第六章「魔女」
6-1
「ああ、気持ち良かったわっ」
教会の庭先に戻り、ランディに馬の背から降ろしてもらったラグジュリエは、両手を上げてうんと伸びをした。
「とっても楽しかったわっ。ありがと、ランディ」
「こちらこそ、助かった。ラギィには礼を言わせてもらおう」
愛馬の首に腕を回しながら、ランディも上機嫌で応じた。
エルフォンゾの帰宅に合わせて、教会のみなで昼食を終えた後で――。
ヴェンシナは硬い表情で、姉のシャレルと共に、カリヴェルトの駆る荷馬車に乗って予定通り村長の家へ向かった。
ランディもエルフォンゾに見送られ、ラグジュリエを伴ってシュレイサ村のあちこちを見て回った。ラグジュリエの案内は的確で面白かった。三年の間、村を離れていたヴェンシナよりも、ランディはひょっとすると村の世事に詳しくなっているかもしれない。
村人たち、殊に同世代の少女たちの羨望の眼差しをそこここで受け止めて、ラグジュリエの気分は爽快だった。
老牧師や教会の『兄』や『姉』たちから、可愛がられて元気に育ったラグジュリエだが、孤児であるという事実だけで侮られることもしばしばである。常日頃、自分のことを小馬鹿にしている意地悪な少女たちが、ぽかんと口を開けて、こちらを見ている姿を眺めるのは本当に小気味がよかった。
「そういえば、ランディって――」
くすくすと思い出し笑いをしながら、ランディの均整の取れた長身を見上げて、ラグジュリエは悪戯っぽく言った。
「昨日ヴェンが言ってた王太子様みたいね。黒髪で、黒い瞳で、背が高いの」
「ああ、そう言われてみればそうかもしれないな。だが当てはまる男は他にもいるだろう?」
「そうねえ、ヴェンったら、もう少しましな説明はなかったのかしらねえ」
「……なかったのだろうな」
今ここにはいないヴェンシナを話題に上げて、二人はひとしきり笑い合った。
「それじゃああたしはそろそろ、晩ご飯の仕込みをしなくちゃいけないんだけど、ランディはどうする? ヴェンたちは戻ってないみたいだし、牧師様は多分お昼寝の時間だと思うんだけど……」
ラグジュリエの問いかけに、ランディは迷わず答えた。
「できれば足を伸ばして、少し遠乗りでもしてきたいと思っている。ヴェンが帰って来たら伝えてもらえるだろうか?」
「いいわよ、暗くならないうちに帰ってきてね」
「わかった。では行ってくる」
*****
こうしてランディは一人、再び馬上の人になった。
シュレイサ村の、長閑な田園風景の中を軽快に駆け抜けて、ランディは真っ直ぐにそこへ向かった。
聖地
その、始まりの森へ――。
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