第5話 前貼りニプレス美少女
サラは数日前に服を盗まれ、やむなくこの湖の周りの草むらの中に独りで隠れ潜んでいたのだとか。
またサラの両親は、数年前に流行病にかかり、なんと二人とも亡くなってしまったとのことだった。
「大変だったね……」
イツキはサラの頭をもう一度撫でてやった。
サラの両親が死に、サラは一人になった。両親の遺したお金はすぐに底をつき、幼くして彼女は自分でお金を稼がねばならなくなってしまったのだ。
「この近くの街は日雇いの仕事がそこそこあるので、そこの仕事でなんとか食い繋いではきたのですが、食べること以外にお金を回すことはできなくて……」
しかも、余裕のない生活を送っているさ中に服を盗まれてしまい、彼女は途方に暮れた。服を買う為のお金を稼ぐにも、全裸では街に出ることもできなかったのだ。
「裸で下手に出歩いて、警察や『アトレア同盟』の人に見つかるのも嫌ですし……」
「アトレア同盟って?」
イツキは聞きなれない単語に首を傾げた
「アトレア同盟は、アトレア王家が定める事を厳格に守ろうとする人達です。王家は法律で服装を指定しているので、服を着ていないわたしが見つかれば、きっとあの人達に連れていかれて酷い目に遭わされます。強い魔術師もいるので、抵抗するのは難しいと思います……」
サラは連れて行かれるところを想像してしまったのか、ブルっと身体を震わせた。すると、サラの発したある言葉にイツキが疑問を口にした。
「え、魔術師なんて、本当にいるの?」
イツキは前にいた農村では魔術の類を目撃していなかったので、魔術師という存在には半信半疑のようだ。とは言っても、イツキが美少女に転生すること自体に魔術的な要素が絡んでいるのは明白ではあるのだが。
「はい。前にあの人たちが違反者に対して魔術で酷いことをしているのを見たことがあるんです。あんなことをされたら、怪我では済まないと思います……」
サラは既に今にも泣き出しそうなほどに目を赤くしていた。イツキは出会って間もないながらも、怯えているサラのことを見捨てられないと思った。
(両親が亡くなって辛い目にあっているのに、尚且つそのなんとか同盟とかいうやつに無理やり連れて行かれるなんてそんなの可哀相すぎるよ……。困っている人を放っておくなんてそんな薄情なことできないし、ここでこの子を無視したら、
イツキはそう決意した。そしてサラに向かってこう言った。
「分かった、私があなたに合う服を買ってきてあげる。それさえあれば、そのなんとか同盟ってのに連れて行かれないで済むでしょ?」
「え!? だ、ダメですよ! わたしお金持ってないんですから!」
「だから、それは私からのプレゼントだから、お金のことは気にしなくていいから」
「で、でも、イツキちゃんとは今日会ったばかりなのに……」
尚も食い下がろうとするサラだったが、イツキは有無を言わせぬ口調でこう言った。
「そういうのは関係ないよ! サラはずっと一人で頑張ってきたんだから、たまには人に頼りなよ! それに、私も前に人に助けてもらったことがあるんだ。相手は違うけど、今度は私が頑張る番だと思ってね」
イツキはそう言ってウインクをサラに向けた。サラは何やらモジモジしているようだったが、しばらくしてようやく観念したのか、「分かりました。お願いします」と言って頭を下げたのだった。
それからイツキはサラの胸に合うビキニを探す為、湖の近くにある小さな街へと向かった。イツキがサラの胸のサイズを手で確認した感じだと、サイズはIカップ近くはあるように思われた。これほどの胸に合うブラを探すのは大変であることは間違いないが、それでもイツキはなんとしてでも服を探し出そうと街を巡り歩いたのだった。
そして、一日中歩き続け、彼女はついにそれと対面した。しかし、イツキはその服の柄が気がかりであった。
「サイズはフリーだからどんなサイズでも入るけど、本当にこの柄でいいんかね……?」
イツキの手にするそれには水色の縞模様が入っていた。それは所謂縞パンというやつであった。
「縞パンって二次元の萌絵とかでよく出てくるし、なんか、こんなの着てたら男から性的な目で見られそうだけど……。というかそもそもこれって結構面積大きいけど判定員的にはオーケーなのかね?」
彼女がそこの店の店員に尋ねると、この地区は割と一般的な面積の下着でも全然大丈夫なのだとか。むしろイツキの着ているマイクロビキニはこの辺りではだいぶ過激な方の分類に入ってしまうようであった。
(ってことは完璧に面積は判定員のさじ加減ってことじゃないか! マイクロビキニしか許さないなんて、あの村の判定員はど変態じゃないか!)
人知れず憤ったイツキだったが、今はプリプリしている場合ではない。彼女は気を取り直し、やむなくその縞模様のブラとパンツを購入することにしたのだった。
サラの元へと戻る道中、彼女はサラが口にした「魔術」について考えていた。
(サラはなんとか同盟……えっと、アトレア同盟だっけ? とにかくそこに魔術師がいるって言ってたけど、魔術なんてファンタジーの中だけの話だと思ってたよ。まあ、この世界が既に十分ファンタジーなんだけどさ……。魔術、俺も使えたりしないのかなぁ。そしたらサラが捕まっても助けられるのに)
イツキはこっそりそんなことを考えたが、手をかざしてみたり、オリジナルの呪文を唱えてみたりしても、やはり魔術は全く発動する気配がなかった。
(まあ、妄想は妄想でしかないってことか……)
彼女は一度溜息をつくと、今度こそ気を取り直してそそくさとその場から歩き出し、サラの元へと急いだのだった。
イツキは途中からかなり速いペースで歩いたが、それでも湖にたどり着く頃には辺りはすっかり橙色に覆われる時間帯になってしまっていた。
(丸一日も経っちゃたし、サラ心配してるだろうな……)
そんなことを考えつつ、イツキはサラを探そうとした。すると……
「や、やめてください!」
イツキの耳に、突然焦り切ったサラの声が届いたのだ。
「サラ!?」
声を聴いたイツキは走り出す。すると、声のした方に人だかりができているのがイツキの目に飛び込んできた。見ると、サラは全裸のまま複数の男に腕を掴まれ、身動きが取れなくなってしまっているようだった。
「な、なんだあの人達は……?」
イツキは物陰から様子をうかがうと、サラ以外に四人の人間がいることがわかった。その内三人は男であり、もう一人は女性であった。しかし、その中でもその女性の格好にイツキは目が釘付けになった。
その女性は、髪型は赤色のボブカットで、整った目鼻立ちをしており、美人というよりも可愛らしいという形容が似合う年若い少女であった。しかし、イツキが釘付けになったのはその可愛らしい顔のせいではなく、彼女のその服装にあったのだ。
全裸のサラももちろん目立つが、その少女はまた別の方面に目立っていた。少女はイツキ達が着けているようなビキニは着用していなかった。かといってちゃんとした服を着ているかと問われると、もちろんそんなこともなかった。彼女の大きな胸は、先端部分が赤色のニプレスで覆われているだけであった。そして下半身の大事な部分は、これまた赤色の前貼りが着けられているだけであり、それ以外に彼女の大事な部分を覆うものは何もなかったのである。
(俺のマイクロビキニだって大概恥ずかしいのに、あの格好はさすがにヤバすぎるでしょ!?)
イツキは少女の格好に衝撃を受けながらも、なんとかサラを助け出すべく相手の様子を伺う。
(もしかしてあれが『アトレア同盟』ってやつなのか? とすると、このままだとサラが連れていかれちまう!)
イツキは後先のことは考えず、サラを救出する為に果敢にもアトレア同盟と思しき四人の前に躍り出たのだった。
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