第7話ー狭まるー(3)


「何ですか…それ…。もっと、上手い事言えば良いじゃないですか…。もっと、酷い事でも言ってくれれば…‼」

「は…?」


「ズルいですよ…光さん…。自分自身が障害みたいな言い方しないで下さい‼」


「え…?」


「僕は…光さんを〝不自由〟だなんて思いません…‼見捨てたりしません‼」

また、光さんは俯いた。

顔を手で覆い、白いシャツに透ける肩が震えている。



「勝手に世界を狭めているのは、光さんじゃないですか…‼」



つい、僕まで怒鳴ってしまった。

次第に視界は滲み、声は涙ぐんでいった。

「それでも…光さんが…もう、僕といたくないのなら…。」


「違う…。」フワリと、引き寄せられた。僕の体を白いシャツが包んでいる。

いい匂いがする。光さんの匂いだ。

「ずっと…一人でいなければと思ってた…。深入りするつもりなんて無かった…。そうなっちゃ駄目だと思ってた…。」

光さんの声が震えている。締め付ける腕がきつくなっていく。

「だから…この気持ちを、抑えなくちゃ…抑えなくちゃって…思ってたのに…‼」


「はい…。」


「いつの間にか…どうする事も出来なくなってた…。それくらい、秋君に惹かれてた…。」

「光さん…。」



「ごめん…。秋君が…好きだ。」



そう言って、互いの体が離れた。

鼻をすする音が、とても近くに聞こえる。

「秋君と一緒にいたい…これからも…。」

申し訳なさそうに、廊下に佇む僕ら。


堪らず今度は、僕が抱きしめた。

「僕も…です。僕も…ずっと、光さんのそばにいたい。たとえ、あなたが僕の事を…見えなくなっても…。」

そこまでしか言えなかった。そこまで言って、光さんの胸の中で泣いた。

光さんの回した腕が、僕の髪に触れる。



僕らはまた、キスをした。



夕暮れ空の、鮮やかな赤色が廊下を照らしている。

僕らは今、絵画の中にいるようだ。


人を好きなる事は苦しい。

人と関わる事は傷つく…。

誰かに、本気になるのは怖い…。

誰かと、向き合う事には時間が掛かる。

それは時に、家族でさえそうなってしまう事はあるだろう…。


それでも僕は、光さんと出会えて、少しだけ自分を好きなる事が出来た。

僕らはもう、暗闇に怯えなくていい。

もう、独りではないのだから…。


―月森光はもうすぐ光を失う。―


でも、僕にとっての〝光〟は光さんという人間、そのものだ。

僕らは失うものではなく、得るものの話をしよう…。

僕の色…光さんの色…。

二つの色が混ざり合い、僕らはこれからどんな色になっていくだろう…。


明日、明後日…。

これからの話をしよう…。

もっと、もっとその先の…。



未来の話を…。

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