第8章 光

第8話―光―(1)


その人は、不思議な青年だった。

最初に惹きつけられたのは、その見た目。


それは自分にとっては特別で、他にない魅力を持った人だった。

他とも、自分とも違う。いや、もしかしたら世界の誰とも違うかも知れない。

そこが異彩を放っているようで、惹きつけられた。


だから、興味を持った。


だが、当の本人である彼は、その事には一切気づいていないようだった。

何故なら、彼の持っている痛みは、目に見える所にあったからだ。



彼の抱えるコンプッレクスは多い。

まず一つ目は、顔にある〝痣〟である。彼はいつもそれを、長い前髪で隠していた。

単純性血管腫という皮膚病らしく、彼の病もまた治らぬ病である。

それに、彼は決して他人と目を合わせて話をしない。人と話をする時も、前髪を引っ張る癖を辞めない。

習慣づいたそれは、彼に対する周囲の扱いがどんなものだったのか…。深く詮索しなくても分かってしまう。

だが、彼の本当のコンプレックスは〝顔〟ではない。


―〝彼自身〟である。―


彼は自己否定をする事で、その脆く壊れそうな自らを保っている。そういう人だった。

月下秋斗。彼の名前である。

彼は、自分の名前も好きではないらしい。

以前、名前を褒めた時も、あまり快い雰囲気ではなく、驚いた事がある。

彼には、驚かされる事ばかりだ。


だが、自分にはそれが、イマイチよく分からない。

何故、そこまで必要に、自分自身を否定し続けるのか…。

別に、彼の痛みを否定する訳では無い。

けれども、彼が憎むもの全て。それは、ほんの些細な事に思える。


赤い痣、怯えた大きな瞳、憂いを帯びた黒くまつ毛。

そして、秋という名前…。

その全てが、美しい。

彼という存在が、芸術そのものを表しているようである。

だから、踏み誤る事もあった。


その、長い前髪の下に隠しておくには、あまりに勿体ない。そう、思ったからだ。

もっと、その綺麗な赤色を見てみたい。それだけのつもりだった。

ただの好奇心。ただの興味本位だ。

だが、手を振り払われ、小刻みに震えている彼を見た時…。

彼に、とても酷い事をしてしまったのだと気が付いた。


慌てて、走り去る彼を呼び止めた。まず、謝らなくてはと思った。

あんな事を言うつもりじゃなかった。

彼の足が止まった。草道の途中で、彼が振り返る。

遠目からだったので、確証はない。


でも、あの時の彼は…。

泣いていたようだった。


やはり自分は、彼を思いがけず傷つけてしまったようだ。

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