40話 海の街、観光と冒険?

 ここは海と商売の街ミントレ。


 リサナさんからの依頼を達成した後からは、通常のハンターとしての依頼をこなしている私達『魂の定義』。

 三週間くらいはそんな感じで過ごしてるよ。てことは、もうこの世界にきて一ヶ月半経つんだ。長いようで短い。



 通常の依頼とはいっても、この街の近くには魔物の生息している森とかがないんだよね。

 だからその代わり、沖にいる魚型の魔物をとっている漁師さんの護衛をしたり、手伝ったりする仕事だ。漁では私の超音波って、結構使えるね。


「ミャッミャッ」

「ぴぇ。もう、またウミネコさんですか!」

「にゃはは! アオイちゃんウミネコちゃんに気に入られちゃったのかな~?」

「うぅキルティさん。笑い事じゃないですよ」

「ミャッミャッミャー!」


 仕事の最中だというのに、ウミネコ……型の魔物に付きまとわれる私。攻撃してくる魔物じゃないけど、私の頭のランタンが気に入ったらしくじゃれてくる。


 それだけならまだ可愛いんだけどね……。巣に持ち帰りたいのか、たまに掴んだり、くちばしで挟もうとしてくる。


 光り物だからってお持ち帰りしないでください!




 そして基本的にパーティーメンバー全員で行動してるんだけど、最近は一号さんだけ別行動な事が多い。


 ファンシーショップを経営していて、新商品のモブッチョというキャラの着ぐるみを着ているおじいさん――オージおじさまの元へ行っているらしい。シェパードっぽい獣人で、見た目はせっかく紳士風なのに、たまに見かけるとモブッチョ姿だ。


 イタチと一発で認識してもらえた一号さんが慕って、仲良くなったみたい。


「ぺんはん。ぺんはん」

「あ、今日もオージおじさまの所に行くんですね一号さん。なんですか?」

「せや、オージっちゃんとこ行くで。あんなぁ。ぺんはんに言うとかへんと、フェアやない思うたんや」


 オージっちゃんというのはオージおじさまの事だね。気づいたら、一号さんがそう呼んでいた。


 キュキュっと、被っている赤いバンダナの位置を決め直し、ニヤリと笑う一号さん。


「そう遠くないうちにな。イタチの大勝利を収めたるさかい。よう見ときーっ!」

「はい?」


 意味不明……いや。意味はまあ、いつものぺんぎんvsイタチ勝負の事だろうけど。いきなり宣戦布告とは、何かあったのかな?


 そう叫びつつ、一号さんが私達が宿泊している宿屋『魚のヤドリギ』のドアから走り去っていった。


 ……あ、宿屋のオジさんには私達が王族じゃない事を説明して泊まってるよ。リサナさんとリカさんが来た時に、勘違いしたままだったからね。




 とまあ、そんな事もありつつ。


 何事もなく時間が流れていった。




 ☆



「んあ? なーあれってさ、洞窟じゃね?」


 休日に砂浜を皆で歩いていると、レモナさんが砂浜の端に何かを発見する。


 休日にまで一緒な私達。何だかんだで仲良いからね。勿論、いつも一緒な訳ではないけれど。

 ちなみに今日も一号さんはオージおじさまの所だと思われるよ。


「そういえば宿屋の人が、鍾乳洞があると言ってましたね」

「ああ、アオイ。確かに言っていたな。鍾乳洞か……。興味はあるな」

「そだね~ロウ。看板っぽいのも見えるしね~。綺麗なとこかな? 行ってみよ~よ!」


 キルティさんが楽しそうに、ぴょこんと跳ね言った。

 鍾乳洞、私も行ってみたかったのでそれはいいんですが。でもキルティさんは……。


「ま。暗くねーといーなー、キル」

「レ、レモナ~! 何かあったら盾にしちゃうもんね~だ。ふにゃ~っ!」


 からかうレモナさんを、キルティさんが追いかける。

 そうですよね。キルティさん、暗い所が苦手だから心配だ。


「キルティさん、私が明るくしますから」

「うにゃ。……アオイちゃんをずっと抱っこしてもみゅっていいって事かな~?」

「え、えと。首を絞めないで頂ければ……」


 あっさりと、レモナさんを追うのを止めたキルティさん。私に振り返った桃色の瞳は、期待にキラキラと輝いていた。


 ダンジョンでは、それで一号さんが落ちたからね。

 あれ。寸胴二頭身の私が、首を絞められて落ちるという事があるんだろうか?


 私は自分の体をぺちぺちと触って、改めてその寸胴スタイルさを確認する。絶望すればいいのか、今回は喜べばいいのか……。



 何とも言えないでいる私。ロウさんが話を進める。


「観光地なら魔物も出ないだろう。それに、ダンジョンのあの部屋よりかは明るくしているはずだ。……行けるか、キルティ?」

「にゃむっふっふ~! アオイちゃんの許可ももらったしね~。無問題もーまんたいだもん!」


 元気になったキルティさんが、たたたと洞窟へと走っていく。


 魔物もいないっぽいし、危険のない冒険だね。……初じゃないかな?



 ☆



「これが鍾乳洞なんですね……! 初めて見ました、綺麗ですねラシュエルくん」

「アオイ、さん。……ん、きれい。でも、さかな……いない」


 それは、まあ。魚が泳いでいる程ファンタジーじゃなかったみたいです。もしかしなくとも、もうお腹空いちゃったんですね。


 洞窟の中に入った私達だけど、観光地だからという予想通り、魔物らしき存在は見当たらなかった。

 しかも人がそれなりにいる。勿論、ハンターではないと思われる人達が。


 ほっと安心する。ビビりな私は、入るまではやっぱり不安がね……。


「おー、いーじゃん綺麗じゃん。……んでも、鍾乳洞ってこんなに光ってたかねー?」

「いや、レモナ。そこは恐らくこの世界だからだろう。光の反射をする事があっても、鍾乳石自体がこのように光っている訳ではないはずだ」


 レモナさんに返したロウさんの言葉に、聞いていた私が納得する。

 ここはやっぱり、異世界ファンタジーな要素のある鍾乳洞らしい。


 目の前の空間を説明するなら……幻想的の一言に尽きるね。


 上からも下からも伸びた鍾乳石。そしてそれらがエメラルドグリーンに輝いている。レモナさんの言っていた、光っているっていうのはこの事だ。


 滴る水も同じ色に光っている為、あちこちで雫が落ちる度に光が舞っている。



 そんな訳で、暗くない。

 キルティさんは、綺麗だし暗くないし、私を抱きながらもみゅれるしで上機嫌のまま言う。


「にゃふぅ~。いいよね~ここ! もう住んじゃいたいくらいだよ~。これ、魔石かな? だとしたらホントに住めそうだよね~」

「さかな、ないのに……? あと。ませきじゃ、ない……かも」


 キルティさんを見るラシュエルくんの顔は、信じられないといった顔だ。真っ白で時々銀の入ったラシュエルくんの髪は、これ以上ない程綺麗に周りの色を映している。

 ラシュエルくんにとっては、お菓子の家のが百倍魅力的ですもんね。



 そんな事を話していると、ひょこっと、ガイドさんらしき人が飛び出し話し掛けてくる。


「ええ、魔石ではないですねぇ。魔力を蓄える力がありませんからぁ。あくまで鍾乳石は、洞窟やその周囲を流れる魔力が綺麗に映っているというだけですねぇ」


 なるほど。ここに魔石があるんなら、わざわざ危険なダンジョンにも行かないしね。……ところで、今どこから現れたんですかガイドさん?


 若く見えるけどベテランなのか、テキパキと説明を続けるガイドさん。あ、耳が長いからエルフさんだね。通りでだ。


「……とまぁ、そんな風に迷路状になっておりますぅ。最奥は特に綺麗ですから、頑張ってくださいねぇ!」

「へー、迷路面白そーじゃん。うっし、奥目指してみっか」


 レモナさんがガイドさんの説明に、面白そうに頷いていた。


 ガイドさんは他の観光客の元へ。というよりも、「ではぁ」と言ったと思ったら、目を少し離した隙に消えた。慌てて探すと別の観光客の近くにいるのが見える。


 ……観光ガイドって、大変なお仕事なんだなあ。


 地球を含め、全世界のガイドさんを尊敬するね。



「エルフのガイドさんでしたね。やっぱりベテランさんですね」

「んあ? まーテキパキはしてたけどなー。そんな年いってねーんじゃね?」

「あ、レモナさん。エルフ同士だと、年齢が大体分かるんですか?私にはまだ20代くらいに見えましたが、エルフだと違うんですよね」


 エルフって言ったら長寿だからね。本当は60歳とかなのかも。


 一瞬、翡翠色の瞳を上に寄せ、考えた様子のレモナさん。やがてぽんっと分かりやすく、分かったぜというように手を叩いて笑いだす。


「なっはは! アオ、違ぇって。エルフっつってもさ、この世界じゃほっとんど他の人族と寿命変わんねーかんなー。見た目の通りだと思うぞー?」

「そうなんですか!? てっきり物語みたいに長生きなのかと……」

「それは結構昔の話だね~。今はレモナの言う通りだよ?……にゃはは。もし長生きだったらね、レモナだけ一人おばあちゃんだね!」

「つか。それ、その前にキルがおばあちゃんじゃね?」


 もう、結局どっちもおばあちゃんになるんですから。


 次第にどんなおばあちゃんになりたいか議論に発展していった二人。私は私で、恐らく魔法ではなくあちこちを瞬間移動するガイドさんに、改めて驚く。



 ……ということは。本当にまだ若いのに、神出鬼没なあの域にまで達してるという事だよね。

 うん、私はガイドさんにはなれなさそうだ。




 ぐるぐると、神秘的で幻想的な鍾乳洞の中を巡る。

 多少迷ったけどね。ロウさんとラシュエルくんのコンビにかかれば難もなく、どんどん奥へ進めた。



 そしてついに一番奥。



 期待通りの、今までよりさらに綺麗な光景。


 だけどそこで私達が見たものは、その光景だけでは無かった。

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