7話 ぺんぎん捕獲作戦①
「まずは、全員バラけて探そう。探しながらまたこの中央広場に戻ってくるようにするか」
「おーっし。りょーかい、ロウ!」
俺――ロウ・ネイザンの提案にレモナが返す。
街のどこにいるか分からないぺんぎん型の魔物、ランタンペングイーノ。そいつを探す事になった俺達は、早速別れてそれぞれの担当場所を捜索することになった。
街には誰かのペットのランタンペングイーノもいるだろうが、その場合は目立つチャームを着けていたり、飼い主が近くにいるはずだ。
なので俺達は一匹で歩いていたり、隠れているぺんぎんを見つければいい。
通りを歩きながら探す。
しばらく道なりに歩いていると、少し人通りが少なくなってきた道で、前方に複数の三人の若い女性が立ち止まっているのが見えた。
「きゃーかわいい~!」
「この子どうしたんだろ、迷子かなぁ?」
「チャーム付けてないけど、契約紋あるし野良じゃないよね」
会話が耳に入り、近づき彼女達の足元を見る。
ビンゴだ。
どうやら運は良かったらしい。探していたぺんぎんに間違いないと思われた。
ぺんぎんを刺激しない為、そっとさらに近づく。
女性達にピエピエ鳴いていたぺんぎんが、ふとこちらを見る。
あのぺんぎんは、まだ俺が捕まえようとしていることは知らないはずだ。なので女性達に話かけるように見える形でいけばと、そっと近づく。
が、そのぺんぎんと目が合った瞬間、猛ダッシュで逃げられた。
「な……!」
捕まえる素振りは出してないつもりだったが気づかれたか!?
とにかく、せっかく見つけたからには、逃がすわけにはいかない。
ぺんぎんの青い頭を見失わないよう、走り後を追う。
後ろで女性達が驚きの声をあげているが仕方ない。今はぺんぎんを見失わないことが先決だ。
「……今イケメンが走っていかなかった?」
「めっちゃイケメンだった」
「あのぺんぎん、あの人のだったのかな? ぺんぎんと戯れるイケメンって」
『『めっさ、イイわぁ……』』
☆
ぺんぎんの走っていった先は、人通りが多く走りづらかった。
さっきまでは人通りの少ないところにいたというのにだ。俺を撒く為だろうか。このぺんぎんはわりと頭が良いみたいだな。
女性向けの店が多いので、歩いているのも女性ばかりだ。
その足元の隙間を縫うように青い頭がどんどん走っていく。
人通りが多い場所では圧倒的に俺が不利だな。なかなか追い付けない。
やがてぺんぎんが方向を変え、大きめの建物の中に入って行くのが見えた。
「くっ、建物の中に隠れるつもりか。……入るしかないか」
建物の中は服や化粧品やらの店がいくつか並んで出ているデパート。もしくはショッピングモールか? ともかくそのようなところだった。
商品は当然女性物。男の俺は、まあ大分浮いていた。
女性と歩くでも無く、キョロキョロと忙しなく下や周囲を見ながら商品の間をかき分け走る俺。通報、されないよな……?
(え、あの人すっごいキョロキョロしてるけど、何か探してるのかな。
(ちょっと必死な感じしてるよね。私も探されたい……)
(結構速く走ってるし、もしかしてぶつかっちゃったりして)
((ゴクリ……))
何やらヒソヒソと噂されている気がするが、通報されている素振りは無い。
良かった、が心臓に悪いな。早く捕まえて出よう。
次々に店の中へ入るぺんぎんの後を追う。
壁が無い分、店の境が分かりづらい。男物と違ってカラフルだからかチカチカしてくるな。
「な。あいつ、店のものを……!」
見つけたかと思えば、白い商品をくちばしで引っ張り店の奥へ進んでいった。
急いで店に入り、捕まえようと飛びかかる。
「サリ~、クーちん~。この柄どうおもーう?……キャアッ!?」
「うっ」
試着室から出てきた女性にぶつかってしまった。
や、柔らか……じゃない! すぐに謝ってあのぺんぎんを捕まえなければ。
そう思い見下ろすとその女性は水着姿だった。
さーっと血の気が引いた。
「ちょっと、アンタ何!……はっ!? お兄さーん?」
ガッと肩を掴まれる。この状態でだと起き上がれないんだが。マズイ、今度こそ通報されるかもしれん。
「す、すまない! そんなつもりでは」
「ふっふ……。海で男捕まえようと思ってきたけど、こんなところでとはね」
「? 追っているものがあるんだ、謝罪は後で必ずくる。だから悪いが今は」
「可愛いハーベシマーマが目の前にいるのに、食べないカーニバリオンはいないわよー?」
気づけば彼女の友達らしきギャルっぽい女性が二人、俺達の周りを囲っていた。
片方が虎、もう片方はヒョウの獣人だ。
遠くに店を出る青い後ろ姿が見えた。盗んだ白のビキニを咥えたまま。
ゆっくりと目線をぶつかった女性に戻す。
ライオンの獣人だ。
にっこり笑い、鋭い犬歯を覗かせてから舌舐めずりをしている。
「おねーさん達と遊びましょ。イケメンおにーさん?」
さっきとはまた別で血の気が引くのが分かる。
ラッキースケベ? まさか。
彼女がライオンなら今の俺は、うっかり巣穴に入ってしまったシマウマだ。
「はは。……ぶつかってすまなかった! 失礼する!」
早口で言い切り、ハンターの身体能力をフルに使って脱兎、いや脱シマウマのごとく逃げ出す。
『『逃がすかぁ!!』』
リアル肉食系女子三人が追いかけてくる。
最初はアオイの為だったが、もう関係ない。
あのぺんぎん、絶対に捕まえてやる……。
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △
ロウさん達が広場の外へ出ていった。
ショーに出ている私――アオイに気づいてから裏にまわり、しばらくしてから彼らは出てきた。
見捨てられたってことは無い、と思いたい。
スフゴローさんももう逃げないでとか言ってた。想像するに、逃げたぺんぎんと私を間違えたんじゃないかな?
きっとロウさん達はそのぺんぎんを探してくれているんだろう。
そんで私は今、絶賛子供に群がられ中です。
ショーとは言ってもペットとのふれあいをコンセプトにしたものだった。
芸をさせられる訳ではなく、最初に軽く紹介をするだけ。後は子供達は自由に近づいてくることができた。
「うおー、ぺんぎんだあ」
「ぺ、ん、ぎん! ぺ、ん、ぎん!」
はいはい、ぺんぎんですよー。
ちなみに、私が喋ることはメネさんに禁止されている。
"ペット"の魔物が喋ることは本来無いらしい。子供達には普通のぺんぎんを見せたいのだと思う。
一度逃げようとしてしまったからか、メネさんは私を監視してるっぽい。
うぅ、心配しなくてももう逃げませんて。怖いし……ぶるる。
ちら、と見ると私では無く隅の方を見ていた。
何だろうと私も目を向けると、ぺんぎんがいた。
……違った。ぺんぎんの着ぐるみを着た女の子が立っていた。
もじもじと着ぐるみの手を弄っている。
泣きそうな顔で、私と周りの子供達を離れてちらちら見ている。
そっか。入りたいけど入れないのかな。
私も昔そんな記憶がある。親とか他の大人とは話せても、同年代の子に何か緊張しちゃうんだよね。
もう一度メネさんを見る。
にこにこ笑顔のまま顎をしゃくる。
――――行け
イエス、マム……。
子供達に歩くのを妨害されながら女の子の元へ向かう。
近づいているのに気づいた女の子が、ふわっと笑顔になる。
メネさんも満足そうに頷いている。
ロウさん、レモナさん、キルティさん、ラシュエルくん。
私はちゃんと、大人しくぺんぎんやって待ってます……!
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