60話 レモナと手元に映る色

「おかえりなさい。良かったわ、ちゃんと帰ってきてくれて」

「マキ悪ぃなー」


 海の底から帰ってきたアタシらは、ボートで待っててもらってたマキと合流した。


「レモナ。見てたけど、そのぺんぎんちゃんがミドリなのよね?」

「そーだなー。ミドもこの姿なら、こっちに来れるらしーかんな」

「うんです。逆に、もうさっきまでの家には入れないけど、おねえちゃんと同じ姿でこの世界に来れて良かっただよです」


 アタシが答えっと、腕の中にいるミドも言葉を繋げる。


 んでアタシが持ってんのかっつーと。キルやラシュだと、絶対もみゅられんじゃん。

 さすがに、アオイのぬいぐるみに入ってすぐだかんな。一応は守ったかたちかね? 後ではやられてそーだけどさ。

 ちなみにロウはプリン掃除してたなー。ぴっかぴかにして、戻ってきた。


「あらー。じゃ、今は家がない状態よね。良ければうちに来ないかしら」

「えと、聖女のおねえちゃんのお家。教会かなです?」

「そうよー。教会だから、ここに来るのも結構できるわよ。神聖な場所だから、普通だと近づけないのよね」

『あるじーとまたお喋りできるラーノ♪ もう、あるじーじゃないけど、あるじーでいっかラーノ。聖女、褒めるラーノ♪』


 まだ海面に映ってるラー達。ころころと、転がりながら喜んでんなー。やっぱミドと過ごして、楽しかったみてーだ。



「ん。もう、げんかい……かも」

「おおい、ラシュ?」


 ラシュがそう言い残し、倒れそうに傾く。ヤベ、アタシは今ミド持ってっから手が……。


 と、ぱったり倒れる前にロウが受け止める。ナイスじゃん。


「すぅー、んむぅ。アオイ、さん。すぅー」

「寝たか。珍しくずっと起きていたからな、さすがに倒れる程疲れたんだろう。ボートの上だと、永遠に起き無さそうだ。陸に向かっていいか?」


 この揺れ具合、寝心地が良さそーだかんな。

 ロウの提案にミドが頷き、海面へ言葉をかける。


「ではまた来るねです、ラーちゃん達!」

『海や湖を移動できるラーノ♪ もしぺんぎんを見つけたら教えるから、行ってこいラーノ♪』


 それはすげーじゃん! アオがそーいうとこに行ったら、場所が分かる。それだけでもかなりやりやすいよな。


 言いつつ見送りの為か、映像の中で盛大に飛び跳ねるラー達。

 ボートが陸へと進路をとる間にさ、その内の一匹が機械に当たって、なんかのボタンを押してたけど……。


『また当たっちまったラーノ!』

『今度は何……ぎゃー! マシュマロ爆弾のボタンじゃねーかラーノ』

『う、埋もれ』

『破裂したラーノー!』


 パーン、つー爆発音の後。マシュマロのせいで、何匹かごとにラー達がくっついてんのが見えた。あれだ、四匹くっついて消えねーよーにな。

 てかそのボタンいるんか? ま、面白そーだからアタシもほしーけど。宿屋を勝手に改造できねーのが残念だ。




 そんな騒いでる声を背後に訊きつつ、陸へと行ったアタシら。


 ボートが着くなり、アタシは一番に飛び降りた。


「おかえりなさいませ、レモナさま。神さまに見初められて帰ってこられないかと、ひやひやしておりました」

「っと、シェオじゃん」


 目の前には、いつからここにいたのかシェオがいた。……まさか、ずっと待ってたっつー事はねーよな?


 マキが続いて飛び降り、アタシの隣に立つ。


「たっだいまよー、シェオ。ちょっと手伝ってほしいことがあるのよね。ぺんぎんちゃんがいなくなったから、探してほしいのよ」

「あの神獣くんでございますね。海からどこかに行かれたのでしょうか。そして、その緑色のぺんぎんくんは?」


 アタシの腕の中のミドを見て、不思議そうにする。ま、行きにいなかったからそりゃ気になるよなー……って。やっぱ最初から見てたんか?


「この子はミドリよ。ぺんぎんちゃんの妹で、神さまで……。そうだわ、ミドリさまと呼んだ方がいいかしら?」

「もう神さま代理じゃないし、そもそも普通に呼んでほしいだよです」


 そーいや、そーだ。アオの妹って印象が強くて忘れてたなー。


 シェオはよく分からないまでも、とりあえずアオがいなくなって探してるって事。あとはミドがアオの妹だっつー事は納得して協力してくれるよーになった。



「かしこまりました。神獣くんの事は、わたくしの持てる伝手の全てを使って捜索しましょう。ですから妹くんもご安心くださいね」

「ありがとだよです!」


 王子のシェオなら、けっこーすごそうだよな。こりゃ、案外すぐ見つかるかもだ。



 ……んあ? てか、アオの特徴の赤いリボン。あれって確かアオが消えた時に残ってたんじゃねーかね。

 ラシュを担いでゆっくり降りてきたロウに確認する。


「なーロウ。アオのリボンってさ、どーした?」

「あれなら汚さないようにギルドカードに入れたぞ。プリンが付くとマズイからな」

「つー事は今、アオを見分けるの難くねぇ?」


 この世界の魔物の見た目は、ほっとんど変わんねーからなー。キルとの契約紋が腹にあるはずだけどさ、それもランタンペングイーノで統一のもん。だからリボンで見分けてたっつーわけで。


「だいじょぶだいじょぶ。アオイちゃんの右の頬っぺにはね、星のタトゥーがあるからね!」

「それだ、キル!」


 キルの言葉に、王都で入れたタトゥーが見分けるポイントになることに気づく。

 んておい、真面目な顔してミドに手を伸ばすなってーの。その顔でごまかせてるつもりなんかも知んねーけど、手つきでバレてっから。


 それを聞いたシェオが、確認する。


「では、その見た目のぺんぎんくんという事で手配いたしましょう。だいたいの場所は見当がついているのでしょうか?」


 恐らくこの国かもっつー事じゃねーよな。

 もっと絞るなら……そーじゃん。あの家で、アオの転生を食い止めようとした時。こんな場所いこーなーって、思いながらステッキを振ったんだった。


 もしあの考えがアオに伝わってたら、記憶がもふもふに侵食されて混乱してても、無意識にそこに行こーとすんじゃねーかね。


「……と、思ったんだけどさ」

「その可能性は高いな。レモナ、いい案だと思うぞ」

「うしし、だろー?」


 ロウに言ってみっと、採用された。

 んでもさ、なんでそんな意外そーなんだ? ア、アタシも考えるときは考えっからなー!……酒やらの事が多いからいけないんかね。



 探しに行く方向として、アタシが思い浮かべていたことを口に出す。


「また別のダンジョン行きてーよなーって、アオに心ん中で言ったなー」

「俺は西に行こうという話がでていたから、その事を思ったんだが」

「わたしはね、ミュンちゃんに早く会いたいね~って語りかけてたよ?」

「すぅ……ごはん、たくさん。しあわ、せ」


 みんなバラバラかよ!

 ラシュは寝てっけど、寝言を聞くにきっと食べ物の事だったんじゃね? こりゃダメだ。


「見事にバラけたな……。シェオに任すにしても、俺達はやはり地道に探すしかないか」

「んだなーロウ。まーさ、とりあえず来た道を戻ってみねぇ?」


 んなら途中でいっかもだしさ。


 そんでアタシらがそろそろ旅に出る気配を察したシェオが、近くに留めた馬車から、何やら瓶を持ってきた。


「レモナさまにこれを。本当は一緒にと思ったのですが、わたくしの訓練も間に合っておりませんので。旅の途中に飲んでいただければ幸いでございます」

「お、酒? サンキュー、シェオ。訓練とかは、まー試練の意味で言ったわけじゃねーし、マジで今度飲もーなー」


 恭しく渡されたのは酒だった。そう返したアタシの言葉に、シェオが感極まったようにつぶやく。


「ありがたき幸せ。レモナさまにでしたら、樽でご用意した方が宜しかったでしょうか」

「待て、これ以上ギルドカードの容量を圧迫するな……」


 アタシが答える前に、ロウが止めに入る。……樽、ごくり。



 樽の魅力を、頭を振り必死に追い払う。い、今は時間ねーしな。自分の金髪がちらつく。



「ミドリと一緒に王都で待ってるわね。また無事に帰ってくるのよー」

「皆さん、お願いしますだよです。おねえちゃんにぺんぎんの姿を見せて、驚かせるだよですー!」

「神獣くんが一日でも早く皆さまと再会できますように。レモナさま、ご無事で」


 三人に見送られ、行きに乗ったアタシらの馬車に乗り込んで出発する。


 窓から顔を出すと、マキが、待機していたシスターに捕まってた。あー、頑張れマキ。ミドは任せたぞー。



 もらった瓶を光に透かすと、遠くになりつつある海が映って、アオみてーな綺麗な青色だった。



 なー、アオ。


 どこにいっか分かんねーけどさ。

 アタシらが絶対迎えに行くからさ、元気に楽しく過ごしててくれよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る