第15話ビッチーズ

 リリアーヌとアルトリウスを召喚した翌日、清宏はアルトリウスの配下であるアンネロッテを工房に招き、今後作成するアイテムなどについて話をしている。


 「清宏様の造られた発明品はどれも斬新で素晴らしい物ばかりです・・・。

 特に冷蔵庫は、王都など流通の盛んな場所で売り出せば、人の一生では使い切れない程の財産を手に入れる事も可能だと思います。

 清宏様は、何故この様な物を造れるのでしょうか?」


 アンネは尊敬の眼差しで清宏を見る。

 とても吸血鬼とは思えない澄んだ目をしている。

 清宏は、照れて顔が真っ赤になっている。


 「あぁ・・・その事なんだが、リリが帰って来てから話そうと思ってたんだ。

 まぁ、アイテムの説明も終わって暇になったし、アンネだけには先に言っておこうかな?」


 「あ、いえ・・・流石に私がアルトリウス様やリリ様より先にお聞きするのは・・・」


 清宏の発言にアンネは慌てている。

 アルトリウスの配下であるアンネは、主人より先に聞く事に抵抗があるようだ。


 「それは、君とアルトリウスの間での話だろ?

 俺やリリスにとっては、君もアルトリウスも仲間である事に変わりはないよ。

 君はアルトリウスの配下かもしれないけど、俺やリリスは君をアルトリウスより下だとかは思っていない・・・皆平等なんだよ。

 だから、少なくとも俺の前では気にしなくて良い。

 それに先に君に話しておけば、アルトリウス達に話す間に他の仕事も頼めるからね」


 清宏が微笑むと、アンネは申し訳なさそうに頭を下げた。


 「過分な計らい、感謝しても仕切れません・・・」


 「真面目だなぁ・・・本当に吸血鬼なんだよね?」


 清宏が尋ねると、アンネは恥ずかしそうにはにかんだ。


 「アルトリウス様にも、よく向いていないと言われてしまいます・・・」


 「そんな事言うなら、あいつも何で君を配下にしたのかね・・・?」


 「アルトリウス様は、見た目で選んだと言っておられました・・・」


 呆れた清宏は真顔になる。


 「アンネ、あいつに不満がある時は俺に言いなさい・・・」


 「い、いえ・・・!アルトリウス様は良くしてくださいますので問題ございません!

 ですが一つだけお願い出来るのであれば、アルトリウス様の考えた美しいポーズを私にさせて眺めるのは、恥ずかしいのでやめていただきたいなとは思います・・・」


 アンネは顔を真っ赤にして震えている・・・思い出しただけでも恥ずかしいのだろう。


 「よし、俺からそれとなく言っておくよ・・・。

 んじゃまぁ、さっきの話なんだけど」


 清宏が話を切り替えると、アンネは居住まいを正した。


 「何で俺があんな発明品を造れるかなんだけど、それは俺が異世界から来たからなんだ・・・。

 俺が造ってるのは、実際に向こうの世界にある物の模造品なんだよ。

 1カ月前、俺はこの世界に突然飛ばされた・・・今まであって当たり前だった物が急に無くなったら不便だろ?

 だから、こっちの技術を使って似た様な物を造ったんだ。

 正直、俺が造った物なんて向こうの世界の物には遠く及ばない・・・まだまだ改良が必要だよ。

 まず、使用する魔石の数を減らせるようにしないとコストがかかり過ぎるから、商品化は出来ないし、もうちょっと細かい温度調節が出来るようにしたいかな」


 説明をしている清宏がアンネを見ると、彼女は目が点になっていた。

 頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいそうな表情だ。


 「まぁ、信じるか信じないかは君に任せるよ。

 これからは君も色々と手伝って貰うからよろしくね!」


 「は、はい!私も努力いたします!」


 我に返ったアンネは、胸の前で両手の拳を握り、清宏に誓った。


 「清宏、大変じゃー!!」


 2人が話をしていると、工房のドアが勢いよく開き、汗だくになったリリスが入って来た。


 「何だよ騒々しい・・・」


 清宏はため息混じりに振り返ると、リリスはニヤニヤと笑っていた。


 「お主も隅に置けんな・・・アンネを見かけんと思っておったら、こんなところに連れ込んでしけ込んでおったか」


 リリスにからかわれ、アンネが顔を真っ赤にして照れる。


 「おい、こっちは真面目な話してたんだ・・・茶化すなら湖に叩き込むぞ?」


 「じ、冗談ではないか・・・いつもの冗談じゃ!頼むから湖だけは勘弁してくれ!!」


 リリスは清宏の剣幕に恐れをなして土下座をしている。


 「それより何かあったのか?大変とか言ってたが・・・」


 清宏が尋ねると、リリスはハッと我に返り、再び慌て出した。


 「それが、今しがたリリが帰って来たんじゃが、すんごいの連れて来おったんじゃ!

 あれはヤバい・・・妾は奴等が何を言っておるのか理解出来ん!」


 リリスは頭を抱えている。


 「了解・・・一体全体リリは何を連れて来たんだよ」


 清宏はため息をついて立ち上がると、リリスとアンネを引き連れて広間へ向かった。

 すると、広間から騒ぎ声か聞こえて来た。


 「おぉ清宏様、よく来てくださいました!私では、奴等は手に負えません・・・!」


 広間に着くと、アルトリウスが困惑した表情で清宏に泣きついた。


 「何があったんだよ・・・」


 清宏はアルトリウスを立たせると、広間に集まっている集団を見て眉間にしわを寄せた。

 その場に集まっている全員が、リリよりも更に過激な服装だった。

 中には殆ど何も着ていない者もいる。

 羞恥心の薄いはずのリリスも、今はアンネの影に隠れてちらちらと様子を見ている。


 「リリ、説明しろ・・・何なんだこの痴女の集団は!?」


 「あんたに言われたから、知り合いに片っ端から声を掛けてきたのよ・・・そしたら、その友達とかも来ちゃってさ」


 清宏に呼ばれたリリは、申し訳なさそうに説明をした。

 清宏はそれを聞いてため息をつき、人数を数えた。


 「20人か・・・よくもまぁビッチばっかりこんなに集まったもんだよ」


 「ごめん、集め過ぎたかなとは思ったんだけど・・・」


 リリが素直に謝ると、清宏は彼女の肩を軽く叩いた。


 「人数を指定しなかった俺の責任だ・・・お前は気にしなくて良い。

 それより、この人数をどうするか・・・」


 清宏が悩んでいると、広間に集まったサキュバス達が清宏を見てニヤニヤと笑い出した。


 「ねぇ、貴方が副官さん?」


 「あぁ、そうだ・・・それがどうかしたか?」


 1人のサキュバスが清宏に話しかける。

 清宏は少し警戒して聞き返した。


 「貴方、童貞よね?良かったら私が貰ってあげましょうか?」


 サキュバスは舌舐めずりをしながら熱い視線を送っている。

 リリは仲間が清宏を挑発するのを見て青ざめる。


 「確かに俺は童貞だが、丁重にお断りする。

 俺は童貞に誇りを持ってるんでな」


 「あら残念、捨てたくなったらいつでも声をかけてね・・・たっぷり可愛がってあげるから」


 清宏に断られたサキュバスは肩を竦めて引き下がったが、彼女の態度を見る限りでは、まだ諦めていないようだ。

 アルトリウスとアンネは、そんな彼女を嫌悪感丸出しの表情で見ている。


 「さて、こうして集まって貰った理由はリリアーヌから聞いていると思う。

 今日は君達に協力を要請しようと思い集まって貰った。

 これは、君達にとっても利のある話しだ・・・」


 清宏が話し始めると、先程まで騒いでいたサキュバス達が静かになった。


 「この話に賛同するなら、絶対に守って貰いたい事が2つある。

 まず1つ目は、君達の部屋に入って来た男を絶対に殺さない事。

 2つ目は男達に尽くし、満足させる事。

 まず1つ目だが、これはこの城の主である魔王リリスの意向だからだ。

 2つ目は、先程言った君達にとって利となる事だ。

 何故満足させるか・・・それは君達に固定客を作り、安定した精の供給を受られるようにするためだ。

 君達は今まで好きに行動し、搾取して来ただろうが、それにはリスクがあっただろう?

 やり過ぎれば目を付けられ、何度となく身の危険を感じる事もあったんじゃないか?

 だが、今回提案した方法ならば、君達は安全に精を得られる。

 もし何かしら問題が発生した場合にはこちらでしっかりと対処をさせて貰うつもりだ。

 ただし、君達がそう言った事に積極的で、それを生業としているのも理解してはいるが、こちらとしては万が一死人を出されては困るので監視をさせて貰う。

 こちらは君達がルールを守り魔石を手に入れられれば、あとは自由にしてくれて構わないと思っている。

 以上がこちらの条件だ・・・交渉をするつもりはないから、嫌なら帰って貰っても構わない」


 清宏の提案を聞き、サキュバス達ばひそひそと話し合う。


 「私も今まで色んな男を見てきたけど、私達をこんな形で利用しようとしたのは貴方が初めてよ」


 「そりゃどうも・・・で、どうする?」


 清宏に問われ、サキュバス達は頷き合う。


 「わかったわ・・・その日暮らしも悪くはないけれど、やっぱり安定した暮らしには敵わないからね。

 貴方の提案、受け入れるわ」


 「受け入れ感謝する・・・数日はこれからについて話をしたい。

 その間、俺の後ろにいるアンネや、今ここには居ないが、レイスと言うスケルトンから人に対する接し方などを習ってくれ。

 男も何かと好みにうるさいからな・・・万人を悦ばせるなら、積極的に行き過ぎるだけではダメだ。

 押しと引きを使い分ければ、君達の技に抗える男はいないだろう」


 「わ、私がですか!?」


 巻き込まれてしまったアンネが涙目で叫んだが、清宏は敢えて無視をした。


 「ふふふ、今から楽しみね・・・。

 貴方、なかなか面白いわね」


 「得する事が解ってるなら、やらない手はないだろう?」


 清宏とサキュバス達は笑っている。

 それは、これから訪れる男達の未来が哀れに思えるほどの悪意に満ちた笑顔だった。


 

 

 

 

 

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