺めていた。


 

 

 



 

 

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