61話 キルティと一号と小さなアオイ
「なんやて、ぺんはん行方不明なん!?」
アオイちゃんの事を伝えたら、赤オレンジ色のイタチちゃんである、一号ちゃんがびっくりした声を上げているよ。
「そうだよ~。すっごい寂しいんだからね~!」
「なるほどなあ。だからワテ、嬢ちゃんにこないもふられてるんやな」
わたし――キルティの手の中で納得したように頷く一号ちゃん。分かってくれるんだね! うんうん、ぺんぎんぬいぐるみになったミドリちゃんは、結局レモナがもみゅらせてくれなかったし。
ちなみにここはミントレっていう街で、今はオージおじさまのお店にいるよ。アオイちゃんを探しながら旅をして、ようやくここまで戻ってきたかたちだね~。
はあ~、もふもふもふもふ……。
「なあ嬢ちゃん」
「何かな? 一号ちゃん」
「ワテ思うたんやけどな、もふられるんは早口言葉対決の景品や。けど、期限決めてへんから永遠やないかと」
「そ~だね~」
「世知辛いで。言葉には要注意やなあ。嬢ちゃんには今更さかい、まあええけど」
んにゃ? とにかく、ずっともふって良いんだよね。やったね!
許可を得たわたしが勢いをさらに上げていると、ロウ達と話してたオージおじさまがきたよ。シェパードのような黒い尻尾が立派だよね。
「ふぉっふぉ。人気が出るとこういう事もあるからの。一号もお嬢さんで慣れていて良かったんじゃよ」
「そっか~。一号ちゃんかわいいから、お客さんがほっとかないんだね。どう? イタチは広まったかな?」
「よう聞いてくれたで! せや。この辺りの街では、もうワテ有名イタチやで」
今は、アオイちゃんが消えてから一年弱。
だから一号ちゃんがわたし達の旅から外れて、もう一年以上だね。
オージおじさまとファンシーショップをしていて、イタチを広める為に、いろいろ頑張ったみたいだね~。
でも、せっかく報われてるというのに物憂げな一号ちゃん。
「アニモスはちょいと遠いんと、ぺんはんのフィールドやさかい分かるんやけどな。何でか王都でも、イタチの浸透が弱いんや」
「あ~、それはアオイちゃんが神獣扱いされてたからかな~」
「神獣やて!?」
ぐぬぬ……と悔しがってる。一号ちゃんの尻尾がちょっと逆立ってたから、むにむに触ると頬っぺを軽く叩かれちゃったよ。触るの気持ちいいのに~。
落ち込んじゃったかな、と思ったけど違ったみたい。
ひげをピーンと伸ばして楽しそうにしてる。
「なんや。ぺんはんもちゃんと、ぺんぎんの普及しとるやん。それでこそワテのライバルやな! オージっちゃん。ワテらもまだまだ、やったるで!」
「そうじゃの。未開拓の街にも今度いってみようかの」
アオイちゃんと張り合っている一号ちゃんだから、逆に嬉しかったんだね。
「来たのですわ! 魂の定義の皆さんが、また来てくれたのですわ」
「そうでーすわねー、リカちゃん。また会えて良かったでーすわー」
のんびりお店で過ごしていると、水色のお団子がかわいい、双子の女の子が入ってきた。リカちゃんと、お姉ちゃんのリサナちゃんだね~。
あれれ。後でちゃんと挨拶しようと思ってたんだけど、よくわたし達が来たのが分かったよね。
「プリンセス達はどちらへ?」
「レモナ達ならね、あっちで進化したもぶっちょの商品みて遊んでるよ~」
以前ミントレに来て最初にみた時から、オージおじさまの商品、もぶっちょがすごい事になってるよ。
う~ん、簡単に言うと機能が増えた感じで。ロボットみたいになってるのもあってね、いろんなのがあんなー、って棚の間をめぐってたもん。
オージおじさまは今日ももぶっちょの着ぐるみを着てるけど、以前のバージョンだね。機械めいた腕とか付いてなくて良かったよ。
「二人とも、ちょっと大きくなったよね~。白カレフリッチの王子さま計画は順調?」
「そうですわ、聞いてくださいまし。リカ達、なんと婚約者がいたそうですわ!」
「にゃにゃ!? すごいね、おめでと~!」
計画の前に、そもそも婚約者がいたんだね! 大きくなったから教えてもらったのかな。
いいな~、でもわたしは結婚してもアオイちゃんにいてほしいし……。うん、一家に一台アオイちゃんだね! 全部解決だよ!
「キルティさんが、によによ笑顔を浮かべられてるのでーすわー。きっとアオイさんの事でーすわー」
「そうですわね、リサナお姉さま。行方不明と聞きましたし、リカ達もお手伝いしますわ!」
「勿論、儂らも手伝わせてもらうの。ふぉっふぉ」
「せやで嬢ちゃん! 当たり前や」
リサナちゃんもリカちゃんも、オージおじさまも一号ちゃんも。
わたし達がお世話になった人達が、アオイちゃんを探すのを手伝ってくれるみたいだよ。すっごく嬉しいね~!
つい一号ちゃんをぎゅっと抱きしめちゃうくらいだよ。
「はにゃ~! みんなありがと~!」
「嬢ちゃん、またワテ締まっとるで。締ま……」
「にゃ、また気絶させちゃうところだったよ。一号ちゃん」
「気いつけてぇな。ぺんはんはもっと弱そうさかいな、ほどほどにやで」
「は~い」
素直に頷くと、ふさふさの尻尾で顔を撫でてくれたよ。最高だね!
そうだ、せっかくだから一号ちゃんに、アオイちゃんのぬいぐるみをプレゼントしようかな~。
わたしは一号ちゃんを優しく降ろして、ロウのいる場所に行く。あ、極小サイズのもぶっちょと一号ちゃんの人形を見てるね。一号ちゃん人形かわいい~!
「ねねね、ロウ。あの小さいアオイちゃん出してほしいよ~」
「ん? ああ、あれか。イタチ一号にか?」
「そだよ~」
すぐにギルドカードから出してくれるロウ。何故だか、ほっとした顔の気がするよ?
「これで少しでも容量が減るといいんだがな。……ついでに他のも」
「出さないよ~?」
むむむ。こないだはロウがお母さんみたいに整理しながら、どこかに処分するか売らないかって言ってたからね。絶対ダメだもん!
抗議の為に、自分の黒猫尻尾をロウに当ててみる。分かった分かった、と頭を撫でてくれたから、やっぱりロウは優しいね~。
ルンルン気分で戻り、一号ちゃんに渡す。
「ぺ、ぺんはん!?……にしては、小さいで。しかもたくさんおるし」
「これはね、わたしの作ったぬいぐるみだよ~。たくさんあるからね、いろいろと遊べるよ~」
小さなアオイちゃんぬいぐるみ。一号ちゃんは面白そうに眺めて、ロウ達の近くにゆっくり歩いていく。
どうしたのかな、って見ているとね。さっきの極小人形の前で止まったよ。
「ぺんはん、こない小さくて何もできひんやろ。ふふん、そんならワテが上に乗ったるで!」
一号ちゃん人形の下に、アオイちゃんぬいぐるみを置いていく一号ちゃん。
全部の人形の作業が終わったら、得意気に鼻を鳴らしてるよ。
「これ見せて『もう、なんで私が下に敷かれてるんですか一号さん!』って言わしたるさかい。すぐ見つけへんとやで」
「一号ちゃん」
そうだね、早く見つけてあげないとだよ。
ある程度の距離になれば、アオイちゃんの位置が分かるはずの従魔契約。
何回か引っかかった事もあったんだけどね、その反応があるうちに見つけきれなくて。やっぱり少し、魔力が暴走した時の影響で繋がりにくくなってるみたいだよ。
でも、それに頼れるのもあと少しだけ。
そんなに遠くないうちに、最後にアオイちゃんと一緒にいた時から一年が経つよ。
一年更新されないと、必要な魔力が切れて契約紋がなくなっちゃうからね。それからは、無しで探すしかないかな~。
でもでも、星のタトゥーはちゃんとお店で消さないと消えないはずだからね。残ってると思うし、それは大きな特徴だもん。今もその目撃情報を頼りに探してるしね。
「嬢ちゃん……?」
ゆっくりもふもふする私を下から覗いて、一号ちゃんが首を傾げてる。
一号ちゃんの触り心地だって、変わらず良いんだよ? でも……。
ねえ、アオイちゃん。
アオイちゃんだもん、元気に過ごしてくれてるんじゃないかな~とは思うけどね。やっぱりわたしは、何だかもの足りないよ。
うん、そうだ。今度会えた時は、会えなかった分たくさん、もみゅもみゅしちゃうからね~!
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