第8話収穫

 清宏は侵入者達が無事に湖の岸まで泳ぐのを見届け、窓を消す。

 リリスは驚き疲れてグッタリとしているが、清宏はいたって元気だ。


 「ところで、奴等の排除が成功した訳だが、魔石ってどの位稼げたんだ?」


 「んあ?あぁ・・・確認せんといかんな。

 清宏、ちとマップを出してくれんか?部屋に案内する」


 清宏は、リリスに従ってマップを出し、指定された部屋の扉を呼び出した。


 「この部屋の扉だけは特別での、この部屋にしか呼ぶ事が出来ん・・・まぁ、防犯のためじゃな。

 今回は、魔術師とヒーラーがおったから結構溜まっておると思うぞ」


 リリスが扉を開けて先に部屋に入り、清宏を手招く。


 「その2人がいたら増えるのか・・・やっぱり、術を使う奴等ってのは魔力も多いからか?」


 「うむ、前衛職は体力勝負じゃから魔法や術を得意としておる者は少ないな・・・まぁ、例外として勇者や魔法剣士などと言った者もおるが、殆どの者達は魔力が少ない。

 逆に魔術師やヒーラーなどの後衛職は、魔法や術によるサポートが主じゃから、基本的に魔力量も多い。

 まぁ、後衛職にもアーチャーなど例外はおるがな・・・」


 リリスが清宏に説明しながら薄暗い部屋の中を進むと、部屋の中央で足を止めた。

 部屋の中央には、水を張った大きな杯の様な物があり、その上には天井から巨大な氷柱が生え、先端から赤い雫を滴らせていた。


 「ふむ、奴等は長居しとったから結構出来ておるな」


 リリスは杯の中に手を入れ、水の中から赤い小石を取り出した。

 

 「へぇ・・・こんな感じで出来るんだな?」


 「どうじゃ、なかなか美しい光景であろう?」


 清宏が杯の中を覗くと、そこには20個近い魔石が沈んでいる。

 氷柱からは今だに雫が滴っているため、まだ生成途中なのだろう。


 「いくつあれば魔召石に出来るんだ?」


 清宏がリリスに尋ねると、彼女は天井を見上げた。

 ボソボソと小声で呟いているところを見ると、計算をしているのだろう。


 「そうじゃなぁ・・・大きさ順で言うならば、仲間などを召喚するには、最低でも10個は必要じゃな。

 より高位の者を召喚するには、倍近く必要じゃ。

 アイテムや素材の場合は、アイテムで5個以上、素材ならば3個もあれば出来る」


 計算を終えたリリスは、指で数えながら答えた。


 「そう言えば、召喚で手に入るアイテムや素材、仲間はランダムなんだよな?」


 「うむ、その通りじゃな」


 清宏は、リリスの答えを聞いて首を傾げている。


 「あのさ、魔石には属性付与が出来るんだろ?なら属性付与した魔石から魔召石を造るか、魔召石自体に属性を付与すれば、少なくとも召喚出来る対象を絞れるんじゃないのか?」


 清宏の提案に、リリスは肩を竦める。


 「それが出来るならやっておるわ・・・」


 「まぁ、だと思ったよ・・・取り敢えず、理由を聞いても良いか?」


 清宏が尋ねると、リリスは小さく頷いた。


 「そうじゃな、知っておいて損は無かろう・・・では、魔石についてのおさらいじゃが、通常の魔石には属性が無いと言ったのは覚えておるな?

 属性を持たず、体内から滲み出た魔力や魔素が、結晶化する事で安定した状態になったのが魔石なんじゃ。

 魔石が厄介なのは、一度魔力を注入すると他の力を受け付けなくなる事なんじゃ・・・安定しておった魔力が、属性を付与する事で活性化すると言ったら良いかの?

 魔石内部の魔力が属性を帯びて活性化する事で、初めて付与された属性の効果が発揮されるんじゃ。

 先程お主が言っておった属性付与の魔召石の生成なんじゃが、まず魔石には個体差があり、一度魔力を注入すると、活性化した魔石内部で、付与された属性が渦巻いてしまう・・・属性の付与された魔石から魔召石を造ろうとすれば、大きな力を持つ魔石が、小さな魔石を弾いてしまい纏まらぬのじゃ。

 次に魔召石に直接属性を付与する方法も、我々魔王が魔召石を生成する場合には大量の魔力を注入せねばならぬ為、生成と属性付与の2種類の魔力調整をするのが難しく、属性付与が不可能じゃし、生成後では属性を受け付けぬ・・・以上が属性付与の魔召石が造れぬ理由じゃな。

 自分で言っておいてなんじゃが、正直何故出来んのか頭に来るわ・・・」


 リリスは忌々しげに魔石を睨んでいる。


 「へぇ・・・便利なだけじゃないんだな。

 でも、不可能と言われると挑戦したくなる俺がいるんだな」


 清宏が何気なく呟くと、それを聞いていたリリスが噴き出した。


 「お主なら何とかしそうだから不思議じゃわい!まぁ、期待せんで待っとるよ!」


 「ふむ、じゃあ暇な時はアイテムメーカーを育ててみるかな・・・お前の話だと、自分の力だけでやるのが前提だろ?

 なら、それ以外の方法を試すのも悪くないと思うぞ?例えばお前が魔召石を生成する時に、お前は生成に集中して、それと同時に安定して属性を供給出来る装置とかさ」


 清宏のアイデアを聞き、リリスが真顔になる。


 「それは面白そうじゃな・・・本来、体外に出た魔力と言うのは非常に不安定なものじゃ。

 それを術式で安定させた物が魔法や魔術になる・・・。

 お主の言う装置を魔法や魔術でいうところの術式、活性化した魔石を体外に出た不安定な魔力と考えれば、属性の供給を安定させることが出来るかもしれんな・・・そうすれば、魔召石を生成しつつ属性付与が可能になる・・・清宏、お主にそれが出来るか?」


 「出来るかどうかじゃない・・・やるかやらないかだろ?

 なら、俺はやってやるよ・・・そんな事も出来ないようじゃ、向こうの世界に帰るなんて夢のまた夢だからな!」


 清宏は笑顔で答え、リリスは満足そうに頷く。


 「ふふふ・・・妾にとって今日は最良の日じゃな!お主は鬼畜な上に理不尽で、とても褒められるような性格ではないが、妾は今日得られた魔石より、お主と出会えた事こそが最も嬉しい収穫じゃ!!」


 リリスは笑顔で清宏に握手を求め、清宏もそれに笑顔で応えると、彼女の手を全力で握り潰す。


 「鬼畜?理不尽?褒められた性格じゃないだと?装置の制作を誰に頼んだか言ってみろ!?」


 「ぎゃーっ!?ごめんなさい!ごめんなさい!清宏様にお願いしたのじゃ!!妾が悪かったのじゃ!!!」


 リリスは泣きながら謝罪し、何とか清宏の許しを得たが、その後しばらくの間、リリスのすすり泣く声だけが魔王城に響き渡った。

 

 

 

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