第1話ゲーマー(ただし、罠ゲーに限る)
薄暗いアパートの一室で、目つきの悪い男がテレビのモニターを凝視している。
男の名前は野本 清宏、大学生だ。
清宏が凝視しているモニターの中では、中世ヨーロッパ風の建造物の中で騎士が内部を散策している。
「あと少し・・・あと少し・・・よし来た、ざまぁ!!」
モニターを凝視していた清宏は、モニター内部で散策している騎士が吊り天井に押し潰されるのを見て歓喜した。
「いやぁ、やっぱりこのゲームは何回クリアしても最高だ!敵がトラップに掛かるまでのワクワク感、掛かってからの達成感・・・これぞ神ゲー!」
清宏は罠に掛かって死んだ騎士を見てニヤニヤと笑っている。
正直、側から見れば危ない男だが、モニターに映し出されているのは現実ではなく、ゲームの世界だ。
彼が遊んでいるのは、発売されてから既に10年以上経っている旧いゲームだ。
ゲームのシステムとしては、主人公の住む館に侵入してくる敵を、罠に掛けて倒すと言う非常にシンプルな物だ。
だが、使用出来る罠の種類が豊富で、なおかつ複数の罠を連携させるなど、組み合わせの自由度が高い内容になっている。
「ふふふ・・・次はどんな罠で仕留めてやろうか?」
清宏は不敵に笑い、次のターゲットに狙いを定める。
モニター内で歩いているのは、厳つい甲冑に身を包んだ、いかにも強そうなキャラクターだ。
「おいーっす!清宏いるかー!?」
清宏が罠を選びながらほくそ笑んでいると、背後のドアが勢い良く開き、清宏と同い年くらいの青年が許可も得ずにズカズカと部屋の中に入って来た。
「なんだ隆史か・・・毎回毎回勝手に入ってくんなよな?
ちっとは遠慮ってもんを覚えろよ・・・で、なんか用か?」
清宏は一度ゲームを中断して振り向く。
すると、隆史と呼ばれた青年は笑いながら隣に座った。
「別に良いじゃないか、いつもの事だろ?それよりお前も飽きないねぇ、何周目だよこのゲーム?」
「知らん・・・で、何の用なんだよ?」
悪びれる素振りも見せない隆史にため息をつきつつ、清宏は再びモニターに向き直る。
「何の用ってな、お前忘れたの?
ケータイに出ないから様子見に来てやったんだよ」
「は?何か約束してたっけ?」
清宏はモニターから目を離さずに聞き返した。
「いや、合コンに行くって言ってたよな!?
折角お前の為にセッティングしたんだから忘れんなよ!?」
清宏は首を傾げ、思考を巡らした。
「あー・・・あれって今日だったっけ?
てか、別に頼んで無いんだけど?」
「お前、そんなんだから童貞なんだよ!」
清宏の素っ気ない答えを聞いた隆史は、怒鳴って清宏の頭を叩き、清宏はすぐさま隆史に食って掛かった。
「やかましい!童貞は関係ないだろ!?
お前みたいに軽薄なヤリチンよりはマシだ馬鹿!!」
「はっ!根暗童貞のお前よりはマシだと思うけど!?」
清宏と隆史は青筋を浮かべながら睨み合う。
しばらく部屋の中に険悪な空気が流れ互いに睨み合っていたが、キリがないと思ったのか、二人はほぼ同時にため息をついて肩を落とした。
「あのな清宏、約束忘れんのは誰にでもあり得る事だからあまりキツく言うつもりは無いけどさ、向こうも今日の為に人数揃えてくれてんだから行かないとか言うなよ?
お前はもうちょっと協調性を持った方が良いぞ?」
「わかってるよ・・・別に行かないとは言ってないだろ?」
隆史に注意された清宏は、バツが悪そうに口籠った。
「なら良いんだけどな・・・。
幼馴染じゃなきゃ、とっくの昔に見捨ててるぞ?」
「へぇへぇ、カンシャシテマース」
「おい、棒読みヤメろ」
隆史は清宏を笑いながら小突いた。
「さてと、んじゃまぁ時間まで寝ましょうかね・・・てか、合コンは何時からだ?」
清宏はゲームをセーブして電源を切ると、布団を敷きながら尋ねた。
「18時集合だけど・・・お前、寝るっていつから寝てないんだよ?」
「ん?今現在で28時間くらい起きてるけど?」
隆史はそれを聞いて呆れた。
「・・・17時に起こしにくるわ」
「おう、頼むわ・・・」
清宏は短く返事をして布団に潜り込むと、すぐに寝息をたて始めた。
「おやすみ・・・本当に手の掛かる幼馴染だよお前は。
鍵は新聞受けに入れとくぞ」
寝ている清宏に、隆史は小さな声で話しかけ、静かに部屋を後にした。
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