ぺんぎんとダンジョン

21話 気配を感じて

 ダンジョンが出現したというソネリの村。


 間にあった村で泊まったりしながら、夜行バスのような感覚で移動し、五日で村に到着した。


 そのバスのようなものとは、レンタカー的存在のカレフリッチ馬車をそのまんまバスにしたもの。複数頭のカレフリッチを繋ぎ、何人も乗れるよう車体を大きくしてあった。

 ロウさん曰く、カレフリッチ馬車にはない、浮遊魔法の組み込まれた道具がバスには積んであるから軽く、速いんだとか。だからか今までに比べると遠出だから疲れはしたけど、案外快適な旅ではあった。


 あまり注目されるのも困るので、私と一号さんは基本的には喋らないようにしていた。とはいっても、これだけ見た目的に目立つパーティーなら、私達が普通に喋ったところで変わらない気がするけどね。


 『魂の定義』がどうしても衆目を集めてしまう様子に対し。


「あー、やっぱ目立つなー。アタシらのこのパーティーってさ。今はキルにアオにイチだろ? モフ度っつーか、ケモノ度高ぇかんなー」


 とはレモナさんの言葉。

 自覚ないんでしょうか。ケモノ度うんぬん以前に、レモナさんの容姿が一番の原因なんですが……。


 もしかしたらこれも、転生による身体の変化の影響なのかもしれないけどね。自分が美人になっちゃうと、普段はあんまり容姿にこだわらなくなる、のかな?



 そしてソネリの村。そこは『村』の印象通り、アニモスの街に比べて田舎っぽかった。

 一次産業で成り立っているらしく、畑が多く見られる。普段はそれで問題ないようで、この世界もしくはこの国の政策がいいのか。どちらにせよ、旅をする私達にとっては特に、平和な世界というのは有り難いものである。


 まあ、今はそれよりもダンジョン効果が凄まじいみたいだけどね。


 ダンジョン饅頭にダンジョン剣、記念鎧――……。


 どこもかしこも、ダンジョンの文字一色だ。出現したこの村だけでなく、道中泊まった村も便乗していたし。

 何とも商魂たくましい。政策もそうだけど、国民のそのたくましさが安定している理由かもしれない。



 村の宿屋……はもういっぱいなので、民宿やら仮テントやらが沢山ある。私達はその仮テントに宿泊することになった。


 借りる手続きをしている時、何故かロウさんが三日分の宿賃を払っていた。今回この村に来ることに決めたのも突然だったし、あまり先に払い過ぎるとふとした時に旅に出にくいのではないか、とも思う。


 気になったので手続きが終わった後に、ロウさんに訊いてみる。


「あれ、どうして三日分払うんですか? ダンジョンだし、三日くらい滞在する予定だからですかね」

「ああ、これはダンジョンは関係ないな。そうだな……ハンターが他の職業に比べて危険だということは分かるか、アオイ?」


 オークとか狩るんだもんね。そこは創作物のイメージと同じく、危険な職業だと思う。

 肯定を返した私にロウさんが説明を続ける。


「どこかで命を落とすかもしれない、そこまでいかずとも怪我を負って動けなくなるかもしれない。つまりハンターが戻らない日があるかもしれないという事だ。

 宿屋は宿泊料金を貰った分、ぴったりの日数だけ部屋をそのハンターの為に準備する。だからハンターは、急に何か戻れない事情が出来たとしても問題ないように、できれば少し多めに宿をとる」

「んで、特に初日は三日分とるっつーのが、暗黙の了解ってやつだかんなー」


 最後だけレモナさんが話し、締める。

 途中までしっかりと説明してくれたロウさんは、締めだけ持っていかれて微妙そうな顔だ。


 アニモスではあまり沢山の日数分払わず、定期的に宿泊日数を更新していたはず。『魂の定義』的には旅をする事が多いから、その暗黙の了解というのだけしている感じかもしれない。

 一個前の村ではそもそも道中だから、一泊しただけだしね。



 これで今日の宿は確保できた。


 一号さんは今、ソネリの村に着いてからずっと抱っこされている。

 ちなみにこれは正当な報酬だ。ククロの花を賭けて勝負をする代わりに、キルティさんにモフられるというやつだね。

 期間はいつまでって決まってなかったし、一回勝負に勝って……勝ったのはロウさんだけど。それだけで無期限モフモフ、と。

 あれ。正当、だろうか?



 宿をとった後はいつも通り、依頼を受けてダンジョンに向かう。ん? えと、ダンジョンに行くのって依頼受ける形になるのかな。


 そう考えていると、一号さんがキルティさんに抱かれたまま話し出す。


「なあなあ、嬢ちゃん。ダンジョン言うのは、やっぱ魔物ごっつ出るん? 危険やないの?」

「え~? う~ん……わたしは行ったことないからね~。ラシュくんは行ったことあるんだよね」

「ん、ある。ロウと、レモナといった……から」


 そうなんだ。てっきりキルティさんもダンジョンに行った事があると思っていた。だからアニモスのハンターギルドでこの村について聞いた時、反応が普通だったんだね。

 私はゲームとかラノベとか……そういう前世の物でよく聞く単語だから、この世界で初めて聞いて興奮したんだけど。


「まものは、もりより……たくさん、いる。だから、こわかったら……アオイさんと一号、のこったほうがいい、かも」


 ラシュエルくんが迷うように言葉を繋ぐ。

 うーん。正直私としては、ダンジョンは気になるところではあるんだけどね。もし迷惑になるようなら大人しく留守番ぺんぎんになるしかない。


 私達のやり取りを聞いていたロウさんが、何やら思案しながら口を開く。


「アオイはともかく、イタチ一号は人のいる所に行きたかった訳だからな。そういう事なら魔物ばかりのダンジョンより、この村で待っててもらうのがいいのかもしれん」

「ワテは構へんで。村で留守番よか、あんちゃんらに付いてった方が百倍面白そうやわ」


 まあ村で留守番してたところで、人に関われるわけではないしね。

 しかも関わりがあるとするなら、十中八九ペット的に可愛がられることになるだろう。それは一号さんが言う、対等な関係ではないからね。それよりは私達に付いてきた方がいいらしい。


 そうなると私だけ留守番? わ、私も付いていきたいなあ。


「あ、あの! 戦闘では参加できてないですけど。もしダメなら大人しく留守番してますが、できたら私も付いて行きたい、です」

「あ……。アオイさん、がへいきなら。ぼくはいっしょが……いい」


 ラシュエルくんがちょっとびっくりして、しゅんとした感じで言う。

 そっか。ラシュエルくんは単純に怖くないか聞きたかったんだね。勝手に付いてかない方がいいかな、とか深く考えてしまったのは失敗だ。


「ありがとうございますラシュエルくん。いつも結界で守ってくれてますもんね」

「……うん!」


 素直にお礼を言うと、ラシュエルくんは照れたように微笑んでくれた。


 一号さんが同意するように深く頷いている。


「せやなぁ。ワテもぺんはんも、野生の魔物とちゃうてペット上がりの魔物さかい。ぼんちゃんには、よう世話になっとるわ」


 『ぺんはん』は私、『ぼんちゃん』はラシュエルくんの事である。

 ロウさんは『あんちゃん』、レモナさんは『ねぇちゃん』、キルティさんは『嬢ちゃん』だ。

 相変わらず自己紹介の意味がないくらい、一号さんはそれぞれを好きに呼んでいる。


 そんなことよりも、一号さんの勘違いを一つ訂正しておく。


「私はペットでは無かったですよ。リンドの森で産まれて皆さんに会ったので、元は野生ぺんぎんですね」

「んん? そんなら何で戦闘に参加できひんのや? 野生やったんなら攻撃力あるやろうし、気配察知くらいできそうやけどなぁ」


 うぅ、仰っしゃる通りです。

 でも私も攻撃くらいはできないかと思ったんだけど、まるで腕力無いんだよね。代わりに、前世より遥かに持久力はある。

 気配は、よく分からないかな。ピーンと分かると格好いいんだけどな。ちょっと漫画みたいだし。


 けど何故か、一号さんの言葉にはっとした様子を見せるロウさん達。

 レモナさんが真っ先に口を開く。


「そーいやさ、アオと最初に会った時なー。近づくアタシ達にすぐ気付いたっつー感じだったじゃん。ほら、ロウも驚いてたよなー」

「ああ。刺激しないようにゆっくり近づいたつもりだったんだがな……。キルティまさかとは思うが、アオイが可愛くて飛び掛かろうとはしていなかったよな?」

「あ、当たり前だよ~!? いくらかわいくても、野生の子にそんな事しないもん。……多分ね。だからね、やっぱりこれはアオイちゃんに野生的勘があるって事じゃないかな~、うんうん。ラシュくんもそう思うもんね~?」

「そう、かも。アオイさん、ランタンペングイーノは……けはいに、するどいって……きいたこと、ある」


 私と初めて会った、あのリンドの森の湖での事を思い出しての発言のようだ。彼らが話す内に段々、『アオイは気配が分かるんじゃないか』説が有力になっていく。


 確かにあの時、私は近づく彼らの様子がすぐに分かった。


 だから私は、申し訳ない気持ちで告げる。



「えと、初めて会ったあの時は。皆さんが近づいて来る様子が、覗き込んでる湖によく映ってましたので……」


『『あー』』



 一斉に黙ってしまった。


「……俺達、ダンジョンに挑戦しても大丈夫だろうか」


 湖に映っていたのに気付かなかったという事実に、すっかり自信を失った様子のロウさんがぽそりと呟く。


 あ、あの時はたまたまですって! 絶対そうですから、ね!?



 え、えと。ほら、気を取り直して!

 ようやくだけど……いざダンジョンへ!

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