第23話後の祭り

 朝を迎え、今日清宏は城に帰る。

 たった1日ではあったが色々と収穫があり、街に来た事は無駄ではなかった。

 大商会の代表とのコネクション、新たな仲間など、支出を上回る成果とも言える。

 まず、国内外にいくつもの支部を持つオズウェルト商会との繋がりを得たことで、他国の情勢などを知ることが出来、その国々に合わせた様々な魔道具を製作して権利などを商会に売れば、互いの利益にもなる。

 商会の工房の生産力を持ってすれば、世界中に新しい魔道具を広める事が出来、いざという時に、それを設計した者が魔王リリスの配下である事を知らしめれば、人々の心に魔王リリスは人族の敵では無いかもしれない、という可能性を植え付ける事も出来る。

 そのためには、オズウェルト商会との信頼関係をしっかりと構築していかなければならない。

 次に、ローエン達冒険者を仲間に引き込んだ事で清宏自身の負担が減り、街でも顔が効く彼等ならば、買い出し等を行っても怪しまれないという利点がある。

 冒険者ギルドにはあえて籍を残し、彼等には適度に依頼をこなして貰う事で、ギルドの動向などを知ることも可能だ。

 前提として、城に来る侵入者達に彼等の存在がバレないようにしなければならないが、それに関してもやりようはいくらでもある。

 以上を考えれば、先行投資としては上々の結果ではないだろうか。

 




 明け方近くまでローエンとグレン、途中で目を覚ましてきたレティを巻き込んで飲み明かしていた清宏は、何故かテーブルに突っ伏していた。


 「どうしてこうなった・・・」


 清宏は、目の前の光景を見て頭を抱える。

 酒のボトルが散乱している床には、3人の裸族も一緒に転がっていたのだ。


 「俺は服を着ている・・・何も間違いはなかったはずだ。

 なら、こいつらなんで全裸なんだ?」


 清宏は酔い潰れるまでの事を思い出そうとしているが、まったく思い出す事が出来ない。


 「うーん、ご主人様〜・・・私、もっと乱暴な方が良いです〜」

 

 酒のボトルを抱いて眠っているレティが、寝言を言いながら寝返りをうつ。

 

 「どんな夢見てんだよ・・・にしても、こいつ良い身体してるな。

 中身は残念だけど、見た目だけはビッチーズにも劣らない・・・待てよ、ビッチーズも中身は残念だから同類か?」


 清宏はくだらない事を呟きながら、全裸のレティに自分の上着を掛けてやる。

 いくら特殊な性癖を持っているとは言え、年若い女性が全裸で寝ているのを放置する訳にはいかない。

 ただ、彼女にとって不幸なのは、清宏が彼女の事を性的な目で見ていないという事だ。


 「おーい、ローエン起きろ・・・」


 清宏は近くで寝ていたローエンの頭を軽く蹴って呼びかけた。


 「んあ?もう朝か・・・なぁ、俺達なんで全裸なんだ?」


 自分達の姿を見たローエンは、別段気にする素振りも見せず、立ち上がって欠伸をしている。


 「俺も聞きたいよ・・・レティが来てから何してたっけ?」


 清宏とローエンは腕を組み、しばらく考え込む。


 「あぁ、なんかお前が言ってた遊びをやったような気がするな・・・」


 「遊び・・・野球拳か!!

 思い出したわ・・・一気飲みを賭けて野球拳で勝負したんだったな。

 服を着てたって事は、俺は全勝したって事か」


 「おいグレン、起きろ・・・今日は買い出し行くんだろ?」


 ローエンは緩慢な動きで服を着ながらグレンを起こしている。


 「ん・・・俺、なんで全裸なんだ?

 うおっ!?レティもかよ!!」


 目覚めたグレンは、自分の姿を見て首を傾げ、近くでまだ寝ていたレティの顔を踏み付けて驚いた。

 踏まれたレティは、心なしか幸せそうだ。


 「まぁ良いじゃないの・・・それより、そいつ起こして服着させといて。

 俺は顔洗ってくるわ」


 「了解、雇い主様!俺はこの馬鹿起こしてウィルなんかも起こしてくるよ」


 グレンは清宏に手を挙げて見送る。

 清宏はグレンに笑って手を振り店の奥から裏に出ると、水の入った樽の前で大きく伸びをし、顔を洗い始めた。

 

 「あふっ・・・」


 清宏が顔を洗い、タオルで拭いていると、昨夜は早々にダウンしたシスがやってきた。

 グレンが起こすより早く目覚めたようだ。

 シスはレティのように全裸ではないが、服がかなり着崩れ、胸元が開いている。


 「よう、大きな欠伸だな、昨夜は良く眠れたか?」


 「えっ・・・清宏さん!?」


 シスは寝起き姿を清宏に見られ、慌てて胸元を隠している。

 シスは、レティとは比べ物にならない程の女性らしい反応だ。

 レティの場合は、心身共に嘘偽りのない全てを曝け出していると言えば聞こえは良いが、ただ心と身体の両方が性的欲望の塊・・・隠す気0である。


 「昨夜はありがとうございました・・・夕飯を御馳走していただいたのに、途中で酔い潰れてしまいました。

 あの後、他の皆はどうしていましたか?」


 シスは衣服を正し、清宏に頭を下げた。


 「あの後は、まずレティが酔った勢いで俺に迫ろうとしたから、ロープで縛った後にキツい酒をストローで飲ませて潰して、ウィルはいつの間にか寝てたな・・・で、俺がローエンに無理矢理酒を飲ませて、しばらく語ってから店を出たよ。

 帰ってきてからも、マスターに許可貰って、3人で浴びるように酒を飲んだけどね・・・後からレティも参加したけど」


 「ローエンとグレンもですか・・・まったくあの2人は昔から全然変わらないんだから」

 

 清宏の説明を聞き、シスは頬を膨らませている。

 彼女の年齢は20歳前後だろうか、少女と大人の女性との中間・・・まだ垢抜けていない感じが彼女の魅力である。


 「そういえば、グレンは義兄なんだって?聞いた時びっくりしたよ・・・お兄ちゃんとは言わないんだな?」


 「その言い方は卒業しました!・・・義兄は、昔から血の繋がりの無い私の事を、常に気遣ってくれる優しい人でした。

 義兄はローエンとしょっちゅう喧嘩をしていましたが、両親が亡くなって辛かった時期にも、あの2人が騒がしかったから私は悲しむ暇もなかったです」


 シスは恥ずかしそうに笑っている。


 「まぁ、グレンは良い奴だよな・・・ついでにローエンも、素直じゃないが良い奴だ」


 「ふふふ、ありがとうございます」


 「あ、顔を洗うよね?じゃあまた後でね」


 「はい、ではまた後で」


 清宏は樽の前から退き、シスに譲った。

 彼女が横を通る時、甘い香りがしていた・・・飲み明かして酒臭い清宏とは雲泥の差だ。

 清宏は城に帰ったら風呂に入ろうと心に誓った。


 「おう、レティは起きたか?」


 清宏は店内に戻り、グレンに尋ねる。

 グレンは首を振って床を指差した。

 そこには、服を着させられたレティがまだ転がっている。

 ローエンは起こすのを諦めて、散らかった店内を簡単に片付けている。


 「あ、おはようございます・・・皆さん何をしてるんですか?」


 清宏達が困っていると、ウィルがやって来た。

 ウィルはしっかりと服を着ており、パーティの中では一番まともだ。


 「やぁウィル、この雑巾女を起こしたいんだけど、どうすれば良いかな?」


 「ははは、変態から雑巾に格下げですか・・・レティは叩いても喜びますし、死なない程度に何か魔法でも喰らわせますか?」


 「ウィルってさ・・・過激な発言するのね?」


 清宏は、ウィルの発言に顔を引きつらせて笑っている。


 「仕方ない、これ使うか・・・これで起きなかったら放置しよう」


 清宏は懐からスタンバトンを取り出すと、容赦なくレティに押し付けた。

 その瞬間、レティの身体が大きく仰け反る。


 「あんっ・・・!?」


 「くそっ、何て艶っぽい声をだしやがる!」


 レティは床の上で身悶えている。


 「ヤバい、軽くイッちゃった・・・。

 こんな気持ち良い目覚めは久しぶりだわ・・・」

 

 荒い吐息で呟いているレティを見て、清宏達はため息をついた。


 「おい、さっさと起きろ・・・シスが来たら飯にするぞ。

 3人に伝えなきゃいけない事があるからな」


 清宏は、グレンと一緒にテーブルを移動させながらレティとウィルに言った。

 それを聞いた2人は、首を傾げている。


 「ただ今戻りました。

 レティ、ウィル、おはようございます」


 「おはよー!」


 「おはようございます」


 シスが戻ってレティとウィルに挨拶をし、それを確認した清宏はアイテムボックスからパンと干し肉を取り出して皆に配った。

 昨夜、帰る途中に買っておいたのだ。


 「すまないが、食べながら聞いて欲しい。

 昨夜、俺とローエン、グレンの3人で話をした結果、俺は君達を雇う事にした」


 レティとシスはパンを千切っていたが、そのまま動かなくなった。

 ウィルは飲んでいたミルクを吹き出しそうになるのを何とか堪え、咽せている。


 「それって、住み込みですか?」


 「あぁ、3人には俺の手伝いを頼みたいんだ。

 シスとウィルにはアイテム製作を、レティには罠の管理とアイテム製作の補助を頼みたい。

 そうなれば、シスはリリスと一緒にいられるぞ?」


 「行きます!」


 シスは目を輝かせて即決した。

 まったく迷いがない・・・。


 「ご主人様・・・それは、いつでもどこでもご主人様の罠を楽しめると言う事ですか?

 おはようからおやすみまで、ご主人様の暮らしを見つめることが出来るって事でOK?」


 「お前が良い仕事をすれば、褒美にお前専用の罠を楽しませてやる。

 おはようからおやすみまで俺の暮らしを見つめることは許さん!」


 「ぐぬぬ・・・見つめたい!見つめたいけどOKでーす!」


 レティもレティで返事が軽い。

 彼女の場合、深く考えていないだけだろう。


 「僕は皆さんが良いと言うなら構いませんよ・・・まぁ、元々僕に拒否権はありませんからね。

 それに、個人的に清宏さんの造る魔道具に興味がありますから」


 ウィルは、グレンの言った通り皆の意見を尊重した。

 これで、全員が賛同した事になる。


 「では、俺は昼には街を出る。

 お前達は必要な物を買って城に向かってくれ。

 確か馬で1日でつけるんだよな?なら、明後日までには必ず来てくれ」


 「了解だ・・・食材と日用品の買い出しもしたら良いんだろ?」


 「あぁ、俺も買っては行くが、保存の効くのを頼みたい。

 では、これが買い出し用の金と、お前達との契約金及び支度金だ」


 清宏はアイテムボックスから大量の大金貨を取り出し、皆に配る。

 1人につき大金貨10枚、買い出し用の分を合わせ、全部で52枚だ。

 ローエン達はそれを見て息を飲んだ。


 「これだけあれば十分だろ?」


 「いやいや!これだけあれば3年は何もしなくても行きていけるぞ!?

 全員で10枚でも多いくらいだ!!」


 グレンは清宏に金を返そうとしたが、清宏はそれを受け取らない。


 「これだけ渡しとけば、逃げようとは思わないだろ?」


 清宏はニヤリと笑った。


 「あんたは本当に性格悪いな!流石にこんだけされたら逃げねーよ!!」


 「知ってるよ、お前達を信用したから渡したんだからな!」


 清宏にからかわれ、グレンは肩を竦めた。


 「グレン諦めろ・・・こいつに付き合って碌なことが無いのは、あの城で嫌ってほど思い知っただろ?」


 「あぁ、そうだったよな!!くそっ・・・真面目に反応した俺が馬鹿みたいじゃねーか」


 グレンは恥ずかしそうにそっぽを向き、ローエンに小突かれている。


 「くくく・・・だが、これからお前達は俺の側でほくそ笑む側だ。

 面白おかしく行こうじゃないか?」


 清宏が悪意に満ちた笑みを浮かべると、ローエン達はそれを見て凄まじい不安に襲われた。

 




 

 


 

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