8話 ぺんぎん捕獲作戦②
「ぺんぎん、なー。つってもこんの広い街で見っかんのかねー」
ロウ達と別れたアタシ――レモナ・バードは、ぶらーっとゆっくり屋台の方へと歩いてった。
や、一応探してっけどなー。走り回ったって見っかるもんじゃねーしさ。
どーせ街歩くってんなら、ちょい屋台寄ったって変わんねーよなー……?
「んて、真っ昼間から酒飲んでやがるヤツいんのかよ。つか、けっこーいんだな」
串焼きでも食うかと寄ってみっと……う、うらやましー。
さっき昼食ったけど、これはこれっつーことで。
一杯くらいいーよな!? ぺんぎんは絶対見落とさねーようにすっし、うん。
「つーわけで、オッサン。ビールと串焼きいっこっつな!」
「何がつーわけなのかは知らんが、えらいベッピンさんが来たな。おし、この店始まって以来の美人ネーちゃんに串焼き一本マケといてやるよ」
「ラッキー。サンキュー、オッサン」
気の良いオッサンからビールを一杯と串焼き二本を受けとる。
串焼きはオークという豚みてーな魔物の肉らしく、弾力があり、とにかくタレが絶妙な濃さ。
この街良い街じゃん。串焼きもウマイし……んあーそーだ、ぺんぎん探すんだった。
ゆっくり飲む時間も無い。ぐいっと一気に飲み、ジョッキを返してから、残った串焼きを一本持ちつつ歩きだす。
なーんか後ろがざわざわしてってけど。ま、気にしねーでいくかねー。
「ヤベェ美人のエルフが昼間っから酒飲んでるぞ」
「この街もついに終わったか……」
「何言ってんだ、俺達だって飲んでんだろ」
「そういう問題じゃない! しかし、同じ酒でも美人が持つとあんな良いもんみたいに見えるもんなんだな」
「しかし一気とか。なあ、酒豪の美人が惚れるヤツってどんな男だろうな」
「あ? そりゃお前ぇ……はっ! 自分より酒に強い男、か!?」
「……」
「……」
「おおぉやっさん! ビール追加、ありったけだあ!」
「おう。あいよ、まいどー。女神様に惑わされちまう気持ちも分かるがな程々にって、おま、んないっぺんに!
はあ。こりゃ、担架先に用意しとくか」
☆
そこから少し通りを歩いていると。店の外のテーブル、オシャレに言うならテラス席に三人、また酒飲んでるヤツがいた。
あいつら、暇なんか? さっき飲んでたアタシが言えねーか。
と。目を向けていたら、三人の内の一人と目が合いこちらにふらふらと歩いてくる。
「ん~? 綺麗なネーちゃん、なーに見てんだよ」
……絡まれた。
はー、めんどくさそーだなー。
「へっ、うまそうな串焼き食ってんじゃん」
「あ? コレか? やんねーぞー」
「んだよ、ケチだな。なら酌してくれや」
「んじゃあ、アタシにも酒奢ってくれるってんならいーけどなー」
三人の酔っぱらいは意外そうな顔をした後、面白いものを見たように笑う。
「がっはっは! 何だネーちゃん案外酒飲みか? しかもおつまみ持参かい」
「口調も男勝りでこんな変なネーちゃん初めて見たぜ。よっしゃ、奢ってやるから飲みな!」
「うっし、言ったなー? いっただきー」
腰に手をあて、ぐぐぐ……とこれまた一気に飲みきる。
ぷっはあ~っ、とジョッキを離す。我ながらオヤジくさい気がすっけど、まーいいだろ。一応女だしなー。
「ふー、ごっそさん。約束通ーり酌してやんよ」
「いやいやいや、一気かい! 酌とかどうでもいいわ。もっと飲んでけネーちゃん」
「や。探すもんあっから、そろそろアタシ行かねーと……」
さっきっから真面目に探せていない。さすがにマズイと、魅力的な誘いを断る。
「探しものねぇ。俺達くらいになると、酔ってるくらいのがちょうどいいんだぜ?」
「だっはっは、違ぇねぇ! 遠慮せず一緒に飲もうぜ」
「ホントかー? ま、まー少しだけっつーなら、なー?」
オッサン達の言うことも一理ある。……あるったら、ある!
ちゃちゃっと飲む分にはいーかと、彼らの輪に交じり酒を注文した。
☆
「ヤ、ヤベー。オッサン達の話おもしれーからつい長居しちまった」
一緒に飲みながら話をしてみると、これが面白く。彼らの店に来た変な客の話や、ここ最近噂になっていること等、つい聞き入ってしまった。
「ロウに見つかったら怒鳴られるよなー」
しかも、別れ際手土産にと、焼きとうもろこしをもらってしまった。
はー、言い逃れできねー。
「そ、そーだよ。アタシが見っかる前に、ぺんぎんさえ見っけりゃいい……」
気を取り直して、ぺんぎん探しに集中しようとした瞬間。
「この……っ! 見つけたぞ!!」
「んて。うお、ロウ!? わわ、悪ぃって。こ、これにはあー、事情がなー」
いきなり近くの路地からロウが飛び出してくる。
しかも結構
うわー。こりゃ、正直に言った方がいーかねー。
「レモナ、いいところに! ぺんぎんを見つけた。追いかけるぞ」
「や、実はなー……ってマジ!? おっしゃ、汚名返上。とっ捕まえてやんよ!」
「お前が歩いてる通りにいたのに、何故気づいていなかったんだ? まあ、俺が見つけたからいいが」
飲んでた事に気づいて、ロウが飛び出してきた訳ではないようだ。
そりゃそーか。むしろ別の道歩いてるってのに、バレてるってのは怖ぇーよな。
「んあ? あのぺんぎんさ、白いもん持ってっけど誰かのペットじゃねーのか、ロウ」
「いや、あれは違う。特にチャームは着けていない。だから十中八九あいつが目的のぺんぎんで間違いない」
「なるほどなー。んならアタシのが速ぇから回り込むなー、っと!」
アタシは言いつつ走りだし、人混みを避ける為柱を蹴り、壁を蹴り進んでいく。
アタシが近くを通ったヤツから、次々にざわめきが広がってゆく。
悪ぃ。人は蹴んねーよーにすっから、見逃してくれよなー?
「な、何だあれ!?」
「お、女! エルフの女が爆走してるぞ」
「つかスゲエ綺麗だ。まじ女神」
「黄金の髪がキラめいてるゼ!」
「スリットがとても大きく入った服を着ておりますな。空を舞う度、
「お、今屋根の上乗ってんぞ。って、ああ! 見えそう。生足が、生足が眩し―――ブホォッ」
「おい大丈夫か!? 傷は浅いぞ!」
「もはや歩く、いや走る災害だぞレモナ。鼻血出してる奴がいるからといって、これは流血事件にならんだろうな……?」
☆
「おっし。追いつい、た……んあ? あいつ、どこいった?」
酒を飲んでいた罪悪感もあり、全力で走った結果、上手く回り込むことができたようだ。が。追いついたと思ったとたん、ぺんぎんがどこかへ消えてしまった。
――――すりすり
「レモナ、後ろだ」
「んえ。後ろ?」
ロウの声に、ぱっと振り返ってみるがぺんぎんは見当たらない。
――――すりすり
「違う、足元。服だ!」
言われてそのまま視線を下にさげる。
いた。
ロウの言う通り、服の後ろ側の足元付近の布にくっついている青い頭が見えた。ぺんぎんだ。
器用にも短い手足で引っ付いたそいつは、
――――すりすり
アタシの脚に気持ち良さそーに頭を擦り付けていた。
「き……」
「よし。レモナ、動くなよ」
「ぎゃあぁ! き も い わあぁぁ!!」
ブンッ、と思いっきり振り返り、青い
振りかぶった脚を、プロサッカー選手もかくやと言う速さでぺんぎんへと振り抜く。
「ぴ、ぴぎゅッ――ッ――――ゥ……」
「はあ、はあ」
「……」
「はっ! つい……」
ぺんぎんは、真昼に輝く青い星となった。
今追い付いたロウが、放心している。
一応無意識で、殺さない程度での最高速度に抑えたけどさ。そういう問題じゃない、よなー。
やがてロウがぷるぷると肩を震わせ、天を仰いで口を開く。
やっちまった。あーぁ、これはマジで……。
「……どあほ――――――っ!!」
「ヤベェ――――――――っ!!」
☆
「くっ。せっかく見つけたというのに……」
「わ、悪ぃロウ。や、でもあれは仕方なくねぇ?」
いくら見た目が可愛いぺんぎんだとはいえ、変態オヤジのような表情ですりすりしてくるのだ。
男だとか女だとか関係ねーくらい、キモいよなー?
「……酒臭いぞ」
「ぎくっ」
少し落ち着いたことにより、ロウに酒の臭いに気づかれてしまったらしい。
うわー、ぺんぎんは打ち上げちまったしなー。これ以上怒らせらんねー。な、なんか他の話題っと。
「んっと、そーいえばなー! あのぺんぎんの咥えてた白い布がさ、シェパードっぽい獣人のじーさんの頭に落っこちてなー。なんかわかんねーけど、尻尾をぶるんぶるん振りながら帰ってってさ。なー、変だよなー?」
「白い布なら、あいつが盗んだ店の商品だ。一度その店に戻った方がいいだろうな……うっ」
白い布の話を振ったとたん、ロウが目に見えて暗くなっていく。ヤベ、地雷だったんかねー。
「んお、どした。その店、なんかヤバいんか?」
「そこでまあ、色々とあってな。逃げてきたところだったから、戻るのが正直……怖い」
ロウが、まさしく死んだ魚のような目をしている。
一体、何があったってーの。
「アタシも一緒に行ってやっから、な?」
「頼む……」
「素直過ぎて怖ぇよ。ほら、焼きとうもろこしやっから」
「つまみ用だっただろう」
「あ、あっははー。どう、だったかねー?」
誤魔化しつつ……誤魔化せてないだろーが、歩きだす。
悪ぃ、アオ。ぺんぎん捕獲は、もーちょい掛かりそうだわ。
キルかラシュがきっと、とっ捕まえてくれっから……多分な!
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