A man part1 -dast life-
お前も偏屈な奴だよな、こんな事続けて何になるんだよ。何?今の心情?あー……まあ、とうとう来たかって感じだよ。覚悟もしてたし、別にどうにかしようとも思わないしな。ただ、いざ文字に起こして見るとやっぱり感慨深いぜ。汚染深度予測A、つまるところ1年以内に逝く確率が80%を超えたって事だ。
正直な所、自覚症状はあった。体のあちこちが痛いし、睡眠は浅くて息をする事が辛い。最近髪や爪が取れてきたし皮膚もボロボロだ。まあ当たり前だよな。あんな汚れたフィルターの交換なんて、1度やっただけでも死ぬって。それを3回もだ。汚染深度予想じゃ1年以内らしいがもっと早く死ぬな。それこそ1月後かもしれない。
選ばれた時?「管理人」に決まった時はあー、とうとう死ぬんだって事しか思わなかった。でも、いざ死ぬとなった今は少し気分が良い。もし選ばれて無かったらいつも通り近場の区画を見回って、くたばってる奴を拾ってダストシュートにぶち込む掃除を死ぬまでやり続けてた。
便宜上は衛生管理とかなんとかあったが、要は誰にでも出来る簡単なお仕事って事だろ。惰性で生きてその日をなんとなく生きるための作業でしか無かった。
それがどうだ。俺がこのシェルターの奴らの命を握っていて、しかも全員の命を助けてるんだぜ?本当に不思議だ。死ぬ事が決まっているのに悔しいだとか、理不尽だなんて愚痴が出てこねえんだ。
今か。そりゃぁ生まれて初めてだぜ。こんなにスッキリとした気持ちってのは。もう居ねえお袋に一度、何故俺は生まれたんだって聞いた事があったけどよ、その時は生きていれば分かるしか言わなかった。
俺の生きていた意味ってのを今やっと理解したぜ。俺の命は誰かを助ける為にあったんだ。本当に、笑っちまうぜ。お前もさ、こんな記録だなんてくだらないことやって無いで自分の価値とか見つけられると良いな。じゃ、俺は寝るわ。ヤケに眠てぇんだ。またな。
次の日男は遺体となってダストシュートに放り込まれた。
彼が命がけで救ったシェルターの寿命は3ヶ月。果たして延びた時間でここに暮らす人達が得た生きる意味とは。それはいつもと変わらない絶望の延長にある日常。
惰性で生き続けている人を助ける事は救いと呼べるのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます