12話 残酷な現実
転生者である事をできれば隠したいハンターパーティー『魂の定義』。
この命名の矛盾を引き起こした犯人、レモナさんが残念美人であることが判明した後で。料理が運ばれてきたので夕食となった。
ミュンちゃんがいつの間にか背中で寝ていたみたいで、奥さんが回収していった。やっぱり眠かったんだね。
夕食は私の歓迎パーティーも兼ねているらしい。あらかた食べ終わった頃、お昼にはぐれる前に言っていた、メンバーになった私へのプレゼントをもらった。
あ、今回ラシュエルくんはそんなに食べてないよ。ロウさんに食べ過ぎないように言われたからかもしれないけど。
「……わあ! おっきいリボン、ですか? かわいいです、ありがとうございます。でも確か私に必要な物って言ってましたよね。この世界のぺんぎんの必需品、とか?」
そのプレゼントとは真っ赤で大きなリボンだった。
この世界の、従魔ぺんぎんは皆これを着けるのが常識なのか……。
と勝手な想像をしていると、黒猫耳をピコピコさせたキルティさんが笑いながら訂正してくれる。
「にゃはは、ぺんぎん限定じゃないんだけどね~。地球の動物と違ってね、この世界の魔物って見た目にほとんど個の違いがないんだよ。種としても多分、地球よりかなり少ないんじゃないかな~?」
「ああ。だからハンターが野生の魔物と従魔契約をするか、一般市民がペットとして飼う場合は……」
「ん。めだつチャーム……つけること、おおい」
キルティさんの説明をロウさんが補足し、ラシュエルくんが締める。
同じ見た目の生き物ばっかりだったら、誰のだか分かんなくなるからか。これで私も『魂の定義』のぺんぎんです、てわけだ。
ここで今日見たことを思い出してみると、意外にというべきか、地球ではよく見た動物達を見ていないことに気づく。
「そういえば魔物や獣人は見ましたが、地球の動物みたいな普通の生き物は見てないですね……あ、すみません。さっきから疑問ばっかりで」
「いや構わない。アオイは今までこの世界の人間とは関わりが無かったんだからな。魔物のままでは知らないことも多いだろう」
ん? ロウさん、
そっか、この世界に来て今日が初日だって言ってなかったかな。魔物のまましばらく暮らしてたと思われてるのかもしれない。
「あー、それアタシも思ったことあんなー。何つったっけ。進化したからっつーか、なんつーか。ま、動物が魔物と獣人になってこの世界なりにさ、順応したっつー事なんじゃね?」
「……まあ大雑把に言うならそうだな」
レモナさんも思ったことがあるらしい。ロウさんの言い方だと、もうちょっと詳しい事情がありそうだけど。
分かったような、分かんないような……。
『ぺんぎん』って言ってこの世界の人にも通じてたよね? ま、まあ細かいことはいっか。
私の質問が一段落し、やり取りが落ち着いたところで、うずうずしていたキルティさんが待ちきれないといった様子で口を開く。
「ね~ね~。早くアオイちゃんに着けてもらお~よ~!」
「えっと、これどう着けるんでしょう」
真っ赤なリボンは紐状ではなく、リボン結びされている状態で固定されている。この寸胴ボディ、取っ掛かりが少ないからなあ。
……ホッチキスでとめたりとかじゃない、よね?
「真ん中の結び目に穴が空いているだろう。その穴にランタン部分を通せば入るはずだ」
ロウさんの言う通り、確かに空いている。私のてっぺんにあるちょうちん、もしくはランタンを入れて……あ、ダメだ。手短かった。
短い両手でリボンを目元の辺りに掲げ、プルプルしていると。ラシュエルくんが代わりにやってくれた。
「あ。ありがとうございますラシュエ……ぴえっ!?」
「ん」
リボンを装着した私を見て満足気に頷いたラシュエルくんに、持ち上げられ膝の上に乗せられる。
キルティさん、手がわきわきしてますが。きっと宿屋に来るまで私を持ってたから、必死に自重してるんだろうな……。
残念そうにわきわきしたままキルティさんが、ロウさんに問いかける。
「ね~ロウ。それにしても、このリボンいつ買ったの~? ふれあいショーに行く途中には買ってなかったよね」
「ぺんぎん捜索中に……まあ色々あった後、だな。ファッション街に行くことがあったからそこでレモナと買ったんだ」
「そーそー。ラシュが赤い目立つのが良いっつってたかんなー。アタシがそれに決めたっつーわけ。お、やっぱ似合ってんじゃん」
にひっと笑うレモナさん。キラリとピアスが光を反射する。
ロウさんとレモナさんが並んでファッション街を練り歩く。誰も近づけないだろうなあ。だって完璧な美男美女カップルで……。
「んにゃ~、アオイちゃん? 何となく考えてること分かるけどね~。それは、そのね、無いと思うよ?」
「キルティさん? いえ、ロウさんとレモナさんってやっぱりお似合いだなーと。お付き合いはされてるんですか?」
「「ぶッ……っんっぐ、げっほゴホッ……!」」
ロウさんはお茶、レモナさんはビールをそれぞれ吹きかけて、食堂であることを思いだしたのか慌てて呑みこみむせている。二人共、すごく息合ってますね。
「「ない、ないないないないない!!」」
「そ、そんなに否定しなくても……」
「にゃはは、やっぱこうなっちゃうよね~」
ハモって必死に否定され、キルティさんは苦笑いを浮かべている。ラシュエルくんは私を乗せたまま眠そうにあくびをしている。……あ、興味ないんだね。
「や、ロウ、つか男はねーわマジで」
「いくら見た目が良くとも、こいつはあり得な……ごっふ」
レモナさんの勢いののった肘鉄が、ロウさんの脇腹に命中する。
「おい、何故だ……」
「んお、つい。なんか、それもそれでムカつくっつーか」
落ち着いて、落ち着いてください二人共。何か分かりませんが私が悪かったですから……。
☆
「ま、まあこれはちゃんと説明しなかった俺達が悪い」
「んだなー」
深呼吸して落ち着いたロウさんが真剣な表情で私へと向き直る。頷くレモナさんも今日一、真面目な顔だ。
さっきのやり取りを見れば、付き合いの短い、というか今日だけの私でも分かる。つまり……。
「えと。レモナさんが男性がナシと言うことは、女性が好き……つまりその、そっち
聞いた二人が同時にコントのように、椅子の上で器用にズッコケる。またしても息ぴったりだ。
「ちっげぇ――!!」
「違う……。アオイ。こいつは、男だ」
「はい?」
あれ? 聞き間違いかな。
「 レ モ ナ は お と こ だ 」
「レモナ、さんが、おと、こ――はい――――ッ!?」
ロウさんがはっきりと、分かりやすいよう一言一言区切って伝えてくれるが、意味がさっぱり入ってこない。
ゆっくりとレモナさんへと目を向ける。彼女……いや、彼? は大仰に頷く。
「んほら、アタシらは全員転生者だっていったじゃん? ま、かなり稀らしーけどさ。アタシみてーに……えーっとな」
「transsexual《トランスセクシャル》――TS。つまり転生による性転換だ。ちなみに一人称については、違和感があって転生者だとバレる可能性があるからな。変えさせた」
説明を引き継いだロウさんの言葉を、微妙に動かない思考の中
つまり前世……地球では男性だったけど、今の世界では女性として生まれた、と。
もう一度じっくりレモナさんを見る。
さらっさらの光輝く金髪に、バインバインでボンキュッボンな八頭身。チャイナ風の服がよく似合うすらりと長い手脚。
対して、鏡は無いが自分の姿を思い浮かべる。ずんぐりむっくりの二頭身に短い手足、頭にはちょうちんみたいな変なランタン。
何より極太眉。女の子なのに真っ白な極太眉!
――――いつだって現実は残酷だ。
ぼやーっと目の焦点が合わなくなってくる。
「か、神などいない……」
「分かる、分かるよアオイちゃん!」
ぴえぇ、キルティさんは全然マシじゃないですか!
ちゃんと女の子だし、黒猫耳の可愛い見た目してるじゃないですか。そもそも人間、だしね……。
異世界転生といえば死んだ後、神様に会って転生させてもらう流れが多いと思う。神様に会った記憶は無いけど、もしいるならば、これはさすがに文句の一言も言いたい。
クーリングオフ、クーリングオフを要求しますッ!!
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