第11話 異世界人権連盟
「まあ、私もここにこうしている訳だし、異世界があるのは当然納得しますけど、まさかそんなに沢山あるなんて……」
イツキとしては異世界なんてここぐらいしかないと思っていたのだが、まさか他にも、しかも数百の異世界があるというのだから、それが予想の斜め上であることは間違いない。
「数も驚きだけど、世界を救ったっていう話もビックリしましたね。それってつまり、二人とも世界を救う為に敵と戦ってきたってことですよね……?」
「そうね。敵は数え切れないくらい倒してきたし、何度も死線は潜り抜けてきたわ」
「そんな経験すれば、二人がそれだけ強くなるのも頷ける気がします」
二人の戦い方は明らかに熟練のそれであったことを、イツキは素人ながらも理解していた。
「二人が強い理由は分かりました。でも、それと二人がここにいる理由は関係ないんじゃないですか? それとも、もしかしてそっちの世界もそんな衣装だったんですか?」
「そんなわけないでしょ! こんなハレンチな格好をしている世界なんて、異世界広しといえどもここぐらいなものよ! いい? 数百の世界がある中でこの世界の、しかもピンポイントでこの国だけがこんなハレンチな衣装ってことは、それがどれほど異常なことなのか分かるでしょ?」
この世界が異常なことは火を見るよりも明らかだ。誰がほぼ裸の状態で外を歩きたいものか。誰が男達の不埒な視線を浴びながら生きたいものか。だからこそ、イツキとサラは立ち上がったのだ。
「わたし達の世界は平和を取り戻したことで、他の異世界と交流を持つようになりました。そして、異世界を束ねる組織、『異世界連合』にも参加したのです」
「い、『異世界連合』……? それって地球でいう国際連合みたいな感じですか?」
イツキの問いにアオイが首肯する。
「大体そんなものね。異世界連合は異世界の秩序を守る為に様々な組織を保有している。その中の一つ、『異世界人権連盟』にあたし達は所属しているわ」
「い、異世界人権連盟……」
イツキは「アトレア同盟」やら「異世界連合」やら「異世界人権連盟」と、似たような単語が並んですっかり頭の中がこんがらがってしまったようだった。アオイはオホンと咳払いしてから言う。
「と、とにかく、あたし達『異世界人権連盟』は、様々な世界で人権がしっかり守られているかを監視するのが仕事なの。中には人権に対する意識が希薄で、人身売買や特定の種族に対する弾圧など、人権侵害が発生することはある。そういう世界に対して、あたし達はまず是正勧告を出す。それでも従わない場合、強制措置を発動させることもあるわ」
「強制措置? 例えば?」
「効果的な措置の一つが経済制裁です。世界によっては、異世界間の貿易によって成り立っているところもあります。自分の世界で資源の産出ができなかったり、食料品等や工業製品をうまく作れなかったりするところは、制裁を受け貿易がストップするとたちまち自世界の経済が立ち行かなくなります。その世界を存続させる為にも我々の要求に耳を傾けざるを得ないということです」
イツキは、それは最早地球で行われていることと大差ないのではと思った。結局のところ、いくら規模が大きくなってもそれを行うのが人間ならば、行きつく先は同じなんだと、イツキは少し悲しい気分になった。
「しかし、強制措置を発動させるにはしっかりとした証拠を集める必要があります。その世界が人権侵害を行っているという確たる証拠がなければ連盟は動くことができません」
「証拠を掴む為に、連盟はその世界に調査員を派遣する。要は、あたし達はその調査員をやっているわけよ」
人権侵害をするような危険な国を調査するわけなのだから、きっと彼女らのような実力がなければできないことなのだろうとイツキは思った。しかし、イツキが一か月と少しの間この世界にいた感じでは、彼女らの言うような弾圧や人身売買といったことは行われている様子はなかった。だがその代わりに行われていることは……
「この国の場合は、女性の人権が侵害されているってことですよね?」
「ええ。女性だけがビキニといった布の少ない衣服を強要される国、最初に聞いた時は耳を疑ったわ……」
アオイは憤っているのか、もともと鋭い眼光を更に鋭くさせた。
「普通なら、こんな規則誰かがなくそうと動くはずなのよ。だけど、島国であるこの国はもう五百年以上も他国との関りを持っていない。関りがないなら、自分達と他者を比べることはできない。不便さや理不尽さを感じることがあっても、そういうものだからと自分に言い聞かせて、現状に甘んじるしかない。こんなこと、許せると思う?」
「それに加え、さきほどの『アトレア同盟』のような組織が蔓延り、人々を四六時中監視しているせいで、人々はなかなか自分の意見を自由に言うこともままならない状況です。ですが、さきほどのメイド喫茶のように、現状の不公平さや理不尽さを感じ、法律を無視して好きな服を着ようとしたり、そういった格好を女性にさせようとする人間が非常に多くなっているのも事実です」
「そりゃ、あれだけ高圧的にこられて弾圧されたんじゃ反発だってしたくなるわよね。しかもあの組織自体には公的な権力なんてないのに好き放題やっているんだから尚更ね」
イツキはさきほど、「アトレア同盟」が少女達を引きずっていこうとした様を思い出していた。確かにあれは明確な法律違反だったが、彼女らに権力がない以上、強制排除は明らかにやりすぎだ。それにもし、彼女らが裏で少女達を暴行しているとしたら、それはとても見過ごせることではない。
(「アトレア同盟」が全て悪いってわけじゃないんだろうけど、この国を雁字搦めにしている一因を担っていることは間違いない。彼女らの不正を暴けば、彼女らを大人しくさせることができるかもしれない。そうすれば、俺達の目的も達成できる可能性が高まる)
イツキは自身の旅の目的と、アオイ達「異世界人権連盟」の目的は一致する部分が多分にあると思った。それならば、王都にまでわざわざ出向き、受け取ってもらえるかも分からない意見書を提出するよりも、アオイ達を手伝う方が何倍も効果的のような気がしたのだ。
「さて、ここまでの話を聞いて、あなたは結局どうしたいのかしら?」
アオイがイツキの目をまっすぐ見据えて尋ねる。しかし、この時イツキの腹は既に決まっていた。故にイツキははっきりとこう言った。
「私の旅の目的はこのおかしな法律を変えること。そしてその障害が『アトレア同盟』だって言うのなら、私たちとお二人の目的はきっと同じなんだと思います」
「それなら……」
「はい。私は、お二人の仕事を手伝わせてもらいます。王都に出向いて訴えるつもりだったけど、お二人のやり方の方が実現性高そうですし。サラはどうする?」
イツキに尋ねられたサラは、すぐに首を縦に振った。
「イツキちゃんがそうするならわたしもそうする。きっと、イツキちゃんの進みたい道が、わたしの進みたい道だと思うから」
「そっか、なら一緒に行こう」
「うん!」
イツキはサラの頭を撫でた。かくして、イツキ達はアオイ達の仕事を手伝うことになったのであった。
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