いるかパン
ヱビス琥珀
01. いるかパン
イルカ達にパンを配るのが僕の仕事だった。
僕達のところにはたくさんのイルカがやってきて、たくさんのパンが届いた。若いイルカもいたが、どちらかといえば年老いたイルカが多かった。イルカ達はパンを受け取ると、とても嬉しそうに笑った。その笑顔を見て僕も嬉しくなった。やりがいのある仕事だった。
テレビに飢餓に喘ぐシャチの家族が映っていた。シャチの家族にはパンが足りていないらしい。僕はシャチの家族を助けたいと思った。このパンを分けてあげられれば良いのにと思うが、そんなことを言ったら施設のボスやイルカ達が黙っちゃいない。
それにイルカ達にパンを配るのが僕の仕事だ。
ラジオのパーソナリティが、小麦粉工場の従業員が過労死したと言っていた。僕はその従業員を気の毒に思った。パンの製造量を減らせば良いのにと思うが、そんなことを言ったら施設のボスやイルカ達が黙っちゃいない。
それにイルカ達にパンを配るのが僕の仕事だ。
イルカに配るパンが高価なものに変更された。そっちの方が、イルカ達が長生きできるそうだ。一部のイルカ達の間には、長生きに対する不安のような空気が漂っていた。けど僕はイルカじゃないから、イルカ達の気持ちに口を出す権利はない。
それにイルカ達にパンを配るのが僕の仕事だ。
悪いニュースなんか聞こえてこなければ良かったんだ。そんな悲劇を知らなければ、僕は僕の仕事にもっと誇りを持てただろう。もちろん皆が幸せなのが一番良いのだけど。
テレビではシャチの家族が飢餓に喘いでいた。
小麦粉工場の従業員が生き返ることはなかった。
パンの配分について論争が起きていた。
イルカ達にパンを配るのが僕の仕事だった。
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