02. 井戸・学校・農場

 そこはとても貧しい国だった。


 食料も足りず、疫病が蔓延り、子供が生まれては死んでいった。


 周りの国はその国の人達を気の毒に思い、食料と薬を送った。死亡率は下がり、人口が増えた。そしてまた食料が不足し、子供が生まれては死ぬようになった。僕の目には不幸の数が増えただけのように見えた。


 周りの国はその国の人達を気の毒に思い、その国の一つの村に井戸を掘った。学校を作った。農業を教え、自分たちで生活出来る基盤を作った。村人はとても喜んだ。彼らは食料生産量とそれで賄える人口を認識できるようになったため、もう無闇に子供を産むことはなかった。彼らに知恵をもたらした外国人たちは、安心して自分たちの国に帰って行った。


 だが数週間後、そこに村はなかった。


 隣の村の略奪に遭ったのだ。水と作物を巡る争いが起きた。多くの血が流れた。学校も井戸も農場も壊され、その一部は売り払われた。


 周りの国はその国の人達を気の毒に思い、その国の一つの村に井戸を掘った。学校を作った。農業を教え、自分たちで生活出来る基盤を作った。そして今度は隣の村に襲われないよう、強固な壁を作った。村人はとても喜んだ。外国人たちは、安心して自分たちの国に帰って行った。


 だがそれは明らかな差別であった。一つの村を優遇したことを国際社会から非難され、村の周りの壁は直ちに撤去された。そして略奪が起き、血が流れ、村は消えた。


 そこはとても貧しい国だった。

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