第6話 VS アトレア同盟
「ちょっと! サラをどうするつもりですか!?」
突然出てきたイツキに一同は少し驚いたようだったが、その中の一人、前貼りニプレスの美少女は動揺した様子は見せずに、イツキに向かってこう言った。
「どうするもなにも、公然と外で裸でいるなんて明確な法律違反よ。王家の決めた法律に従わないということは、王家に歯向かうことと同じこと。そんな人間にはきつい罰を与えなければならないわ」
少女はボブカットをサッとなびかせてそう言った。イツキは、少女のその仕草にどこか気品のようなものを感じた。
少女の言葉に、周りの男どもは一様に頷いている。イツキは、この四人の力関係としては少女が一番上であり、その下に男どもが付き従っているという印象を受けた。
「そんな! サラはお金がなくて服が買えないだけなんです! 別に王家に歯向かうつもりなんてないんです!」
「黙りなさい! この期に及んで見苦しいわよ! 『女性は、局部を露出させない程度の衣類を着用するものとする』という法律をしっかり守る意思があれば、局部を露出させないように生活することくらいお金がなくたってできるはずよ。にもかかわらず、その努力を一切しないなんて、王家をないがしろにしているとしか思えないわ!」
イツキは必死に弁明するも、少女は一向に譲る気配がない。
(そりゃ、あなたみたいにそんな際どすぎる格好でもいいならやりようはあるけど、普通はそんな格好絶対に嫌だよ! せめてビキニぐらいほしいと思うのが当たり前だよ!)
イツキと少女がにらみ合う。少女がいくらそこをどけと言っても、イツキはそこからテコでも動こうとはしなかった。そしてしばらくすると、このままでは埒が明かないと思ったのか、少女は男どもにこう指示を出したのだ。
「もういいわ。早くこの子を連れて行きなさい。この国を築いた先人たちに敬意を払えない不届き者には再教育プログラムを実施しなければならないわ」
「や、やめて!? イツキちゃん、助けて!」
泣きながらイツキに助けを求めるサラ。再教育プログラムとやらが何なのかは分からないが、目の前でサラが連れ去られることをイツキは断じて許せないと思った。しかし、彼女にはあの人数の男に対抗できるほどの力はない。
「サラ!」
しかし、それでもイツキは諦めなかった。勝てる見込みなどない。それでも、絶対にサラを見捨てたりはしないと、イツキは心に誓ったのである。
イツキはアトレア同盟の面々に飛び掛かった。だが、その中の一人の男にイツキはあっさり投げ飛ばされてしまった。
「うげっ!?」
したたかに身体を地面に打ち付け、イツキは思わずうめき声をあげる。
「無駄なことはよしなさい。抵抗するならあなたも反逆者として連行するわよ!」
「そんなこと、知ったことかあ!」
決死のイツキ。繰り返し男どもに飛び掛かる。だがやはり、彼女では男達を打ち倒すことは叶わない。すると、前貼りニプレスの少女は肩をすくめてこう吐き捨てた。
「愚かね。あなた程度の人間では我々にかすり傷すら負わせることはできないわ」
「そんなの、やってみないと分からない!」
「はあ……さんざんやった結果あなたは我々に何のダメージも与えられていないのだけどね。まあ、もしあなたが魔術でも使えたなら、話は違っていたでしょうけどね」
「魔術……」
魔術さえ使えれば、弱い自分でも彼女らに太刀打ちできるかもしれないとイツキは思う。だが、現状イツキが魔術を使いこなせるような気配はなく、この状況では、魔術など絵に描いた餅でしかないのは明らかであった。
(ええい! 出来もしないことに期待したってしょうがない! 絶対勝てないって分かってたって、譲れない時はあるんだ!)
イツキはもう身体中擦り傷だらけだが、勢いだけは衰えることはなかった。
今彼女を突き動かしていたものは、「意地」以外の何者でもなかった。世界中の誰もがサラを見捨てたとしても、自分だけは絶対に彼女を見捨てない。また死んだとしても、それだけは絶対に譲らない! イツキはもはやそれだけを考えていたのだ。
再びイツキは男達に飛び掛かろうとする。このままでは、またしてもイツキは男の前に組み伏せられてしまうことだろう。それほどまでに、イツキと男たちとの間には力の差があったのだ。
「たあああああ……って、あれ?」
にも拘わらず、この時イツキは男の攻撃を回避することに成功していたのだ。
驚愕するイツキ。だが驚いていたのはイツキだけではなかった。
「あ、あれ、おかしいな……」
「何やってるんだ! アルト様の前で恥ずかしい真似するんじゃない! そんなやつ早くとっ捕まえろ!」
「あ、ああ……」
イツキに攻撃を躱された男も、明らかに今のイツキの動きに違和感を覚えていたのだ。
一方当のイツキは自身の目をこすって違和感の正体を探していた。だが特段何かが変わっている様子はなさそうであった。
(今一瞬、ほんの一瞬だけど、男達の動きがゆっくりに……いやそれどころか、止まったようにすら見えた気がしたんだけど、気のせいだったのか……?)
違和感の正体をつかみたいイツキ。だが男たちは今度こそイツキを捕らえようと血相を変えて襲い掛かって来る。このままでは、今度こそこの戦いが終焉を迎えてしまうことは明白であった。
「な、なに……?」
だと言うのに、男たちが束になってイツキに飛び掛かったにも拘わらず、やはりイツキは自由を維持したままであった。なぜ明らかに自分たちよりか弱いはずの少女を捕らえられないのか、彼らには全く理解できなかったのだ。
無論、当事者であるイツキもまだその正体を掴めていたわけではない。イツキが覚えた違和感は一度や二度で終わらず、その後少なくとも五回以上は続いた。そしてその度に、敵は目の前で石にでもなったかのように、その動きを停止させたのだった。
(錯覚? でも、この際錯覚でもいい! 隙ができる一瞬さえあればサラを助け出せるはずだ!)
この現象が何かなど、イツキにとってはもはやどうでもよかった。使えるものは使う。今のイツキの頭にあったのはそれだけだったのだから。
「何をもたもたしているの!? 早くそんな女気絶させなさい! 余計な時間は食いたくないわ!」
前貼りニプレス少女が檄を飛ばすと、男達は更に表情を厳しくさせた。最早容赦はしない、その顔はそう物語っているようだった。
二人の男がイツキの方に向かってくる。イツキはその瞬間、キッとその二人を睨みつけた。途端、またしても男たちの動きが一瞬だけ停止した。そして、イツキはその決定的な瞬間を見逃さなかったのだ。
「たあ!」
イツキは男の頭を踏み台にして二人を飛び越えてみせた。男達は揃って転倒し、イツキはサラを拘束している残りの男並びに件の少女と向き合う形となった。
「何をしているの!? こんな女風情に勝てないなんて! あなた達もお仕置きされたいの!?」
「うっさい!」
確固たる確信の元、イツキは少女たちに向かって叫んだ。すると今回もまた同様に、彼女らはイツキに隙を見せることとなった。そしてその隙こそが、彼女らにとっては致命的となったのだった。
「サラ!」
イツキはサラにその手を伸ばした。そして呆けたままの少女を突き飛ばし、ついにサラを救出することに成功したのだ!
「なんですって!?」
前貼り少女が驚愕する。
「イツキちゃん!」
「サラ、今はいいからこっち来て!」
イツキに抱きつこうとするサラの手を引っ張り、イツキは手近な草むらへと急ぐ。
「なんてこと!? あなた達急ぎなさい! 絶対に逃がしては駄目よ!」
怒声を男達に向ける少女。動揺してイツキ達を見失っていた男達も、少女の指示で方向を確認し、慌ててイツキ達を追いかけ始めた。
一方草むらに逃げ込んだイツキは、鞄からサラの為に買った縞模様のブラとパンツを出し、急いでそれをサラに着せた。前貼り少女達が草むらに飛び込んできたは、それとほぼ同じタイミングであった。
「こんなところに隠れたって無駄…………よ?」
若干の間を置き、少女が固まる。それは他の男達も同様であった。
「え? え? ど、どうして、服を……?」
目の前の光景に驚く少女。そんな彼女に対し、イツキは何食わぬ顔でこう言ったのだ。
「あれ、私たちに何か御用ですか? 暑かったので、私たちは木陰で休んでいただけですが」
「そ、そんなはずはない! その子は確かに裸だったのに……」
しらばくれるイツキに声を荒げる少女。それでも、圧倒的優位に立ったイツキが慌てることはない。
「ええ? 何をおっしゃいますか。サラはちゃんと服を着ていますよ。あなた達には、サラが裸に見えるんですか?」
イツキはこれでもかと少女に詰め寄る。
「い、いや、それはそうですけど、で、でも……」
尚も少女は納得がいかない様子ではあったが、それでも、服を着ている人間を連行することもできないのか、しばらくするとその身を翻し、イツキ達に対してついに背を向けたのだった。
ちなみに、少女は前貼りしか着けていないこともあり、お尻の割れ目があまりにもはっきりイツキには見えてしまっていたが、イツキはなんとか視線を逸らし、平常心を保つよう努力した。
そして、イツキの視線には気付かなかった少女は、悔しさをかみ殺した様子で最後にこう言った。
「……今回は見逃すわ。でも、もし次裸で外を出歩くようなことがあれば、その時は必ずあなた達に再教育プログラムを施すから。せいぜい、肝に銘じておきなさい」
少女はそう言い残し、男達を引き連れてイツキ達から離れていった。
イツキは全身傷だらけであったが、少女達の後ろ姿に向かって思い切り舌を出す元気は残っていた。
こうして、イツキはサラを救出することに成功したのだった。
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