第3話 決して死ねない理由

 あれから三時間ほどたち学校から一切の物音が消えていた。


「……大丈夫か?」


「うん、ごめんね。もう大丈夫だから」


 詩音の目の周りは赤くなっておりそれを隠そうと目の周りを手で覆い被した。


「これからだけど……一旦学校のなかに戻ろうと思う。」


「……千鳥が言うなら何か考えがあるんだよね?なら、私はそれに従うよ。」


「じゃあ、姿勢を低くして学校に近づくぞ。」


 木々の影を少し出て周りを確認しながらゆっくりと俺達は学校の北校舎に入った。

 中は一切の物音が消え、人間の血と肉の塊、そして腐ったような異臭だけが残っていた。


「ヴヴ、臭い。」


 鼻をつまみながら詩音は手をよりにふり少しでも臭いを和らげようとしていた。


「さて、一旦俺達の教室まで戻るぞ。」


「わかった。」


 壁を背に慎重に周りを確認しながら北校舎から南校舎へと足を進め、二階の自分達の教室まで進めた。


「…………嫌、何で?何で、神坂が」


 教室に入るなり詩音がいきなり崩れ落ちた。

 そこには一人の女子生徒が下半身を引き裂かれ転がっていた。その女子生徒は詩音の友人だった……者だ。


「嫌、嫌、嫌。神坂何で、何で。」


 他にも何人かの死体がゴロゴロと転がっており数人に至ってはそれが人間だったのかわからないほどにぐちゃぐちゃになっていた。


「……詩音、立てるか?」


 詩音の手をつかみ半ば強引に立ち上がらせた。


「悪いが、今はあまり時間がないんだよ。後悔や悲しむのは後にしろ。」


 少し厳しいようだけど、本当にあまり時間がない。すでに外は暗くなって来ており只でさえ日の光が差し込まないこの森のなかで夜に何かをするのは困難であるためだ。


「……うん、ごめん。早めにやることをやろう。」


 立ち上がった詩音は目を擦り一回深呼吸をすると落ち着きを取り戻した。


「なら、まずは自分のバックを探して中身を空にしてくれ。説明はあとでするから」


 それだけ言って俺は自分の席を探す。

 しかし、俺の席は見当たらずベランダから外を見ると無数の机やイスが破壊されていた。


「……あ、あった!」


 詩音は自分のバックを見つけたらしくこちらに駆け寄ってきた。


「千鳥?あんた自分のバックはどうしたの?」


「あ、ああ。多分あの机やイスの中にあると思う。」


 指で外に飛ばされた机やイスの方を指す。

 さて、俺は他のやつのバックを使わせてもらうか。


「……悪く思うなよ。」


 近くの机にかけられていた黒いリュックサック取り中身をすべて出した。


「で、これならどうするの?」


「まずは、財布の中から金だけ出して 自販機にいくぞ。最低でも水は5本は欲しい。」


 足音を立てないように廊下に出て下の階にある自動販売機の元へと向かった。


「あった、けど……。」


 階段を降りて左にまがった先にある自動販売機、しかしそこには2つの揺れ動く影があった。

 壁に背を向けそっと自動販売機の方を向くとそこには緑色の肌をした小柄な人間のような見た目をした生き物が立ってきた。


「……何あれ?」


「あれは……多分だけど良く小説とかに出てくるゴブリンとか言われる生き物だと思う。」


 良く見てみるとゴブリンの周りには男子生徒と女子生徒が一人づつ倒れていた。


「っ!」


 あれ、女子の方はまだ少し息があるんじゃないか?少しだけど今、動いた気がする。

 そう思った瞬間後ろにいた詩音に引き寄せられた。


「……ダメ、だからね。」


 一言そう言うとなにかを訴えるような瞳でこちらを見てくる。


「な、何がだよ?」


「さっき、私が止めなかったら走り出してたでしょ?」


 そんなわけない……とは言い切れない。現に詩音に引き寄せられなければ俺は多分走り出していた。


「だからって……見捨てるわけには。」


「じゃ、何でクラスメイトは見捨てたの?」


「見捨ててなんか……いない……はず?」


 自分でもわからなくなっていた。

 別に見捨てたわけではない、それは確かだ。だけど、それでも何故か引っかかる。心に何が引っかかるのだ。


「……多分、千鳥にはわからないんだよね。だって……千鳥は人なんて者に興味がないから。」


「…………」


「昔ッからそうだった。いつだってどうでも良さそうに適当に過ごして関わろうともしない。だから今回も見捨てたことにさえ気づかないんだよね。」


 ああ、詩音の言っていることが何となくだがわかったような気がする。

 そうだ……俺はきっと人が死んだって生きていたって興味がないんだ。それが例え……詩音でも。


「だからこそ……お願いがあるよ。」


「お願い?」


「うん、一つだけで良い。私は……いや、私を守ってね。」


 それは呪いと同じ、いやきっとこれは願いと同じだと思う。詩音は自分を守れと言った、しかしそれは俺も死ぬなと同時に告げているのだろう。


「……わかった。けど、彼処にいる生徒は助ける。そして俺も死なない。」


「うん、わかった。それと……これ」


 詩音はポケットからカッターナイフを取り出してこちらに渡してきた。


「さっき、ガスバーナーを取りに行くときついでに職員室で取ってきた。」


 カッターナイフか……あのゴブリンを殺せるのか?これじゃ、人だって殺せない。せいぜい切れて人の皮膚ぐらいだ。


「けど、やらなきゃいけないなら」


 詩音からカッターナイフを受け取り刃を半分ほど出しゴブリンの方に向いた。

 さて、これからどうするかな。


「………ゴブリン狩りの始まりか。」

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