Administrator of the fourth sector

 この地下世界は誰が管理しているか。それは生き延びた全ての人だと言える。働かない人間は健康診断どころかタンパク質タブレットすら貰えず、ただ死ぬ。互助という考え方は存在しない。


各々がただ、生きる事に必死なのだ。しかしそれでは争いと力が全ての無秩序な世界に成り果てる(一部のセクターではそれが原因で廃墟と化した)。


 だからこそ数少ない人間を維持する為様々な維持システムが考案された。この第4セクターでは管理者制度が取られた。この地域は嘗てのユーラシア大陸東部で生き残った人間が暮らしていた。


 そこでは「Butter」が存在する以前から深刻な環境汚染が問題となっていたため、汚染浄化技術が発展していた地域ではあった。しかし、貧困層が多く平均寿命が短いため若い世代の人手不足に陥っていた。この状況は人々が地下世界に逃げてから益々悪化していった。


 中でも大きな問題なのが浄化装置の問題だった。シェルター「Agartha」内には酸素を発生させる装置が存在しない(地下深くへ逃れた富裕層は強大な技術力と資金で隔離世界を形成したが、今回は考慮しない)。


つまり人々が呼吸をする空気は汚染された外界から取り入れなくてはならない。そのため然るべき浄化フィルターと除染装置で「Butter」を除去しなければならない。


 問題はこの浄化フィルターの定期交換にあった。「Butter」は様々な汚染物質が蓄積したバイオフィルムであるため、粘性を持つ事が多い。つまり、フィルターはこびりついた「Butter」の為、汚染物質が濃縮されているのだ。このフィルターをシェルター外の廃棄物処分場に廃棄する、つまり誰かがシェルター外へ出ていかなければいけないのだ。


 考えてみて欲しい。放射性物質と化学物質に汚染された世界に出る事がどれほど危険な事か。もちろん防護服は着用するが、万が一破損や傷がついた場合は即死である。また防護服が完全に汚染を防げる訳ではない。


特に放射性物質に関しては鉛とケブラーで防御した所でやすやすと貫通してしまう。つまり、外へ出ることはただでさえ短い寿命を一気に縮める事と同義である。そのためこのような活動を進んで行う人はほぼ存在しないが、それではシェルター「Agartha」は存続出来ない。


 つまり「管理者制度」とはそういう事なのだ。管理者になれば月に1度の仕事以外は何もしなくて構わない。さらに定期診断は無料で受け放題、毎日水とタンパク質タブレットの支給に、合成グルコースタブレットまでついてくる。まさにシェルターの中でも最も恵まれている仕事である。


 その対価は寿命。生活区画は上位層。任期は終わるまで。


 いつ死ぬか分からないこの世界で、短い命を少しでも長くするのか、それとも僅かな楽しみを享受して燃え尽きるのか。


 どちらにせよ、先の無いこの世界で幸せとは、生きる意味とは何なのだろうか?




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