5-2

「ラギィ、ランディは見世物じゃないんだから」

 ラグジュリエの反応に、ヴェンシナは軽いめまいを覚えた。

「あら、でも、村の女の子たちはみんな、ものすごーく楽しみにしてたのよ。それにヴェンが起きてくる前もね、授業前の子供たちが覗きに来ててたいへんだったんだから」

「僕がランディと一緒に帰ってきてるってことを、村の人はみんな知ってるの?」

「そうねえ、だいたい知ってるんじゃないかなあ? 都の騎士様を、間近で見れることなんてめったにないもん。知らない人が急に来たら驚くだろうからって、牧師様が村長さんに事前にお知らせしただけだけど、次の日にはあたし、いろんな人から質問攻めにあっちゃったのよ」

「……お祭り騒ぎなんだね」

 故郷の人々の浮き足立ちぶりが、ヴェンシナには少し気恥ずかしい。


「平気ですか? ランディ?」

「今のところ、何も弊害はないからな。見世物になるのも最初のうちだけだろうし」

 ランディはその立場からも容姿からも、人の目に晒されるのにはたいがいに慣れている。動じた風もなく、むしろ面白がっているように見えるのは、決してヴェンシナの気のせいではないだろう。

「そういうことでな、午後からラギィを少し借りるぞ、ヴェン」

「行ってくるわね、ヴェン」

「ええ、どうぞ。ランディが何か無茶をしないように、僕の代わりにしっかり見張っておくようにね、ラギィ」

「信用がないなあ」

 ランディは肩をすくめ、ラグジュリエはころころと笑った。


 そうしていると、授業の合間の休憩時間に入ったのか、聖堂の方から急に賑やかに子供たちのざわめきが聞こえてきた。

「あら大変、あの子たちきっとまた来るわよ」

 ラグジュリエが忠告した。ランディは、食堂の戸口付近に固まって、自分を遠巻きに眺めていた子供たちの一群を思い出して僅かに苦笑した。

「そうか、では、私は先に退散するとしよう。ご馳走様、ラギィ」

「うん、食器はそのままでいいから早く逃げてね」

「ありがとう、ラギィ。後は頼んだぞ、ヴェン」

 ランディはラグジュリエに礼を言い、がたんと席を立った。急ぎながらもヴェンシナに、後顧の憂えを託すのは忘れない。


「ち、ちょっと待ってください、ランディッ!!」

「ヴェン、ご飯がまだ残ってるわよ、お行儀悪いわ」

 腰を浮かせかけたヴェンシナの椅子を掴んで、ラグジュリエは母親のように叱った。

「せっかく作ったんだから、最後までちゃんと食べてね」

「わかったよ、ラギィ」

 かくして、ヴェンシナは――。

 押し寄せた故郷の子供たちに、懐かれ話しかけられ、もみくちゃにされて晩い朝食を摂りながら、寝過ごしてしまったことを激しく後悔したのだ。

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