ぺんぎんと奇跡
52話 星のぺんぎん
「お、ま、つ、り! うっしゃー!」
王都に入った途端、テンションマックスなレモナさんが叫ぶ。
ここは、アルヴァン王国の王都。現在はお祭り真っ最中だ。
道中の出来事については割愛するよ。ロウさんがレモナさんとマキニカさんに振り回されて、何だか悟りを開いていたり。その分、私はキルティさんとラシュエルくんと一緒な事が多く、もみゅり捏ねくり愛されたり……。
基本的には大きな事件もなく。へ、平和に過ごしていたかな、うん。
と、そんなこんなで時間を調整しつつ。王都のお祭りに間に合うように来た私達『魂の定義』。
「すっごいね~! 門もびっくりする程大きかったしね。何だかお城も遠いし、かなり広そうだよね~」
背伸びしてお城をみながら話すキルティさん。大きな瞳を、最大限に見開きキラキラさせている。夢見る乙女の一面があるキルティさんにとって、いかにもファンタジー世界の綺麗な街並みといったこの光景は、どストライクなんだと思われる。
対してマキニカさんは、故郷なのだから見慣れているはず。でもお祭りはあまり来ないのか、そちらに興味津々だ。
「あたし、このお祭りの頃は忙しくて中々見て回れなかったのよねー。ふふん、今回は遊びまくるわよ」
「忙しいって、教会は大丈夫なんでしょうか」
聖女なマキニカさんは、普通だったら教会にいる。たまに抜け出して遊んでるからと、笑ってたけど。そんな時期にいいのだろうか?
「だーいじょうぶよ。あたしがいなくとも、優秀な仲間がきっと……」
「はい、その優秀な部下は必ずマキニカ様を捕まえますが?」
ぴしりと硬直するマキニカさん。
見れば、いつの間にやらマキニカさんの後ろに、見知らぬ女性が立っていた。
修道服を着ているから、多分教会の人だね。
眼鏡をかけ、紫の髪はあまり長くなくすっきりとしている。その姿は、シスターというよりビジネスウーマンだ。
「あ、あらニーナ。思ったより早く見つかっちゃったわね。でもね、せっかくここまで一緒に旅をしてきた仲間と一緒なのよ? 最後に親睦を深める為にも、お祭りには参加しないとよね」
「皆さま。お話は伺っております。ここまで届けてくださり、誠にありがとうございます。この怠け者はこちらで引き取りますので。皆さまは是非、アルヴァン王国一のお祭りをごゆるりとお楽しみください」
「無視は悲しいわよー。そりゃあさぼっちゃったのは、ごめんなさいだけど。そして、荷物みたいな扱いなのは気のせいかしら?」
「気のせいですね。仕事放り出して遊びに行くばかりか、他の方にお世話になるなど、荷物にはできませんから。ご安心ください。帰っても、楽しいお仕事が山のようにありますよ」
ニーナさんは本当にただのシスターなのか。口角をぐいと上げ笑った顔からは、言いようのない威圧感がする。凄腕の殺し屋だと言われても、信じられるね。
先導するように軽くマキニカさんの腕を持つニーナさん。だけど思いのほか力が入っているのか、マキニカさんは抜け出せないようだ。
「いやー。鬼部下、鬼部下よ。聖女にも人権をー!」
とマキニカさんが声を上げている。
ニーナさんはそのままマキニカさんを引っ張り、人混みを避けて路地の奥へと向かう。
楽しかったわありがとねー、と最後にマキニカさんの声が聞こえた後。マキニカさんがまた抵抗をしようとしたのか、ニーナさんは手刀で意識を刈り取り、本当に荷物のごとく担いで連れ去っていった。
呆気にとられ、ただその出来事を見つめていた私達。はっとした時にはもう二人の姿は無かった。せめてもう少し穏やかにお別れしたかったんだけど。
……この国、王子さまも聖女さまもあれで大丈夫なのかな。まあぺんぎんが心配する事じゃないね。
気を取り直して、お祭りを回ることに。まあ、マキニカさんとはまた後で会える……よね?
「んお。なんだーあれ? わたがし、かねー」
レモナさんの指さす方を見ると、雲があった。わたがしなんだろうとは思うけど、空中に浮き、ぐるぐると回転しながら拡張してゆく姿は雲そのものだ。魔法で飛ばしているのか、わたがし自体が浮いているのか。材料が気になるね。
「あれは……色の変わるリンゴ飴か。面白いな」
結構楽しんでいる様子のロウさん。子供の食べているリンゴ飴が次々に色が変わっていて、それに興味を持ったらしい。人体の魔力に反応しているのか、とか考察している。
うーん。見る分には面白いけど、食べるならそこは普通でいいかな。青色に変わった瞬間は何か微妙だ。
と、そんな風に視覚的にも楽しめる出し物。
当然、ラシュエルくんは食いつくだろうなと思っていると、意外にもさっきから無言だ。あれ? まさか寝てる?
「ん……!」
な、訳ないよね。振り返ると、今までで一番目を開けたラシュエルくんが見えた。その顔から、キラキラとエフェクト音がしそうな程。
あまりに素敵過ぎて言葉を失っていたみたいだ。普段からたくさん話す方ではないけどね。
ロウさんへと視線を移し、キラキラビームを向けるラシュエルくん。
直撃したロウさんは苦笑いだ。
「はは。まあ、お祭りだからな。あれこれ買ってみるか」
「ん! ぜんぶ、たべる」
「……ラシュエルは多少ブレーキをかけてくれ」
苦笑いから引きつり笑いになったロウさん。ラシュエルくんが言うと、冗談とは思えないから恐ろしい。
暴食の天使さまなラシュエルくんが、ロウさんを押してお店へと向かってゆく。
残った私とレモナさん、キルティさんでいろいろと見て回るよ。
食べ物以外のお店も多く、キルティさんが私を引っ張っていったのもその内の一つだった。
「ねねね、アオイちゃん。タトゥー入れてみようよ~」
「タトゥーですか!? い、痛いのはちょっと……」
それに確か、普通には消せないんだよね? ぺんぎんボディ、背中に消えない龍。ぴえぇ。
小さく震えながら尻込みしていると、キルティさんが笑って教えてくれる。
「にゃはは! だいじょぶだよアオイちゃん。この世界のタトゥーはね、彫るんじゃないからね~。一番近い言い方はシールってくらいだもん」
「シール? 貼ってはがせるという事ですか?」
「そだよ~。魔力が糊の代わりでね、ちゃんとお店で貼れるしはがせるよ~?」
……それ、もう名称もシールでいいのでは?
ともあれ、痛くもなく後で消せるなら問題はない。むしろやってみたいかな。商品を見ても菊の花とか龍とかだけじゃなく、もっとポップなのがほとんどだしね。
そう思っていると、レモナさんが一つのシールタトゥーを持ってやってきた。
「アオならこれじゃね? ぺんぎん!」
「ぺんぎんにぺんぎん貼るんですか!?」
青いシルエットで、ぺんぎんを表しているタトゥーだ。この世界のぺんぎんといったら、私と同じランタンペングイーノという魔物。その為、ご丁寧に頭のランタンまで再現されている。
そのタトゥーにも、私に貼るのと同一箇所にサイズの小さいのを貼っていけば、合わせ鏡のような視覚的怖さがでるね。……ふるる。
また細かく震えるが、むぎゅりとレモナさんに両脇を押された。
えと、止まりはしましたが。せめてロウさんみたいに頭押しのがいいです、レモナさん。
そしてキルティさんチョイスはというと。
「ぬにゃへ~。アオイちゃんにはこのくらいなきゃだよね~」
可愛い。可愛くはあるんだけど、いろいろとおかしい。
まずサイズが大きいことと、全体的な装飾過多。飛び出す絵本のごとく、立体アートとなっている。白いポンポンのアクセサリーやらがくっついてるけど、服を着ることは想定しているのだろうか。……私の布は、頭のリボンだけだけどね。
どちらとも選べず、困ってくるくると二人の間を往復してしまう私。
ふと影が差し、立ち止まって上を見るとラシュエルくんがいた。
左手にいくつかのお菓子があり、右手には小さな星のマークを持っている。多分ここのお店のシールタトゥーだね。
見上げている私の右頬っぺに手を動かし、星を添える。
「ん、これいい。……おきに、いり」
「ラシュエルくん」
じーんと心が暖かくなる。ぴえ。もう、せっかく止まったのに、嬉しすぎてふるふるしちゃいますよ。
「お、いーじゃん。それにすっか」
「にゃにゃ、あえて小さいのだね! そだよ、アオイちゃんの魅力は大きいので隠しちゃダメだもん。さすがラシュくん!」
レモナさんもキルティさんも、星のマークに賛成らしい。良かった、回避も成功したね。ラシュエルくんのおかげだ。
お店の人に購入を告げて貼ってもらう。うん、全然痛くないし違和感もない。
「今日はこれくらいにするか。お祭りが終わる頃には、珍しいイベントの参加抽選会があると聞いた。券は通常、何日か居てようやく、抽選会にいける程集まるそうだが……。すでに必要数は集まったからな。数日後だが行ってみないか?」
ラシュエルくんが選んだらしき、大量の食べ物を抱えたロウさん。ギルドカードに入れないのは、ラシュエルくんならすぐ食べちゃうからかな。
そして確かに、あれだけの量を一日で買うのは想定してないよね。何枚か集めてのタイプのイベントでも、暴食の天使さまにかかればあっという間だ。
そんな面白そうなもの、行けると聞いて断る訳がない。特にレモナさんが。
「んだそれ、ちょー楽しそうじゃんか。ロウ、行こーって!」
「珍しいイベントってなんだろうね~。もしかして、もふもふイベントかな!?」
キルティさんも尻尾をぶんぶん振り、興味を示している。もふもふイベントかどうかは分からないけど……。
ラシュエルくんは忙しなく口を動かし、幸せそうな表情。抽選会は食べ物じゃないから、どちらでもいいんだね。
勿論、私は賛成だ。
一応全員了承したという事で。その抽選会に行くことに決めた私達『魂の定義』。
一瞬、ちらりと不安が胸をよぎった……気がした。
「あれ?」
「どうした、アオイ」
「えと、いえ。何でもないですロウさん」
ただ行くだけなのに、何でだろう。最近は大きな出来事もなかったから、『魂の定義』ならそろそろトラブルが起こるかも、なんて思ったのかな?
すぐに消えたその思いは忘れ。
私は右頬っぺに貼ったばかりの、星マークを手でゆっくりと撫でた。
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