第6話初仕事①
清宏のスキルがクラスアップし、数時間が経過した。
驚き疲れ、反応の乏しかったリリスはそのまま寝てしまい、清宏はその間ずっとダンジョンマスターを用いた罠の運用について試行錯誤を繰り返していた。
「それにしても、このダンジョンマスターってのは凄いな・・・配置だけじゃなくて、構造も思いのままとかリフォームのしがいがあるな」
今2人が居るのは城の最上階だが、清宏が念じれば即座に階数が入れ替わり、部屋の広さも変えられる。
新たに扉を配置し、今まで無かった場所に部屋を出現させる事も可能だ。
「これなら、誘い込むのも楽になるな・・・ぬるゲーになるのだけは勘弁なんだけどな。
さてと、ダンジョンマスターについてはこれくらいで良いとして、次は本命のトラップマスターだな!
でもどうするか・・・ダンジョンマスターで表示されるマップじゃあ、部屋の全体像が解らないんだよな」
清宏は、何か解決策はないかと腕を組んで唸っている。
「父上・・・」
寝ているはずのリリスが小さく呟き、清宏は我に返る。
清宏はゆっくりとリリスに近づいて顔を覗き込んだが、彼女はまだ寝ているようだ。
「寝言かよ・・・それにしても、こんな子供が1人で暮らすには広過ぎる家だよな。
魔族って言ってたけど、こいついったい何歳なんだ?話を聞いてた限りじゃ、俺より年下って事はないだろうけど・・・」
清宏はリリスの横に胡座をかき、彼女の頬を軽く指で突く。
リリスはくすぐったそうに小さく笑い、寝返りを打っている。
「はぁ・・・魔召石が手に入らない限りはこいつと二人暮らしかよ。
子供はどうも苦手なんだよなぁ・・・」
清宏が再度リリスの頬を突くと、彼女は寝ながら彼の指を握った。
清宏はその手を優しく握り返し、ため息をついた。
「仕方ねぇよな・・・守るって約束しちまったしな。
ん・・・何か来たのか?」
清宏は何者かの気配を感じ、マップを開く。
表示されたマップには、城から少し離れた場所で、赤い印がゆっくりと動いていた。
「これはあれか?侵入者か?
おい、リリス起きろ・・・何か来やがったぞ」
「むぅ、なんなんじゃ一体・・・。
ん?お主、なんで妾の手を握っておるのじゃ?
まさか、妾があまりにも可愛らしいからと手籠めにするつもりじゃな!?
何と恐ろしい!これではおちおち寝てもいられん・・・って痛い!?何をするんじゃ!!」
清宏に起こされたリリスは、自身の状況を見て見当違いな事を言い出した。
それを聞いた清宏は、すかさず拳骨を喰らわせる。
「馬鹿な事言ってんじゃねーよ!お前が俺の手を握って来たんだよ馬鹿!
そんな事より、城の外に何か来やがったぞ・・・」
「ぬ?場所は何処じゃ?」
涙目で頭をさすっていたリリスは、清宏の言葉を聞いて我に返ると、真面目な顔で聞き返した。
「まだ城までは距離があるけど、真っ直ぐこっちに向かってる。
お前にも確認して欲しいんだが、どうすれば良い?」
「何、簡単な事じゃよ・・・お主は、今マップを頭の中だけに表示しとるじゃろ?それを、自分の目の前に表示するようにイメージするだけでよい。
スキルと言うのは所持者だけの物ではあるが、スキルの根幹に関わらない部分であれば、内包されておるマップなどは他者でも確認出来るようになっておる。
城内の配置変更はお主にしか出来んが、城内及び近辺のマップならば、お主が表示してくれれば妾でも確認可能なんじゃよ」
リリスの話を聞いた清宏は、すぐに教わった通りにマップを表示する。
「飲み込みが早いのは良い事じゃ!
どれどれ・・・ふむ、確かにこちらに向かっておるな。
この速度であれば、半刻程で城門まで辿り着くじゃろう」
「やっぱり侵入者か?」
清宏は確認を終えたリリスに問いかけた。
リリスは無言で頷くき、それを見た清宏は、苦笑しながらため息をついた。
「来て早々に初仕事とはありがたいねぇ・・・。
リリス、一つ聞きたいんだが、部屋の内部とかの状況を観れる道具は無いか?
マップだけだと、罠の細かい位置の調整が出来ないんだ・・・あと、部屋のどの位置に侵入者が居るのかも確認したい」
その言葉を聞いたリリスは、不敵に笑う。
「ふふふ・・・あるぞ、お主の条件を満たす便利な道具が!」
リリスはすぐさまアイテムボックスを開くと、中から水晶盤を取り出した。
「これがあれば観れるのか?」
「うむ!では、少し待っておれ・・・よし、これでどうじゃ!」
リリスが水晶盤に手をかざすと、盤面が発光し、そこには5人組の冒険者らしい人物が映し出された。
「監視カメラみたいだな・・・」
「かめら?それが何かは知らんが、監視すると言う点では正にその通りじゃよ。
これは、自身のテリトリー内に居る対象の大体の位置さえ解れば、見つけ出し監視出来る魔道具じゃな!」
リリスは薄い胸を精一杯張り、得意気にしているが、それを見る清宏の視線は冷たい。
それに気づいたリリスはたじろぐ。
「な、何じゃその目は・・・」
「いや・・・こんな便利な道具やダンジョンマスターなんてスキルを持っといて、何で今まで負け続けていたのかって思ってな」
「・・・それを言わんでくれ。
妾がいくら罠を仕掛けても、すぐにバレてしまっての・・・今までで成功したのは、迷って侵入して来たゴブリンくらいのもんじゃよ」
リリスはボソボソと自重気味に呟き、その場で膝を抱えて座り込んでしまった。
流石の清宏も居た堪れなくなったのか、リリスの肩を優しく叩いた。
「まぁ見てろって!今は俺が居るだろ?
罠ゲーで鍛えた陰険トラップ見せてやるよ!!」
清宏の励ましの言葉を聞いたリリスは、顔を上げてニヤリと笑う。
「お主、今陰険と認めたな?」
「五月蝿えよ!・・・あのな、罠ってのは陰険な物程効果があるんだよ!
原始的な罠ってのは、基本的に4種類あるのは知ってるか?
今ここにある物では、まずは落とし穴だ。
これは、うまく穴をカモフラージュするのがコツで、穴の深さや大きさを変えるだけで、どんな獲物にも使えるし、何度でも利用出来るのが特徴だ。
穴の中に鋭利な刃物などを仕込めばさらに殺傷能力がますけど、お前の方針だとそれは無しだ。
次に吊り天井と大岩だが、これは押し潰して身動きを封じたり、圧殺する事が出来る。
丸太や岩など、重量のある物を利用するから、大きな獲物にも使える。
他には、ここには無いけど、木のしなりなんかを利用して吊ったりくくったりするスネアトラップや、獲物を刺殺するスピアトラップってのがある。
ただ、今挙げた4種類は、自然界で動物を相手にした場合には有効だけど、人間相手にはちょっと心許ない・・・何でか解るか?」
リリスは首を横に振り、清宏の目を見る。
清宏は頷くと、説明を続けた。
「単純過ぎるんだよ・・・。
森の中とか夜みたいに、視界が悪ければ掛かる事もあるけど、ここみたいに屋内だとカモフラージュしにくいんだ。
よほど上手く隠さないと、慣れた人間が注意深く調べればすぐにバレちまう・・・だけどな、単純な罠でもやり方次第で十分戦えるんだよ。
お前は今まで一つずつ仕掛けてただろう?それだと、バレたら次が無いんだよ。
相手は、お前が仕掛けた罠を解除したあと、また次に備えられる。
でも、その最初の罠が囮だったら?安心し、警戒心が緩んだところを狙われたら?
人間は、安心している時こそ一番罠に掛けやすい・・・虚を突くって事だ。
安心しろ、お前が造ってた罠だけでも十分戦えるよ・・・既に必勝の策は立ててるからな!」
清宏はサムズアップをしながら笑っている。
「頼もしいな、お主は・・・よし、妾は全てをお主に任せる!見事侵入者を排除して見せよ!・・・じゃが、解っておるな?絶対に殺してはならんぞ!!」
リリスが高らかに宣言すると同時に、侵入者達が城の扉に手を掛けた。
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