3話 ぺんぎん×仲間
馬車の中、目の前と両脇に、確実に賞を獲れるであろう見事なコスプレをした四人が座っていた。
いや、現実は認めなきゃね。
日本の創作物でいう、人より長い耳をしたエルフ、黒猫っぽい耳と尻尾がある獣人。そしてカラフルな地毛らしき髪の毛……。
はい、もうファンタジー世界確定だよね。いやまあ知ってたけど。
ここまで来るまでは両脇抱えられた状態だった私。馬車では普通に椅子に降ろしてもらえた。魔女っ娘さんの言ってた仲間にっていうのはどうやら本当らしい。
良かった、水族館ぺんぎんにされなくて……。
馬車に落ち着いたところで、武闘家っぽい服を着た美人エルフさんが私に話しかけてくる。
「んで、あんた転生者なんか?」
「あほ」
「でッ!?」
「ええ!?」
うわあ、痛そう……。
美人エルフさんの隣に座るクールそうな黒髪の男の人が、何故か彼女をハタいていた。しかも割と本気そうなんだけど……?
ちなみにその男性は、剣を背負い馬車まで私を持って歩いていた人だね。
エルフさんは口調が男勝りでも、見るからに女の人。
日本人的感覚で言えば胸もかなり大きい方。先程武闘家のようだと思った、スリットが大きく入ったチャイナ風の服からすらりとした脚が伸びている。
スレンダーなのに出るところは出ているという。しかも、リアルに8頭身あるんじゃ……?
束ねた、黄金に輝く長い髪はさらっさらなのがここからでもよく分かる。森を映したかのような翡翠の瞳は髪と同じ金色のまつげで彩られていた。
そんな森の精霊……いや、女神様かのような完璧な美を体現しているエルフさん。
そのエルフさんがお笑い芸人のようにハタかれている様は、なんというかシュールだね。
「も~、ぺんぎんちゃんがびっくりしてるよ~?」
「ん? ああすまん、驚かせたか」
魔女っ娘な格好をした女の子がハタいた男の人をいさめる。
「ほれみろ、アタシは悪くねーっ!」
「はあ……。お前が転生とか言うからだろう。自覚がなかったらどうする気だ」
それに対してエルフさんは、口を尖らせながら腰に手を当てているが、その男の人に呆れた視線を向けられていた。
んん? そう言えばさっき『転生者か?』って聞かれたんだっけ。
それってつまり……いやいやまさか、ね?
「あの、転生って生まれ変わるってことですよね。ラノベとかでよくある、記憶を持ったまま異世界とかに生まれるっていう。そ、それと私に一体どんな関係が……?」
いやな予感がしつつもそう尋ねる。
それを聞いた黒髪の男の人がじとーっと横目でエルフさんを睨んでいる。エルフさん、目が泳いでますが……。
もはや完全に名前を聞くタイミングをなくしてしまった。というよりも、今私にとってはそれどころではない。
やがて。決意を決めた、というように大きくわざとらしく頷いたエルフさんは背筋を伸ばし言う。
「よっしゃ。やっぱこーいうのはさ、ささっとはっきり言った方がいーんだって。ぺんぎん!」
「ぴゃい!」
思わず一緒に背筋を伸ばした私に、ビッシィッ!と指を突きつけながら高らかにその言葉を口にする。
「お前は、もう、死んでいるっ!」
その綺麗な指を、見つめる。
「しんで、る……?」
――――ぴっ
「ぴええぇぇぇぇ――――!?」
「何故ショックを大きく与える言い方をするんだ、お前は」
「アタシらだって、おんなじだしなー。異世界転生を共有できる仲間がいんならさ。ショックは先にでーんと受けといた方が、立ち直るのも早ぇーんじゃねーかなってなー。
てか、それにこいつ反応が面白そうだったし」
「後半が本音の大半だろう……」
ショックで一瞬遠くなりかけた私の耳に。楽しげなエルフさんと、呆れ顔をした黒髪の男の人の会話が聞こえた。
☆
「うぅ。あの、あなた方も同じというのは? やっぱりここ、地球じゃないんでしょうか……」
なんとか立ち直り、さっきの話について質問する。
すると男の人に顔を向けるエルフさん。ほれみたことか、と言いたげなドヤ顔だ。しかも後の説明はその人に任せるみたい。
確かにさらっと言ってくれた方が、結果的には良かったと思いますが……。あの言い方はどうかとも思いますよ?
話を任された彼は呆れた顔で、軽くため息をついてから説明してくれる。
「同じというのは、ここにいる俺達四人も日本では既に死んでいて、この世界に転生している存在だと言うことだ。地球ではない、いわゆる異世界だな。詳しい話は長くなるだろうから、おいおい話そう。
ああ、そう言えば何だかんだで自己紹介はまだだったな」
脇に降ろしていた剣をコンっと指ではじき、男の人が名乗る。
「俺はロウ。ロウ・ネイザンだ。
「は、はい。ありがとうございます」
黒髪の男の人改めロウさんは、背が高く深紅の瞳をしていて最初はクールな感じの人かと思っていた。
けど案外話しやすい、というよりも声を聞いていると安心感が湧いてくるように感じる。
格好もどちらかというと異世界感が少ないみたいで、黒髪である点も日本人的にはほっとする。
「んじゃあ、次はアタシな! アタシの名前はレモナ・バードで、ジョブは
「あ、はい。エルフについても、読んだ本に何度かでてきました」
武闘家っぽいと思った格好はそのままだったようだ。
耳をこちらに向けながらニッと笑うレモナさん。見ると、左耳の先に金色の逆三角のピアスがあり、キラキラと揺れていた。
それにしてもこの二人、並ぶと絵になるなあ。
レモナさんはモデル顔負けの美人だし、ロウさんもかなり顔が整っている。だからか勇者のロウさんが魔王を倒しレモナ姫を救いだす。なんて王道ストーリーが頭に浮かぶ。
挿し絵の代わりにこの二人が見つめあってる写真でも載せておけば飛ぶように売れそうだ……。
「……お~い? ぺんぎんちゃん、戻ってこ~い。二人に見惚れてるんだろうけどね~。わたしらも紹介させてほしいな~?」
「ぴぇっ!? す、すみません思わず……」
顔の前でふりふりと、にこにこ笑顔の魔女っ娘さんに手を振られ、意識が現実に戻ってくる。
「だいじょぶだいじょぶ。わたしも、見惚れるのわかるよ~。でね、わたしは
「え!?」
「キルティ、それ言いたくてさっきからうずうずしてたのか……」
ロウさんが苦笑しつつ呟いていた。
魔女っ娘な服を着た可愛い女の子はキルティさんというらしい。つばの広い魔女帽子から覗く、黒猫のような艶々した耳と尻尾がぴくぴくっと動いている。
猫目というのか、少しつり目な、髪と同じ淡い桃色の瞳はぱっちりと見開いていてきらきらに輝いてみえる。
う、これはご主人様呼びを期待されているんだよね?
「ご、ごしゅじ……」
「いや、無理するな。キルティも落ち着け。そんな濡れた子猫みたいな目をしてもダメだ。それに最後にラシュエルの紹介が残っているだろう」
「んてか、静かだと思ったらさ……あいつ、寝てねぇ?」
ご主人様呼びはロウさんに止めてもらい、最後の子の紹介に移る。レモナさんの言葉に右隣を見上げると、ラシュエルと呼ばれたその男の子がちょうど目を開けたところで、目と目が会う。
――――天使がいた。
もうそうとしか表現できない程に天使だった。少し銀の入った真っ白な髪はふわふわと跳ねて雲のよう。眠そうに開かれた瞳は空そのものの色、文字通りのスカイブルー。
幼く見えるその身体に、天使の羽を幻視するほどだ。
「ねて、ない。ぼくは、ラシュエル・ママロ。
ラシュエルくんがゆっくりと自己紹介する。表情と同じく、口調まで眠たそうな感じだ。
しゃらん、とラシュエルくんが傾けた、
これで相手側四人の自己紹介が終わった為、自然と視線が私に集まる。
「私は
ぺこりとお辞儀する。首がないから体全体でだけど。
ほんと、ぺんぎんに出来ることなんて限られている気がする。ひとまずはこの世界について知っていく所から始めなきゃ。
「ああ、宜しくなアオイ」
「んなら、街に戻ったら歓迎パーティーしねーとな。アオのさ!」
「アオイちゃんだね~。ご主人様は諦めたし、わたしも名前でいいよ~?」
「……」
ロウさん、レモナさん、キルティさんが応えてくれるけど、ラシュエルくんは無言で私を見ていた。
――――じー……
あ、あの。ラシュエルくんがものすごく見つめてきてるんですが。何か気になる事があったのか、ぺんぎんが珍しいのかな。
「ラシュエル、くん。どうしたんですか?」
「……」
「……」
――――じー……
言いたい事があるとか。でもさっき『それだけ』って言ってたはず。
「……」
うぅ、気まずい。これは一発芸でも期待されている、のかな?
ロウさんにレモナさん、キルティさんにラシュエルくん。
異世界でいきなりぺんぎんになったのには驚いたけど、優しそうな皆さんに仲間にしてもらえてよかった。
でも、何だかクセの強そうな人達に感じる。
『魂の定義』という名前のハンターパーティーって言ってたよね。
私、皆さんの本当の仲間になれるかな? 自分ではクセのあるぺんぎんだとは思えないんだけど。いや、ぺんぎんが喋ってるだけで、地球基準だけど十分変か。
ぺんぎんかつ異世界でも、皆さんと過ごせる時はきっと楽しそうだ。
ともあれ、いまだ無言で見つめるラシュエルくん。あのですね。
私はここに来る前はただの学生でしたし。一発芸とかできませんからね!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます