第2話 のじゃでロリな魔王様

 「・・・きよ」


 誰もいないはずの部屋の中に声が響く。

 まだ幼い少女の声だ。

 声の主である少女は、寝ている清宏の横にしゃがみ、彼の頬をしきりに突いている。


 「これ、起きよ・・・」


 「うーん、うるさいなぁ・・・」


 声に気付いた清宏は、寝返りをうちつつ掛け布団を頭から被ると、再び寝息をたて始めてしまった。

 それを見た少女は、ワナワナと肩を震わせながら立ち上がると、清宏の下半身の方に歩きだし、布団を捲り拳を握り締める。


 「この・・・妾を無視して二度寝とは良い度胸じゃな!?これでも喰らうが良い!!」


 そう言うやいなや、少女は体重の乗った鋭い突きを清宏の股間めがけて繰り出した。


 「ーーーーーーっ!!?」


 股間に強烈な突きを喰らった清宏は、声にならない叫びを上げながら床を転げ回っている。


 「ふはははは!いい気味じゃな!妾を無視して寝こけておるからそうなるんじゃ!!」


 少女は、股間を押さえて転げ回る清宏を、腕を組んで見下ろしている。


 「・・・こんのクソガキ」


 「ん?何か言ったかの?」


 痛みに堪えながら呟く清宏の言葉がうまく聞き取れなかった少女は、不用意にも腰を屈めて彼に近付き、彼の顔を覗き込もうとしたその瞬間、少女の身体はきりもみしながら吹き飛んだ。


 「にゃっ・・・にゃにをしゅるんじゃきしゃま!!?」


 盛大に吹き飛んだ少女は、額を押さえ、ふらふらとたたらを踏みながら立ち上がると、涙を浮かべて怒鳴った。

 少女は呂律が回らず、声も震えている。


 「何をするんだだ?それは俺のセリフだクソガキ!!

  未使用品のマイサンが息を引き取ったらどうしてくれる!?」


 股間の痛みから回復した清宏は、怒気をあらわにしながら少女に近づくと、自身との身長差が50cmはあるであろう小さな少女の頭を両手で挟んで垂直に持ち上げると、唾を撒き散らしながら怒鳴った。


 「あががががが!!いだいいだいいだいいだい!?く、首が捥げる!!頭が潰れる!!!」


 少女の頭蓋骨がミシミシと悲鳴をあげているが、清宏は構わず少女を吊るし上げている。

 理由はどうあれ、事情を知らない人間からすれば児童虐待にしか見えない。


 「あぁん?俺の股間の痛みはこんなもんじゃねーぞクソガキ・・・てか、なんで人ん家に勝手に上がり込んでんだゴラ?」


 「痛いのじゃ!頼む、説明するから降ろして欲しいのじゃ!!」


 少女の顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっているのに気付いた清宏は、舌打ちをして少女を降ろした。


 「うぅ・・・魔王である妾にこの様な仕打ち、覚えておれよ!?あだっ!!」


 降ろされた途端に食って掛かろうとした少女は、清宏の拳骨を喰らってその場にしゃがみ込む。


 「魔王だ?ママゴトすんなら外でやれ!ここは俺ん家だ!!」


 「ぐぬぬ・・・それは違うぞ!ここは妾の城じゃ!!」


 少女は、拳骨を喰らった頭頂部を片手で撫でながら立ち上がり、涙目で勝ち誇るように清宏を指差した。


 「あ?寝言は寝て言えよクソガキ?

  あのな、俺は自分の部屋で寝てたんだぞ!!俺の部屋じゃなかったら何処だってんだ・・・って、あれ?何処だよここは?」

  

 そう言って周囲を見渡した清宏は目が点になって固まった。


 「だから言ったじゃろうに・・・ここは妾の城、魔王リリスの城じゃ!!

 って、おーい・・・聞いておるか?」


 リリスと名乗った少女は背伸びをし、固まっている清宏の目の前て手の平を振る。


 「おいクソガキ、ちゃんと説明してくれるんだろうな?」


 清宏は震える声でリリスに問い掛けた。


 「うむ!まずは何から説明しようかの・・・まぁ、立ち話もなんじゃし座るとしようかの」


 リリスはその場に正座をし、清宏も彼女の前に胡座をかいた。

 ちょこんと座っているリリスの姿は、見た目も相まって可愛らしい。


 「まずはここが何処で、何で俺がここに居るのか教えてくれ・・・」


 清宏は腕を組み、渋い顔をしてリリスに問い掛けた。


 「ふむ、ここは先程言った通り妾の城じゃ。

 お主がここに居る理由は、妾が召喚を行なって現れたのが、お主だったからじゃな!ふぎゃっ!?」


 リリスが得意気に答え、それを聞いた清宏は彼女にデコピンをした。


 「召喚って何だ?何で俺が呼ばれた?」


 「うぅ・・・暴力反対じゃ!妾のプリチーなおでこが凹んだらどうしてくれるんじゃ・・・。

 召喚が何じゃと聞かれてもな・・・魔召石と呼ばれる特殊な石を使い、他者や物を呼び出す儀式じゃな。

 お主が呼び出された理由に関しては、正直妾には解らん!」


 リリスは、額をさすりながら涙目で話を続ける。


 「解らん!じゃねーよ!!」


 召喚に関する説明を聞いていた清宏は、拳を握りしめてリリスを睨む。

 リリスはそれを見て素早く後ずさった。


 「事あるごとに暴力に訴えるのは反対じゃ!!

 ふぅ・・・申し訳ないのじゃが、お主が何故選ばれ、召喚されたかに関しては本当に妾には解らんのじゃ・・・。

 とりあえず先ずは召喚について詳しく説明するが良いかの?」


 リリスが清宏の顔を見て確認をする。

 清宏は小さく頷いて応えた。


 「ではまず、これが先程言っておった魔召石なんじゃがな、これは元々は魔石と言うさらに小さい石が集まって出来る物なんじゃよ」


 リリスは小さな赤い石を取り出して清宏に手渡すと、清宏はそれをマジマジと見つめた後、リリスに向き直って彼女の額を見た。

 

 「お前の額に付いてるのも魔召石なのか?」


 「そう、妾の額にあるのも魔召石じゃな!ただ、これは全ての者達に有る訳ではなくての、魔王として生を受けた者のみが産まれながらに所持しておる物なんじゃ。

 そして、集めた魔石を召喚用の魔召石にする事が出来るのは、妾と同じ魔王と呼ばれる者のみじゃ。

 魔王の額にある石は、言わば魔召石のオリジナルの様な物での、これを持たぬ者では、どんな事をしようと魔召石は造れぬ様になっておる。

 ただ、魔召石は便利ではあるが、少々癖があっての、魔召石はその大きさによって召喚出来る対象が違うんじゃよ。

 飴玉のように小さな物であればアイテムなどが、それ以上の大きさになれば仲間や従者など生物などを呼び出せるんじゃが、いかんせん対象を選ぶことが出ないんじゃ・・・」


 リリスは肩を落としてため息をつく。


 「ふむ・・・なぁ、俺は未だにその話を信用出来ないんだが、試しに何か召喚してみてくれないか?」


 清宏が提案すると、リリスの表情が途端に曇った。

 それを見た清宏は首を傾げている。


 「すまぬが、それは出来んのじゃ・・・妾の所持しておる魔召石はもはや底をつきかけておるから無駄遣い出来ぬし、生物を召喚出来る程の魔召石は、お主を呼び出すのに使ったのが最後だったんじゃよ・・・」


 「お前の額の石じゃダメなのか?」


 清宏が何気なく聞くと、リリスは顔面蒼白になり震えだした。


 「馬鹿を申すでない!魔王である妾がこれを失うのは死と同義なんじゃぞ!!」


 本気で怯えているリリスを見てため息をついた清宏は、彼女の頭を軽く撫でてやる。

 撫でられた彼女は照れ臭そうに俯いた。


 「ふむ、まぁ残念だったな・・・なけなしの魔召石で召喚されたのが俺だったとか、運が無かったと思って諦めな」


  清宏がリリスを慰めてやると、彼女はキョトンとした顔で清宏を見た。


 「いや、お主は何を言っておるんじゃ?」


 「何って、俺は普通の人間で、戦える訳じゃないし特殊な能力が有る訳でもないんだぞ?

 ソシャゲのガチャで言ったら完全にハズレだろう?」


 「妾にはソシャゲとかガチャとか言う物が何かは解らんが、少なくともお主はハズレではないぞ?

 お主を召喚するのに使った魔召石は、妾の父上が遺してくれたものじゃ。

 魔王の額に埋まっていた魔召石は造られた物とは違い、何を召喚してもハズレは無いのじゃ。

 確かに個体差はあるが、お主の力は相当なものじゃぞ?なにせ、魔王である妾を吹き飛ばし、ダメージを与えられるのだからな!」


 リリスは薄い胸を張って清宏を見ている。


 「チュートリアル後のレア確定ガチャみたいな物かね・・・まぁ、望んで召喚された訳じゃないけど、ハズレよりはアタリの方が嬉しいのは確かだな。

 まぁ、召喚云々に関しては良しとしよう・・・問題なのは俺は自分の家に帰れるのかどうかだ」


  清宏がそう言ってリリスを見ると、彼女は滝のような汗を流して目を逸らした。


 

 

 

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