第13話役割

 吸血鬼が気絶から1時間程経過した。

 その間リリスとリリは、罠の確認を終えて戻ってきたレイスにお茶を用意してもらい、楽しそうに談笑していた。

 清宏は自室に戻ってからはまだ一度も顔を出していない。


 「それにしてもリリス様がお堅い方でなくて安心しましたよ!

 何度か他の魔王様にお会いする機会がありましたけど、緊張感ヤバかったですよ?」


 「そうじゃろ?他の奴等は、やれ威厳がどうじゃの部下への示しがつかんだの気にし過ぎなんじゃよ!

 堅苦しいより親しみやすい方が下の者もやりやすかろ?

 まぁ、つい最近まで没落寸前じゃった妾じゃが、今では清宏を始め、レイスやお主もおる・・・あそこで気絶しとる奴はまだわからんが、仲良くやってくれると助かるよ」


 「あー・・・正直、あの清宏って人とは難しいかも知れませんねぇ。

 初対面でビッチとか言われたの初めてですよ・・・」


 リリスは、リリが口を尖らせるのを見て苦笑している。


 「まぁ、あ奴はあれで優しい所もあるんじゃよ・・・面倒見も良いし、不殺を誓っておる妾のため、愚痴りながらも仕事はきっちりこなしておる。

 今日から訳あって休ませるつもりじゃったが、早速頼ってしまった・・・それでも、あーだこーだ言いながらも何かとやってくれる。

 お主も、あ奴はの事を知ればきっと気に入ると思うぞ?」


 「努力してみます・・・」


 「ははは、ゆっくりで良いんじゃゆっくりでの・・・」


 リリスは、俯くリリを見て笑っている。


 「ぐ・・・ここは?」


 気絶していた吸血鬼が目を覚まし、室内を見渡す。

 それに気づいたリリスが席を立ち、近寄る。


 「どうじゃ、目は覚めたか?」


 「私は何を・・・そうだ、あの男は!あの男はどこだ!?」


 吸血鬼はリリスの肩を掴むと、清宏の居場所を尋ねる。

 すると、リリスの後ろに清宏が現れた。


 「俺ならここだよ」


 「おぉ清宏!凄いなお主、なぜこやつが起きたのがわかった?」


 「レイスが報せに来たからな・・・どうする、続きをするか?」


 清宏は吸血鬼を睨むが、吸血鬼は首を横に振った。


 「内容はどうあれ、私は負けた・・・ならば、敗者は己の全てを勝者に委ねるのが道理、お前の好きにするが良い」


 「そうか・・・お前にその気が無いなら別に良い。

 それより、傷の具合はどうだ?」


 吸血鬼は清宏に問われ、自分の顔を手鏡で確認する。


 「これは・・・いくら私が吸血鬼とは言え、普通あれだけの傷がここまで早く回復するとは思えない。

 焼かれた目の回復速度も異常だ・・・私が気絶している間に何かしたのか?」


 「それは魔王の従者になったからじゃないか?あと、俺がポーションをぶっかけた。

 流石に俺も、他人の大事にしてる物を傷つけたままってのは気が引けるからな。

 目が覚めたなら席に着け、今後について決めておきたい。

 あぁそれと、負けたら全てを委ねると言っていたが、それは俺じゃなくてリリスにしろ・・・お前を召喚したのはあいつだからな」


 吸血鬼は目を伏せ、清宏に頭深々とを下げる。


 「お心遣い感謝いたします・・・」


 「気にすんな。

 レイス、俺にも緑茶くれ・・・お前は何か飲むか?言っておくが、血は無いからな?」


 清宏はリリスの隣に座り、吸血鬼を正面に座らせる。

 吸血鬼は清宏と同じ緑茶を頼んだ。


 「お前も緑茶か、飲んだ事あるのか?」


 「いや、聞いたこともありませんな。

 私は、新しい物には挑戦せねば気が済まぬ性格ですので・・・」


 吸血鬼の言葉を聞いて清宏は小さく笑う。


 「俺に敬語を使うなよ・・・見た目はガキだが、お前の主人はリリスなんだからな」


 「見た目は余計じゃ!本当にお主という奴は・・・。

 さて、やっとゆっくりと話が出来るの!

 妾の名はリリス、お主を気絶させたのは副官の清宏、向こうで茶の用意をしておるのはレイスと言う。

 お主の隣におるサキュバスはリリアーヌ、その者もお主同様、今日妾に召喚された。

 人数は少ないが、清宏のお陰でお主達を召喚出来る程の余裕が出来た。

 こうやってお主達に会えた事、嬉しく思うぞ」


 改まって挨拶をするリリスを見て、2人は慌てて席を立とうとしたが、リリスに止められる。


 「そう畏るでない・・・妾は堅苦しいのは苦手での。

 では、お主の名をまだ聞いておらんかったし、自己紹介をたのめるかの?」


 リリスは吸血鬼に話を振り、優しく微笑んだ。


 「名乗るのが遅れてしまい申し訳ありません・・・私の名はアルトリウス、吸血鬼でございます。

 配下が1人おりますので、私共々好きに使って頂いて構いません」


 「そうか、ではお主の配下もここに呼ぶが良い。

 皆で暮らした方が楽しいであろう?」


 「お心遣い感謝いたします・・・あの者も喜ぶでしょう」


 恭しく頭を下げるアルトリウスに、リリスは笑顔で頷いた。


 「自己紹介は終わったな・・・では、今後について話をしたい」


 自己紹介が終わったのを見計らい、清宏が話を切り出した。


 「そう言えば、お主はアルトリウスが気絶しとる間、部屋で何をしとったんじゃ?」


 「調べ物だよ・・・サキュバスと吸血鬼について色々と調べてた。

 俺の知っている情報と齟齬があったら困るからな」


 清宏は、当然であると言いたげにリリスを見ている。


 「お主は相変わらず真面目じゃな・・・で、何か解ったか?」


 「んー・・・そこまで大きな違いはないみたいだな。

 強いて言うなら、サキュバスは処女の方が知能が高いと言うか性欲が低いらしいから、俺としては指示がしやすい。

 俺が知ってるのは見境ないのばかりだからな・・・。

 吸血鬼は、故郷の土が無くても大丈夫って事くらいだ。

 それ以外は大した違いはなさそうだな」


 「ふむ、まぁ個体差もあるじゃろうし、その辺は2人に聞けば良いじゃろう」


 清宏は頷き、リリとアルトリウスを見る。


 「リリ、まずお前に頼みがある」


 「何かしら・・・最初に言っておくけど、エロい事しろとかだったら断るわよ?」


 リリは顔を赤らめ、もじもじとしている。


 「お前には頼まんよ・・・それに、俺自身がそういうのを望んでるわけじゃないからな?

 お前には、何人か仲間を連れて来て欲しい。

 まず城内にいくつか部屋を造り、そこで待機してもらう・・・俺が男だけのパーティをその部屋に誘導するから、そいつらをお前の仲間達に襲わせろ。

 ただし、一つだけ絶対に守って欲しい事がある・・・仲間ではなく、男達を満足させることだ。

 そうすればリリスの不殺を実行出来、なおかつ魔石を得られるし、男達を虜にすればお前の仲間達も定期的に精を得られる」


 清宏の提案を聞き、リリは興味深そうに何度も頷いている。


 「それなら他の子達も納得してくれるとは思うけど、正直なところ絶対に約束を守れるとは言えないわよ・・・だって、かなり性欲に忠実よ?」


 「そこでお前の役目だが、そいつ等の監視役を頼みたい。

 お前の仲間達がヤリ過ぎないように常に監視してくれ」


 「げ・・・私に人の情事を監視しろって言うの?」


 リリは乗り気になれないらしい。


 「俺にはダンジョンマスターの仕事があるし、罠の管理をレイスだけに任せる訳にはいかないからな・・・まさか、リリスに頼む訳にはいかないだろ?」


 「うぅ、解ったわよ・・・ていうか、何であんたがダンジョンマスター持ってるの?リリス様じゃないの?」


 リリは渋々と了承したが、清宏のスキルについて聞き返した。


 「あぁ、ダンジョンマスターはリリスから譲って貰ったんだよ。

 そのおかげでトラップメーカーがトラップマスターになったけどな」


 「トラップマスター?何それ凄いの?」


 「まぁ、そこはおいおい教えてやるよ。

 で、どうなんだ?やってくれるか?」


 リリは大きくため息をつくと、諦めた様に頷いた。


 「よし、次はアルトリウスだが、お前には近隣の町や村での情報収集や拡散を頼みたい・・・そうすれば、冒険者や住人を誘き寄せ、魔石の確保が捗るからな。

 お前は見た目が完全に人間だし、蝙蝠などに化ければ怪しまれる心配はないだろう」


 「お任せ下さい、必ずやお役に立ちましょう」


 アルトリウスは快く受け入れ、3杯目になる緑茶を飲んだ。

 緑茶が気に入ったらしい。


 「それとこれは個人的な事なんだが、2人はトラップメーカーかアイテムメーカーのスキルを持っているか?

 これから訪れる人数を増やして行くとなると、数が足りない・・・俺とレイスの補佐を頼みたいんだ」


 「申し訳ないけど、私は持ってないわね・・・まぁ、持ってたとしても手伝う余裕があるとは思えないわ」


 リリは肩を竦めた。


 「ふむ、残念ながら私も持ってはいませんが、私の配下であれば持っております・・・今すぐ呼びましょうか?」


 「本当か?出来れば今すぐ頼みたい!」


 清宏は歓喜し、アルトリウスに頭を下げた。


 「では、すぐにでも・・・」


 アルトリウスは席を立つと、壁際まで歩き窓を開けた。

 しばらく待っていると、開いた窓から1匹の蝙蝠が部屋に入って来た。


 「あははははは!やっぱりご主人様の罠は最高ー!!」


 アルトリウスが窓を閉める直前、変態シーフの楽しそうな声が聞こえて来た。

 それを聞いた清宏とリリスは深いため息をつく。


 「楽しそうね・・・外に何かあるの?」


 「気にしたら負けじゃよ・・・」

 

 リリはリリスの言葉に首を傾げたが、深く追求する事はなかった。

 先程入ってきた蝙蝠が部屋の中を旋回している。


 「皆様にご挨拶を・・・」


 アルトリウスが話しかけると、蝙蝠はテーブルの前の床に降り立った。

 すると、蝙蝠がみるみるうちに大きくなり、やがて人の形になる。

 人型になった蝙蝠は女性だった。

 髪は白銀に輝き、肌は白く、赤い瞳を持った17〜18歳くらいの少女だ。

 アルトリウス同様、貴族の様な真っ赤なドレスを着ている。


 「お初にお目にかかります。

 アルトリウスの配下、アンネロッテと申します・・・皆様にこうしてお会い出来た事、光栄至極に存じます」


 アンネロッテはドレスのスカートを摘むと、恭しく頭を下げた。

 姿も相まって、どこぞの貴族の令嬢のように見えてしまう。


 「ほほう、これはまた美しいな・・・アルトリウス、お主やりおるな?」


 「お褒め頂き光栄でございます。

 この者は、長い年月を掛けて厳選した私の最高傑作にございます」


 リリスに褒められたアンネロッテは、頬を染め口元を隠している。

 正に淑女然とした振る舞いだ。


 「アンネロッテか・・・呼びにくいからアンネで良いかな?」


 「はい、お好きな様に呼んでくださって構いません」


 清宏に話しかけられ、アンネは朗らかに微笑む。

 それを見た清宏は、顔を赤くして目を逸らした。


 「あー・・・じゃあアンネには、俺とレイスの手伝いを頼むよ。

 罠については、俺が用意したものをコピーしてくれたら良い。

 俺はしばらく休養を言い渡されてるから、設置場所とか詳しくはレイスに聞いてくれ。

 アイテム製作に関しては、俺の補助を頼みたい。

 造りたい物が多過ぎて1人じゃ足りないんだよ・・・。

 それとこれは出来たらで良いんだが、リリと2人でリリスの世話も頼む。

 そいつに淑女の何たるかを叩き込んでくれ・・・今のままじゃ城主としてあまりにも頼りないからな」


 清宏は照れ隠しのため、矢継ぎ早に指示を出すが、アンネはそれをまったく気にしておらず、聞き逃さないよう真剣な表情で頷いている。


 「清宏の好みのタイプはアンネの様な女子か・・・何だか面白くないの」


 リリスは口を尖らせ、清宏を睨んでいる。


 「何だよその目は・・・」


 「べーつにー・・・何でもないわい」


 清宏はリリスの責める様な視線に気付いて問いかけたが、リリスは頬杖をついたままそっぽを向いた。

 


 

 


 

 

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