修道院編 2

 修道院という場所には決まってお仕置き部屋が存在する。


 国教の戒律に従って慎ましく暮らしているシスターたちだが、年頃の女の子たちが大人しい生活に耐えられるわけがない。戒律を破ってしまうことがままあり、そうなると修道院長の手による厳しいお仕置きが行われるのだ。


 案の定、お仕置き部屋は修道院の地下に存在していた。


 天井から床までが石造りの部屋で、窓がないから非常に圧迫感がある。照明は部屋の四隅にあるオイルランプのみなので薄暗く、部屋のそこかしこに置かれているお仕置き道具を恐ろしげに照らしていた。鉄格子のドアを閉じて、鍵を預かれば完全な密室である。


 カトレアを部屋の中心に立たせて、ローザとマリアンヌの二人で見張る。


「今日は尋問のお手伝いをお願いしますわ」

「え、ええ……このマリアちゃんもそのつもりです」


 緊張した面持ちで答えるマリアンヌ。


「ちなみにマリアちゃんは服を脱がなくても大丈夫ですか?」

「ふふっ、それはマリアンヌ様にお任せしますわ」


 ちなみにローザの兄であるアレンが尋問するとき、助手となったエルフィリアはいつも服を脱いで下着姿になる。なんでも王女という身分を捨て去り、一人の人間として尋問相手と向き合うためらしいが……ローザはそこまでマリアンヌに求めるつもりはない。


「それなら着ておくことにします。マリアちゃん、冷え性ですし……」


 地下にあるため空気が冷えるのか、ぶるっと身を震わせるマリアンヌ。

 彼女はローザにくっついて耳打ちする。


「いきなりの本番ですが大丈夫ですか?」

「お兄様から訓練は受けていますし、心構えなら十分にできています」

「それでも注意してくださいね。ローザちゃんには特別な力はありませんから」


 ローザの敬愛する兄であり、高級尋問官でもあるアレンは『弱点を見抜く力』と『嘘を見抜く力』という二つの才能を持っている。

 彼の鋭い洞察力にかかれば、尋問対象は弱点を的確に責められたあげく、その場しのぎの嘘やはったりも通じず、真実を明かすまで決して逃れられないのだ。


 確かにローザにはアレンのような特殊な才能はない。それでも、アレンが高級尋問官になる以前に王立騎士団で洞察力を養ったように、ローザはローザで女学生時代に学んだことが多々ある。自分だけの強みを尋問に生かせないかどうか、厳しい訓練を受ける中で考えてきたのだ。


「カトレアさん、あなたの尋問を始めさせていただきますわ」

「神よ、どうかこの哀れな子羊をお守りください……」


 立たされているカトレアがロザリオを握りしめて祈る。


「凶器や証拠品を隠されていたら困りますから、カトレアさんにはまずお召し物を脱いでいただきますわ」

「わ、分かりました……別に隠すものもありませんし……」


 大人しく修道服を脱ぎ始めるカトレア。


 ゆったりとしたワンピースをたくし上げると、白のストッキングに包まれた両脚が露わになる。そこからさらにガーターベルトの留め金、さらにはレースのふんだんにあしらわれた純白のパンティが地下室の冷たい空気にさらされた。


 ワンピースが足下に脱ぎ捨てられて、頑なに隠されていたカトレアのバストが披露される。パンティと同じく純白で、フリルがあしらわれている様は一見すると清楚だが、男の手にすら余りそうなバストサイズ故に女性的魅力が隠せていなかった。


「これはエルと同じサイズ……いや、それ以上はありますね!」


 規格外の美乳を目の当たりにして、いきなり興奮気味のマリアンヌ。

 二人の視線にさらされて、カトレアが恥ずかしげに顔を赤らめる。


「フードの中も何もありません……これでいいですよね?」


 一度外してみせたフードをかぶりなおすカトレア。


 修道服の地味なワンピースを脱ぎ捨てて、下着とフードと革靴のみを身につけている姿は、これからお仕置きを受けるというよりも、なにかもっと邪なものを想像させる。豊満な胸の谷間に収まっているロザリオすら、カトレアのむちむちとした肉体の魅力を引き立てる装飾品に見えるくらいだ。


 桃のような……否、メロンのような大きさを誇る乳房はやはり重いのか、カトレアは無意識のうちに両腕で胸を支えていた。両腕で持ち上げられた乳房は型崩れせず、まるでミルクプリンのようにぷるんと揺れている。


「同性に下着を見られるだけでも恥ずかしいですか?」


 ローザの問いかけに対して、カトレアはふるふると首を振る。


「修道院では女性だけで暮らしているんですよ? 下着を見られるくらいどうってことありません。それに私はお仕置きだって慣れていますからね。まあ、それは私だけではなくここのシスター全員に言えることですが……」

「ふむ……では、尋問をする前におまじないをさせていただきますわ」


 ローザは制服のポケットから口紅を取り出す。

 おもむろにカトレアへ近づくと、彼女の下腹部に口紅で絵を描き始めた。


「きゃっ!? な、なにをしているんですかっ!?」


 ローザが口紅で描いたのは大きなハートである。


 下腹部に描かれたそれはランプの明かりに照らされて、ぼんやりと妖しげに光っているように見えた。これはあくまで口紅で描いたラクガキだが、もしも本物のタトゥーだったとしたら、そんなものを入れるのは娼婦か淫魔くらいなものだろう。それが聖職者の下腹部に刻まれているという事実がなおさら淫靡な空気を濃くさせる。


「これは素直になるおまじないですわ」

「こ、こんないやらしい魔術……聖職者である私には通じませんよ!」


 そう言いながら内ももをキュッとさせているカトレア。

 マリアンヌが不安そうな顔をしてローザに耳打ちする。


「このおまじない……効き目はあるんです?」

「まさか! わたくしは魔法使いではありませんわ」


 ローザはカトレアに見えない角度でくすっと笑った。


「でも、ああいう信仰心の厚いタイプの女の子は、悪いおまじないも信じてしまう傾向にあるのですわ。たかがラクガキとは思っていても、いやらしいおまじないをかけられたのだと体は思い込んでしまう……ほら、もう効果が出ていますわ」


 ローザに言われてマリアンヌが振り返る。


 この涼しい地下のお仕置き部屋にいながら、カトレアの体は急に汗ばみ始めていた。大粒の汗が胸の曲面を伝って、純白のブラジャーにじわじわと染み込んでいる。


「尋問というのは眺めているだけなのですか?」


 カトレアがじろりとローザをにらみつけた。


(むやみに挑戦的な態度を取るのは焦り始めた証拠……ですわね)


 ローザは愛用の手帳を開き、ついに本格的な尋問を開始する。


「さて……カトレアさんはわたくしがシスターたちから集めた情報をでたらめだと主張していました。わたくしの手元には他にもカトレアさんに関する情報があるのですが、まずはそれらが真実であるかどうかを確認させていただきますわ」

「ま、まだ他にも私のことを嗅ぎ回って……」


 許せないとばかりに唇をキュッと結ぶカトレア。

 手帳のとあるページを見て、ローザはふふっと笑みをこぼす。


「匿名希望シスターのAさんからの情報ですわ。聖ベロニカ修道院を訪れる有力者は多いそうですが、その中にはお土産にお菓子を持ってくる方も多いそうですわね?」

「え、ええ……まあ……」

「お菓子を受け取ることは国教の教えである清貧に反する。でも、カトレアさんは断り切れずに受け取ってしまうそうですわね。しかも、それをシスターたちにばれないようにするため、一人だけでこっそり食べてしまうのだとか……」


 ローザの視線がカトレアのむちむちとした腰回りに注がれる。


「ふむ、みんなに配る分のお菓子を独り占めしていたら、そんな肉付きのよい体になるのも当然ですわね」

「そ、そんな卑しいこと、私はしていませんっ!」


 カトレアは頑として認めるつもりはないらしい。

 そのとき、彼女の視線がふとローザの体に注がれる。


「そういうローザさんの方は随分とスレンダーでいらっしゃるようで……」


 カトレアが指摘したとおり、ローザはよく言えばスラッとしている――ハッキリ言ってしまえば子供っぽい体つきをしている。制服の上からでは胸のふくらみがほとんど分からず、その頂点が少しばかり布地を押し上げている程度だった。


(わたくしは自分の体つきにコンプレックスを感じているわけではありませんが……)


 でも、ここまで露骨に言われると少しはイラッとしてしまう。

 だからといって、必要以上に厳しい尋問をするつもりはない。


 尋問官が己を律することができなかったとき、正しき尋問は悪しき拷問に変わってしまい、尋問相手の心と体には深い傷が残ってしまう。それは尋問官にとって最も愚かな行いであるとローザは最愛の兄から教わってきた。


 高級尋問官は王女を守る立場にある。そのためには尋問を行った事実すら外部に漏らさないのが望ましい。その最もスマートな解決方法とは、尋問相手の理解を得て、良好な関係を構築して尋問を終えることだ。


 尋問で厳しく当たっておきながら、最後は良好な関係を結ぶ……矛盾しているように思えるが、王女を守る高級尋問官にはその無理難題の解決が求められる。ローザは今日このときまで、そのための訓練を兄から受けてきた。


(絶対に尋問を成功させてみせますわ……)


 ローザは決意を新たにして尋問を続行する。


「それでは次の情報ですけれど……匿名希望シスターのMさんからの提供ですわ。なんでもカトレアさんは、表向きには歌姫の流行に否定的な態度を取っていながら、実はこっそりと歌姫のコンサートに参加しているのだとか……」

「ええっ!? カトレアさん、歌姫のこと好きだったんですかっ!?」


 問い質されている本人より反応したのがマリアンヌである。

 彼女は目をキラキラさせて、猛烈な勢いでカトレアに近寄った。

 上目遣いでまじまじと見られて、カトレアの頬に赤みが差す。


「ち、近いっ……マリアンヌ様のお顔がっ❤」

「カトレアさんのおうちが戒律に厳しいことは知ってます! でも、このマリアちゃんくらいには趣味を隠さなくてもよかったじゃないですか! 正直に話してもらえたなら、きっと同じ歌姫好きとして楽しくお話できたのに……」

「そ、それはっ――」

「マリアンヌ様、今はお下がりいただけますか?」


 急接近したマリアンヌとカトレアの間にローザは割り込んで引き離す。

 カトレアの態度から察するに、彼女がマリアンヌに危害を及ぼすとは思えないが、それでも注意するに越したことはない。


「ああっ……マリアンヌ様が遠くに……」


 話したいけど話せない。

 そんなマリアンヌの苦悩が彼女の悩ましげな表情から見て取れる。


「歌姫が好きであることを明かせばマリアンヌ様とお話しできるかもしれない。でも、明かしてしまったら自分が国教の戒律を破るような人間だと思われてしまう。そんな板挟みの状態だった……といったところですわね?」

「あ、あなたに何が分かるというのですか!」


 ローザの指摘を聞いて、そっぽを向いてしまうカトレア。


「分かりますわ。そういうタイプの女の子が向かう先は……」


 カトレアの頬に手を添えて、ローザは自分の方に顔を向かせる。

 年下の少女に『女の子』呼ばわりされて、カトレアがキュッと唇を噛みしめる。

 ローザは手帳の新たなページを開いた。


「匿名希望シスターのCさんの情報ですわ。カトレアさんは大変な読書家で、聖書だけではなく数多くの書物を読みあさっているようですが……愛読書の中にはスキャンダラスな王族の恋愛を書いた『王女様の秘密シリーズ』も存在するとか?」

「し、知りませんっ! そんな破廉恥な本はっ!」


 動揺から視線が泳いでしまっているカトレア。


(嘘のつけない女の子というのは総じて可愛いものですわ)


 カトレアの目を見つめながら、ローザは小悪魔的な笑みを浮かべる。


「知らないというのなら、どうして破廉恥な内容だと知っているのです?」

「あっ……」


 カトレアがあからさまに「やってしまった」という顔をする。


「あ、あなたが言ったんじゃないですか! スキャンダラスな恋愛ものだって! 読んだことはないですよ? 読んだことはないですけど、その説明だけで破廉恥な内容だということは容易に想像できます!」

「まあ、定番の言い訳ですわね」


 ローザはさらに手帳のページをめくる。

 そこに記した文章に目を通して、彼女はにやりとほくそ笑んだ。


「あれをしてはいけない、これをしてはいけない……そんな風に抑圧された人間は、むしろ抑圧されていない人間よりも背徳的行為に興味を持ってしまうものですわ。破廉恥な恋愛小説なんてほんの序の口……」

「ま、まだ私の秘密を握っているというのですか?」


 カトレアが震える声で問いかける。

 罪状を読み上げる裁判長の如く、ローザは手帳の内容を読み上げた。


「最後に匿名希望シスターLさんからの情報ですわ」


 思い当たるところがあるのか、カトレアがビクッと背筋を震わせる。

 彼女の体が震えだして、奥歯がカチカチと音を立てていた。


「カトレアさんはLさんのことを随分と気に入っているらしいですわね。Lさんは週末になると必ずカトレアさんの部屋に呼び出されているのだとか。しかも、カトレアさんは自分のベッドにLさんを誘い込んで――」

「やめなさいっ!! もうやめてっ!!」


 カトレアがお仕置き部屋の外まで聞こえそうなほど声を張り上げる。

 豊満なバストを伝っていた汗が、怒鳴った勢いで床にまで弾け飛んだ。


 涼しい地下室にいながら、カトレアの汗かきっぷりは真夏のようで、お仕置き部屋には彼女の体から発せられる汗と甘ったるい女の匂いが漂っている。女同士であるから多少は無視できるものの、異性が嗅いだらまず興奮を抑え切れまい。


 ほっそりとした目を見開き、カトレアがローザをにらみつける。


「さっきから大人しく聞いていれば、告発文とは関係のないことばかり! その手帳に書いてあることが事実だとしても、私が告発文を捏造した証拠にはなりません! これ以上の無駄な確認はやめていただき――」


 ばたん!


 ローザは乱暴に革表紙の手帳を閉じる。

 その音にびっくりさせられて、カトレアが「ひゃんっ!」と可愛い悲鳴を漏らした。


「お、お、驚かさないでください……」

「カトレアさん、あなたという人間が見えましたわ」


 ローザは閉じた手帳をそばにある机に置いた。


「聖ベロニカ修道院を束ねる修道院長の立場にありながら、あなたはシスターたちに教えを守るよう厳しく接している一方で、自分は背徳的な行為に及んでいる。これは尋問を進めるより先にお仕置きが必要のようですわね」

「お、お仕置きっ!?」


 その言葉を聞いた途端、カトレアがさらに弱気になる。

 彼女の表情はまるで母親に叱られる小さな子供のようだった。


(当たり、ですわね)


 ローザは自分の直感が的中したのを確信する。


 カトレアは「お仕置きには慣れている」と言っていたが、実際はその逆……子供の頃に受けた罰というものは一生心に残るものだ。どれだけ肉体が成長して、社会的に高い地位を手に入れても、お仕置きには弱いのが人間の常である。


「カトレアさん、そこの木馬にまたがってください」


 ローザが指さしたのはお仕置き部屋の片隅にある木馬だった。


 馬の首部分は立派な木彫りであるが、胴体は大きな丸太そのものである。胴体からは四本の脚が生えており、石造りの床にしっかりと固定されていた。拷問に使われるものほど凶悪ではないが、あぶみも鞍もなしにまたがるだけでも難しい。もちろん、またがったら大人でも両脚を床につけることはできない高さだ。


「尋問はどうするんですか、ローザちゃん!?」


 成り行きを見守っていたマリアンヌが不安そうに耳打ちしてくる。

 ローザは彼女の唇にそっと指先で触れた。


「これも尋問のシナリオの一部ですわ、マリアンヌ様」

「でも、カトレアさんが大人しくお仕置きを受けてくれるとは……」


 マリアンヌが不安に思っている通り、カトレアはその場に立ち尽くしていた。


 ローザはカトレアの視線の先を確かめる。

 彼女の視線は壁に掛けられている乗馬用の鞭に注がれていた。


(なるほど……それが子供時代に一番堪えたお仕置きなのですわね)


 ローザは乗馬用の鞭を手にとって素振りしてみせる。

 ヒュッ、と空気を裂くようなキレのある音が鳴った。


 乗馬用の鞭はよくイメージする紐状のものではなく、よくしなるスティックといった形状をしている。先端にはハート型の革が張られており、人間が平手打ちするかの如く面に衝撃を与えられる構造になっていた。


「三度は言いません。木馬に乗るのですわ、カトレアさん」

「……は、はいっ!」


 裏返り気味の声で返事して、カトレアが大急ぎで木馬にまたがる。彼女は木馬の首にしがみつき、丸太の胴体を太ももで挟み込んで、どうにか体を支えようとした。しかし、それがなかなか上手くいかない。


 カトレアは先ほどの質疑応答で全身汗まみれになっている。身につけている清楚な下着は汗を吸い尽くして、肌に貼り付きすっかり透けてしまっていた。ブラジャーの向こう側でこっそり硬くなっている桜色のつぼみや、パンティーにくっきりと形を浮かび上がらせている秘密の亀裂まで、彼女の知らぬうちに露わになっているのだ。


 パンティーで吸い尽くせなかった汗は、カトレアの太ももを伝って床まで流れ落ちている。もちろん、そんな状態で丸太の胴体を太ももで挟み、体を固定しようとしても上手くいくわけがない。太ももがぬるぬると滑ってしまい、カトレアは甘酸っぱい果実のような美尻をふりふりさせるしかないのだった。


「神よ……このような恥ずかしい格好になった私をお許しください……」

「カトレアさん、反省の時間ですわ」


 ローザはまず、カトレアの尻を包んでいるパンティーを引っ張り上げる。


「ひゃっ……ロ、ローザさん、一体何をっ!?」

「こうしないとお尻を叩けませんわ」

「く、食い込んでますっ! 食い込んでます、ローザさんっ!」


 ギリギリと音を立てそうなほど引っ張り上げられたパンティーが、カトレアの肌に汗で貼り付いて固定される。清楚なパンティーの面影はなく、最初から布面積の少ないふしだらな下着を穿いているようにしか見えない有様になっていた。


「このくらいで大丈夫ですわね」


 ローザは乗馬用の鞭をカトレアの美尻に向かって振り下ろす。


「ひゃぅっ❤」


 パシッと破裂音を立てて、柔らかそうな尻たぶにハート型のあとができあがった。叩かれたところに傷跡の残らない……しかし、じんわりと赤くなる絶妙な加減だ。


「い、痛いですっ……でも、この感じっ❤ な、懐かしいような気もっ❤」


 カトレアは衝撃に感じ入り、ビクビクと背筋を反らせている。木馬の首を左右の乳房で挟み込み、両腕を回して抱きついていないと、今すぐにでも木馬からずり落ちてしまいそうなほどの深い感じ方だ。


「カトレアさん、あなたは何をされていますか?」

「な、何をされているって――」


 ローザはすかさず再び乗馬用の鞭を振り下ろす。

 ハート型の先端部を叩きつけた瞬間、美尻にまとわりついた汗が飛び散った。


「あっ❤ あっ❤ あっ❤」


 不意を突かれたカトレアは足先までピンと体を硬直させる。

 木馬の首を挟み込んだ乳房がぶるんと揺れた。


 肌に貼り付いたブラジャーの布地がズレて、その奥に隠されていたピンクの突起が外気にさらされる。それは敏感になって硬くしこっており、汗をまとってきらりと光っている様子は、さながらたわわな乳房を彩る宝石のようだった。


「お、お尻をっ❤ お尻を叩かれてますっ❤」


 カトレアの口から漏れ出す声には、明らかに女の色気が混じっている。

 己の胸の内に隠された淫らな快楽が、耐えきれずに顔を出したのは明らかだ。


「それは何故なのかしら?」

「わ、私が……は、背徳的な行いを……あぁんっ❤」


 三発目の鞭が振り下ろされる。

 カトレアの弁を聞きながら、ローザは立て続けに鞭を見舞った。


「背徳的な、行いを……んっ❤ してしまった、悪い子だから……はぁんっ❤ こうして罰を受けることに……ひぃんっ❤ ゆ、赦してっ❤ 私、いい子になりますっ❤ いい子になりますからっ❤」


 きっと幼い頃も、同じことを言って許しを得ていたのだろう。

 ローザにはカトレアの幼少期の姿が透けて見えるようだった。


「はーっ❤ はーっ❤ ふぅ……はぁっ❤ んっ……❤」


 熱っぽい呼吸を繰り返すばかりになってしまうカトレア。


「す、すごい……」


 尋問を見守っていたマリアンヌが呟いた。


「鞭と言葉だけで、あの大人びていたカトレアさんをこんな子供みたいに……」


 成熟した大人同然の肉体と美貌を持っているカトレアが、未成熟で子供っぽい見た目のローザにお仕置きされて許しを請うている。それは端から見ていたら、立場の逆転した異様な光景に捉えられることだろう。


「赦す……赦す、ですか」


 ローザはやや手加減して、ぺしぺしと軽めにカトレアの尻を叩いた。


「ひゃっ❤ んんっ❤ そ、そんな……優しく叩いたりして……んっ❤」


 くすぐったさにも似ている物足りない刺激に焦らされて、いっぱいいっぱいになっていたカトレアがまともに話せる程度には立ち直る。といっても、一定のテンポで刺激を与え続けられているため、決して気を抜くことはできない。


 そうして刺激に慣れてきたタイミングを見計らって、ローザは乗馬用の鞭を腰のベルトに挟み込み、空いた右手でおもむろにカトレアの柔尻をつかんだ。


「んんんんんんっ❤ んんっ❤ んぐっ❤」


 突然の乱暴な刺激を受けて、言葉にならない声を漏らすカトレア。


 乗馬用の鞭で何度も叩かれたことで、彼女の尻は左右共に赤くなってしまっていた。それはさながら未成熟な果実が色づき、表面から汗という名の蜜を染み出させているようであり、思わずむしゃぶりつきそうなくらいの色香を放っている。


「とても聖職者のお尻とは思えませんわね……」


 ローザは赤みを帯びたカトレアの尻に指をぐっと食い込ませた。


「敬虔な国教信者として神様に仕えているあなたが、まさか教えを破って堕落した享楽にふけっているだなんて……こんなことを知ったら、家族や友人知人に落胆されるだけではなく、神様に見放されしまうかもしれないですわね」

「そ、そんなっ……私はっ……」


 信心深いカトレアだけあり、神の存在はやはり大きなものらしい。

 彼女の気が弱くなっていくのがローザには手に取るように分かる。

 人間の体は正直なものだ。

 尻とて例外ではなく、触れているだけで容易く感じ取れる。


「あぁ、神よ……」


 カトレアの目尻に大粒の涙が浮かぶ。


「私は間違っていたのでしょうか……赦してはいただけないのでしょうか……」

「カトレアさん、あなたの苦労は理解できます」


 ローザの発言はカトレアにとって思いもよらぬものだったのだろう。

 あふれ出そうになっていた涙が寸前で止まっていた。


「分かって……いただけるのですか?」

「ふふっ、もちろんですわ」


 カトレアの熱くなった尻を揉みながら、ローザは上目遣いで語りかける。


「あなたは敬虔な国教信者の家庭に生まれて、幼い頃から戒律に縛られて生きてきた。普通の女の子が食べてるお菓子、流行っている遊び、可愛いお洋服……その何もかもを我慢してきたわけですわ」

「そうです……はい、その通りですっ!」

「修道院長に就任したのも家族の期待に応えるためだと聞いていますわ。そして、重要なポストについてしまったがため、なおさら体面が大切になってしまった。そのプレッシャーに押しつぶされそうになったあなたは、なおのこと今まで我慢してきたことに興味をそそられてしまう」


 体面の重要な修道院長の立場だが、それを悪用すれば修道院という空間を自分のものにするのも難しくない。お菓子を独り占めにするのも、お気に入りのシスターを自室に連れ込むのもやりたい放題だ。そうなったら、あとは堕落していくだけ……。


「私、本当につらくて……それで、我慢できなくて――」

「カトレアさん」


 ローザは手のひらをカトレアの頬に添える。


「あなたがつらいからといって、神様に赦されるわけではないですわよ?」

「ひぃっ――」


 神に赦される過ちを犯した。

 神に仕えて生きてきたカトレアにとって、その事実はあまりに重すぎたのだろう。

 どうにかギリギリで耐えていた涙が、堰を切ったようにあふれ出した。


「なんて……取り返しのつかない……ことを……」


 木馬の首に抱きつきながら、さめざめと泣き始めるカトレア。

 今の彼女は天から垂らされた救いの糸を切られたに等しい。

 それなら、ここで救いの手をさしのべるものが現れたら?


「カトレアさん」


 ローザは今一度、心の折れたカトレアに語りかける。


「たとえ、神様があなたを赦さなくても、わたくしはあなたを赦しますわ」

「えっ……」


 泣き声を漏らすばかりだったカトレアがようやくローザを見る。頬を涙で濡らしている彼女は、まさに道に迷う哀れな子羊そのものだった。


「こんな私を……赦してくれるのですか?」

「もちろんですわ」


 ローザは指先でカトレアの涙を拭った。


「神様が赦さなくとも、あなたの家族が赦さなくとも、修道院のシスターたちが赦さなくとも、わたくしは……わたくしたちはカトレアさんを赦しますわ。誰もあなたを愛さなくなったとしても、わたくしたちだけは愛して差し上げますわ」

「ローザさん、たち?」


 信じたい……でも、信じ切れないという顔のカトレア。


 ローザは振り返って主の名を呼ぶ。


「そうですわよね、マリアンヌ様?」

「も、もちろんです! このマリアちゃんは神様に匹敵する優しさの持ち主ですから!」


 このタイミングで話を振られると思っていなかったのか、マリアンヌは一瞬戸惑う様子を見せたものの、しっかりといつもの調子で応えてくれた。こういうとき、彼女の自信満々な性格がとても頼りになる。


「それで……ええと、ローザちゃん?」

「わたくしに考えがありますわ」


 ローザはマリアンヌの元に駆け寄って耳打ちする。

 マリアンヌは深くうなずくと、木馬の反対側に回り込んだ。


「ロ、ローザさん? マ、マリアンヌ様?」


 美少女尋問官と王女様に左右から挟まれて困惑するカトレア。


(さあ、最後の仕上げですわ……)


 悪戯な笑みを浮かべて、ローザはそっと耳元でささやいた。


「好きですわよ、カトレアさん❤」

「ひゃっ❤ ロ、ローザさんの吐息が……お耳にかかってっ❤」


 たまらなそうに背筋をゾクゾクさせるカトレア。

 今度は間髪入れず、マリアンヌが反対側から耳元でささやいた。


「好きですよ、カトレアさん❤」

「あぁっ❤ マ、マリアンヌ様までっ……や、優しい吐息がっ❤」


 反響する美少女たちの可愛らしい声。

 耳元をくすぐってくる吐息は甘く切ない。


 神のために生きていたといっても過言ではなかったカトレアが、神の教えに背いて全てを失ってしまった。でも、その先に救いはあったのだ。美少女二人に左右から愛をささやかれるというとびっきりに甘くて切ない救済が……。


「好きですわ、カトレアさんっ❤」

「えへへ……好きですよ、カトレアさんのこと❤」


「好きっ❤ 好きっ❤ 好きっ❤」

「このマリアちゃんが好きと言ってるんですっ❤」


「あなたの全てが好きですわっ❤」

「好きです、カトレアさん❤ 好き好き好きっ❤」


 止まらない吐息とささやき。


 左右の耳を責め続けられたカトレアはすっかり恍惚としていた。


 厳格な国教信者の一族に産まれて、修道院長としてシスターたちを厳しく指導している彼女が、こんなにも甘やかすように愛をささやかれたのは初めてだろう。


 カトレアの肉体は確かに大人同然に成熟している。けれども、それは甘美な愛の響きを受けたことのない乙女の体でもあるのだった。


「ふぁっ❤ はぁっ❤ はぁーっ❤ ふぅーっ❤」


 カトレアは呼吸をするだけで精一杯になっている。


 彼女の吐息はやけどするほど熱い。ぷるんとした唇の奥に覗く舌は、唾液で濡れてぬらぬらと妖しく光っており、お仕置き部屋の薄暗さも相まって、それが聖職者のものとは思えないほど淫らに見える。


(さあ、最後の一押しですわ)


 ローザはぺろりとピンク色の舌を出す。

 小顔の彼女らしい小さな舌だが、唾液に濡れたそれはやはり淫靡なものだった。


「カトレアさん、大好きですわよ❤」


 愛の言葉をささやきながら、ローザはおもむろにカトレアの耳を舐め上げる。手始めに耳の輪郭や耳たぶを舐めて、さらにきわどいところまで舌を伸ばした。


「ひゃひっ❤ ロ、ローザしゃんっ❤ にゃ、にゃにをっ❤」


 言葉すらあやふやになるほどとろけるカトレア。


 耳の中というのは普段は耳かきするときくらいしか触れない場所だ。

 首筋、脇腹、背中、内もも……人目から隠されたところは大抵敏感であるが、耳の中というのはその中でも敏感さで群を抜いている。


 誰かに耳かきをしてもらったことがあるなら、耳を舐められることの気持ちよさは容易に想像できるだろう。あるいは誰かに抱きしめられたことがあるなら、他人の鼓動を直に耳で聞くことの心地よさを知っているはずだ。


 ぺろっと舐め上げて、ねっとりと舌を這わせて、ときに激しく唾液をすする。


 カトレアのほっそりとした目は完全に快楽の色で染まっていた。


「で、では……マリアちゃんも一緒に……」


 マリアンヌも恐る恐るカトレアの耳を舌で舐める。


 最初こそ動きがぎこちなかったが、次第に要領をつかんでいき、まるであめ玉を口に含んで転がすかの如く、彼女の小さな舌はカトレアの耳をもてあそんだ。マリアンヌの類い希なセンスが、拙い舌技を淫魔の技へと昇華させたのだ。


「好きですわ❤ はぁっ❤ カトレアさん、好きっ❤ ちゅっ❤」

「好きですよ、カトレアさん❤ んっ❤ れろっ❤ えへへっ❤」


 カトレアの耳周りは美少女二人の唾液ですでにべとべとになっている。まともに二人を見る余裕もない。聴覚を完全に支配された彼女は、おそらく全身をくまなく舐められているような錯覚に陥っていることだろう。


「わらひ……しゅきっ❤ わらひも、しゅきれすっ❤ だいしゅきなんれすっ❤」

「わたくしも好きですわ、カトレアさん❤」

「このマリーちゃんも、あなたのことが好きですよ❤」

「しゅきっ❤ だいしゅきれすっ❤ ふぁっ❤ んんんんんんんっ❤❤❤」


 木馬の首につかまっていたカトレアの体がついにずり落ちる。

 彼女は丸太の胴体に体を預けて脱力してしまった。

 満遍なく揉みしだかれた尻だけが少しだけひくひくしている。


「ローザしゃん……マリアンヌしゃま……わらひのこと、しゅきでいてくだしゃい❤ あの告発文はわたひが書いたものれす❤ 全部認めましゅから、わらひのことをどうかきらわないでくだしゃい❤ だいしゅきなんですぅ❤」


 カトレアの汗に濡れた体が丸太の胴体からずれ落ちそうになる。


 瞬間、滑り込むようにしてローザが彼女の体を受け止めた。


「間一髪でしたね、ローザちゃん」


 ホッと胸を撫で下ろすマリアンヌ。


 彼女も夢中になって尋問の手伝いをしてくれたようで、まるで小さな子供がアイスクリームを食べたときのように口の周りが唾液まみれになっていた。でも、今はその姿がとても立派なものに思える。高級尋問官の助手として一仕事をやり終えた姿だ。


「ローザしゃん、どうして……」


 カトレアは受け止めてもらえたことが信じられないらしい。

 ほとんど下敷きのローザを目の当たりにして目をパチパチさせている。


「カトレアさんは勇気を出して真実を告白してくれましたわ。尋問対象だったあなたは同時にこの尋問における最大の協力者とも言える。尋問に協力してくれた相手には敬意を払う……それが高級尋問官の矜持というものですわ」


 その言葉を聞いたカトレアがたまらず顔を伏せる。


 そこにマリアンヌが駆け寄ってきて、汗まみれなのも気にせず、ローザと一緒にカトレアの体を支えた。


「部屋を出ましょう。濡れた体のままだと風邪を引いちゃいます」

「ご協力感謝いたしますわ、マリアンヌ様」


 ローザ初となる尋問を終えて、三人はお仕置き部屋を出る。


 むせかえるようだった女の香りも次第に薄れていった。

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