第22話約束

 清宏達が店に入って一刻ほどが経った。

 その間、店のオーナーの挨拶があったりもしたが、皆それぞれ食事と酒を楽しんでいた。

 だが、やはり皆遠慮があるのか、料理の金額自体は思ったほどではない。

 ただ、酒の量が尋常じゃない・・・1本小金貨5枚程のボトルを、既に20本は空けている。


 「おいローエン、飲めよ・・・俺の酒が飲めないって言うのか?」


 清宏は、ローエンに笑顔でボトルを差し出す。


 「もうやめてくれ・・・さっきのは謝るから勘弁してくれ・・・うぷっ!」


 ローエンは吐きそうになりながらそれを拒否するが、清宏は笑顔で無理矢理ボトルを握らせる。


 「良いかローエン、何かをやる時ってのはな・・・出来る出来ないじゃなく、やるかやらないかなんだよ!

 まだいけるだろう?お前ならやれる!!」


 清宏に脅され、ローエンはボトルの酒を一気に飲む。


 「ちょい残し!ちょい残し!まだ残ってるぞ!やれるやれる!お前ならいける!諦めんなよ!!」


 清宏は休ませる事なくローエンを煽り続けている。


 「もう無理・・・」


 ローエンは顔を青くして小さく呟くと、トイレに駆け込んだ。


 「そろそろ勘弁してやれよ・・・」


 清宏とローエンを離れて見ていたグレンが呆れて清宏に注意した。


 「いやぁ、なんかあいつの反応が面白くてさ・・・そう言えば、お前とローエンて付き合い長いのか?やけに親しげだし、あいつお前の言うことは大人しく聞くだろ?」


 「あぁ、幼馴染ってやつさ・・・俺と妹のシス、ローエンは同じ孤児院の出身なんだよ・・・」


 「ん?何だって?誰が妹だって?」


 清宏は堪らず聞き返した。


 「だから、シスは俺の妹なの!まぁ、血は繋がってないけどな・・・俺の親父と、後妻のシスの母親が死んじまって、引き取られた孤児院で出会ったのがローエンなんだよ。

 最初は馬鹿みたいに喧嘩ばかりしてたけどさ、シスが15になった年に一緒に冒険者にならないかって誘われたんだよ。

 お前の強さは俺が保証するとか言うんだぜ?何様だよって思ったよ・・・でも、嬉しかった。

 あいつがリーダーって聞くと噓みたいだろ?でもな、始めたのはあいつなんだ・・・だから、俺達のリーダーはあいつしかいないんだよ。

 あいつは、普段の性格には難があるけど、ここぞという時には仲間の為に身体を張れる奴なんだ・・・だから、あーだこーだ言ってても皆んな付いていくんだよ」


 グレンはグラスに残っていた酒を飲み干して笑った。


 「なんだ、あいつってやれば出来る子なんだな・・・」


 「ははは、孤児院の先生達にも言われたよ!」


 清宏とグレンが笑っていると、ローエンがトイレから戻ってきた。


 「あー、頭が痛ぇ・・・何だよ何かあったのか?」


 「いや、ローエンが実はツンデレって話をしてただけだよ」


 清宏にからかわれ、ローエンは顔を真っ赤にしてそっぽを向いている。


 「お前ら、友達は大事にしろよ・・・後悔したくないなら、約束は必ず守れ」


 「何だよ、いきなり真面目な顔しやがって・・・」


 ローエンは不思議そうに清宏を見るが、清宏は俯いている。


 「真面目な話だよ・・・お前達の昔話を聞いちまったからな、俺の話をしてやるよ。

 俺にもな、小さい頃から仲の良かった友達がいたんだよ・・・俺は今ほど約束とかにこだわりはなくて、何度もそいつとの約束をすっぽかしちゃ謝るってのの繰り返しだった。

 そいつも最初は怒ってても、謝れば許してくれてさ・・・俺はそいつに甘えてたんだろうな。

 初めてお前達に会った日、本当ならその友達と飲みに行く約束をしてたんだよ・・・そいつが、わざわざ俺の為に席を設けてくれたのに、俺はまた約束をすっぽかしちまった」

 

 「そんなの不可抗力じゃねーか!あんたのせいじゃないだろ!?」


 グレンの言葉に、清宏は首を振る。

 それを、ローエンは黙って見ていた。


 「そんな事、そいつにはまったく関係ないんだよ・・・事情を知らないそいつにとっては、俺が約束をすっぽかした事に変わりはないんだ」


 「じゃあ、説明すれば良いじゃねーか・・・」


 清宏は再度首を振る・・・。


 「謝りたくても出来ないんだよ・・・俺は、今いる場所が何処にあって、どうやって帰れば良いのかもわからないんだ。

 魔王であるリリスにもわからないってのに、俺がどうこう出来ると思うか?

 いくら誤解だとしても、約束を破って謝れないっていうのがこんなにも辛いって事に、今更ながらに気付いちまったよ・・・。

 そいつの事を思い出すと、俺は泣きたくなるよ・・・謝りたいし今までの礼も言いたい。

 でも、同時に会うのが怖いとも思っちまう・・・勝手な話だよな。

 只今絶賛後悔中の馬鹿野郎からのありがたくもない言葉だ・・・覚えておいて損はない」


 グレンとローエンは黙っている。


 「酔いが醒めちまったな・・・良い頃合いだしお開きにするか?

 レティ達も酔い潰れてる事だしな」


 清宏は席を立ち、部屋の外にいる店員を呼んで会計を済ませた。

 その日の食事代は大金貨7枚にもなっていたが、清宏は気にせず支払っていた。


 「ローエンはウィルを担いでやってくれ、グレンはシスを、俺はこの変態を担いで行くよ・・・」


 清宏達は店を出て大通りを歩く。


 「さっきのが、お前が約束にこだわる理由か・・・?」


 店を出てからずっと黙って歩いていたローエンが清宏に尋ねる。


 「あぁ、こんな思いはこれ以上したくないからな・・・」


 「そうか・・・」


 ローエンはそう言うと、また黙って歩き出した。


 「なぁ、あんたはいつまでこの街にいるんだ?」


 暗い空気を吹き飛ばすようにグレンが清宏に尋ねた。


 「明日の昼には帰るよ・・・お前達はどうするんだ?」


 「そうか、そいつは残念だ・・・あんたに対してこんな風に感じるとは思いもしなかったよ!

 俺達はしばらくこの街で依頼をこなす予定だよ・・・金を稼がないとマスターから追い出されるからな!」


 グレンは面倒臭そうにため息をついている。

 すると、清宏は何か思い付いたような表情でグレンを見る。


 「お前達の中に、生産系とトラップメーカーのスキルを持ってる奴はいるか?」


 「ん?生産系ならシスとウィル、レティの3人が持ってるぞ?トラップメーカーはレティが持ってるが、どうかしたのか?」


 グレンの言葉を聞き、清宏はニヤリと笑った。


 「どうしたんだよ・・・また何か企んでるのか?」


 「お前達、金に困ってるなら俺に雇われる気はないか?」


 グレンとローエンは清宏の言葉を聞いて動きを止めた。


 「俺は今、生産系とトラップメーカーを持ってる奴を探している。

 城には俺以外にも2人ほどいるが、まだ人手が足りていない。

 それに、ローエンとグレンにも他に頼みたい仕事がある・・・。

 俺が雇うからと言って、堅苦しい事を言うつもりもない・・・報酬は魔道具や装備になるが、売れば金になるだろう。

 それと、衣食住は保証するから魔道具なんかを売った金は全てお前達の物になる・・・どうだ、悪い話じゃないだろう?」


 清宏の提案を聞いた2人は困惑していたが、しばらく考えた結果、意を決して頷いた。


 「レティはあんたといれたらそれで良いだろうし、子供好きのシスは魔王様に会えるなら大丈夫だろう・・・ウィルは俺達がやると言えば話に乗るだろうから問題ない。

 今まで憎かったあの城で、今度は俺達が侵入者を排除する・・・こんな面白そうな話はそう無いだろ?だが、報酬は弾んでもらうぞ?」


 「支度金を渡すから、必要な物を買って来ると良い。

 報酬に関しては、俺が約束にこだわるのは知ってるだろ?」


 清宏はローエンとグレンを交互に見てニヤリと笑った。

 3人は明日以降の予定を話しながら拠点であるバーまで戻ると、朝まで飲み明かした。

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