第16話 予期せぬ再会

 建物内の探索は続く。しかし、なかなかアトレア同盟の関与をにおわせるような証拠を見つけることができないでいた。

「ないわねぇ……もたもたしてるとやつらの仲間が来るかもしれないし……」

 アオイの焦りは募る。尚且つ、今アオイはビキニを破かれたせいで胸を隠せるものがタオルしかなかった。盗品を付けるのも躊躇われたので、彼女は胸にタオルを巻いたりして凌いでいたが、途中から面倒になったのか、最早彼女は残っていたビキニも外し、何もつけずに辺りの探索を行っていた。

 目についた部屋は全て回った。それでも何も見つからないのだから、ここには何もないのかもしれないと皆は思い始めていた。

 その中でも、ミナトだけは自身の推理に従い、アトレア同盟の関与を裏付ける証拠がここにあることを確信していた。

(重要書類をその辺に置くわけがない。あるとしたら、普通の人間では辿り着けないような場所だ)

 ミナトは再びサラの服があった倉庫に戻る。彼女はハンマーを取り出し、壁に向かってそれを何度か打ち付けた。すると、一部叩いた時の音が違う部分があることが分かった。

「さっきから何ドカドカやってんのよ?」

「アオイ、ここ、この部分だけ音が違います。奥に何かあるのかもしれません」

「ほ、本当?」

「ええ。ここを叩き壊しますのでそこをどいてください」

 退避命令に従いアオイがミナトから離れる。そしてミナトがハンマーを大きく振りかぶり、ありったけの力を込めて振り抜いたのだ。

「こ、これは、部屋……?」

 ミナトがハンマーで破壊したところは大きな穴が開いていた。

「ビンゴですね」

 ミナトが眼鏡をクイと上げる。

「あんた、マジで探偵やりなさいよ……。ハンマー探偵とか知的なんだか脳筋なんだかよく分かんないけど」

 アオイはあんぐりと口を開けて言った。

「なになに? 何か見つけたの?」

 騒ぎを聞きつけてイツキとサラが戻って来る。

「何これ!? 隠し部屋!?」

「らしいわ」

「絶対怪しいよ! 早く入ろうよ!」

 サラに促され、全員で部屋に足を踏み入れる。そこは六畳程度のこじんまりとした部屋であり、真ん中にはテーブルが置いてあった。ちなみに部屋には入り口がちゃんとあり、壁を外すと暗証番号付きの扉が姿を現した。本来であればここを使わなければ入れない部屋であったようだ。

「やつらもまさかこんな強引な方法で入られるとは思ってなかったでしょうね……」

「まあ、この程度の守りを破るのはわけないですよ」

「ミナトさんが味方でよかった……」

 胸をなでおろすイツキ。皆は気を取り直して部屋を探索する。部屋には書類が詰まった書棚が並べてある。どうやら重要書類を保管しているようだ。

「この地図、バツマークが沢山ついてます。恐らく犯行場所のメモかと」

「こっちは転売先について書いてあるみたい」

「下着ドロのくせにちゃんとしてるわね」

 皆、実に丁寧に書類がまとめられていることに驚く。とてもではないが、単なる犯罪集団によるものとは思えなかった。すると、サラがあるものを発見した。

「見て見て! 手紙があるよ!」

「これは!?」

 サラの持つ手紙を半ば引っ手繰り、それを見て驚愕の色を浮かべるミナト。

「ど、どうしたのよ?」

「差出人の名前を見てください」

「えっと……ルイス・アーヴィング? ちょっと、これって……」

 ミナトと同様に手紙に釘付けになるアオイ。

「ちょ、ちょっと二人とも、そのルイス・アーヴィングってのは誰なのさ?」

「……アトレア同盟のリーダーの名前よ」

「え!?」

 耳を疑うイツキ。だがどうやらそれは間違いないようだった。

「ルイス・アーヴィングとは、かつて王都で財を成した豪商のことです。アトレア同盟は彼が30年ほど前に設立した組織なんです」

「その人から誰に宛てて出された手紙なの?」

 サラは手紙を持ったミナトに対して身を乗り出しながら尋ねる。

「宛名はギデオンという人物ですね。この辺りの資料にも同じ名前が出てくるので、恐らく窃盗団のリーダーのことだと思います」

「そ、それって、窃盗団のリーダーとアトレア同盟の代表が繋がってるってことのなによりの証拠じゃないか!?」

「ですが、この手紙には明確に窃盗団とアトレア同盟が手を組んでいると証明できるようなことは何も記載されていません。あくまで個人的な手紙のやり取りと逃げられてしまうとかなり辛いものがあります……」

 ミナトは渋い表情でそう言う。

「ねえ、これってルイス・アーヴィングからの請求書じゃない?」

 アオイが皆に見せたのは、ルイスからギデオンに対する請求書であった。

「手紙にもお金のことが書かれています。例の件とか、謝礼とかぼかしていますが、同盟側から何らかの働きかけがあったことは間違いないでしょう。あわよくば、もっと具体的なものが欲しかったのですが……」

 複雑な表情のミナト。それでもアオイは明るい声で言う。

「敵だって馬鹿じゃないわよ。流出しても言い訳ができるようにはしてるはずよ。それでも、これはかなり有力な証拠よ」

 アオイはミナトの肩を揉んで労をねぎらう。相変わらず彼女の胸は丸見えではあるが。

「さ、証拠品も押収したしさっさと逃げましょう。これ以上の長居は無用よ」

 アオイの指示で皆は退散を始める。途中残党に気を配りながら、彼女らはなんとかアジトを抜け出すことに成功したのだ。

 急ぎ足で皆は街へと急ぐ。アジトを襲撃した以上、この付近にいることは非常に危険だ。アオイは警察に窃盗品について報告した後はすぐにでも街を離れようと考えていた。しかし、その道中、イツキ達はまさかの人物と再会を果たすこととなった。

「待ちなさい!」

 それは聞きなれた声だった。だが、その人物にここで会うことは完全に想定外だった。

 全員の背中に緊張が走る。もし彼女が、窃盗団を使いイツキ達を襲わせたのだとしたら、窃盗団を壊滅させたことはまたしても彼女の面目をつぶすことになる。彼女がその情報を既に手に入れていたとしたら、この場での彼女との戦闘は避けられないだろう。意を決し、皆は彼女の方へと振り向いた。

「やあ、アルト、さん……」

 それはやはり、前貼りニプレス少女、アトレア同盟の中枢に君臨すると噂のアルトその人であった。ちなみに彼女の周りには、いつも通り数名の男がボディーガードのように付き従っていた。アルトはいつもイツキ達と顔を合わせている通り、実に不機嫌そうな表情で皆を見つめていた。

「何か用なの?」

 イツキが尋ねる。するとアルトは大げさにため息をついてみせた。

「何か用なのですって? 用がないわけがないわ」

「ど、どうして……?」

「まさか、本当に分からないとでも言うつもり?」

 アルトの疑問に誰も返答を寄越さない為、彼女はもう一度大きくため息をついた。そして即座に彼女はアオイを指差したのだ。

「あなた! どうして上半身は何も着けていないの!? 裸で出歩くなとあれほど言っているでしょう!」

「あ!?」

 異口同音に皆が驚愕する。さきほどアオイはビキニを外したが、ここに至るまでそのことをすっかり忘れていたのである。指摘された当人は途端に顔を真っ赤にさせ身体を抱きかかえてうずくまってしまったのだった。

「さ、最悪だわ……」

「まったく! あなた達は本当にいい加減にしなさい! いつも人の邪魔ばかりして、その上法律も守らないなんてどこまで我々を馬鹿にすれば気が済むの!」

「こ、これには深いわけがあるんだよ!」

 激怒するアルトを制す為、思わずイツキはそう言った。するとその時、イツキはふとあることを思いついていた。

(……よし、ちょっと危ないけど鎌をかけてみよう。もし少しでも反応を示すようなら、アルトがこの件に関わっていることがわかるはずだ)

「わけってなに? 服を着ないことにどんなわけがあると言うの?」

 アルトは厳しい表情のまま尋ねる。

「じ、実は、アオイは今巷を騒がせている窃盗団に服を盗られたんだよ!」

 イツキが窃盗団の単語を出した為、全員に緊張が走った。皆が固唾を飲んで見守っていると、アルトが口を開いた。

「窃盗団ですって? それってあの、女性の服を盗むと言う?」

「う、うん、そう」

「しかし、彼女はあれだけの槍捌きなのに、窃盗団程度に遅れをとるものかしら?」

「うぐ……」

 鋭い指摘に動揺するイツキ。するとそんなイツキの嘘にアオイがフォローを入れた。

「ちょっと、ボッとしてたのよ。あんたとやり合って、少し疲れててね……」

 窃盗団という単語には別段反応がなかったアルトだが、アオイの言葉に対しては露骨に反応を見せた。

「そ、そう、そりゃ、私と戦えば体力も消耗するものね……」

「そ、そういうこと! とにかく、酷い目に遭ってアオイもショックを受けてるんだよ。だから、お願いだから今回は見逃してもらえないかな……?」

 息をのむ一同。しかし、皆の予想に反し、アルトの反応は実に意外なものであった。

「ショック……を受けているようにはあまり見えないけど、まあ、今回はいいわ」

「ほ、本当に?」

「ええ。毎度毎度邪魔をされていることは非常に腹立たしいけど、窃盗の被害にあった人にまで厳しいことは言わないわ。むしろ、窃盗団をのさばらせてしまっていることを、『アトレア同盟』を代表して謝罪したいくらいだわ」

 そう言うアルトの表情は、確かに申し訳なさを含んでいるようにイツキ達には思えた。その瞬間イツキは、今回の事件の犯人がアルトではないと、確信めいたものを抱いたのであった。

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