第10話マゾ(真性)と不憫な仲間達
清宏とリリス、スケルトン3人での生活が始まって1ヵ月が経った。
その間、城を訪れる者達が増え始め、徐々にではあるが、魔石の備蓄も増え、清宏は罠の補充やアイテム作成に勤しんでいた。
だが、一つだけ大きな問題が発生していた。
「どうぞ、開いてるよ」
清宏が、自分用に配置した部屋でアイテム作成をしていると、何者かに扉をノックされた。
清宏が作業を中断して振り返ると、スケルトンが扉を開けて入ってきた。
「あぁ、レイスか」
清宏はスケルトンを見て、笑っている。
レイスとは、清宏とリリスが付けたスケルトンの名前だ。
名前を含め、人間時代の記憶の殆どを失っていた彼のため、2人で考え名付けたのだ。
「トラップメーカーには慣れた?」
レイスは自我を持っていたため、清宏の指導のもとトラップメーカーを習得している。
それ以降、清宏は自分がアイテム作成をしている間の罠の管理や設置、回収などはレイスに一任するようにしている。
侵入者が来た場合は清宏がメインになるが、前もって設置しておく罠に関しては、彼の練習がてらやらせている。
(作業中に申し訳ありません。
清宏様・・・また奴等が来ましたが、どうなさいますか?)
レイスは清宏に造って貰った黒板とチョークを使い報告する。
黒板に書かれた内容を見て、清宏は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「はぁ・・・わかった、今行くよ」
清宏は面倒臭そうに席を立ち、部屋を出る。
レイスは清宏に一礼し、清宏が先に行くのを待って部屋を出た。
「おぉ清宏、やっときたか・・・」
清宏が広間に着くと、リリスがうんざりした表情で出迎えた。
「また来たんだって?あいつら何度目だよ・・・」
「2〜3日に一度は来とるな・・・最初はありがたかったが、こうも来られると正直うざいの」
清宏はリリスの隣の椅子に座り、水晶盤を覗き込む。
「今の状況は?」
「いつもの女が、お主の罠に掛かって湖に落ちたところじゃよ・・・あの女、落ちる瞬間、嬉しそうに笑っておったぞ」
リリスは清宏に状況を説明し、身震いしている。
レイスも黒板に何やら書いているようだ。
(あの女は、私の仕掛けた罠には全く掛からないのですが、清宏様の罠には全て掛かっております・・・私の罠は、そんなに分かりやすいのでしょうか?)
書き終わったレイスは、それを清宏に見せて肩を落とす。
表情は読み取れないが、悔しそうな雰囲気を醸し出している。
「違うよ・・・レイスの罠は決して悪くない。
事実、他の侵入者達は高確率で引っかかってるだろ?あの女は、俺の罠だけを狙ってるんだよ・・・。
癖を見抜かれたかな・・・次は気をつけよう」
(何故そのような事を?)
レイスは首を傾げている。
「さぁな、馬鹿の考えてる事は解らん!」
「お、あの女が戻ってきおったぞ!」
水晶盤を見ていたリリスが、罠に掛かって湖に落ちた女が仲間達の居る部屋に戻って来たのを確認し、清宏に知らせた。
「うわぁ・・・目が輝いてるんですけど?
何あれ、マゾなの?」
「正直、得体が知れぬな・・・」
(同感です・・・)
3人は、水晶盤を見て息を飲んでいる。
「このままじゃ埒があかないな・・・あいつら呼んで注意しようか?
ここから設置出来るとは言え、せっかくの罠が使い物にならなくなって迷惑だからな・・・」
「お主がしたい様にすれば良い・・・大人しく諦めてくれたら良いんじゃがの」
清宏は、面倒臭そうにダンジョンマスターのスキルを行使し、件の女のパーティを広間に招く事にした。
「さて、あいつらが入って来る前に予防線張っとかないとな」
清宏は、造った扉を囲うように空気の壁を作成し、女達を待つ。
水晶盤で確認すると、女達は移動を始めるところだった。
ドアノブがゆっくりと動き、扉が開く。
「よう、久しぶり・・・」
扉を開けて入って来た女達に、清宏は手を挙げて挨拶をする。
女達は突然の事に驚き、自分達が居た部屋と清宏を交互に見ている。
「あー、説明は面倒臭いからそのまま聞いてくんない?」
清宏が話しかけると、1人の男が我に返り、その表情が怒りに染まっていく。
「やっと見つけたぞこの野郎!!」
男は清宏に怒鳴り、剣を抜いて斬りかかろうとしたが、空気の壁で阻まれた。
斬りかかろうとした男は、清宏が最初に撃退した剣士だった。
他のメンバーも、その時と同じようだ。
「まったく・・・ちゃんと学習しようよ、脳みそきんにくん。
1ヵ月前も同じ手に引っかかっただろ?」
「俺に変なあだ名を付けんじゃねえ!!」
ヘラヘラと笑っている清宏を見て、男はさらに怒りを増している。
男の仲間達は、清宏の付けたあだ名を聞いて、笑いを堪えている。
「まぁ、そんな事はどうでも良いんだよ・・・正直、君達の相手をするのは疲れるんだよね。
君達、これで何回目?暇なの?」
清宏の言葉を聞いた剣士は口籠もり、他の仲間達も同じ様に複雑そうな表情をしている・・・いや、1人だけ残念そうな表情をしている。
先程、罠に掛かっていたシーフの女だ。
清宏はそれを見逃さなかった。
「君、何回も罠に掛かってるけどさ、あそこに罠があったの知ってただろ?
俺が仕掛けた罠にだけ必ず掛かってたよな?」
清宏が話しかけると、シーフは目を逸らした。
「ソ、ソンナコトナイヨー」
シーフは完全に棒読みだ。
シーフの仲間達は、冷ややかな目で彼女を見ている。
怪しいとは思っていたのだろう。
「俺の自慢の滑り台はたのしかったか?」
清宏が尋ねると、シーフは目を輝かせた。
「もう、最高でしたよ!!罠に掛かって死んだと思ったら、長い滑り台ですよ!?
途中でツイストしたり、一回転したり、あんなスリリングな滑り台は今まで経験した事がありません!!何回やっても遊び足りないくらいですよ!!あぁ・・・もう一度滑りたい!!」
「わざとじゃねーか・・・」
清宏は、興奮して語るシーフを見て呆れている。
仲間達は、皆虫を見る目でシーフを見ているが、彼女はまったく気づいていない。
「まぁ、楽しんでくれたならそれで良いよ・・・でも、正直遊びに来すぎじゃない?」
「俺は遊びじゃねぇ!」
剣士が怒鳴った。
シーフ以外の面々は、剣士の言葉に頷いている。
清宏はそれを見て、ため息をつく。
「あのさ、彼女が楽しんでる事に薄々感付いてたんだろ・・・なんで気付いてて何も言わないんだよ?
気付いてて注意しなかったなら、あんた達も同罪だよ・・・」
「ぐっ・・・それは、罠を解除出来るのがあいつしか居なかったから仕方なくだな・・・。
それに、こいつは確かに罠には掛かっていたが、他はちゃんと仕事をこなしてたから・・・」
注意された剣士は、途端に弱気になった。
返す言葉が見つからないようだ。
「はぁ・・・次からは気をつけなよ?
掛かったのが、取り返しのつかない罠だったらどうすんのさ?
それと君、よく俺の罠だって解ったね?」
清宏は口籠る剣士に再度注意し、シーフに向き直り尋ねる。
「いやぁ、何となく解りやすかったですね・・・」
清宏は、シーフの答えを聞いて驚いた。
「気をつけてたはずなんだけどな・・・癖が出てた?」
「いえ、何と言いますか・・・1ヵ月前、廊下での罠があったじゃないですか?
あの時、本当に死ぬかと思うほどの罠でしたけど、貴方はあんな大掛かりな罠を囮にして、安心させた後に恐怖心を煽り、それでも敢えて殺さなかった・・・。
これまで貴方が仕掛けた罠も、普通なら仕掛けない様な嫌らしい場所に設置してあったり、逆に敢えて定石通りに設置して虚実を織り交ぜる事で相手の混乱を誘う・・・。
他人の不幸を嘲笑うのかのような見事な鬼畜加減でした・・・。
私、それを見てピンと来たんです!貴方は、真性のサディストだって!」
シーフは頬を赤らめ、身体をくねらせている。
「・・・あのさ、それってつまりどう言う事かな?」
清宏は、彼女の表情を見て顔を引きつらせながら辛うじて尋ねた。
「私・・・責められたり、焦らされるのが好きなんです!」
「ぶっ!?・・・気をつけろ清宏!こやつ変態じゃぞ!!?」
シーフのカミングアウトに、それまで柱の影に隠れて様子を伺っていたリリスが絶叫した。
「こ、子供・・・!?しかも可愛い!?」
シーフの仲間のヒーラーが、飛び出して来たリリスを見て歓喜している。
だが他の面々は、シーフを憐れみの目で見ていてリリスに気付いていない。
「君達、いくら優秀でも仲間は選んだ方が良い・・・」
「お前に言われるのは癪だが、正直、俺もそう思う・・・」
清宏と剣士が互いに頷く。
「清宏・・・妾は、生まれて初めて世界の広さを感じておるぞ」
「あぁ、俺もだ・・・だが気をつけろリリス、こう言う輩は放置しても性的興奮を覚えてしまうからタチが悪いんだ!」
清宏とリリスは、ジリジリと後退る。
「何故後退るんですか!?私、運命を感じてしまったんです・・・私を貴方のお側に置いて頂けませんか?最悪、肉奴隷も可ですから!!」
息の荒いシーフは空気の壁に張り付き、清宏に熱い眼差しを送っている。
「おい、やめろ!あいつを刺激して、また罠に掛けられたらどうする!?」
剣士と槍使いは必死にシーフを止めているが、シーフはまったく聞いていない。
「君、お名前は?何歳かなー?」
ヒーラーは怯えているリリスしか見えていないようだ。
魔術師はすでに諦めの表情で騒ぐ仲間を見つめている。
(清宏様、どうなさいますか?肉奴隷として雇われますか?)
今まで、完全な骨格標本と化していたレイスが清宏に尋ねる。
「しねーよ!!」
清宏は涙目で叫ぶ。
リリスも必死に首を横に振っている。
(では、お引き取り願いましょう)
「それだ!!」
清宏は、急いで落とし穴を発動させる。
「またかよ!?」
「あーん、ご主人様ー!!」
「待ってください!あの子と!あの子とお話しを!!」
剣士と槍使いはうんざりした表情で、シーフは恍惚とした表情で落下していく。
ヒーラーは最後までリリスしか目に入っておらず、魔術師はただ現実を受け入れ、無言のままだった。
「悪は去った・・・」
清宏とリリスは互いに抱き合って震えた声で呟き、レイスは何事も無かったかのように部屋の片付けを始めた。
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