第7話初仕事②
「それで、どうするのじゃ?すぐに排除してしまっては魔石は手に入らぬぞ?
具体的にどうするか、そろそろ教えてくれぬか?」
リリスは、水晶盤を見ながら侵入者の動向を監視している清宏に問い掛けた。
「そうだな・・・まず、1階部分では何も仕掛けないよ。
仕掛けるとすれば2階以降からだけど、しばらくは、直接罠に掛けるような事はしない。
それとリリス、お前が所持している宝とか素材はどのくらいある?」
清宏に聞かれ、リリスはアイテムボックスを確認すると、申し訳無さそうに彼を見た。
「正直、あまり質の良い物は無いの・・・今後を考えると、出せるのはせいぜい10〜20と言ったところじゃが・・・それにしても、お主はやはり鬼畜じゃな!
一度アイテムを手に入れさせてから罠に掛け、奪い返して排除するとはなんたる策士・・・お主は友人が少ないのではないか?」
リリスは清宏に畏怖の視線を向ける。
「否定はせんが、俺が来るまでぼっちだったお前には言われたくないな・・・それより、今何て言った?宝を奪い返せるのか?」
「あぁ、お主は知らなんだか・・・お主は飲み込みが良いからつい忘れておったが、魔王城やダンジョンでのアイテム取得条件は、窓を除いた外部に通じておる正規のルートから持ち出すしか無いんじゃよ。
要するに扉からしか無理と言うことじゃな!」
清宏は大きくため息をつくと、リリスをジト目で睨んだ。
「そう言った大事な事は、絶対に忘れるなよ・・・折角の計画が練り直しだ」
「う・・・すまんの」
「まぁ良い・・・でも、だったら何でお前は没落寸前なんだ?
スキルで出口塞げば良いだけだろ?」
清宏が問い掛けると、リリスは苦笑した。
「それじゃと、侵入者が餓死してしまうじゃろ?
じゃから罠に掛からなければ、帰す他なかったのじゃよ・・・」
「あぁ、確かにそうなっちまうか・・・お前は不殺を信条にしてるしな。
さてと、奴等はまだ1階のメインロビーで話し合い中だし、今のうちに1階に宝を三つだけ設置しておこう。
理由は後で説明するが、設置するのは、お前が所持している物の中でも、下の上から中の中クラスの物を三つだ。
策を練るのは、奴等が2階に上がるまでに何とかするよ」
「了解じゃ!では、お主はそこで奴等の監視をしておれ!」
リリスは、素早くアイテムボックスを開くと、属性の付与された魔石と金属のインゴットなどを三つ取り出して走り出し、それを見た清宏は、リリスの向かった方向の部屋の壁に、新たな扉を作り出した。
「さてと・・・予定が大幅に変更になっちまったな。
さっきの計画のままじゃ、奴等をまた来させるなんて無理だからな・・・」
清宏が水晶盤に映る冒険者達を観察していると、そのパーティには上下関係がある事が見てとれた。
それに気づいた清宏は、静かに笑っている。
「おーい、終わったぞ!ん?どうしたんじゃ・・・何かあったのか?」
宝の設置を終えたリリスが戻り、ニヤニヤと笑う清宏を見て訝しんでいる。
「いやぁ、ちょっと良い策が浮かびそうでさ・・・で、ちゃんと設置したか?」
「うむ・・・じゃが、設置するアイテムについて、何故あんな細かく指定をしたのじゃ?」
リリスは自分に向き直った清宏に、首を傾げて質問した。
清宏は腕を組むと、真面目な表情で答え始めた。
「あれは、奴等を満足させないためだよ。
お前は、コース料理を知っているか?今設置させたアイテムは、フルコースで言うなら前菜なんだよ。
俺はコース料理はあまり好きじゃないんだが、それぞれの役割については、深く考えられていて素晴らしい物だと思っている。
フルコースにおける前菜の役割、それは食欲を刺激する事、さらには店のこだわりなどを示す事なんだ。
今設置させたアイテムは、良くも悪くも普通だ・・・だが、奴等の興味を惹くには十分な物だと思う。
お前が持って行ったのは、属性の付与された魔石とインゴットだったよな?
あれなら新たな武具の素材にうってつけだし、売ればある程度の金にもなるだろう。
さっき設置したのは、奴等にとっては美味しい宝だ・・・だが、ただの素材だけでは満足はしないだろう。
もし俺が何も知らない奴等の立場なら、まだ良い物がある可能性を信じ、先に進む。
前菜は、決して相手を満足させてはいけないんだよ・・・そうじゃないと、次に繋がらないからな」
清宏は、リリスが理解しやすいように丁寧に説明したが、当のリリスは呆気にとられ、口をあんぐりと開けている。
「お主、この仕事にうってつけの性格をしとるな・・・まさかそこまで考えて設置するとはな」
「考え無しに設置したら、損するだけだろ?
奴等には、この城に興味を持って貰わないと困るからな!」
清宏が胸を張って威張ると、リリスは小さく拍手をした。
「さてと、計画変更についてだが・・・」
「その事なんじゃが、変更する必要があるのか?ただ排除するだけであろう?」
リリスは清宏の説明に割り込む型で質問してしまう。
怒られると思ったのか、リリスは身体を竦めた。
「ビビんなよ・・・ちょうど今それについても説明する所だったんだよ。
さっきまでの計画では、奴等に美味い思いをさせて、気を良くしてから排除するつもりだったんだよ・・・そうすれば、奴等はまたやって来る可能性が高いからな。
だが、扉なんかの出入り口を使えない上に、排除したら奴等には何も残らないとなると話は別だ・・・奴等にとって旨味が全く無いからな」
「う・・・確かにそうじゃな。
奴等に美味い思いをさせて、排除と言うのは無理じゃろうか?」
リリスは遠慮がちに尋ねるが、清宏は首を縦には振らなかった。
「美味い思いをさせるのは無理だ・・・だが、奴等をまた来させるのは可能だと思っている」
そう答えた清宏は、リリスを手招いて水晶盤を見るように促す。
「よく見てみろ・・・見た限りでは、このパーティは剣士の男、槍使いの男、魔術師の男、ヒーラーの女、シーフの女の5人組だ。
こいつらの中には、力による上下関係があるのが解るか?
威張り散らしている剣士の男が、手に入れた魔石を懐に入れてるだろう?こいつがリーダーで間違いない。
こいつは周りの意見に耳を傾けるタイプじゃない・・・俺は、こいつを利用する」
「・・・どうやって利用するんじゃ?」
清宏が一呼吸置き、リリスの質問に答える。
「こう言う威張り散らすタイプは、知能が低いくせにやたらとプライドが高く、挑発には非常に弱い。
しばらくは直接的には罠を使わず、ダンジョンマスターの配置変更を使って撹乱し、奴が痺れを切らすのを待つつもりだ。
最終的には罠に掛けるが、そこでも奴のプライドを傷付けるような仕掛けを考えているから安心しろ・・・」
そう言った清宏はニヤリと笑う。
リリスは、清宏の笑顔を見て尻餅をついた。
「き、清宏・・・お主、何て顔をしとるんじゃ!?
妾は1000年近く生きてきたが、お主ほど邪悪な笑顔は初めて見たぞ・・・他の魔王でもせぬぞそんな顔は!!」
「そいつは光栄だ。
今から奴等の慌てふためく顔が楽しみだ・・・ふふふ・・・はははははは!!」
清宏は高らかに笑うと、水晶盤を見ながら侵入者達の動向を監視し、罠の制作を開始した。
侵入者達が城内の探索を開始して5時間程が経過した。
侵入者達は、概ね清宏の予想通りに進んでいる。
剣士が先に進む事を強要し、他の者達は仕方なく指示に従っている。
水晶盤で彼等の様子を見ている清宏は、彼等に気付かれぬ様静かに、だが着実に彼等の退路を絶っていた。
「さて、そろそろ気付くんじゃないかな?」
「お主、本当に良い性格をしとるな・・・妾は、お主が仲間で心底嬉しいよ。
奴等がまだ気付いてないのが可哀想になって来るわい・・・」
清宏がこの2時間でやっていた事、それは階数のループだ。
彼等が部屋の探索をしている間に階数を操作し、部屋の位置や数を変え、宝を定期的に補充する事で気付かせないようにし、上の階に上がれないように仕向けていたのだ。
そのせいで、侵入者達は延々と2階と3階を繰り返し探索している状態だ。
流石に疲れが出てきたのか、剣士も最初程の威勢が無い。
「さて、そろそろ先に進んで貰おうか・・・」
清宏はそう言うと、下に降りる為の階段の前に隠蔽用の壁を設置した。
部屋の中の探索を済ませた侵入者達は、清宏の狙い通りに階段を目指し始めた。
「ぬぅ・・・お主、本当に鬼じゃな」
「まぁ見てろって、あの剣士はこれを見たら絶対にキレて他の奴等に当たり散らすからさ!
ところで、これって声聞こえないかな?」
リリスはため息をつくと、無言で水晶盤を操作した。
すると、水晶盤から男の怒声が響き、あまりの声量に2人は身を竦めた。
『どうなってやがる!?階段は何処に行った!?』
剣士は怒り心頭のようだ。
『知らないわよ!あんたが先に行くって聞かないから迷ったんじゃないの!!』
シーフはそれに対し、これまでの不満を爆発させている。
周りの者達も、皆剣士を睨んでいる。
「あーびっくりした・・・苛立ってるねぇ。
まぁ、歩き回って疲れてるのに帰れないんじゃ仕方ないよね!」
清宏は、その光景を見ても全く悪びれていないようだ。
「で、どうするんじゃ・・・このままには出来んじゃろう?」
「退路が断たれたんだし、先に進むしかないよ。
まぁ、あの男も十分過ぎるほど怒ってるし、次の階で終わりかな?
あまりやり過ぎると逆効果だしね・・・」
清宏はそう言うと、自分達のいる階を、彼等の真上に移動させた。
すると、マップでそれを確認したリリスが慌てて清宏に掴みかかった。
「何をやっとるんじゃお主は!?」
「慌てるなって、これが一番効果的なんだよ」
清宏は、リリスの腕を払いのけて笑っている。
「それなら良いのじゃが・・・危なくはないのか?」
「俺達の安全は確保してるよ。
それに、奴等が確実に掛かかるように罠も制作してある・・・あとは、奴等が来るのを待って、仕掛ければ詰みさ。
少なくとも、奴等にこれを回避する術は無いよ」
清宏は自信満々に答え、リリスはそれを見て胸を撫で下ろした。
『くそっ、マジでどうなってやがんだ!?
誰か解るように説明しろ!!』
水晶盤から剣士の怒声が聞こえるが、彼の仲間からは返事が無い。
彼等は皆疲れ果て、互いにいがみ合っている。
彼等は沈黙し、階段を登っていく。
そして、清宏達の待つ階に辿り着いて動きを止めた。
『何だここは・・・』
先頭を歩いていた剣士が呆然としている。
彼等の目の前にあるのは、ただ一直線に伸びた廊下だった。
両側の壁には扉がなく、奥の突き当たりに一つだけ扉があるのが見える。
『罠・・・でしょうか?』
魔術師が周囲を警戒しながらシーフを見るが、既に行動に移っていたシーフのは、首を横に振った。
『罠は無いよ・・・少なくとも、見える範囲にはね』
『退路が無いのであれば、進む他ありませんね・・・』
シーフの報告を受けヒーラーが深呼吸をすると、意を決して歩き出す。
水晶盤でその様子を見ていた清宏は、苦笑した。
「この子、見た目は好みなんだけどな・・・だけど、これも仕事だからね」
清宏がそう言って目を見開くと、通路の半ばまで来ていた彼等の後ろで罠が発動した。
彼等が上がって来た階段の真上の天井が落ち、空いた隙間から大岩が転がり出たのだ。
『お前ら走れ!!』
『嘘でしょ!?さっきは何も無かったのに!!』
いち早く気付いた剣士が叫び、シーフが驚愕した。
その様子を見ていたリリスが、慌てて清宏に詰め寄る。
「ちょっと待て清宏!何じゃあれは!?」
「何って、単なる罠だけど?
奴等が進み出してから、階段の真上に仕掛けたんだよ。
落とし穴を逆さに設置して中に大岩を入れて、吊り天井で蓋をしたのさ・・・片側だけ吊り天井のロックを外せば、箱を逆さにしたみたいに蓋がスロープの役割をして、大岩を転がしてくれるんだ。
長い廊下も奥に向かって傾いてるから、どんどん加速する仕組みだね。
まぁ、お前が心配してるような事態にはならないから安心して見てろって!」
清宏は掴みかかって来るリリスを窘め、水晶盤を見る。
侵入者達は全力で走り、真っ先に扉に辿り着いたシーフがドアノブに手を掛ける。
『何でよ・・・鍵が掛かってる!!』
『解錠出来るか!?』
シーフが素早く作業に掛かり、剣士と槍使いが盾になり、魔術師が魔法で大岩を攻撃するが、若干勢いが弱まるばかりで大した効果は無い。
「3・・・2・・・1・・・0」
清宏はカウントし、0になると同時ロックを解除して扉を開いた。
急に扉が開き、侵入者達が雪崩れ込む。
「扉をしめろ!急げ!!」
剣士が合図し、槍使いと2人で扉を閉める。
大岩を防ぐには心許ないが、何も無いよりはマシだろう。
だが、扉が破られる事は無かった・・・衝突音も無く、ただ静寂だけが残る。
「助かったの・・・?」
ヒーラーが放心したように呟くが、誰も答えない。
まだ状況が理解出来ていないようだ。
「残念だけど、そうでもないよ?」
静寂を破り、清宏が口を開く。
侵入者達は一斉に振り返り清宏を見る。
「いやぁ、危なかったね!」
清宏はフレンドリーに話しかけるが、侵入者達はまだ混乱している。
「お前は・・・誰だ?」
剣士は辛うじて聞きかえす。
「誰って・・・君達こそ誰かな?
俺はまぁ、ここの住人かな?」
清宏は、剣士をおちょくるようにヘラヘラと笑って答える。
すると、剣士の顔がみるみる真っ赤になっていく。
「テメエがあの罠を仕掛けやがったのか!?」
剣士は剣を抜き、清宏に詰め寄ろうとしたが、何かに阻まれた。
彼の前には何も見えないが、確かに何かに阻まれたのだ。
「人の家に上がり込んで盗みを働いておきながらキレるとか常識が無いなぁ・・・。
残念だけど、そこから先には進めないよ。
あと横もダメだね、後ろの扉もロックしたから、君達はそこから動けないよ」
清宏は先程とは打って変わり、淡々と無表情で告げる。
剣士はさらに逆上するが、やはり何かに阻まれる。
「何が何だか解らないって顔だね?
ネタバラシすれば、君の前と両側には、空気の壁があるんだよ。
互いの声が聞こえるのは、声は空気の振動で進むからだね。
まぁ、それがある限り君の攻撃は俺に届かない・・・俺は例外だけどね」
侵入者達は、清宏の言葉を聞いて青ざめる。
「安心しなよ・・・別に殺そうって訳じゃないんだ。
ただ、盗られた物を取り返して、帰って貰うだけだからさ!」
清宏はそう言い放ちフィンガースナップをした。
すると、同時に侵入者達の足元の床が抜け落ち、彼等も落下し始めた。
「悔しかったらまたおいで!」
清宏は笑顔で手を振っている。
「テメェ、覚えてやがれ!!」
「もう嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふざけんな馬鹿野郎!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
剣士、シーフ、槍使い、魔術師は叫びながら穴の中に消えていったが、ヒーラーは白目を剥き、泡を吹いて気絶しながら落下していった。
穴の先から、彼等の悲鳴が響いてくる。
「ふぅ・・・ミッションコンプリート!」
それを見届けた清宏は、額を拭う。
「何がコンプリートじゃ馬鹿者!どんだけ深いんじゃこの穴は!?
声が聞こえぬではないか・・・あれだけ殺すなと言うたじゃろう!?」
侵入者が部屋に入ってからずっと柱の影に隠れていたリリスは、清宏に怒鳴りながら近付き、落とし穴を覗いて涙を流した。
「いや、殺してないからな?」
清宏は平然と答えて笑う。
「ならば、奴等は何処に行ったんじゃ?」
リリスが尋ねると、清宏は部屋の隅に歩いて行き、壁に窓を造って外を指差した。
清宏の差した方向は城の裏側、大きな湖の方角だった。
しばらく待っていると、窓の外から叫び声が聞こえて来た。
「頼むから止まってくれ!!」
「あはははは!たーのしー!!」
「覚えてやがれこんチクショー!!」
「母上!先立つ不孝をお許しください!!」
「・・・・・」
先程落とし穴に掛かった侵入者達が、城の外に放り出されて湖に飛び込む。
「なんか、1人楽しそうなのがおったの・・・」
あれは、恐らくシーフの声だろう。
「たぶん彼女は、絶叫系が好きなフレンズだったんだよ・・・」
「そうか・・・意味は解らんが、無事ようならそれで良いわ」
リリスは侵入者達が生きていた事に安堵し、その場に座り込んでしまった。
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